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バンドマンは一途

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第三章

「想ってるとかまずないからな」
「そのまずないことでいてくれたらな」
「その時はか」
「自分もって言ってるぜ」
「エミーが卒業するまでか」
「そうさ、俺がエミーを好きでいたらな」
 まさにだ、その時はというのだ。
「俺はまたあいつと一緒になれるんだよ」
「じゃあ他の娘はか」
「絶対に好きになるかよ」
 羊の脛肉を塩胡椒で焼いたものをだ、手に取ってかぶりついてからだ。チャーリーは仲間にこう言葉を返した。
「神様にだって誓うぜ」
「そうか、本気なんだな」
「本当に誰が前に来てもな」
「言い寄られてもか」
「俺はエミーだけだよ」
 あくまで、というのだ。
「そう決めたからな」
「エミーを待つんだな」
「ああ、絶対にな」
 やはりこう言うのだった。
「俺は待つぜ」
「どうなるかね、果たして」
「あと二年あるけれどな」
 エミーがカレッジを卒業するまでだ。
「果たしてどうなるやら」
「あの娘が帰って来る時にそう言えたら凄いけれどな」
「その時はマジで尊敬するけれどな」
「果たしてどうなるか」
「見ものではあるけれどな」
 仲間達はその彼にこう言うのだった、そしてだった。
 チャーリーはエミーを待ち続けた、漁師の傍らバンドをしながらだ。彼の演奏は激しくしかも歌もギターも腕は確かで人気があった、それでだった。
 女の子達からも黄色い声が上がった、彼女達はクラブから出るチャーリーを囲んで我先にこう声をかけた。
「今夜どう?」
「携帯のアドレス教えるわよ」
「あたし今のフリーなの」
「彼氏と別れたからね」
「ちょっと一緒にいない?」
 こぞって声をかける、だが。
 彼はその女の子達にだ、クールにこう返すだけだった。
「悪い、俺は音楽は好きだがな」
「あたし達はっていうの?」
「女の子は」
「一人だけなんだよ」
 笑ってこう言うのだ、常に。
「だから悪いな」
「何よ、つれないわね」
「折角こっちが誘ってるのに」
「それだけなのね」
「反応なしなのね」
「俺が反応するのは一人だけなんだよ」
 その一人は言うまでもない、彼の中では。
「あんた達じゃないんだよ」
「あらあら、それはまた」
「逃した魚は大きいわよ」
「女の子の漁は下手なのね」
「そっちの方は」
「そっちの漁は一人だけでいいんだよ」
 やはりその一人は言うまでもないことだった。
「そういうことなんだよ」
「ううん、じゃあいいわ」
「音楽だけ聴かせてもらうから」
「その人と仲良くやるのよ」
「そこまで言うんならね」
 女の子達もつれない彼を諦めるしかなかった、それで実際に彼はファンの誰にも声をかけることはしなかった。
 そしてだ、そのうえでだった。
 行きつけの店のウェイトレスや客達に声をかけられてもだ、彼はつれなくファンの娘達に対するのと同じ様に言うのだった。
「悪いな」
「あら、振るのね」
「先着がいるんだよ」
 笑ってだ、やはりこう言うのだった。
「だからな」
「そのオーストラリアにいる人?」
「別れたって聞いてるけれど」
「それでもなんだよ」
 今は別々でも、というのだ。 
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