Sword Art Online 月に閃く魔剣士の刃
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4 魚人の王
「うっわぁ...。ここあいつらの根城か?」
広く、天井も高い空間の中央に円形の巨大な足場入ってきたところと次の階層へ続いてるであろう向う岸の扉には跳ね橋がかかっている。それ以外は巨大な水場になっており、光源が少ないからなのか分からないが底が見えないほど暗く深い印象を受ける。
しかし、一番の驚きはその水面のそこかしこから下から上に昇ってきているであろう泡が見受けられる事である。
俺は見たことがある...。あの泡がポコポコ出てくる池からサハギンの群れが這い出てくるのを...。
「まあ、行くしかないだろ。」
キリトもその泡を見て苦笑していたが、戦闘モードに入ったのか目つきを変えて口元を引き結んだ。
警戒しながら跳ね橋を渡っていく。幸い橋では何も起きる様子はない。
しかし円形状の、見方によっては闘技場にも見える足場に足を踏み入れたその瞬間、
「うおっ!?アイツがボスか!?」
周囲の水中からいきなり何かが飛び出してきた。
水しぶきを上げ、着地したのは 「The Sahuagin of king」
直訳すればサハギンの王。
3mはあろうかという大きさに身の丈程もある長大なトライデントを持っている。左手には円形の大盾が前腕部に固定されているが、サハギン本体との対比でまるでバックラーのようだ。
そして周りにはさっきのサハギン・ロードが3体と初めて見るエネミー、「サハギン・ガードナー」と呼ばれるエネミーもいた。こちらは突撃用のランスとキングと同じ大盾を装備しているようだ。
「・・・これは結構骨が折れそうだな。」
取り巻きの量を見て思わずキリトが呟く。
「まあ取り合えずパターンくらいは見ておこうか、行くぞっ!」
左手で腰に横差しにしている短剣を、右手で背中に帯びている長剣を抜刀すると手前にいたガードナー向けて全力でダッシュする
相手の得者はランス、こちらより間合いが長い。案の定相手の間合いに入った瞬間、ガードナーのランスが鮮やかなライトエフェクトを纏った。
色は淡い黄色、両手槍の初歩スキルのストライクのはずだ。
大きく踏み込んで高速かつ鋭い刺突を行うスキルで技後硬直が短く発生も早いため初歩スキルながらランサー達には重宝されている。
「間合いが甘いよ。」
呟くと繰り出されるランスの軌道から極僅かに左へ体を逃がし、流れるように相手の懐に潜り込む。
「まずは一つ・・・!」
クリティカルポイントである首元に目掛けて投剣スキル、アークシュートを起動し、左手の短剣を構える。黄色いライトエフェクトを纏った短剣は光の矢の如く、閃光の軌跡を残して狙った場所に直撃した。
アークシュートは投剣スキルの中でも珍しく近接戦闘に特化した性能になっている。モーションの小ささ、ディレイの短さ、なにより近距離になるほど強烈になる衝撃力。
投剣でありながら極近距離での一撃の威力は目を見張るものがある
そんな強力な一撃がこの距離で弱点に直撃、当然のごとくガードナーが大きくよろめき中段に構えていた大盾が大きく逸れる。そしてアーク・シュートを撃った流れで体勢を整えつつ、盾が逸れた事を確認すると右手の長剣が青い輝きを放つ。
片手剣スキルのホリゾンタル・アーク、水平二連撃でガラ空きになった胴に追撃を加える。左から右への薙ぎ払い、更に返す刃でもう一撃横薙ぎを叩き込む。
為す術もなく追撃の全てをマトモに喰らったガードナーは、一撃目で胴体を守っていた鎧が砕け散り、二撃目で敵を両断した。
ここまで約1分程度、ガードナーが撃破された事に気付いた敵達がシュンへ一斉にヘイトを向ける。前方からはロードが1体、大上段に構えた剣に黄色い光を纏わせる。
右からはガードナーが盾を構えて突進の構えを取っていた。
「...前のやつが先だな。」
そんな算段を瞬時に終えたその時、
「うおおおお!!」
気合と覚悟のこもった叫びともに視界の隅を水色の光が駆け抜けた。
片手剣スキル【レイジスパイク】のはずだ。強烈な突進斬りが俺に気を取られていた右のガードナーの頭を一撃で刈り取った。
「無茶すんなよ!!」
ディレイを消化したキリトが俺の横で構える。
同時にボス戦開始3分で二体の仲間を撃破されたことに怒ったのかキングが雄叫びを上げた。HPバーは5本、意外と少ない。
「キングのHPが低めか、こりゃ取り巻きに手間取るタイプか?」
短剣を回収して左手に構え、キングに対峙する。
「取り合えずやれるとこまでやって離脱しよう、このままだと案外発狂までいけそうだ。」
それだけ会話すると俺はキングの横にいるガードナーに、キリトはキングに向かって同時に駆け出す。敏捷値は若干俺のほうが上だ、さらに目標との距離の差もあり必然的に俺のが先に接敵する。
相手の間合いに入る寸前、相手のランスが紫に光る。
これは両手槍スキルのハーフスラッシュ、前方180度を高速で薙ぎ払うスキルだ。一瞬のタメを置きランスが高速で薙ぎ払われ、こちらの胴体を捉える。
筈だったが、十分にシステムアシストが乗る前に投剣スキル、シングルシュートで軌道をそらされキャンセルされた。そしてディレイで硬直し、隙だらけのガードナーに間髪入れずスラントをねじ込む。
その両手で振り下ろした剣の一撃でガードナーは消滅、その脇を一瞬の迷いもなくキリトが駆け抜けた。
キリトがボスに突っ込むのに合わせて、キングがトライデントをキリト目掛けて横に振る。
「はぁあああああ!!!」
俺より筋力値が上のキリトがトライデントをパリィ、片手剣でその何倍もあるトライデントを上にカチ上げる。
「そこおおお!!」
空いた右足に急接近、ソードスキルは使わずに右上からの袈裟懸けと左から右への横斬りでHPバーをほんの少し削り取る。
「こっちもいるよ?」
短剣を回収してから助走をつけて大きくジャンプ、右足にオレンジ色のライトエフェクトを纏わせ体術スキルである飛突を発動、腹部に膝蹴りをお見舞いする。
そのままボスを足場にして飛び退き、着地すると待ってましたと言わんばかりにロードが斬りかかってくる。
袈裟懸けを避けて剣を手首から斬り飛ばし、体術スキル、円舞脚を使い上段回し蹴りで吹き飛ばす。もはや乱戦模様になっていたが取り巻きはほぼ壊滅しボスのHPバーの三本目が半分まで削れていた。
「そろそろか?」
退こうかとキリトに提案しようとしたところでいきなりキングが吠えた。轟くような野太い雄叫びとともに見たことも無い構えでトライデントを振りかぶる。
そして構えられたトライデントがまるで血に染まったような赤色の光を纏い出した。
そのままキングは自分の赤く輝いた得物を・・・俺目掛けてぶん投げた。
「何!?」
まるで炎の如く真っ赤に染まったトライデントはターゲットに向かって超高速で飛んでくる。
近くではあるが攻撃が届かない所まで距離を取っていたため安全だと思っていただけに、俺は虚を突かれて反応が遅れてしまった。
間に合うか...?
瞬時に弾道を予測するがこの距離ではステップは間に合うか分からない・
他に方法は...?
「シュンッ!!」
ボスがトライデントを投擲してからコンマ数秒遅れてキリトが叫ぶ。
しかしキリトと俺の距離は約5m。流石に間に合うことは無いだろう。
ならば覚悟を決めて防御に徹してみようか?
だがそれも叶わないだろう。なぜなら俺のビルドは準敏捷特化だからだ。
右手の長剣、それもスピード優先のかなり軽い剣が装備出来る最低限しか筋力値が無いため必然的に防具は軽い防具になる。
それも取り巻きにもいたロードの一撃で半分持っていかれるような紙装甲だ。
そしてこんな大技だ。マトモに喰らったら即死は免れないだろう。
俺はこんなとこで死ぬのか...?
SAOに囚われたあの日、誰にともなく俺は誓った。
生きてここから出ると...。
まだだ、まだ死ねるか...!
まだ生きたい、それを頼りに必死で頭を働かせる。
意識する間もなく、思考速度が加速した。トライデントの動きが限りなく遅く、まるで止まっているように見える。
もう回避する時間は残されていない。
耐えるのは無理だ。
盾もないから防御も無理。
ならば方法は一つだけ。イチかバチかだ。
雷光の如き思考が体に命令を伝える。
右手の長剣を振るえ、と。
俺は、生き残るんだ。
ようやく体が思考に追いついた。トライデントを防ぐ軌道で長剣が切り上げるように振るわれる。
間髪入れず、重い衝撃と共に甲高い金属音が響き渡った。飛び散った火花がまるでコマ送りのようにゆっくりと視界の隅に流れていく。
剣はトライデント特有の三叉の穂先、その刃と刃の間を捉えてカチ上げた。
そして加速していた感覚が少しづつ、元の速度に戻っていく。
転がっているように視界が何度も回る。気がつくと、あまりの衝撃に吹き飛ばされていたようだ。
数秒遅れて宙を舞っていたトライデントが大きな音とともに地面に落ちた。HPバーを確認するとイエローゾーン、危険域まで減っていた。
「死ぬかと思ったわ...。」
思わずポツリと呟いた。すかさずキリトが庇うように立ってくれる。
「大丈夫だな!?大丈夫だよな!?」
「ああ、生きてるよ。」
言いつつHPハイポーションを飲むと、剣を持ち直してキリトの横に構えた。
「さて...、そろそろ来てくれる頃か?」
キリトがキングと睨み合ったまま聞いてくる。確かに戦闘開始からそろそろ15分くらい経っていた。
「まあサハギン達に手間取っているだろうからもう少しかかると思うけどな。」
言いつつ俺は回復待ちだ。数秒間の睨み合い。その間にHPバーのある程度が緑のゲージで満たされる。
「OKだ、いつでも行けるぜ。」
「よし...このまま倒してしまおうか。」
「だな、俺を死にかけさせた罪は重い」
俺の返しにキリトがクスリと笑う。そしてその軽口に、
「死にかけた貴方の罪も重いですからね」
と安堵半分、呆れ少しと怒り少しといった声色が後ろから飛んできた。さらに、
「ったく、そのまま死んでたらどうすんだよ!?」
「ボスドロップのメイン仕入先が絶たれたら商売あがったりだ。ちったあ命を大切にしとけよ。」
男達の低い声が続いた。足音からして3人だけ、先行してきたらしい。
「で、どう責任取ってくれるつもりですか?」
凛とした、しかし攻略部隊の指揮戦闘の両面で活躍している少女、アスナが詰め寄る。
「...帰ったら何か奢ってやっから勘弁してくれ」
攻略の鬼に苦笑しつつこう返すと、
「やった!ケーキ確約っ」
ケーキとは第三層にあるNPC経営の洋菓子屋?にある「ドルツェ・ツィオーネ」の事だ。恐らくイタリア語をアレンジした名前で意味は「甘い誘惑」。
現時点ではトップクラスに美味しい代わりに同じ街にある武器屋で売っている剣が2本位買えるという恐ろしい代物だ。
しかも一度食ったら癖になるくらい美味いと評判である。
「いやそれは流石に自重してっ!?」
瞬速で返すと、
「俺もな~。」
と横から便乗するクライン。
「俺はいいからな?」
黒人風の男、エギルは自重してくれたようだ。
「はあ...。んじゃ帰ったら三層な。みんな、行くぞっ!」
俺が短く叫ぶと、それを合図に5人はキング目掛けて突っ込んでいく。現在ヘイトが一番溜まってるのは恐らく投擲攻撃で狙われた俺の筈だ。
予想通りターゲットは俺らしい。一番先に突っ込んでいる俺にキングが右腕を腕を叩きつける。
当たる寸前バックステップで回避、そのまま相手に飛びかかる。
顔面に片手剣の単発斬りおろしスキルのバーチカルを叩き込みディレイが解けた瞬間、短剣と長剣で3連撃を浴びせさらにホリゾンタル・アークで二連撃を加える。
キリトも腹にレイジスパイクを打ち込むと十字に切りつけてからバーチカル・アークで追撃する。
そして右サイドに回り込んでいたアスナが、
「ハアァァァァ!」
叫びとともにスキル、リニアーとペネトレイターでレイピアを何度も突き立てる。
クラインも曲刀を振るい、エギルはワンテンポ遅れて斧による強烈な一撃叩きつけた。
エギルの一撃はやはり俺たちの誰よりも重い。その一撃はキングをよろめかし、それが何かのトリガーになったようだ。
強引に体勢を整えたキングが両の拳を組みエギルに向かって振り下ろす。それに反応して第一層でのあの瞬間のようにエギルが斧を構えた。
【ワールウインド】だ。
「ウォォオォォォォォオォオオオ!!!」
雄叫びとともに斧を振り上げる。凄まじい音が響くとエギルが吹っ飛ばされた。どうやら力勝負はキングの勝ちのようだ。
追撃を入れようとキングが足を振り上げた。
「カバー入るぞ!!」
咄嗟に叫び最短距離でキングに接近する、僅かに残った取り巻きの間を一瞬で駆け抜け、
「こっちだぁ!」
振り下ろす寸前の脚に向かってアークシュートを打ち込んで威力を殺し、さらにソニックリープで軌道を逸らす。
鱗だらけの大脚がエギルの真横に着地した。
「スイッチ!」
アスナの声とともにレイジスパイクとリニアーがキングの胸元に炸裂する。ヒットストップによるディレイを利用してエギルを下がらせると、
「大丈夫かぁ!?」
後ろから新しい声が聞こえた。攻略部隊本隊の到着だ。
「おっせえぞ!!タンク隊さっさと展開しろ!!」
思わず叫びながらもアスナ達に合流する。
「タンク隊、構えろぉ!!」
キングの繰り出した前蹴りを大盾を構えた男たちが真っ向から受け止める。
その横からは大剣を振りかぶり、槍を構えたダメージディーラー隊が強烈なソードスキルを叩き込んでいった。
多段に重ねられた強攻撃でキングが大きく姿勢を崩す。
それを待ってましたと言わんばかりにキングを包囲、様々な色の光が飛び散りHPバーを確実に削り取った。
「さて、さっきはよくもやってくれたな?だが...俺らの勝ちだ!」
長剣を構えキングへと疾走する。それに気付いたキングが両拳を組み俺目掛けて叩きつけようと腕を振りかぶったが、
「遅いっ!」
紙一重で拳を躱すとキングの首目掛けて飛びかかった。
「さよならだ!」
ソニックリープで長剣を首に突き立てた。
それがトドメになった、キングはガラスが割れるような音と共にポリゴンとなって消えた。
~Congratulation!~
Last Attack Bonus:フルムーン・リッパー
「チャクラムナイフか・・・中々いいモン落としてくれたな」
呟きつつキリトに、
「次の階層リベレートしてくるよ」
そう言い残して階段を上った。次の階層への扉を開放し、一足先に25層に足を踏み入れた・・・その刹那、
「ッ!?」
眼前を横切った刃を反射だけで躱す。
見渡すと一面甲冑を着込み、刀や槍、弓を構えた骸達で溢れていた。
そしてクエスト受託の通知が視界に飛び込む。
「街が悪しき者に占拠された!地獄へと送り返し、街を取り戻せ!!」
と同時に後ろの転移門が光を失った。
「退路を絶たれた・・・か・・・ったく、フルムーン・リッパー、初陣だ」
左手に新しい得物が実体化する。柄の両端に弧を描いた刃がついていた。
「軽い、いいやつ拾ったな。」
長剣と円月輪を構え、蒼いコートをはためかせて敵へと駆ける。
その夜、誰にも知られない一騎当千が幕を開けた。
後書き
はい、とても時間の空いた投稿になってしまいましたネズミです
オリジナル100%になってしまってますが、生暖かい目でご覧いただけると嬉しいです
次回もお楽しみにっ!
良いお年をっ!!
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