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ラ=トラヴィアータ

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第一章


第一章

                 ラ=トラヴィアータ
『遂に破局』
『熱愛発覚!?』
『略奪愛か』
 こんな言葉は常にゴシップに氾濫している。はっきり言ってしまえばありきたりの記事で食傷すらするものだ。しかし当人にとってはそうではない場合もある。
 この羽田圭にとってはまさにそうだった。彼女は数多くのスキャンダルに悩まされてきた。
 一度は結婚を誓った相手に絶縁された。そのショックから立ち直ったすぐに家族との確執がやけに報道され続いては熱愛報道だった。確執も熱愛も誤解だったがそれでも彼女の心を傷つけるのには充分だった。彼女は女優だったがそれにしてはかなり気が弱い性質だったのだ。
 その為その都度ストレスで拒食症になり命さえ危ぶまれた時もあった。そこをさらに書かれさらに落ち込む。それの繰り返しで彼女はさらに塞ぎ込み今ではそうした話を極力避けるようになっていた。女優として名声は得たがスキャンダルの元はかなり避けるようになっていた。
「圭ちゃんも変わったわね」
「仕方ないさ」
 彼女を知る者は皆同情して言うのだった。
「あれだけ色々あったらね。やっぱり」
「ああなってしまうか」
 圭を見つつ言う。
「元々は明るくて気さくな娘だったのに」」
「それがあそこまで」
 人付き合いも減り仕事が終わるとすぐに自宅に引き篭もる。そうして仕事以外は家から出ることはない。そんな人間になってしまっていた。確かにこれならスキャンダルはない。しかし。それと共に人と交わることもなくなり彼女は孤独な人間になってしまっていた。
 当然芸能界の誰もがこのことを知っている。だからあえて言わない。無神経な者はスタッフ達に周りから最初から外されてしまう程だった。
 共演者も同じで仕事の飲み会や打ち上げにも参加しない。やはり彼女は孤独だった。だがあるテレビドラマでの発表での場だった。やっと二十になったばかりの若手俳優である野上剣人が彼女を見て言ったのだった。
「こんなに奇麗な人と共演できるなんて夢みたいです」
 これは彼の本音だった。彼はまだ若く若手の新進俳優として売り出し中だった。細面の顔はまだ幼さが残り女性的なものさえある。髪は黒く豊かだ。その彼が圭を見て言ったのだった。
 圭はこの時二十七だった。色は白く顔は卵型で髪は黒く長く豊かだ。顔立ちはロシア系の血が入っており彫りの深さと和風の穏やかさが共にあり大きな丸い目の光は美しい。はっきりとしているがそれでいて落ち着いた顔立ちだった。
 その彼女を見て言ったのだ。しかし圭はその言葉ににこりと笑うだけだった。それだけだった。
「ねえ剣人君」
「はい?」
「あの人にはお世辞とかは全然駄目だよ」
 マネージャーが発表の場が終わってから彼に言うのだった。
「それ話したじゃない」
「お世辞じゃないですよ」
 しかし彼はこうマネージャーに返したのだった。
「これは。お世辞じゃないです」
「じゃあ本音だっていうのかい?」
「はい」
 彼は正直に述べた。
「写真で見るよりずっと奇麗ですよね」
「奇麗なのは確かだね」
 彼もそれは認めた。特に今の彼女は髪を後ろで束ねその見事な額まで見えて余計に美人に見えていた。彼の言葉も無理がなかった。
「それはね」
「だから言ったんですけれど」
「あの人のことは知っていても?」
「はい」
 またマネージャーの言葉に応える。
「聞いてます。全部」
「繊細な人だから」
 顔を顰めさせてまた剣人に言ってきたのだった。
「何かあったら物凄い落ち込んだり悩んだりするから。言わないでね」
「わかりました」
 剣人もそれはわかった。
「けれど本当に」
「奇麗な人だっていうんだね」
「ですよね。あんなに奇麗な人と共演できて」
 また純粋に圭の整った顔のことを言うのだった。
「幸せですよ、本当に」
「やれやれ」
 マネージャーも彼のその明るさと純粋さに呆れるしかなかった。何はともあれ撮影に入り圭は主演で剣人はその相手役であった。OLと若い社員の純愛ものであった。
 剣人の役はそのOLである圭にただひたすら憧れる若い社員だ。話はコメディータッチで周りには様々なトラブルが起こり二人の邪魔をする。それを乗り越えて、という話だった。
 撮影の中で剣人は常に圭を見ていた。そしてそのことをいつも言っていた。テレビ雑誌にもこのことを言いとにかくやたらと彼女を見ていた。
 しかし圭は相変わらず撮影が終わればすぐに帰ってしまう。撮影の間の休み時間でもすぐに自分の車の中に入ってしまう。そうして殆ど誰とも会おうとはしない。だから皆彼女のことを話に出すこともなかったのだが彼だけは別だった。今日も撮影の合間に彼女のことを言っていた。
「本当に奇麗で優しくて」
「優しい?」
「優しいですよ」
 こう皆に話していた。ちょうど昼の休み時間で他の共演者やスタッフ達と一緒にロケ弁を食べながら話をしていた。その時での話だった。
「とても。優しい人じゃないですか」
「そうかな」
「さあ」
 だが誰もそれを聞いて懐疑的な顔になるのだった。
「だって話なんかしたことないし」
「そうそう」
 すぐに閉じ篭ってしまう彼女と話したことのある人間はこのドラマの中においては誰もいないのだった。この頃には彼女の本来の性格のことを知らない者さえ多くなっていた。
 
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