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ラオコーン

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第四章

「幾ら何でもな」
「確かに大きな木馬だが」
「それは到底な」
「あるか」
「有り得るものか」
「その有り得ないと思うことが危ういのだ」
 こうも言うラオコーンだった。
「それは中を確かめればわかる」
「そこまで言うのなら後にしろ」
「今は祝いの時だ」
「酒に馳走が用意されているのだ」
「だからな」
 こう話してだ、そうしてだった。
 彼等はラオコーンを明らかに邪険にして退かせた、だがラオコーンは諦めずに。
 隙をついて木馬の中身を確かめようと考えていた、しかしここで。
 カサンドラにだ、まずだった。
 一人の見知らぬ女が声をかけて王宮に向かわせた、父王が呼んでいると言ってだ。そしてその後でだった。
 ラオコーンと息子達にだ、これまただった。
 見知らぬ濃い髭に猛々しい、潮の匂いがする男が来てこう言って来た。
「貴方達に用がある方がおられます」
「我々にか」
「はい、どうされますか」
「何の用だ」 
 ラオコーンは険しい顔で男に問うた。
「一体」
「父上、刺客では」
 息子達は怪訝な顔で父である彼にこう言った。
「父上をよく思わない者がいて」
「父上をおびき出そうとしているのでは」
「この御仁も見たことがありませぬ」
「これは怪しいかと」
「いえいえ、私はその様なものではありません」 
 男は心の内を隠して三人に言う。
「刺客というのならです」
「どうだというのだ、それなら」
「何か証があるのか」
 息子達は険しい目を男にも向けた、そのうえで彼にも言うのだった。
「証があるのなら見せてみろ」
「それがなければ信じられない」
「その場所はポセイドン神の神殿でして」
 その場所からだ、男は答えた。
「それにです」
「それに?」
「それにとは何だ」
「これを御覧下さい」
 その手にだ、ポセイドンのトライデントを出した、そのうえで言うのだ。
「これはポセイドン神より授かったもの、これに誓って嘘は言いませぬ」
「ポセイドン神に直接トライデントを授けられただけに」
「それに誓えるというのだな」
「そうです」
 まさにその通りだというのだ。
「ですから私を信じて下さい」
「してその場所は」
 今度はラオコーンが男に問うた。
「私に会いたい者がいる場所は」
「ポセイドン神殿の先の海です」
 そこだというのだ。
「そこにおられます」
「あの海岸か」
 そこはラオコーンも知っている場所だった、無論息子達もだ。
 それでだ、息子達は彼に言うのだった。
「父上、あそこならです」
「刺客が隠れる場所もありませぬ」
「神殿の中も人をやって確かめてです」
「後ろを安全にすればです」
 心配はいらないというのだ。
「それに神から授かったものに誓うのなら」
「逆らえば神罰が下ります」
「ですからこの男が何者かわかりませんが」
「それでもです」
「その言葉を信じていいか」
「はい、そうかと」
「そう考えます」
 息子達は父に真剣な顔で話した。
「それに我等も剣を持って行きます」
「それならばです」
「万が一の事態にも」
「対応出来ます」
「そうだな、それではな」
 息子達の言葉を受けてだ、そうしてだった。  
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