ラ=トラヴィアータ
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第八章
第八章
「だから」
「過去は知ってます」
剣人は言った。
「それは知ってます。僕だって」
「だからこそ。私は貴方を」
「過去は知っています。けれどそれは過去でしかありません」
「過去でしかない!?」
「そうです。過去でしかないです」
その言葉が強いものになってきていた。剣人の声が。
「僕にだって過去はあります」
「貴方にも・・・・・・」
「誰にだって同じです。僕なんか」
彼はここで己のことを言うのだった。
「中学校の時に振られてそれを学校中に言いふらされて馬鹿にされて」
「中学の時に」
「それでいじめられて陰口叩かれて下校で帰る時に振ってくれた女の子の友達が何人も待っていて色々言われたり」
「そんなことがあったの」
「ありました」
はっきりと言うのだった。
「入学式終わってすぐ後でそれから卒業まで」
「三年間ずっとだったのね」
「誰も信じられなくなりました」
これは嘘ではなかった。事実である。事実だからこそ言えることであった。彼は今圭に対してその事実を言うのだった。
「もう誰も」
「そういうことがあったの」
「そりゃ羽田さんの過去よりはましですけれど」
それは言うのだった。
「それでもです。そんなことがありました」
また言う。
「僕だって。そんなことがありました」
「そうだったの」
「誰にも言えなかったしずっと隠していました」
このことも話した。
「けれど」
「けれど?」
「今、ここにいます」
唇は噛み締めていたがそれでも顔はあげていた。
「ずっと何時そのこと言われるかわからなくて内心ビクビクして言われてその度にダメージ受けて。初対面の同じ学校の奴とか他の中学行った小学校同じだった奴に言われたりして本当に誰も信じられなくなって三年間過ごしましたけれどそれでもここにいます」
「ここにいるの」
「そうです。います」
あくまで言うのだった。
「今ここに。羽田さんの前に」
「いるのね」
「今もこれからも」
さらに言葉を続けるのだった。
「僕はここにいます。ずっといます」
「ずっと?」
「羽田さんの前に。後ろにも」
「後ろにも?」
「後ろから何か言われたり切りつけられるようなことがあっても」
実際にそうしたことがあったからこそ言える言葉だった。
「僕がその後ろにいます。だから安心して下さい」
「大丈夫なのね」
「そうです」
また言うのだった。
「何があっても。大丈夫です」
「貴方がいるから」
「それでこれからを歩いて下さい」
今度の言葉は未来についての言葉だった。
「今立って。これからを」
「私はこれからは」
「あります」
言い切ってみせた。その強い声で。
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