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【艦これ】くちくズ

作者:マッフル
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第05話 任務:まるゆよ、伊号潜水艦ズに負けるな!

 
前書き
★こちらがメインサイトとなっています。
艦これ、こちら鎮守府前第一駐在所
(http://musclerouge.blog.fc2.com/)

艦これ動画「くちくズ」公開中! 詳細はメインサイトをご参照ください。

★他サイト(pixiv)でも掲載しています。 

 
 ここは某国、某県、某市、某港にある、とある鎮守府。
 この物語は艦娘と深海棲艦との凄まじいまでの激戦の記録……ではない。
 戦闘さえなければ、艦娘達も普通のお年頃な女の子。
 今日も提督と艦娘達によるほのぼのとした一日が始まる。

 母港から少し沖に出たところで、潜水艦達が自主訓練をしている。

「ごーや、潜りまーすッ」

 伊58は直進しながらスゥゥと角度をつけて潜水していく。
 他の伊号潜水艦も次々と潜水していく。
 海面に残っている伊401とまるゆ。

「まるゆちゃん、お先にどーぞー」

「そ、そうですか? じゃあ遠慮なく」

 伊401に促され、まるゆは潜水を開始する。

“とぷんッ”

 まるゆはその場で頭を沈めて、さかさまになる。

「んーッ、んんーッ」

 まるゆはじたばたしながらお尻を沈めて、今度は頭を上にする。

「んんんーッ、んうーッ」

 まるゆは更にじたばたして、また頭を下にしてさかさまになる。

「んんんぅーッ、ぅんんーッ」

 まるゆは激しくじたばたしながら、頭を上にする。
 こうしてまるゆは頭とお尻を交互に沈める動作を繰り返し、まるでシーソーのような動きをしながら徐々に沈んでいく。

「し、沈んでる?!」

 海中からまるゆを見ていた伊号潜水艦ズは、まるゆが溺れてると思った。
 海面からまるゆを見ていた伊401は、まるゆが沈没したと思った。
 じたばた暴れながら沈んでいくさまは、潜水というよりは沈没である。
 どうにかこうにか海中にいる伊号潜水艦ズの目の前まで沈んだまるゆは、伊号潜水艦ズに向かって爽やかな笑顔を見せる。

「まるゆ、潜水完了しました」

 伊号潜水艦ズはエエエッと驚いてまるゆに詰め寄る。

「まるゆちゃん、それって潜水じゃなくて、沈没じゃない?」

 伊168につっこまれ、笑顔をひきつらせるまるゆ。

「いえいえいえ、潜水です。立派に潜水ですよ?」

 海面にいた伊401がスゥっと潜水艦ズの元に近寄る。

「上から見てたけど、あれは……残念ながら沈没だね!」

 あっけらと言われてしまい、まるゆは涙目になって抗議する。

「そ、そんなことないです! れっきとした潜水です! “止まって沈む”、陸軍が誇る! 一歩先ゆく! 画期的な潜水法です!」

「陸軍が誇る、ねぇ」

 伊168はジト目になってまるゆを見つめる。

「一歩先ゆく、なのね? いひひっ」

 伊19は笑いをこらえて涙目になっている。

「画期的? でち」

 伊58はプフッと笑いながらまるゆを見つめる。
 あからさまにバカにされているまるゆは、ふるふると身を震わせながら涙目になって下を向いてしまう。

「そろそろ時間よ。母港に戻しましょう」

 伊8は上を向いて浮上する。

「はいはいでちー! 訓練おしまいでち!」

 他の潜水艦ズ達も伊8を追うように浮上する。

「まるゆちゃん、戻ろう」

 伊401はうなだれているまるゆの手を取り、浮上するように促す。

「あ、はい、そうですね」

 まるゆは目に溜まった涙を拭い、伊401に笑顔を向けた。
 母港に着いて海から上がった潜水艦ズは、あらかじめ用意しておいたバスタオルを手に取る。
 そして身体と頭を拭きながら庁舎に向かって歩きだした。

「そういえばまるゆちゃんってさぁ、装備スロットが存在しないって本当? それって戦闘可能なの?」

 伊168からの質問にムッとするまるゆは、少し強めの口調で答える。

「そ、それは! まるゆはレベル10を超えたので、ちゃんと雷撃できるです! 先制雷撃、雷撃、夜戦と3回雷撃できるのです! ……まだ装備スロットは開いていませんが」

「何も搭載してないのに、どうやって攻撃してるのでち?」

「いったい何を発射してるのね?」

「そ、それは! ……それは」

 言い返そうと思ったまるゆであったが、怒りよりも悲しい気持ちの方が勝ってしまい、何も言えなくなってしまった。
 そんな気の沈んだまるゆの気持ちを知ってか知らないでか、伊8はシレッと質問する。

「まるゆちゃんって確か、耐久力2でも中破なんでしょ? 耐久力1でやっと大破って、轟沈しちゃうよ?」

「やばっ! それって危ないじゃない!」

 まるゆの隣を歩いている伊401は、朗らかに笑みながらまるゆに質問する。

「そういえばまるゆちゃんって、超がつく低燃費艇なんだよね! 1戦闘あたり燃料2、弾薬1で済んじゃうエコ艇なんだよね?」

「まるゆちゃんは小食すぎるのでち。もしかして拒食症でち?」

 あはははははッと笑いだす潜水艦ズ。
 まるゆの隣にいる伊401はまるゆの肩をポンと叩く。

「もう少し食べないと大きくなれないよ、まるゆちゃん!」

 まるゆの胸がギュッとなる。
 ひどく悲しい気持にさせられた。
 きっと潜水艦ズには悪気などないのだろう。
 少しからかっているくらいの気持ちなのだろう。
 しかしまるゆにとってはコンプレックスなところを殴りつけられたようで、ひどく心が痛んだ。

「まるゆは海軍工廠出身じゃないから……お友達はできないのでしょうか……」

 まるゆはダッと走りだしてしまう。
 くやしい気持ちと悲しい気持ちが混じり合い、いたたまれなくなったまるゆはその場にいられなくなかった。

「あッ」

“ずざざぁぁッ”

 涙で前が見えなくってしまったまるゆは、何もないところで転んでしまう。
 地面に肘と膝を擦りつけてしまい、すれた箇所はうっすらと血が滲んでいる。

「えぅ、ぅええぇぇう……」

 まるゆはその場に座り込んでうなだれてしまう。
 自分はどうしようもなく低能で、まるで役に立たない、ヨソ者である……そんな負の気持ちがまるゆに襲いかかる。

「おいおい、そんなとこでなにしてんだよ」

 雷はロリポップキャンディを咥えながら、座り泣いているまるゆを見下ろしている。

「あ……雷さん……えぅぅ、うああぁぁぁんッ」

「おいおい、こんなとこで泣くなよ。怪我してるし、びちょびちょだし、風邪ひいちゃうぞ」

 雷の顔を見た途端に、まるゆの中で我慢していたものが崩れてしまい、激しい感情が溢れ出てしまう。

「うああああぁぁぁんッ! ぅええあああぅんッ!」

 大泣きしてしまうまるゆ。

「はぁ、しゃーねーなぁ」

 雷はポケットから新しいキャンディを取り出して、まるゆの口に突っ込む。

「んむぅッ、んぐぐぅ?」

 まるゆはきょとんとした顔をして雷を見上げる。

「ここじゃあなんだ。とりあえず私らんとこにおいで」

 ――――――

 ――――

 ――

 自室のベッドに腰を下ろしている雷は、まるゆから事の成行きを聞いた。
 そしてまるゆの傷に絆創膏を貼っている電は、まるゆの話を聞いて憤慨する。

「ひどいのです! まるゆちゃんが可哀相なのです! 人には得手不得手、長所短所があるのです!」

 雷は腕組みをしながら、目を閉じて身体を揺すっている。

「雷お姉ちゃんもそう思うのです?!」

 電に話をふられて、雷はゆっくりと目を開ける。

「このままってわけにはいかねぇか。しゃーねー、いっちょ話つけに行くかぁ」

 雷はぴょんとベッドから飛び降り、すたすたと部屋を出て行ってしまう。

「おいてくぞ、まるゆー」

「え? ええ?」

 どうしていいのかわからないでいるまるゆに、電は笑顔を向ける。

「雷お姉ちゃんにまかせるのです」

「あ……は、はいッ!」

 まるゆはハッとして雷を追いかける。

「なんだかんだで世話焼きなのです、雷お姉ちゃん」

 電はクスッと笑んでベッドの上に転がった。

 ――――――

 ――――

 ――

 海辺にある射撃場で魚雷の発射訓練を行っている潜水艦ズ。

「イクの魚雷攻撃、行きますなのね!」

“しゅるるるるぅ……ちゅどどぉんッ!”

 深海棲艦の絵が描かれた板に向かって魚雷を発射する伊19。
 板はこなごなに破壊され、跡形もない。

「イク、大金星なのね!」

 ドヤ顔になっている伊19、その横で次は私だと言わんばかりに魚雷の発射準備をする潜水艦ズ。

「打ち方やめー。潜水艦ズ、ちょっといいかぁ」

 発射寸前で呼び止められ、海の上でふらふらと身を揺らす潜水艦ズ。
 伊168は声がした方に顔を向けると、そこには雷と、その背後に隠れているまるゆを見つけた。

「いったい何の用かしら? 私達の訓練を中断するような用事なのかしら、くちくズの雷ちゃん」

 伊168はいぶかしげな顔をしながら海から上がる。

「わりぃね、たいした用事じゃないんだけどさぁ。ちっと集まってもらってもいいかなぁ」

 雷はポケットに両手を突っ込んだまま、ロリポップキャンディを口の中で転がしている。
 他の潜水艦ズも海から上がり、どこか高圧的な態度の雷を警戒しながら、雷の前に集まった。

「な、何の用でち? も、もしかしてまるゆちゃんの仕返しにきたでち?」

「んー? 仕返し? お前ら、まるゆに仕返しされるようなことしたのか?」

 伊58は“んぐぅ”と口ごもり、言葉を失ってしまう。

「なんだか煮え切りませんね。はっきりと要件を言ってもらえます?」

 伊8は人差し指でメガネを上下させて、にこっと雷に微笑む。

「潜水艦ズ、お前ら潜水艦は特殊かつレア度が高いから、提督に特別扱いされてるのはわかるよ」

「そうなのね! イクたち潜水艦は特別な存在なのね! だからこそ潜水艦としてのプライドというものがあるのね!」

 伊19は胸を張って大威張りに言う。

「だけどな、提督はお前ら以上に、まるゆを特別扱いしてんだよ」

 笑顔の伊8の頭にピキッと怒りマークが出現する。

「それは聞き捨てなりませんね。なぜまるゆちゃんが私たち伊号潜水艦よりも特別扱いされているのか、理由を話していただけます?」

 雷はガリッとキャンディを噛み、バリバリとキャンディを噛み砕く。

「理由? そんなの一目瞭然じゃんか。お前らとまるゆ、決定的に違うものがあるだろう?」

 潜水艦ズは頭の中をハテナだらけにして、自分とまゆるを何度も見比べている。

「違いなんて無いじゃない! どこが違うって言うのよ!」

 伊168はいらいらしながら声を荒げる。

「いちいち口で言わないとわからないんか?」

 雷は口に残ったキャンディの紙棒をプッと吐き飛ばした。

「いいか? お前らが着てる提督指定の水着はスク水だろ。だけどな、まるゆが着てるのは何だ?」

 伊401は場の空気を理解していないかのように、あっけらと元気に答える。

「白いスクール水着だね!」

「そうだ、白スクだ。一般的にはな、白スクは紺スクよりもレア度が高いんだよ」

 伊8の頭の中でズガーンッというショックな衝撃が走りぬけた。

「……レアカラーVerだと……そう言いたいのかしら?」

 雷は伊8に詰め寄り、ズイッと身を乗りだす。

「それだけじゃないよ。純白の白スクを見てさ、何か思い出さないか? 純白の服を着てるのがもうひとりいるだろう?」

 伊8はハッとし、がたがたと震えだした。
 もはやショックすぎて言葉が出ななくなった伊8。
 しかし雷の言葉が理解できないでいる他の潜水艦ズは、雷に詰め寄る。

「どういうことなの? それって誰よ! そんな艦娘、他にいたかしら?」

 雷はにぃッと笑い、潜水艦ズに言い放つ。

「提督だよ」

 ズガーンッというショックな衝撃が潜水艦ズの頭の中を走りぬけた。
 そんな潜水艦ズに雷は追い討ちをかける。

「提督とまるゆはな、ペアルックだ!」

“ずどがががぁぁぁんッ!”

 Critical hit!
 潜水艦ズは脳内で大破した。
 悲しみのあまり、轟沈寸前である。

“ずどがががぁぁぁんッ!”

 Critical hit!
 まるゆも脳内で大破した。
 嬉しさのあまり、轟沈寸前である。

「隊長さん……そ、そうだったのですねッ! まるゆは……まるゆはッ!」

 ――――――

 ――――

 ――

 司令官室の扉をこんこんと控えめにノックするまるゆ。

「開いている。入っていいぞ」

 提督に促され、まるゆはもじもじしながら司令官室に入った。

「し、失礼します……あ、あの、隊長さんひとりですか?」

「ああ、そうだが。どうしたんだ、まるゆ」

 まるゆは頬を赤らめながら、提督に身を寄せる。

「……隊長さん……ま、まるゆは……まるゆは……」

 まるゆは提督の顔を見上げながら、熱っぽい目で提督を見つめる。
 提督は只ならぬ雰囲気のまるゆを見て、どきどきと胸が高鳴る。

「隊長さん……」

 まるゆの顔が近づいてくる。
 とろけるような熱い目をしたまるゆが、顔を寄せてくる。

「まるゆ……」

 提督とまゆるの唇が接近し、そして遂に……

“ボフンッ”

 寸でのところで、まるゆは提督に包みを差し出した。
 提督は包みに顔が埋まってしまい、包みにキスしてしまう。

「これ、まるゆからのプレゼントですッ!」

 そう言ってまるゆはテテテッと司令官室を出て行ってしまう。

「……何どきどきしてんだよ、俺……バ、バカなのか俺は? そ、そんなことあるわけないだろうがよ……」

 提督は手渡された包みを開けてみる。

「ん? なんだこれは」

 提督は目の前で包みの中身を拡げてみる。
 それは腹の箇所に「○て」と書かれた白スクだった。

「……これを着ろと?」

 機能美に溢れるまるゆ指定の水着を手にしたまま、提督は固まってしまう。

 ――――――

 ――――

 ――

“コンコン”

「失礼します」

 秘書艦が戻ってきた。
 扉を開けると、そこには白クスを着込んだ提督がいた。

「違うんだ、そうじゃないんだ、なんて言えばいいのか、その、なんだ、まずは落ち着くところからはじめようか」

「んぎゃあああぁぁぁあああぁぁぁッ!」

“ずどがががぁぁぁんッ!”

 Critical hit!
 提督は大破した。

(任務達成?) 
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