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戦国異伝

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第百八十四話 木津川口の海戦その八

「だからこそな」
「ここは、ですな」
「負ける訳にはいかぬ」
 断じて、というのだ。
「そういうことじゃ」
「ではやはり」
 また言う元春だった、今はその顔に笑みはない。
「ここは気を抜かずに」
「そういうことじゃ」
「左様ですか、では」
「このまま攻めてじゃ」
 隆元はこうも言った。
「一気にな」
「石山まで入りますか」
「皆の者このまま攻めよ」
 隆元は全軍にこう命じた。
「そして織田の水軍を破るぞ」
「はい、それでは」
「このまま」
 弟達も隆元に応える、そしてだった。
 毛利水軍は全軍で攻める、そうして織田水軍の前軍を蹴散らした。織田水軍は彼等の攻撃の前にだった。
 あえなく敗れだ、そのうえで蜘蛛の子を散らす様に逃げ去って行った。元春はその彼等を見て隆元に問うた。
「追いまするか」
「いや」
 言葉で首を横に振ってだ、隆元は元春に答えた。
「敵はまだおる」
「だからですな」
「今のは敵の前軍じゃ」
 それに過ぎないというのだ。
「第一陣じゃ」
「だからですな」
「あの者達は横には散っておらん」
 皆だった、後ろに逃げている。
「追うにしてもな」
「このまま進んで、ですな」
「敵の第二陣に向かう」
「そうされますか」
「ではじゃ」
 隆元はあらためて全軍に言った。
「このまま進む、よいな」
「畏まりました」
 元春が応えてだ、そしてだった。
 毛利軍は逃げる織田軍を追わずさらに進んだ、追うにしても第二陣と合流しようとする彼等を追ったのである。
 毛利水軍は石山まですぐのところまで来た、しかし。
 その彼等の前にだ、見たこともない船達がいた。その船達は。
「何じゃ、あれは」
「随分大きな船じゃのう」
「うむ、途方もないでかさじゃ」
「あの様な大きな船は見たことがないぞ」
「わしもじゃ」
 皆こう言った。
「しかもあれは」
「うむ、鉄じゃな」
「鉄を張っておる船とな」
「鉄が水に浮かぶのか」
「どうやって浮かんでおるのじゃ」
「全く訳がわからぬ」
 このことにも驚くのだった。
「あの様な船があるとは」
「一体どんな船じゃ」
「全くわからぬ」
「どんな攻め方をしてくるのじゃ」
 歴戦の村上水軍の者達もだった、全くだった。
 彼等は呆気に取られていた、それは村上だった。
 その厳しい目を瞬かせてだ、こう家臣達に言った。
「あの船は何じゃ」
「いえ、それは」
「我等もわかりませぬ」
「あの様な船は見たことがありませぬ」
「一体どういった船か」
「全く」
 家臣達もこう言うのだった。 
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