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ダークサイド

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第二章

 ロシア軍の関係者だ、とはいっても背広組で地位も高いものではない。だがまずはその彼女に声をかけてだ。
 そうしてだ、こう彼女に言うのだった。
「バレエに興味がおありですか」
「貴方は確か」
「はい、フランスから来た」
「舞台監督の方ですね」
「志望です」
 表の立場、今のそれで言う彼だった。
「勉強中です」
「そうなのですか」
「ロシアのバレエにはお詳しいでしょうか」
「それなりにですが」
 彼女はこう答えた。
「ある程度ですが」
「では教えて下さるでしょうか」 
 アラコジは仮面を被って彼女に声をかけた、実は彼女の立場は事前の調査で知っていて近付く為にバレエの関係者に化けているがそれは当然言わない。
 そうしてだ、こうも言うのだ。
「ここは」
「ロシアのバレエについて」
「よく」
「そうですね」
 彼女はアラコジの整った顔を見た、そのうえで。
 微笑んでだ、返事をしたのだった。
「それでは」
「では紅茶を飲みながら」
「コーヒーではないのですか?フランスの方はそちらですよね」
「いえ、ロシアに来たのですから」
 微笑みでだ、アラコジは答えた。
「是非共です」
「紅茶をですか」
「頂きたいのですが」
「そうですか、それでは」
 それではと答えてだ、そうしてだった。
 アラコジは彼女とまずはバレエのことを話した、そして。
 彼女はアラコジの美貌にバレエの知識、それに洗練された仕草と気品に魅入られていった。そこからはすぐにだった。
 彼とベッドを共にする様になった、そのベッドの中でだ。
 彼にだ、こう言った。
「実は国防次官の奥様も」
「その方もですか」
「はい、バレエがお好きで」
「それでお詳しいのですね」
「よく劇場に出入りしています」
「そうなのですか」
 アラコジはその話を聞いて心の中でよし、と思ってたが言葉には出さなかった。
「お詳しいのですね」
「私なぞよりも」
 彼女はバレエのことを言ったがだ、これは国防のこともだ。
「お詳しいです」
「成程」
「それにしても。貴方は」
 アラコジ自身への言葉だ。
「素敵な方ですね」
「私がですか」
「はい、とても」
 ベッドの中で言うのだった。
「これまで幾人かの方とお付き合いしてきましたが」
「私の様な者はですか」
「はじめてです」
 こう彼自身にだ、うっとりとして言った言葉だ。
「本当に」
「それはお世辞では」
「いえ、本当に」
 そうだというのだ。
「貴方位に素晴らしい方は」
「おやおや、そうなのですから」
「ですから今度」
「今度といいますと」
「両親に会ってくれますか」
「いえ、それは出来ないのです」
 このことは事実だ、だがアラコジはその理由は偽りを述べた。 
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