ソードアート・オンライン~十一番目のユニークスキル~
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唯一無二の不確定因子
第一八話 悔いなき選択
前書き
アスナsideです。
アリスが転移結晶を使用し姿を消した後、アスナは膝から崩れ落ちてうなだれると、大粒の涙をいくつも落とした。
アリスとはこのデスゲームが始まってから、すぐに仲良くなった数少ない女性プレイヤーだ。それに加え、最前線にでる女性プレイヤーは珍しいこともあり、アリスとはこの二年間ほぼ一緒行動していた。当然そんな二人の間に隠し事はなく、色々なことを相談し合っていた。と言っても自分が相談するのがほとんどで、アリスから悩みを聞いたのは片手で数えられるほどしかない。なぜなら相談する前にアリス自身で解決してしまうからだ。
そんなアリスが自分の目の前で、ある一人のプレイヤーの死によって、心がズタズタに引き裂かれてしまった。
目には光がなく、呼びかけても反応はない。ただ茫然と座り込んでいた。それでもアスナが何度も呼びかけると、ようやく返ってきた。だが、それは「一人にして」の一言だった。その一言は、リオンの跡を追ってアリスまでもが自殺してしまうのではないかと言う恐怖をアスナに与えた。
アスナは、それだけはさせまいと、必死に言葉を探した。しかし、自分ができたのは口を開いては閉じるという無意味な動作の繰り返しだった。見つけられなかった。アリスの心の傷を少しでも和らげる救いの言葉が。
そんな動作をする自分を見てアリスは考えを見抜いたのだろう。先の一言に「部屋に戻ってるから」と付け加えると、彼女は無言で去った。
――――優しすぎるよアリス・・・・・・自分だってボロボロなのに、私を心配させまいとどうしてそんな気を使うの・・・・・・たまには自分だけを考えてよ!! なにも言えなかった私をボロクソにけなしてよ!!
いつもそうだった。彼女自身が悩みを抱えても、そんな素振りを見せずに自分の悩みを先に解決してくれていた。そして、それは今回もだった。自分が恐れてたことだけ解決して、そのまま彼女は苦しみを抱えて一人いなくなった。
アスナは口には出さなかったが、そのことにいつも不満を持っていた。だからアスナは彼女に言われた言葉を無視して、転移結晶を取り出す。だが、その手はキリトの両手で優しく包まれた。
「気持ちはわかるが、やめるんだ、アスナ」
キリトは首を横に小さく振りながら続けた。
「ああなったらもう誰の言葉も届かない。例え親友の君の声でさえも」
「知ったような口を言わないで!! あなたにアリスの何がわかるって言うの!?」
アスナはキッと睨み、涙を流しながら激怒した。しかし自分はその行為にすぐ後悔した。罵声を浴びせられたキリトは一瞬目を見開き、悲しい表情を見せると、すぐに伏せた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「アリスの気持ちは痛いほどわかるさ・・・・・・俺はこれで二回目なんだ・・・・・・」
「二回目・・・・・・?」
「俺はリオンの前に一度、大切な人をなくしているんだ・・・・・・」
アスナは息を飲んだ。そんな過去があるなんて思いもしなかったからだ。同時にそんな彼に罵声を浴びせたことにひどく後悔した。
キリトはそんな心情に気付かず、少しだけ語った。
「その時、俺はあるクエストに出現するイベントボスを倒すために無茶なレベリングを繰り返していた。俺と縁があるみんなはそれを知った途端止めに来たよ。でもそれを無視してずっと死と隣合わせの日々を送っていた。しかもそれだけじゃない。目的のクエストの日、俺を心配して追いかけてきた友さえも殺そうした」
アスナは黙ってキリトを話を聞いていた。それでも心のモヤモヤは消えない。例え経験したことがあったと聞いても、引き下がれない。それだけ頭に血が上っていた。
「だからわかるんだよ。今のアリスに届くのはリオンの言葉だけだ・・・・・・」
「それでも――――!?」
アスナが反論しようとした時。
不意に下層側の入り口から鎧をガチャガチャさせる音が聞こえた。その音にアスナは途中まで言いかけた言葉を止めると、身体をそちらに向けた。
現れたのは見覚えがあるパーティーだった。ボス戦で顔を合わせたことがある。人数は六人。ギルドの名前は確か〔風林火山〕と言う名前で、リーダーの名前は確かクラインと言ったはず。
アスナが記憶をたどっていると、六人パーティーの内の一人が笑顔で近寄ってきた。
「おお、キリト! しばらくだな」
その挨拶にキリトは元気のない声で返す。
「クラインか・・・・・・」
「どうした? お前にしちゃあ珍しく元気がねえじゃねえか。なんかあったの・・・・・・か・・・・・・?」
クラインと呼ばれた男は近くでキリトとアスナの顔を見た途端、心配した表情を浮かべた。恐らく、二人の頬に涙が流れていたからだろう。
「・・・・・・リオンが死んだ」
「は?」
キリトは少し迷う仕草を見せ、先ほどの出来事を伝えた。この男もリオンとゆかりがある人物なのだろう。長身の男はその事実を聞いた瞬間、信じられないと言う声をあげた。
「さっき、ラフィンコフィンのPoHと新しく入ったメンバーだと思われる一人と交戦した。その時、リオンが俺も知らないスキルを使って、二人を撃退したまではよかった。でも・・・・・・でも、その後に、リオンのHPがなぜか0になって、そのまま・・・・・・」
キリトはそこまで言うと、俯いた。その様子を見たクラインは、額に巻いたバンダナの下の目から涙がこぼすと、叫んだ。
「うそ・・・・・・だろ・・・・・・あのリオンが? おい!! 嘘だって言ってくれよ!! キリト!! キリト!!!!!」
「嘘だって言いたいさ!! でも・・・・・・それが事実なんだ・・・・・・蘇生アイテムも使ったけど、それすらも・・・・・・」
クラインの呼びかけに、キリトは顔をあげて、言い返す。だが、途中で再び視線を下に向けた。その視線を追うと、強く握りしめられ、震えている拳があった。
「間に合わなかったってのかよ・・・・・・」
そんなキリトの様子で悟ったのだろう。クラインまでもが顔を伏せて、嘆いた、その時。
先ほどクライン達がやってきた方向から、新たな一団の訪れを告げる足音と金属音が響いてきた。やたらと規則正しいその音に、アスナはキリトの腕に触れ、ささやいた。
「キリト君、<軍>よ!」
注意と同時に、森で見かけた重装部隊が二列縦隊で部屋に入ってきた。しかし、森で見た時ほど整然とはしていなかった。足取りは重く、ヘルメットから覗く表情には疲弊の色が見て取れる。
アスナ達とは反対側の壁に停止した軍の部隊は、他の十一人とは明らかに違う装備を付けた指揮官らしき男に、「休め」と言われると崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。
男はそんな仲間の様子に目もくれず、こちらに向かって歩いてくる。そして目の前で立ち止まると、ヘルメットを外し、こちらをじろりと一通り見まわしてから、男は口を開いた
「私は、アインクラッド解放軍所属、コ―バッツ中佐だ」
「キリト。ソロだ」
キリトはイライラしたような表情で吐き捨てた。しかし男はそんな様子を見ても意に介さず、軽く頷いて、横柄な口調で聞いてきた。
「君らはもうこの先も攻略しているのか?」
「ボス部屋の手前までだ。どうせマップデータが欲しいんだろ? くれてやるからさっさと消えてくれ」
キリトは言いながら手元を操作している。迷宮区のデータを送信しているのだろう。男はキリトを一瞬睨むも右手を動かす。そして「協力感謝する」と感謝の気持ちなどかけらも無さそうな声を残し、くるりと後ろを向いた。キリトはその背中に向かって声をかける。
「ボスにちょっかい出す気ならやめとけ」
コーバッツ中佐と名乗る男はわずかにこちらを振り向いた。
「・・・・・・それは私が判断する」
そう言い残すと部下を引き連れ上層へと続く出口に消えた。規則正しい足音が聞こえなくなった頃、クラインが少々心配そうな声で、一言。
「・・・・・・大丈夫なのかよあの連中・・・・・・」
「いくらなんでもぶっつけ本番でボスに挑んだりはしないと思うけど・・・・・・」
アスナはやや心配そうに呟く。キリトはそんな二人を見て、少し考える素振りを見せる。
「・・・・・・一応様子だけでも見に行くか。万一の可能性もあるしな・・・・・・アスナはどうする?」
キリトはアリスの件について聞いているのだろう。アスナはアリスとキリトの言葉を思い出していた。
「部屋に・・・・・・戻ってるから・・・・・・だから・・・・・・一人にして・・・・・・」
「今のアリスに届くのはリオンの言葉だけだ・・・・・・」
その二つの言葉がアスナを悩ませていた。一人しておくべきか、それとも追いかけるべきなのか。
しかし、いくら考えても答えはでない。だからアリスの立場だったらと発想の転換をした。アスナとアリスは二年間一緒にいたことで、お互いがどんな性格なのかよくわかっているから。
――――アリスは私にはいつも、やりたいこと、言いたいことがあったら遠慮なく言ってた。だから今回も本当に一人にしてほしいんだろうな・・・・・・)
心のどこかで分かっていた。それでもすぐに追いかけたかった。キリトに叫んだ時は、冷静になれず、聞く耳を持つことができなかった。だが、今は頭がしっかり冷えて、他のことも考えられた。
アリスの意思を尊重すること。それと、もしアスナがここで一人帰ったとしても、キリトたちは軍の人達を追いかけるだろうということを。あとから軍の人達とともに、キリトたちまで未帰還だ、などという話を聞かされたら、自分までもあんな状態になるだろう。
それだけは避けなければならない。そうなってしまえば、アリスを支える人がいなくなってしまうから。
アスナは目を閉じる。答えは出た。悔いが残る選択はしたくない。
「私もいく」
開かれた目には先ほどとは違い、強い意志があるのをキリトは見て、少し笑みを浮かべた。
「わかった。じゃあ行くぞ」
キリトはそう言うと、みんなを先導するように前に立ち、上階へと続く通路へ歩いて行った。
後書き
十九話目です! 今回書き終えて思いました。長いわ・・・・・・。早くオリジナルを書きたいのですが、とりあえず74層のボスを殺らねば始まらぬ・・・・・・と言うことで残り一話くらい原作に沿います。
お付き合いよろしくお願いします。
誤字脱字、感想などがありましたら遠慮なく書いてください。待ってます。
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