パンとコーヒー
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第三章
「野菜がない八百屋さんですよ」
「つまりどうにもならないね」
「そうですよ、流石に」
「パンがないんだよ」
つまり食パンが、というのだ。
「他のならあるよ」
「いえ、それは」
「いいのかい」
「モーニングを食おうって決めてますから」
それでだとだ、岳は言うのだった。
「それで」
「私もです」
菫もだ、こう親父に言った。
「トーストを食べたい気分なので」
「だからだよな」
「はい、ですから」
それでだというのだ。
「また今度で」
「いいのかい?トースト以外ならあるよ」
「モーニングって決めてますから」
「私もです」
実は菫も一度決めたら、というタイプだ。岳とは似た者同士んあおだ。
「だからまた来ます」
「すいません」
「謝らなくていいよ、けれどね」
それでもと返す親父だった。
「腹減ってる時にこだわるとね」
「かえって泣きを見る」
「そういうことですね」
「あんた達実際に今腹減ってるだろ」
二人の表情から察しての言葉だ。
「それはそうです」
「その通りです」
「そういう時は何でもね。美味いものならね」
それこそというのだ。
「いいと思うんだがね」
「いえ、決めましたから」
「今朝はそれって」
やはり二人で言うのだった。
「パンとコーヒーのモーニングで」
「パンはトーストでいきます」
「一度決めたら変えないだね」
それはどういった考えかとだ、親父も言う。
「それだね」
「はい、そうです」
「私達そうなんです」
「そうだね、まあ一度決めたことを簡単に変えないことはいいことだよ」
それは美徳と言っていいことであることはだ、親父も認めた。しかし親父は認めると共に二人にこうも言った。
「しかしそれも過ぎるとね」
「過ぎると?」
「過ぎるとっていいますと」
「かえって損をするよ」
そうなるというのだ。
「そうなるよ」
「そうなりますか」
「かえって」
「うん、そうなるよ」
こう言うのだった。
「だからそこは気をつけてね」
「まあそれでも」
「決めたら変えたくないですから」
何だかんだ言って菫もそうだった、岳に引っ張られている感じではあるが彼女もこうした頑固なおtころがあるのだ。
それでだ、彼女も言うのだ。
「悪いですけれどちょっと」
「俺もです」
「まあ俺には止める権利はないからね」
二人のこだわりもだ、同じもこう返した。
「それじゃあね」
「はい、行って来ます」
「他の場所に」
「途中で腹が減り過ぎて動けなくなるとかならない様にな」
親父は二人を気遣ってこうも声をかけた。
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