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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百八十九話 D戦場のワルツ(笑)

 
前書き
お待たせしました。今回も遅くなって済みませんでした。



 

 
宇宙暦795年 帝国暦486年 2月3日

■イゼルローン回廊イゼルローン要塞

自由惑星同盟軍宇宙艦隊総旗艦アイアースの艦橋でロボス元帥が命令を発する。
「攻撃開始!」

同盟艦隊の攻撃に対して帝国軍も反撃に入るが、数で言えば同盟軍六万五千隻に対して帝国軍は四万隻強の戦力であり数の上では同盟軍が有利に見えるが、帝国軍にはイゼルローン要塞とツヴァイそして回廊に既に進入しテレーゼの命令があれば直ぐに参戦する3個艦隊四万五千隻がある。

太平洋戦争のペリュリー島や硫黄島への艦砲射撃を見るように洞窟陣地などの守りの堅い場所は倍する兵力を持ってしても容易には落とせない。しかも、イゼルローン要塞には出力9億2400万メガワットの出力を誇る要塞主砲トールハンマーがあり、一撃で数千隻を消滅させるだけの破壊力を持つトールハンマーの威力の前に過去五度に渡って敗北を強いられてきた。

三年前の第五次攻略作戦では、当時の宇宙艦隊司令長官シドニー・シトレ大将の指揮のもと五万千六百隻の大艦隊が投入され、誘い出した帝国艦隊への並行追撃によって要塞に肉薄寸前まで行くことの成功するも、同盟側から見れば帝国軍が味方の艦隊ごと要塞主砲で砲撃するという暴挙に出たため、結果として二万八千九百十六隻損耗率56.04%と言う大敗北を余儀なくされていたが、当時の同盟では帝国軍の味方殺しで一万隻以上の艦艇が沈んだことを戦果として発表していたために僅少な勝利とかなり盛った報道がなされていた。

だが、同盟軍は五度の苦い経験を教訓としてトールハンマーの射程限界を正確に測定し、その境界線D線を出入りして敵艦隊の突出を誘う艦隊運動D線上のワルツを行う事と成った。元々、自由経済で競争社会である同盟では艦隊運動の制御のソフトウェアに関しては同盟軍の力量は帝国軍のそれを上回る状態になっていた。

一方、帝国軍にしてみれば要塞主砲の射程に誘い込むのが基本戦術であるが、第五次攻防戦のように囮艦隊を用意していない以上は有人艦隊で有る自分達が囮にならざるを得なくなり、万が一自分たちまでトールハンマーに狙撃されては適わない。そのため、いざとなれば上下左右に散開できるよう準備をしつつ、中央部を空けリング状に艦隊を展開して敵を集約させようとするのであるが、何故か帝国艦隊の動きが要塞周辺からさほど離れないように動いて居るのが同盟側にしては不気味に見えたのであるが、三時間ほどのD線上のワルツによる挑発に頭に来たのか艦隊が突出する様になりつつ有った。

それを観察していた、同盟軍総旗艦アイアースでは宇宙艦隊司令長官ロボス元帥が総参謀長グリーンヒル大将に向かってほくそ笑んでいた。
「参謀長、敵は引っかかったようだな」
「突出してきましたな」

「うむ、儂はシトレと違うのだよ」
「ホーランド艦隊に決行命令をだしますか?」

グリーンヒルに言われたロボスは自信満々に命令を発した。
「ホーランド艦隊に命令“喜望峰へ向かえ”」
直ぐにグリーンヒル大将から通信士官に命令が下る。
「はっ、ホーランド艦隊に命令“喜望峰へ向かえ”」

ホーランド艦隊は主戦場から遠く離れた回廊の航行不能中域ギリギリに隠れるように待機していたが、旗艦ミサイル巡洋艦タイコンデロガでホーランド少将がその命令を受け取ると、破顔しながら大声で発信を命じた。
「いよいよイゼルローンの鉄壁に穴を空けて陥落させるときが来た。全艦発進せよ!」

その命令で帝国軍に気づかれないように航行不能中域ギリギリを通過し銀河基準面から見てイゼルローン要塞の左舷側に向かっていった。




同じ頃、イゼルローン要塞ではテレーゼが要塞司令部に拵えられた貴賓席で戦況を見ていた。流石に皇女が戦場にいるのは憚られる事で有ったが、数時間前の会議で有った事により、皆がテレーゼがこの場にいることを拒めない状態となっていたのである。


「閣下、敵艦隊はトールハンマーの射程距離ギリギリを出入りした状態で我が軍を挑発しております」
参謀の一人で有る大佐がエッシェンバッハに報告する。
「判っておる、敵の動きは我が艦隊の目をあの小艦隊から逸らすことにあるのだろう。我々はあの艦隊の動きを見逃さぬ事だ」

戦場の全体像を映し出している戦術スクリーンの一点をエッシェンバッハが指さす。先ほどの会議で説明された将官以外の将兵がその点を凝視すると三千隻程度のミサイル艦と揚陸艦の混成艦隊が隠れるようにイゼルローン回廊の航行不能中域ギリギリを微速で移動しているのが判った。

「これは、いったい何のために?」
「ミサイル艦と揚陸艦ならば、要塞へ陸戦隊を入れるつもりか」
「しかし、あの位置からでは要塞へ辿り着くことも難しいのでは?」

事態が判った佐官や尉官らが喧々諤々と話しはじめる。
「閣下、迎撃は如何為さいますか?」
そんな中、総参謀長のグライフスがエッシェンバッハに迎撃するべきかどうかを尋ねる。
グライフスも先ほど会議で話は聞いていたが、その効果がどの程度なのかが半信半疑であった事と、事情を知らない将兵にエッシェンバッハの考えを聞かせるが故に質問をしたのである。この辺が昔から付き合いがあり阿吽の呼吸の女房役の面目躍如と言えた。


「グライフス、今現在の敵の位置ではどうやっても此方の攻撃が届かぬし、艦隊を派遣しようにも袋だたきに遭うのが目に見えている」
「しかし、このまま手をこまねいて居る事は無いかと思いますが」
会議に参加していなかった大佐が苦言を述べる。

「これを見よ」
エッシェンバッハは大佐を呵ることをせずに、大スクリーンにイゼルローン要塞の断面図を投影させた。
「要塞の断面図ですか?」
「うむ、卿らはこの断面図を見て何か思うとことがあるか?」
エッシェンバッハの質問に参謀達が図を眺めると、要塞の外壁付近に通常とは違う増加装甲のような物が見られた。
「閣下、外壁に何やら増加装甲の様な物が有りますが、これが手でしょうか?」

「うむ、要塞第一層外壁に貼り付けるように厚さ1kmの増加装甲を取りつけてある」
「1km」
「しかし、それほどの・・・・・・」

喧噪の中、エッシェンバッハが更に作戦案を示したことで、その作戦案の凄まじさに司令室が静寂に包まれ、エッシェンバッハの言葉だけが響いていた。
「だからこそ、敵艦隊にはイゼルローン要塞まで来て貰わねばならんのだ」













事の発端は、数時間前の将官級の最終会議での出来事であった。
エッシェンバッハがイゼルローン要塞の増加装甲を説明し始めた事からはじまった。

「外壁に1kmの装甲が・・・・・・」
宇宙艦隊の参謀達がざわめくなか、エッシェンバッハが徐に語り始めた。
「卿らに謝らなければ成らぬ事だが、今回の叛乱軍の攻撃は事前に想定されていたものなのだ」
その言葉に騒然と成る会議室。

エッシェンバッハの告白に要塞工事自体を請け負って完成させたシュトクハウゼン、ゼークト等のイゼルローン要塞駐留の者達も息を呑み愕然とする。
「閣下は、反乱軍の動きを呼んでいたと言う事ですか?」
グライフスは愕然としながらもそう聞くしか無かった。

「動きを読んだという言うよりは、さる筋からの情報に元付いて今回の作戦を立てた訳だ」
「ならば閣下、殿下の行幸を何故お止めにならなかったのですか!」
テレーゼの身を危険に晒したことで今後の災いを恐れている貴族出身の将官がエッシェンバッハを責めるように言う。

確かにそうである、敵が来るのが判っていながらテレーゼをイゼルローンに来させたこと自体で、エッシェンバッハは元よりこの場にいる皆が罪に問われるのではないかと言う恐れが、会議室全体をさざ波のように満たした。ある者は自己弁護のセリフを考え、ある者はオーディンに帰ったらエッシェンバッハだけのせいだと声高に主張しようと考え、又ある者は皇帝陛下の逆鱗に触れたと震えまくり、会議室全体が収集着かない状態になりつつ有った中、エッシェンバッハ、オフレッサー、ケスラー、ロイエンタール達など以外が慌てふためく中、会議室の重苦しい扉が開いた。

「皆、御苦労である・・・・・・なんじゃこの喧噪は」
渦中の人テレーゼがズザンナを引き連れて会議室へ入室してきたが、喧噪に包まれた司令部を見て一瞬言葉に詰まった。
「殿下、この様な場所に起こしとは」

エッシェンバッハが驚いたような表情の演技をしながらテレーゼを迎える。
会議室の喧噪もテレーゼが来たことで収まりはじめているが、多くの士官達は先日のシェーンバルトに対する叱責を思い出して、エッシェンバッハが殿下を囮同然にした事で怒りを露わにすると言葉も出ない状態になっていた。

その姿を見たテレーゼがドヤ顔で言葉を放つ。
「この中で男なのは妾と司令長官、オフレッサーを含めた僅かの者だけのようね」
このセリフはフォークランド紛争時に英国首相であったマーガレット・サッチャーが慌てふためきオロオロする居並ぶ男共に放った言葉のパクリであったが、その言葉で、将官達は目を大きく開けた状態で呆然としていた。

「卿らにはなんの落ち度も無い、何故なら今回の件は皇帝陛下御自らが発案なさった事、その為に妾も協力し、叛徒共を誘き寄せる餌としてこの地へ来たのだから、エッシェンバッハは陛下の命に忠実なだけじゃ、気にする必要など何もない」

テレーゼの一言で、会議室は静寂に包まれた、皇帝陛下御自らが作戦を立て、自らの愛娘まで囮に使った言うのであるから、この一戦にどれ程陛下が賭けているかがヒシヒシと感じられたからであり、これは絶対に負けられない戦いで有り、愛娘を預けるほどに自分達の事を信頼して頂いているのかと思ったのである。

「恐れ多き事なれど殿下、殿下はご承知の上で要塞まで来られたのでありますか?」
グライフスが恐る恐る質問する。
「無論じゃ、卿らが最前戦で戦っている中、敵が来るからと妾が逃げるなど出来ようか。皇族として生まれたからには、それ相応の覚悟が必要じゃ。その時が今だと言うだけのこと、それに卿らを含めイゼルローンで戦っている全ての者を信じておるからこそ、妾の命を預けるのじゃ」

この言葉で、会議室に居た全員が平伏し皇帝陛下とテレーゼの威厳を在り在りと感じる事と成った。

「殿下にお見苦しいことをお見せし弁解の余地もございません」
エッシェンバッハが膝を着いてテレーゼに謝罪すると、会議室に居た全ての者が同じ様に膝を着き頭を垂れた。

「卿らが驚くのも詮無きこと、気にする必要など無い。卿らの忠心を妾は良く判っておる。卿らは卿らの出来ることを恙なく行って欲しい、それが陛下の御心と思って貰いたい」
テレーゼはこう言い、今までの無礼などは気にせぬ事と不問に処した。

「殿下のお言葉、胸に染み入りました」
エッシェンバッハが代表して感想を述べる。
「うむ、さて元帥、作戦の続きを伝えると良かろう」

「御意にございます。続きを伝えます」
エッシェンバッハが踵を返し、再度スクリーンを見て説明をはじめる中、テレーゼは貴賓席に座り見学している。

「まず、敵艦隊が、ウィリム・ホーランド少将、アンドリュー・フォーク中佐の発案で主力艦隊を囮としトールハンマーの射程ギリギリを出入りして我が艦隊と要塞の注意を引く中で、ホーランド少将牽き入るミサイル艦と揚陸艦の混成艦隊が回廊危険中域ギリギリを通過し要塞側面へミサイル攻撃を行う。その後破壊した外壁から陸戦戦力を要塞内へ進入させ要塞を占拠すると言う作戦だ。ただし敵艦隊に気づいた我が艦隊が要塞へ艦隊を戻した所で前回の第5次イゼルローン要塞攻防戦時の様な平行追撃を仕掛けてくる可能性も充分に有りうる」

エッシェンバッハの説明に将官らが普段とうって変わった真剣な表情で聞き、参謀長や分艦隊司令と確認を行う。
こうして作戦会議を終えると、テレーゼ自らが司令室にて観戦する事としたのである。  
 

 
後書き
今回のイゼルローンの増加装甲は次回以降で正体がわかります。
時間と、予算とかを考えると判るかな。 
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