ソードアート・オンライン~十一番目のユニークスキル~
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唯一無二の不確定因子
第十九話 二刀に込めた思い
前書き
キリトside。
そして、二話連続投稿です!
運悪くリザードマンの集団に遭遇してしまい、キリトたち八人が最上部の回廊に到達した時には安全エリアを出てから三十分が経過していた。
「ひょっとしてもうアイテムで帰っちまったんじゃねぇ?」
おどけたようにクラインが言ったが、キリトたちは皆そうではないだろうと感じていた。長い回廊を進む足取りが自然と速くなる。
半ばほどまで進んだ時、かすかだが悲鳴が聞こえた。その悲鳴を聞いた瞬間、皆一斉に駆け出した。
敏捷力の差で、キリトとアスナはクラインたちを置き去りにして、先に左右に大きく開いた大扉の前に到着する。
「おい! 大丈夫か!」
キリトは叫びながら半身を乗り入れる。扉の内部は地獄絵図そのものだった。HPバーを七割も残して暴れるザ・クリームアイズ。対して、軍の連中のほとんどはHPバーを赤く染めている。その上、軍と、キリトたちのいる入り口との間に悪魔が陣取っており、離脱すらままならない絶望的状況。キリトは近くに倒れたプレイヤーに向かって大声を上げた。
「何をしている! 早く転移アイテムを使え!!」
だが、男はさっとこちらに顔を向けると、絶望の表情で叫び返してきた。
「だめだ・・・・・・! く・・・・・・クリスタルが使えない!!」
「な・・・・・・」
思わず絶句する。同時に心臓が大きな音で、ドクン! と鳴ったような気がした。
――――結晶無効化空間。俺のトラウマでもあるトラップだ。これが原因で俺は目の前で大切な人を失った。しかし、それがボスの部屋に仕掛けられていたのは始めてであり、最悪としかいいようのないものだった。
「なんてこと・・・・・・!」
アスナが息を飲む。当然だ。結晶が使えないのならばうかつに助けにも入れないのだから。その時、悪魔の向こう側で一人のプレイヤーが剣を高く掲げ、怒号を上げた。
「何を言うか・・・・・・ッ!! 我々解放軍に撤退の二文字は有り得ない!! 戦え!! 戦うんだ!!」
間違いなくコーバッツの声だ。
「馬鹿野郎・・・・・・!!」
キリトは思わず叫んでいた。軍の残りメンバーを数えると二人足りなかった。結晶無効化空間で二人居ない。すなわち死んだということだ。そんな事態の中、あの男は何をふざけたことを言っているのか。彼は全身の血が沸騰するような憤りを覚えた。
その時、ようやくクラインたち六人が追い付いてきた。
「おい、どうなっているんだ!!」
キリトが簡単に状況説明を行うと、クラインの顔が歪む。
「な・・・・・・何とかできないのかよ・・・・・・」
彼はどうするべき考えていた。しかし、その最中、コーバッツのあまりにも無謀としか言えない叫びが耳に入る。
「全員・・・突撃・・・!」
キリトはすぐさま顔を上げた。大きく目を見開いた視線の先には、十人の中でHPに余裕のある八人が突撃したところに、悪魔が口からブレスを吐き出し、軍の連中を青白い輝きに包む姿があった。その息にもダメージ判定があるのだろう。八人の突進の勢いが緩む。そこを悪魔の巨剣に突き立てられ、一人がすくい上げられるように斬り飛ばされた。キリトたちの眼前の床に激しく落下してくる。
コーバッツだった。HPバーが消滅し、ポリゴン片となって爆散する。
「だめ・・・・・・だめよ・・・・・・もう・・・・・・」
絞り出すような声を出すアスナをキリトは咄嗟に腕を摑もうとした。
だが一瞬遅かった。
「だめーーーーーーーッ!!」
絶叫と共に、アスナは疾風の如く駆け出した。空中で抜いた細剣と共に、一筋の閃光となってグリームアイズに突っ込んでいく。
「アスナッ!」
キリトは叫び、その後を追う。アスナが身の安全も考えず切り込んだのは至極当然のことだろう。リーダーを失った軍のパーティーは瓦解。すでに全員のHPは半分に割り込んでいた。そして、今日だけで二回も人の死を見てしまったのだ。冷静でいろという方が無理な話だ。
アスナの捨て身の一撃は、不意を突く形で悪魔の背に命中した。だがHPの減少はほとんど見られない。グリームアイズは怒りの雄叫びとともに向き直ると、猛烈な速度で斬馬刀を振り下ろす。その余波に当てられ体勢を崩してしまう。そこへ斬馬刀が振り降ろされる。
「させるかーーーーッ!!」
キリトは必死にアスナと斬馬刀の間に身を躍らせた。ぎりぎりのタイミングで、彼の剣が悪魔の攻撃軌道をわずかに逸らす。
擦れ合う刀身から火花を散らして振り下ろされた巨剣が、アスナからほんの少し離れた床に激突し、爆発音とともに深い孔を穿った。
「下がれ!!」
キリト叫ぶと同時に彼を再び悪魔の追撃が襲う。パリィとステップで防御に徹しているが、一撃の威力が凄まじく、時々体をかすめる刃によってHPがじりじり削り取られていた。
軍の連中の退避も、キリトが中央で悪魔と対峙しているため、遅々として進んでいなかった。
――――このままだと全滅する・・・・・・もうあれを出すしかない・・・・・・ッ! 俺たちまで死んだらアリスの心は本当に取り返しのつかないことになる!!
「アスナ! クライン! 十秒持ちこたえてくれ!」
叫ぶと同時にキリトは、右手の剣を強振して悪魔の攻撃を弾くと、無理やりブレイクポイントを作り出した。そのまま飛び込んできたアスナとクラインと交代する。
キリトはすぐさまメニューウィンドウを開き、操作を始める。
「いいぞ!!」
操作を終えたキリトは顔を上げて叫んだ。その時、クラインはすでに退いていて、アスナだけが悪魔と対峙していた。
キリトの声にアスナは背を向けたまま頷くと、裂ぱくの気合いとともに突き技を放った。
「イヤァァァァ!!」
純白の残光を引いたその一撃は、空中でグリームアイズの剣と衝突して火花を散らせた。大音響とともに両者がノックバックし、間合いができる。そのタイミングを逃さず叫んだ。
「スイッチ!!」
キリトはリオンが死んだ時、一番後悔していた。PoHとの戦いの時本気を出さなかったからだ。正確に言うならば、あるスキルを使わなかった。それは攻撃特化仕様たるキリトの切り札と呼べるもの。
――――俺があの時出し惜しみをしなければリオンは死ななかったかもしれない・・・・・・今更後悔してももう時間は戻らない・・・・・・それでも今、今ならアスナを、みんなを、救える!!!
キリトは敵の正面に飛び込んだ。硬直から回復した悪魔が、大きく剣を振りかぶる。
炎の軌跡を引きながら打ち下ろされてきた巨剣を、キリトは右手の剣で弾き返し、間髪入れず左手を背に回して新たな剣の柄を握った。抜きざまの一撃を悪魔の胴に見舞う。
「グォォォォォ!!」
憤怒の叫びを洩らしながら、悪魔は再び上段の斬り下ろし攻撃を放ってきた。今度は、両手の剣を交差して受け止め、押し返す。悪魔の体勢が崩れる。その隙にキリトは二本の剣でラッシュを開始した。
甲高い効果音が立て続けに唸り、星屑のように飛び散る白光が空間を灼く。
これが、キリトの隠していたスキル。エクストラスキル≪二刀流≫。そして、上位剣技≪スターバースト・ストリーム≫。連続十六連撃。
「うおおおおおあああ!!!」
彼はPOHの時に、このスキルを使わなかった自分を責めるかの如く叫んだ。途中の攻撃がいくつか悪魔の剣に阻まれるのも構わず、左右の剣を敵の体に叩き込み続ける。悪魔のHPが着実に消えていく。そして、最後の十六撃目。
「・・・・・・ぁぁぁああああああ!!」
キリトはひときわ大きな雄叫びをあげて、悪魔の胸の中央を剣で貫いた。直後
「ゴァァァアアアアアアア!!」
という絶叫とともに、グリームアイズは膨大な青い欠片となって爆散した。
――――終わった・・・・・・
キリトは両の剣を切り払い、背に交差した鞘に同時に収める。次の瞬間、彼は声もなく床に転がった。
後書き
二十話目です! 今回はオリキャラがいないので、原作と展開は変わりません。が、心理映写には変化があります。それと二刀流を出すところを省略しながらも、かっこよくアレンジしてみました。
自分的にはいい感じにかけたとは思ったんですけどどうでしたか?キリト君が二刀流を出す場面は個人的に好きなので♪
それと、今回は二話連続なので次もお楽しみください!!!
誤字脱字の報告、感想お待ちしております。
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