ダブルベッド
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第一章
第一章
ダブルベッド
小さい頃。その頃は一緒のベッドで寝ていて。
「気持ちいいね」
「うん」
二人で笑顔で向かい合いながら言い合った。幼い日のこと。
二人は男の子と女の子で家は隣同士だった。その縁でいつも一緒に遊んでいた。
男の子の名前は氷室翼、女の子の名前は今野霞という。二人共それぞれ妹がいる。この二人は同じ歳で同じ学年でもあった。
その二人だが生まれた時から一緒で幼稚園でも小学校でも一緒だった。今も翼の家で遊んでそれで翼のベッドの中で一緒にいるのである。
そのベッドの中で。霞はふと翼に声をかけてきた。横に寝て向かい側にいる彼の顔をじっと見ながら。
「ねえ翼君」
「何?」
「私達ずっと一緒だよね」
こう彼に言うのだった。
「ずっとね。一緒にね」
「一緒に?ずっと?」
「うん」
にこりと笑って彼に告げるのだった。
「ずっとね。一緒にいようね」
「そうだね」
翼はこの時はただその言葉に頷いただけだった。
「ずっと一緒にいようね」
「こうして。一緒に寝ようね」
「一緒になんだね」
「うん、二人で」
霞もまたこの時は無邪気に言うだけだった。子供特有のその無邪気さで。
「一緒にいようね」
「わかったよ。それじゃあ一緒にね」
「二人で同じベッドにね」
これが子供の頃のことだった。子供の頃のことだったので二人共大きくなるにつれて、いやこんなことを話したのも一月で忘れてしまった。そうして二人は同じ中学校で同じ高校で。子供の頃よりは仲良くはないがそれでも何だかんだでいつも一緒にいるのだった。
「また御前等一緒かよ」
「同じクラスかよ」
「なんだよなあ」
「本当にずっと一緒なのよね」
青いブレザーの制服の成長した二人が苦笑いを浮かべてお互いに向かい合いながら皆の言葉を受けて話をするのだった。翼は背が高く目は細く少し三白眼だがすらりとして結構背も高いまあ見た目は結構いい感じになっていた。霞は小柄で童顔で黒く長い髪を上で束ねたカマボコに似た形の黒目がちの少女になっていた。
「もう幼稚園からな」
「ずっと一緒なのよ」
「住んでる場所もだったわよね」
「そうよ。隣同士」
霞がクラスの女の子の問いに答えた。
「生まれた時からね」
「一緒なんだよな。本当に」
翼も腕を組んでみせて困ったように話す。
「もと可愛い女の子だったらな」
「あら、言うわね」
霞は今の翼の言葉に対してすぐに言い返した。
「私も翼君みたいに調子のいい男の子じゃなくてもっと紳士でね」
「ダンディってことかよ」
「そうよ。もっと落ち着いたらいいのに」
「いつもこう言うんだよなあ、全く」
そう言われても実際はそんなに困った顔をしていない翼だった。
「口が減らないっていうか」
「それは翼君もでしょ」
霞はここでもまた言い返すのだった。
「いつも言いたいだけ言うじゃない」
「そうかな」
しかしこのことにはわざととぼけてみせる翼であった。
「自分ではそうは思わないけれどね」
「そうなの。まあこの一年もね」
「うん、宜しく」
何だかんだでしっかりと顔を見合わせて言葉を交える。
「これからもね」
「また続くかも知れないけれど」
流石に今は同じベッドで寝てはいないがそれでもやはり一緒のクラスだった。クラスも一緒だしいえも隣同士だから帰る道も同じだ。ついでに言えば部活も同じ吹奏楽部なので帰る時間まで必然的に同じになってしまう。今日も帰る時間は同じなのであった。
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