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戦国異伝

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第百八十五話 義昭の挙兵その十二

「後は出家して頂ければな」
「それで、ですな」
「それで幕府じゃが」
 このことも言う信長だった。
「最早な」
「朝敵となったからですな」
「これ以上は無理じゃ」
 義昭は言うまでもなくだった。
「だからじゃ」
「畏まりました、それでは」
「うむ、その様にな」
 僧侶に対して確かな声で告げる。
「ではな」
「では公方様は」
「出家して頂く」
 こう僧侶に話す。
「先に話した通りな」
「左様ですか」
「そういうことでな」
「はい、では」
「それでよいのじゃな」
「既に幕府の命運は尽きておりました」
 僧侶は信長に目を閉じて答えた。
「それをこれまで存続させて頂き有り難うございます」
「わしに礼を言うのか」
「はい」
 その通りだというのだ。
「左様です」
「わしは幕府を神輿として利用していたのじゃが」
「それでもです」
 幕府を、というのだ。
「残して頂いていたので」
「そうか、それでか」
「幕府は義輝様が弑逆された時に終わっていました」
 もrっと言えば応仁の乱で既にその力はないも同然になっていた、元々何の力もなくなっていたのである。
 そこに松永達の義輝弑逆があった、それでだというのだ。
「それでも残して頂いたので」
「そう言ってくれるか」
「はい、そうです」
「わかった、ではその言葉は受ける」
 僧侶の言葉は否定しなかった。
「それではな」
「はい、それでは」
「幕府は終わりな」
 そして、だった。
「公方様は出家して頂き」
「そうして」
「天海殿と崇伝殿じゃが」
 ここでだ、信長は二人の僧侶のことを言ったのだった。
「何処におるか」
「それが」
 僧侶の顔が変わった、急に困ったものになって信長に答えた。
「拙僧にも誰にも」
「わからぬのか」
「煙の様に消えてしまい」
「公方様の知恵袋だったのう」
「むしろお二人の言葉だけをです」
 聞いていたというのだ。
「公方様はそうなっておられました」
「そう聞いておる、わしも」
 信長は抜け殻になっている義昭を見つつ僧侶に述べた。
「公方様はあの二人とだけ話しておったそうじゃな」
「この頃は」
「幕府の者達の命は助ける」
 信長はこのことも保障した。
「しかしあの二人はな」
「その首を」
「そこまではあまり考えておらぬがな」
 それでもだというのだ。 
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