リメイク版FF3・短編集
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消えゆく者・託されし想い
前書き
前話とは、立場逆の展開。視点ルーネス。
サラ姫に、何て云えばいいんだろう。
イングズが、光の戦士すら消し去る呪いの矢からおれを庇って、消えてしまいました……?
それとも、はっきり云った方がいいんだろうか。
死んだって。
もう元には戻らない。
二度と、逢えないんだって。
白魔法も、回復アイテムも効かなくて、イングズは全身漆黒の塊になって崩れ去る前に、おれに"サラ姫を頼む"と云い残した。
そう云われたって、どうしたら─────
イングズの代わりになんか、なれる訳ないのに。
今手元には、唯一残った遺品で雫型のエメラルドのペンダントがある。いつも、身に付けていた────
胸元に下げたそれを見つめる目は、とても優しかったんだ。
サラ姫から賜った物─────そう聞いた事がある。
………手元でそれを見続けても、虚ろな自分が映るだけで他には何も見えてこない。
イングズには、サラ姫が見えてたんだろうな。
「 ………ルーネスさん?」
ドアの向こうから、不意に声がした。
サロニア解放後、暫く宿屋の一室におれが籠ってるのを心配して来たんだろう。
アルクゥとレフィアは、図書館に行ってるんだっけ。
────イングズの存在が消えてしまって以来、水の巫女エリアはおれ達と行動を共にしてくれていて、彼女の白魔法には助けられている。
控え目に部屋に入って来た彼女はお盆を持っていて、その上にはマグカップが二つ乗っている。
「温かいミルクを持って来ました、一緒に飲みませんか?」
「あ………うん、ありがとう」
ベッドの隅に一緒に並んで腰掛け、マグカップに入った温かいミルクを喉に通すと、思わずほっと溜め息が出た。
「次の目的地はダルグ大陸ですが、どうしますか……?」
少しして、エリアが静かに聞いてくる。
………おれは顔を合わす事が出来ずに、カップに目を落としたままでいる。
彼女が云おうとしている事は分かってる。
ノーチラスを譲り受けて、ほんとはすぐにでも出発できるんだ。
次の目的地に─────
いや、違う。今ほんとに行くべきなのは………
「サスーン城に、行かなきゃな。サラ姫に、話しておかないと」
大切に想っている存在が、もう戻っては来ないって。
………出かかった言葉は、口の中で虚しく消えてゆく。
エリアは、それ以上聞いてこない。気を遣ってくれてるんだろう。
このままじゃいけないのは、おれも分かってる。
分かってる、けど─────
「やっぱり、恐いんだ。サラ姫の反応が、責められるのが。────泣かせてしまうのが。
サラ姫を、頼むって………イングズの遺言でもあるのに。なぁエリア、おれ、どうしたら──── 」
彼女はふと、マグカップを小テーブルに置き、その華奢な両腕でおれの頭を抱き寄せた。
「わたしは────サラさんという方にお会いした事はまだありませんが、イングズさん………彼にとって大切な方だというのは分かるつもりです。
ルーネスさん……、あなたから話しづらいのであれば、わたしからサラさんにお話します。
遅かれ早かれ、その方は知らなければならないのです。
大事な方が………もうこの世には存在しないのだという事を」
「 ……じゃあ"あの世"ってのがあるなら、後追いでもして死んだら逢えるのか? サラ姫なら、しちまいそうだけど」
おれはつい、エリアの腕の中で皮肉にも取れる云い方をした。
けど耳元のエリアの口調は、あくまで優しかった。
「あの世なんて保証は、どこにもありませんね。死んでみなければ分からない事ですし。
大切な人が亡くなったら、誰しもショックが大きいのは当然です。
そこから立ち直れるかそうでないかは、その人次第です。
でも……、そんな人を支えてあげられる存在も居るはず。
彼が"頼む"と云い残したのは、そういう事ではありませんか?」
「おれが………サラ姫を支える? 出来る訳ない────イングズの代わりになんて、なれないよ」
「そうですね……。だからルーネスさん、わたしがあなたを支えます。
一緒に……、サラさんの支えになりませんか?
彼は、貴女の後追いなど決して望んではいない。
生きて天寿を全うしなければ、彼の魂には逢えないと、嘘でも信じられるようにしてあげましょう」
「それって何か、強引だなぁ。けど………うん、ちゃんと話す。イングズから託された想いを、サラ姫に分かってもらいたいから」
「 ────ちょっとちょっと、いい雰囲気のとこ悪いけどあたし達も忘れてもらっちゃ困るわよ?」
「そうだよ、ルーネスとエリアさんだけに任せるつもりないからね」
いつの間にかドアを開けて入って来ていたレフィアとアルクゥに驚き、おれは抱かれていたエリアの腕から慌てて離れた。
「わ、忘れる訳ないだろ……! 二人の事も、頼りにしてるよ。
行こう、サスーン城へ────サラ姫に会いに」
END
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