離れられない愛
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第三章
第三章
ダ=ビンチは絵画を、ミケランジェロは彫刻をそれぞれ作っていく。他の画家や彫刻家達も同じように作っていく。そしてラファエロは。
「これで宜しいのですね」
「うむ」
館の主であるロレンツォは彼に対して頷いていた。
「これでいい」
「そうですか。御気に召されたようで何よりです」
彼はロレンツォが満足した顔で頷いたのを見て彼もまた会心の顔になった。
「それではこのまま」
「作ってくれ」
またラファエロに告げるロレンツォだった。
「このままな。頼んだぞ」
「はい」
ラファエロはそれを作っていった。かなりの歳月と莫大な費用が費やされそのうえで遂に完成した。ロレンツォはそれが全て完成した時に言った。
「これでいい」
「これでいいのですね」
「そうだ。有り難う」
そして彼の後ろに集まっていた芸術家達に対して述べる。そこにはダ=ビンチもいればミケランジェロもいる。ラファエロも熱を帯びたような顔になっていたがそれでもいた。
「これこそが私の望んでいたものだ」
そうですか。これが」
「貴方の望まれていたものですか」
「その通りだ。これで私達は常に共にある」
彼はまた芸術家達に告げた。
「有り難う。報酬は弾むよ」
こう言って館の中に入る。ダ=ビンチはそんな彼の後ろ姿を見ながら。呟くのだった。
「思えば人というものは不思議だ」
「今更何を言っている」
そのダ=ビンチに対してミケランジェロが声をかけてきた。
「そんなことは最初からわかっていることだ」
「人が不思議だということがか?」
「そうだ。だからわしは全ての仕事をしているのだ」
ダ=ビンチは後世では万能の天才と呼ばれている。しかしミケランジェロもまたそうなのだ。彼もまた万能の天才と言うべき人物なのだ。だからこそ様々な仕事をしているのだ。
「その不思議なものを見極める為にな」
「ふむ。それは私も同じだがな」
「では何故今そんなことを言ったのだ?」
「あの館を見てだ」
ダ=ビンチは今度は館を見た。それは宮殿を思わせるリッパなものである。そして庭を見ればそこには大理石で作られた彫刻があった。
多くの彫刻がある。それはどれもフランチェスカであった。時にはギリシアの女神の服を着ており時には着飾っている。全てが彼女であった。
「あの中もな」
「あんたの絵もあるな」
「貴殿の彫刻もな」
彼等の作ったものが全て館を飾っているのである。館の中は全てそれで満たされている。そしてここでラファエロも言うのだった。
「それで私ですが」
「あんたは何をしたんだ?」
ミケランジェロは今度はラファエロに対して問うた。
「それで」
「寝室を作ったんですよ」
こうミケランジェロに答えるのだった。
「寝室をです」
「ロレンツォ様のか」
「そうです」
少しふらふらとしているようだったがそれでも言うのだった。
「それを作ったんですよ」
「ではそこもまた」
「その通りです。壁にも天井にもフランチェスカ様がおられます」
つまり絵画にしたのである。
「そして彫刻も置いています」
「ロレンツォ様は君に自らが休まれる場所を任せたのだな」
ダ=ビンチはそれを聞いて述べた。
「そういうことか」
「はい、とても有り難いことに」
ラファエロはその赤くなってしまっている顔で答えた。
「それで私の全てを込めて作りました」
「そうか。それはいいことだな」
偏屈だと評判のミケランジェロもこの時ばかりは素直な言葉を出した。
「ロレンツォ様も喜ばれる」
「はい、そう思います」
「あの方はあの館で一生を過ごされる」
ダ=ビンチは述べた。
「そう、これからな」
「そうだな。フランチェスカ様と共にな」
ミケランジェロは館の門の入り口の左右に置かれているフランチェスカの像を見た。それはそれぞれギリシアのアテナの鎧兜を身に着けていた。
この二つの彫像もまた彼が作ったものである。館の中にあるものだけではなかったのだ。k彼が作ったものは。
「おられるのだな」
「人は多くの罪も犯す」
ダ=ビンチはまた言った。
「しかしだ。時としてこうしたこともする。その想い故にな」
そうしてまたその館を見るのだった。館の中では今ロレンツォが満ち足りた顔で中を見回していた。彼は一人恍惚として呟いていた。
「フランチェスカ」
妻の名であった。
「これで私達は。何時までも一緒だよ」
その恍惚とした顔で館の中を歩き回りながら至る場所にある彫刻や絵画を見て回るのだった。それはどれもフランチェスカの姿であった。
この館は現在も残っている。ロレンツォはこの館で生涯を過ごし亡くなったのは自身の寝室であった。ラファエロが絵画と彫刻を残したその部屋もまた今もある。
全てがフランチェスカで彩られたこの館からはロレンツォの想いが感じられる。これを狂気と呼ぶか純愛と呼ぶかは人によってそれぞれであろうか。
しかしこれだけは言える。ロレンツォは生涯フランチェスカだけを愛していた。そうしてその愛がこの館を作らせたのである。今二人は並んでこの館の端に眠っている。二人はその眠る場所も同じであるのだ。少なくとも二人は幸せであると言ってもいいであろう。
離れられない愛 完
2009・6・23
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