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三個のオレンジ

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第三章


第三章

 そうしてだ。そのうえであらためて言うのだった。
「あの映画と一緒にね」
「やりましょう」
 二人はそのまま泉に背中を向けた。そのうえで泉にコインを投げ入れた。そうして笑顔で向かい合ってそのうえでまた話をした。
「またこの国に来られるようにね」
「お祈りして」
 その為に投げ入れたのである。二人はあの映画のことを思い出しながらそうしたのだ。
 そしてだ。今度はレストランに入った。そこで片言のイタリア語で店の洒落た服と明るい笑顔のウェイターと応対して彼の勧めるメニューが来るとだ。二人は大いに驚いた。
「な、何これ」
「イタリアではスパゲティにインクをかけて食べるの!?」
 最初に出て来たそのスパゲティを見て唖然となる。何とそのスパゲティは真っ黒なのだ。そしてスパゲティと一緒に入っている何か硬いものがあった。黒い中に白い身を見せているそれも気になった。
 驚いて屋外の白い席で声をあげているとだ。そのイタリア人のウェイターが何とロシア語で言ってきたのである。
「ああ、これはですね」
「あっ、ロシア語話せるんですか」
「そうだったんですか」
「そうです、ローマは色々な国から観光客が来ますので」 
 だからだというのだ。笑顔で話すのだった。実際にローマは観光都市でもある。多くの国から観光客達が来てそれで賑わっているのである。
「最近ロシアからの方も多いですし」
「だからですか」
「それで」
「そうです。それでですが」
 ウェイターはあらためて二人に話してきた。
「そのパスタですが」
「はい、それです」
「どうしてインクをかけてるのですか?」
「インクではなく烏賊の墨です」
 それだというのである。そしてだ。
「烏賊の身も入っています」
「烏賊の墨!?」
「それに烏賊を食べるのですか」
「はい、イタリアではそうです」
 目を点にさせる二人にまた笑顔で話してみせたウェイターだった。
「海の幸も豊富ですので」
「何と」
「それでなんですか」
「はい、美味しいですよ」
 味についても保障するのだった。
「ですからどうぞ」
「わかりました」
「それでは」
 二人はそれに頷いてだった。実際にそのスパゲティを食べてみる。するとそれは確かに美味かった。二人がはじめて食べる味だった。
 そしてその後の料理もだ。どれも二人にとってははじめて味わうものだった。デザートのタルトまで最高だった。
「サラダにスープもね」
「そうよね。野菜がふんだんに使われていて」
 二人は最後のチーズのタルトを食べながら話をしている。その顔は満足しているものである。
「凄く美味しいわね」
「それにだよ」
 イワノフはここでさらに言った。
「オリーブが」
「ええ、物凄く多量に使っていて」
「これがイタリアなんだ」
「イタリアはオリーブですよ」
 またウェイターが気さくに言ってきた。
「これとガーリックがなければイタリアではないですから」
「話には聞いていたけれど」
「いいなあ、この味」
「そうよね」
 二人で目を輝かせてのやり取りだった。彼等はもうイタリア料理に魅了されていた。そしてイタリアにもだ。ローマの様々な観光地を回ってた。
 審判の口に手を入れる。そこでソーニャは笑いながら言うのだった。
「嘘吐きは食い千切られるのよね」
「だったら世の中の人間皆そうだよ」
 イワノフは笑って彼女に返した。
 
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