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提督の娘

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第八章


第八章

「ただな」
「ただ?」
「やっぱり女の人と話をするのはいいものだよな」
 機嫌のいい顔であった。その顔で述べたのである。
「本当にな」
「そうだろ?僕も今艦長が勧めてくれたお見合いでな」
「上手くいってるのかい」
「いってるよ。充分ね」
 このことも話すのだった。
「いい具合にね」
「それは何よりだよ。このまま結婚となればいいね」
「有り難う。ところで」
 ここまで話したところで話題を変えてきたウィルマーだった。その変えてきた話題は。
「あの人だけれど」
「あの人?」
「だからさっきの美人さんだよ」
 彼女のことだというのである。
「名前は何ていうんだい?」
「サエコさんっていうんだ」
 まずはその名前を教えたのだった。
「サエコっていうんだ。あの人はね」
「そう。サエコね」
 ウィルマーはその名前を聞いてまずは頷いたのだった。
「何か日本風の名前だね」
「御母堂が日本人らしくてね」
「それで日本風の名前なのか」
「そうらしいよ」
「お母さんが日本人か」
 ウィルマーはここで脳裏であることを想像したのだった。しかしそれは言葉には出さない。まだ確信を持てないのでそれで出さなかったのである。
「それでだけれど」
「何だい?」
「姓は何ていうのかな」
 今度尋ねたのはこのことだった。名前の次はだ。
「姓は。何ていうのかな」
「マックソードだよ」
「マックソード!?」
 ウィルマーはその名前を聞いてすぐに声をあげた。眉も顰めさせてだ。
「マックソードっていうのかい」
「そうだよ。それがどうかしたのかい?」
「マックソードでそれで奥さんが日本人」
 ウィルマーは述べた。それは脳裏で考えていたことが確信になったからだ。だからこそここで声に出してそのうえで述べたのだった。
「間違いないな」
「間違いないっていうと?」
「だからだよ。あの人は中将の娘さんだよ」
「中将っていうとまさか」
「そのまさかさ。うちの司令官だよ」
 彼だというのである。その司令官だというのである。
「マックソード司令官だよ」
「まさか」
「いや、間違いない」
 ウィルマーは真剣そのものの、しかも危惧するものを目に浮かべて彼に述べた。
「閣下の御令嬢だよ」
「そうだったのか」
「まだ司令の名前は覚えていなかったのかい?」
「済まない」
 顔を俯けさせて答えたのだった。
「まだ着任されて一週間だったしな」
「覚えるのはまだ先だったってわけかい」
「申し訳ない」
「いいさ。人の名前と顔を覚えるのには時間がかかるものだよ」
 だからそれはいいというのだった。しかしこうも言うのだった。
「だがね」
「だが?」
「また。厄介なことになったなあ」
 溜息と共に言葉を出したウィルマーだった。
 
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