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ダブルベッド

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第四章


第四章

「実はね。模様替えも必要なくて」
「必要ないって」
「だから。今お家の中に二人きりよ」
 俯いた顔のまま制服のブレザーを脱ぎはじめた。白いブラウスはいつも見ているものの筈なのに今の翼には艶かしく見えていた。
「だから。わかるじゃない」
「まさかと思うけれど」
「そのまさかよ。ずっと一緒にいてくれてるから」
 言いながらネクタイを解く。その仕草もするりと首から離れるネクタイの動きもやはり艶かしい。
「上手く言えないけれどね。その、私」
「霞ちゃん、それじゃあ」
「私でいいわよね」
 今度はこんなことを言ってきた。
「駄目だったら。いいけれど」
「霞ちゃんこそ僕でいいの?」
 翼は翼でこんなふうであった。
「僕なんかで」
「翼君だからよ」
 話す顔は俯いたきりだ。しかしその距離は狭まり手を伸ばせばお互いが掴めるまでだった。
「だから」
「それじゃあ」
「御願いね」
 二人はそのままベッドに入った。そのベッドは二人が子供の頃二人でよく寝たベッドだった。しかしそのベッドは今は二人では。
「狭いね」
「うん」
 翼はベッドの中で霞の言葉に頷いていた。二人共服は着ていない。
「昔はあんなに広かったのにね」
「そうよね。あの時はあんなに広かったのに」
「だよね」
 ベッドの中で二人横に並んで向かい合いながら話す。
「それなのに今は二人並んだら」
「ベッドから落ちそう」
 霞は照れ臭そうに笑って述べた。
「だから。もっと近くに行っていい?」
「うん、いいよ」」
 翼も彼女の申し出を微笑んで受けた。
「来て。僕も行くから」
「ええ」
 二人は互いに近寄り合いそのうえで抱き合った。そうしてその状態で再び話をはじめるのだった。お互いの目をじっと見詰め合いながら。
「はじめてだったのよ」
「僕も」
 二人共同じだったのだった。
「だからよくわからなかったけれど」
「これでよかったのかな」
「いいと思うわ」
 二人は何処かたどたどしかった。
「だって。できたし」
「そうだよね。まさか霞ちゃんとこんなふうになるなんて」
「私はね。ずっとこうしたかったのよ」
 また照れ臭そうに笑って話す霞だった。
「翼君とね」
「僕となの?」
「ずっと一緒だったから」
 だからだというのだった。
「兄弟より仲よかったじゃない。だから一緒にね」
「そう。だからだったんだ」
「そうなの。だからこうやって」
 ベッドの中に入ったというのだ。
「翼君とね」
「そうだったね。僕達普通の兄弟よりずっといつも一緒にいたしね」
「そうでしょ?だから私も」
「僕も。実はね」
 霞の目をじっと見ながら語る。
「霞ちゃんのことは。ずっと」
「そうだったの」
「そうだよ。ずっと一緒にいよう」
「有り難う。それじゃあ」
 自分から翼を強く抱き締める。そうしてこの日は遅くまで二人でベッドの中にいるのだった。こうしたこともあり二人の仲はさらに深くなっていき大学も同じ大学で同じ学科で。四年間ずっと一緒で大学を卒業した時にそれぞれの家の仕事に入った。翼の家は眼鏡屋で霞の家は時計屋だ。二人はそのまま家の仕事に入ったのだ。
 ところが就職すると同時に。二人はそれぞれの両親から言われたのだった。
「あんた達、もういいでしょ」
「早いうちに済ませちゃいなさい」
 いきなりそれぞれの両親に言われたのである。
 
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