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一人より二人

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第五章


第五章

「だから。義手を」
「そうですか」
「それで宜しいですね」
 ここまで話してあらためて華に尋ねてきた。
「義手で」
「弟が何と言うかわからないですが」
「貴女はそれでいいのですね」
 今は華の言葉を聞くのだった。
「義手で」
「ええ。私は」
 異論はなかった。二人だと聞いて。その言葉だけでもう判断するのだった。
「それで御願いします」
「わかりました。それでは」
「お金は」
「ああ、それはいいです」
 それについては明るい笑顔一つで打ち消した。
「いいとは」
「ある人がお話してくれまして」
「ある人?」
「ええ」
 華の言葉に頷いてからの言葉だった。
「琢磨さんからですよ」
「あの人が」
「何かあったら。できる限りのお金は出すとのことで」
「そうだったのですか」
「はい、そういうことです」
 また述べた。
「保険もありますがそれで。義手のお金は大丈夫です」
「そうだったのですか」
「一人ではないのですよ」
 彼もまた。このことを言うのだった。一人ではないと。
「世の中は。一人ではないのです」
「一人ではない」
「誰でも。隣に誰かがいてくれます」
 こう表現してきた。笑顔と共に。
「ですから」
「そうですよね」
 問わなかった。頷くのだった。それだけだった。
「それは」
「そうです。ですから貴女は」
「はい」
 今度もまた頷いた。明るい声と共に。もう完全に心の中にある暗いものは消えていた。明るさが、光がその心の中に差し込み照らしていたのだった。
「二人で。何時までも」
「はい。それでは二人で」
「やっていきますので」
「では。行かれるのですね」
 医師は温厚な笑顔を浮かべてまた華に問うた。それは確認の為の問いであった。
「これから」
「ええ。これから」
 また言葉を告げる。それから立ち上がる。立ち上がり医師に礼を述べて部屋を後にするとそこには光平がいた。ずっと待っていてくれたのだ。
「有り難う」
 その彼に対しても礼を述べた。
「待っていてくれたのね」
「そうだよ。その間漫画読んでいたけれどね」
「漫画を?」
「そうだよ。ほらこれ」
 出してきたのは今流行りの野球漫画だった。少年のバッテリーが主役の。
「これ読んでたんだ」
「これをだったの」
「読む?」
 あらためて華に尋ねてきた。
「よかったらあげるけれど」
「あげるのね」
「華ちゃんだからね」
 それをまた言うのだった。神社の時と同じ笑顔で。
「だからなんだよ」
「そうなの」
「そうだよ。じゃあ行こう」
「ええ。二人でね」
「二人になる為に」
 同じ二人だがその中は違う。だがそこには華が常にいる。彼女は確かに一人ではなかった。二つの二人の中にいるのだから。
 それを感じながら翔太のところに向かう。翔太はそこで眠っている。そこに向かいながら、静かにその喜びを楽しむのだった。二人でいるという喜びを。


一人より二人   完


                   2008・3・6
 
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