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提督の娘

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第十章


第十章

「どうやら」
「ええ」
 蒼白になった顔でこくりと頷くダスティだった。
「その通りです」
「では行くか」
 普段はグレーに塗装され様々な機械や管のある艦橋はダスティにとっては実に居心地のいい活気に満ちた場所であった。しかし今ここはまさに死刑宣告の場であった。その場において彼は完全に処刑台に向かう死刑囚になった。そうして中佐に連れられて司令部に向かうのであった。
 そこに自分に死刑を執行する人間がいる、確信しながら司令部に入る。何処をどう進んだのか全く覚えていない。一瞬だった筈だが永遠の時間を過ごす様であった。蒼白になった顔で今重厚な扉の前にいた。
 中佐が扉をノックする。するとだった。
「入れ」
「はい」
 中佐が応える。ダスティは応えるまでもなくそれに続く。そうしてだった。
 部屋の中は赤い絨毯が敷かれ大きな広い窓から青い海が見える。部屋の右手には様々なトロフィーが置かれ記念碑もある。そして中央には見事な黒い机がありそこに引き締まった顔のブラウンの髪を後ろに撫で付けた緑の目の初老の男が座っていた。
「ダスティ=ブレイク少尉を連れて来ました」
「御苦労」
 その重厚な面持ちの男が中佐の敬礼に応える。見れば黒と金の軍服を着ている。それこそは中将の軍服である。つまりはだった。
「それではだ」
「どうされますか?」
「貴官は下がってくれ」
 こう中佐に告げるのだった。
「それではな」
「はい、それでは」
 中佐は再び敬礼して部屋を後にする。ダスティを一瞥することなくそのうえで部屋を後にする。後に残ったのはその中将とダスティだけだった。
「さて」
 二人きりになるとすぐにダスティに声をかけてきた中将だった。ダスティは蒼白になった顔でそのうえで直立不動の姿勢で立っていた。
「見たところもう話はわかっているな」
「はい」
 その姿勢のままで中将の言葉に応えるダスティだった。
「それはもう」
「そうか。なら話は早い」
 それを聞いてまた述べる中将だった。
「それでは君はだ」
「私は」
「これからどうなるかはわかっているな」
 厳かな声だった。ダスティにとってはまさに死刑を言い渡す裁判官の声だった。少なくとも彼にはそう聞こえる類のものだった。
 その声が続く。中将はまた言うのだった。
「それではだ」
「はい、それでは」
「貴官に一つ言うことがある」
 ゆっくりとした声であった。
「貴官は、いや君はだ」
「君!?」
「そうだ。今私は軍人として話しているのではないからな」
 微笑んできた。ダスティにとっては意外なことにだ。
「別にな。軍人としてではないのだよ」
「軍人ではないのなら一体」
「だからだ。父親としてだ」
 そのうえで話しているというのである。
「君と話をしているのだ」
「そうなのですか」
「そうだ。娘の父としてだ」
 まさにそれだというのである。彼はだ。
「一つ言っておくが私は君に何かをするつもりは全くない」
「そうですか」
「そうだ。ましてや上官としても何かをするつもりはない」
 このことも言うのだった。今度は軍人としての言葉だった。
「私はロイヤル=ネービーの軍人なのだからな」
 それが誇りだというのだった。彼にとっての。軍人は誇りで生きている、ならばこれはまさに彼にとって絶対の言葉であった。
「だからその様なことはしない。安心してくれ」
「わかりました」
 それを聞いてまずは心の中で安堵の息を漏らしたダスティだった。しかしそれは顔には出さず心の中に止めてそのうえでまた中将の話を聞くのだった。
 
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