魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
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StrikerS編
79話:荒ぶる炎(ほむら)
前書き
コピペに失敗したので、もう一度上げます。
迫り来る怪人。士はそれを冷静に見定め銃の引き金を引き、怪人に目掛けて魔力弾を打ち出す。
魔力弾は見事に怪人の体に命中するが、結果は少しも怯むことなくこちらに突っ込んでいく。
(やっぱりこいつ、魔力に対して耐性があるのか…?)
先程のティアナとスバルの二人の戦いを見ていた士は、二人の攻撃が怪人にあまり効いていないことに気づいていた。
ティアナの魔力弾と、一撃を受けながらもスバルが放った砲撃。非殺傷設定にされているといえど、二人の攻撃を受けて無傷でいるのは流石に可笑しい。
となれば、怪人自体が魔力に対して何かを持っている。士は怪人の様子を見て、そう考えたのだ。
そして、それは今自らの攻撃で証明してみたのだ。
「なら、今度は……」
そう呟き、士は銃口を一旦引いてから、腰に位置するトリスに念話で指示を出す。『非殺傷設定を解除するように』と。
それから目の前まで迫ってきた怪人の肩に手を添えて飛び上がり、空中で怪人の背中に銃口を向けて引き金を引く。
放たれた弾丸はまっすぐに怪人の背中に命中し、火花を散らす。その衝撃に怪人は前のめりに倒れて転がる。
その後悶えるかのような声を上げ、列車の天井の上を転がる怪人。その様子を見る士の額には、何本か皺が寄る。
(可笑しい…明らかに可笑しい……)
攻撃をもらい、天井を転がるその様子に、士は疑問を覚えていた。
本来、怪人とは人間よりも優れた肉体を持つ。それはこの世界で言う〝質量兵器〟と呼ばれる物の攻撃を、易々と受け止められるだけの強靭さがある。日本の警察の拳銃が効かないのが、その証拠だ。
しかし、この怪人は違う。いくらライダーの使う銃の弾丸が強力だからといえど、数発食らっただけではこうはならない。この反応は、いわば戦闘員…または下っ端の怪人のそれに近い。
この怪人は明らかにそういう役職の者ではない。なのにそう見える。となるとショッカーの怪人ではないのかも……
(製作者が違う……ガジェットを作った奴か……?)
レリックを狙うガジェットを作った科学者。もしかしたらショッカーとの繋がりがあり、技術提供をされたか?
それならまだわかる。殺傷設定の攻撃に柔なことも、AMFを持つガジェットを作っていることを踏まえるなら魔力に耐性があることも説明がつく。
そのとき痛みが引いたのか、怪人がようやく立ち上がる。しかも声色から感じるに、怒っているらしい。
怪人はその怒りをぶつけるかのように、叫び声を上げながら士に迫る。対する士はライドブッカーを剣へと切り替え、待ち構える。
「ガアアァァァ!」
「―――見え見えだよ」
「グォァ!?」
腕を振り上げ、その持つ爪で引き裂こうとする怪人。しかしその攻撃を剣で弾き、さらには横を通るついでに剣を抜き胴のように振りぬき、一撃を与える。
怪人が悲鳴を上げ怯んだ隙に、士は後ろ蹴りを放ち怪人を蹴り飛ばす。
先程の剣での一撃を受けた為か、変な声を上げながら天井の上に転がる。再びそれを見て、士はやはりと確証を得た。
間違いなく、こいつはガジェットを製作した人物が作り出した怪人で―――明らかに雑魚だということを。
(なら、面倒なことにならなくて済みそうだ)
士が心の内でそう思っていると、怪人は今度は先程よりも早く立ち上がる。怒りが痛みを抑えたのだろうか。
しかし今度は無闇に突っ込んでくることもなく、先程よりも少しだけスタンスを広く取って立っている。
何か来るか? と思った矢先、怪人は頬を若干膨らませ、上体を弓なりに反らした。士は迷わずステップを踏み、その場から離れる。
怪人は反らせた上体を一気に引き戻し、口に溜めていた物を吐き出した。吐き出された数十発の液体は列車の天井に当たる。そこから突然、変な音と共に煙が上がった。
(これは、溶けてる……酸か!?)
怪人の口から放たれたのは、鉄をも溶かす特殊な酸だった。士が咄嗟の判断で避けていなければ、体中がレンコンのように穴だらけになっていたかもしれない。
その光景に思わず口笛を吹き、再び怪人に向き直る。そこには既に、発射の構えを取っている怪人の姿が。士はすぐに横へ跳び、迫り来る酸を避ける。
(近距離戦がダメだと悟って、遠距離に切り替えてきた。しかもそこそこの連射性だな)
そしてもっとも危険な点は、この液体が〝酸〟であることだ。
魔力で精製したものではなく、何らかの方法で溜めた酸。これははっきり言って、質量兵器と同じぐらい怖い物だ。
(防御の為に、ほとんどの奴らが魔力盾を展開する。おそらくあれは、それを軽く貫通する…)
つくづく魔導師に対して驚異的な存在だな、と心の中で苦笑を浮かべる。
しかし士はそれに臆することなく、再び発射される酸を避けながらライドブッカーからカードを抜く。そしてライドブッカーを再び銃へと戻す。
(さて、どうするか…)
怪人対士。その戦闘の光景を、少し遠めから眺める四人。六課のフォワードメンバーだ。
あの後、列車からウイングロードに乗って外へ出たスバルとティアナ。フリードに乗って先に見ていたエリオとキャロとも合流し、そのまま観戦に移った。
「大丈夫、キャロ?」
「は、はい! 大丈夫です…!」
先程まで過去のトラウマに震えていたキャロに、スバルが声をかける。しかし士が声をかけたのもあってか、キャロはいつも通りに戻っていた。
しかし、士の攻撃が怪人に命中した辺りから、四人の目は士の戦いに釘付けになっていた。
弾丸が飛び、火花散る攻撃。それは魔力主体となったこの世界では、ほとんど見られなくなった光景だ。口から酸が飛び出すなんてこと、普通じゃありえない。
それらの光景を見た四人は、驚きに顔を染める。しかしその中で、一人だけ驚きだけでなく疑問を抱いている者がいた。
(なんで…なんで攻撃を仕掛けないのだろう?)
ティアナだ。今の士と同じように銃を使う彼女は、怪人が酸を吐き出す間に、攻撃できるタイミングを何度か感じていた。
なのに、士はそこで撃たずに再び酸が飛んでくるのを待っているようだった。
「―――大丈夫だった、皆?」
そこにいきなり、後ろから声をかけられた。四人はいきなりのことでビクッと体を揺らし、すぐさま振り向いた。
そこにいたのは、空戦を終え戻ってきたなのはとフェイトだった。
「エリオ、キャロ。お疲れ様」
「は、はい!」
「フェイトさんも、お疲れ様です!」
うん、ありがとう。とエリオとキャロの言葉に返すフェイト。
「スバル、怪我の治療するですよ」
「あ、はい。ありがとうございます、リイン曹長」
さらに列車停止に一役買ったリインも戻ってきて、怪人の一撃で多少の怪我をもらったスバルの治療を行う。ティアナもスバルの腕を放し、リインにスバルのことを任せる。
しかしその間も、ティアナは士の戦いから目線を外さなかった。その様子を間近で見ているなのはは、思わず声をかけた。
「何か気になる、ティアナ?」
「え? えぇ…まぁ……」
なのはに問われ、ティアナは素直に先程感じたことを話した。するとなのはは「あぁ…」と何か納得したように声を上げた。
「何か、わかるんですか?」
「う~ん…まぁ、見てればわかる…と思うよ」
ふふ、なんて含み笑いをするなのは。それを少し疑問に思いながら、再び士の戦いに視線を向ける。
なのはの言う答えを知る為に。
(一回酸を溜めると、五回吐き出すか……やるならこのタイミングだな)
十五回目の酸が放たれ、ほんの一瞬のインターバルをはさんで再び放たれた酸を見て、士はそう思考する。
そう、先程のティアナの疑問の答えは、そのほんの一瞬のインターバルがブラフであるかないかを確認する為に、見逃していたのだ。
ティアナの言うタイミングもこのインターバルのことだったのだが、士はそれを敵がわざと空けている瞬間なのではないかと考えていたのだ。
もし士が考えていた通りであったなら、攻撃に転じた瞬間酸の雨に打たれていた可能性があった。
しかし今回については、士の考えすぎであったが。
(これなら…いける…!)
そう判断した士は、ライドブッカーから抜いたカードを指で弄びながら、そのタイミングを待つ。
そして……計二十回目の攻撃が終わり、怪人が再び体を弓なりに反らした、そのとき……
(今、この瞬間!)
〈 ATACK RIDE・BLAST 〉
持っていたカードをバックルに入れ、カードを発動。酸が再び放たれるのと同時に、怪人に向けて引き金を引いた。
衝突する酸と弾丸。しかし士の放った弾丸は、怪人が放った酸よりも数が多く、容易く酸の弾幕を抜け怪人に到達した。
弾丸が命中し、火花を散らす怪人の体。そして咄嗟のことで踏ん張りが効かず、後ろ向きに倒れる。
「ね? これが答えだね」
「はい…」
遠目で見ていたなのはとティアナは、そんな会話をしていた。
そんなことよくわかったな、と内心思うティアナ。これに関してはおそらく、フェイトでも言い当てることは難しかっただろう。長く士と一緒にいたなのはだからこそ、わかったことだ。
「さて、これからだが……」
士はそう呟き、ライドブッカーから新たなカードを抜き取る。
その光景をここよりもはるか遠くで見ていたはやては、急いで士に通信を繋いだ。
『士君、ライダー使うんか?』
「…いや、その必要はなさそうだ」
はやての言葉に、士はそう返す。
士がライダーとして戦闘を行う際、いくつかの制約が存在する。その一つにライダーを使用した際、そのときの状況や状態を細かく報告書に記載しなければいけないというものがある。
本来魔導師だけの部隊である六課に、ライダーという強力な戦力を入れる為の処置だ。といっても、ライダーを使用するか否かは士の判断で決まるのだが。
因みに以前訓練中に変身したときも、勿論報告書を書かなければならなくなり、その際「面倒くせぇ……」とぼやいていたと、後に一緒にデスクワークをしていた局員が語っている。
閑話休題
「今回はライダーなしでいく。報告書に書くことが少なくて済むなら、それにこしたことはないからな」
『なんか士君らしい判断やな』
「うっせ。俺の勝手じゃい」
立ち上がった怪人を見ながら、はやてにそう言い返す。
さて、と一旦言葉を切り、持っていたカードをバックルへと挿入する。
〈 ATACK RIDE・ONGEKIBO REKKA 〉
バックルから流れる音声を聞き、士は腰の後ろへと手を回す。するとそこに炎が集まり、棒状に変化していく。
それを掴むように手を握ると炎は形を変え、丁度太鼓の撥のような姿になった。
燃えるように赤いそれを正面に構え、怪人を目の前に見据える。
「シャアアァァァ!」
人間から攻撃を受け、無様に転がったことに怒り狂った怪人は、再び雄叫びを上げながら士へと突撃し始めた。
それに対し士は先程取り出した撥を構え、怪人が向かってくるのを目を閉じて静かに待っていた。
そして怪人が腕を振り上げ士を襲わんとしたその瞬間―――
「はぁっ!」
「グェァ―――ギュェッ!?」
目をカッと見開き迫る怪人の腕を撥で弾き、がら空きになった懐に三連撃を撥で叩き込んだ。
ほぼ無防備な状態で攻撃を受けた怪人は、当然後退していく。しかしこの時、怪人が悲鳴のような声を出したのには、攻撃を受けただけではなかった。
〝発火した〟のだ。士の撥が当たった場所が、怪人が後退する間に一瞬燃え上がったのだ。
その光景に怪人は驚き、慌てて炎を手で消しにかかる。案外すぐに消えた炎に安心するが、それも束の間。隙をついて間を詰めた士が、更に撥で攻撃を加える。
「せいやっ!はっ!」
「グオァァ!?」
懐に入り込んだ士は撥を振り下ろし三連撃、少し後退したところに一歩踏み込め、撥を横に構え二連撃、計五回の打撃を与えた。
勿論この時も攻撃が当たった場所から炎が上がり、怪人に更なるダメージを与えていく。これには怪人もたまらず天井に転がり、炎を消しながら距離を取った。
『音撃棒・烈火』。それが士が今両手に持つ武器の名だ。
本来『響鬼』というライダーが使う武器であり、響鬼が戦う『魔化魍』と呼ばれる敵に、『音撃』という攻撃を与える為の特殊な撥だ。
しかしこの撥は通常の戦闘時、今の士のように打撃武器としても使うことができる。この際士が『烈火』に魔力を纏わせることで、打撃を与えた部位から炎を発火させることもできるのだ。
その効果で自らの体から燃え上がる炎を消しきり、再び立ち上がる怪人。士はもう一度『烈火』を構え直すが、次の瞬間怪人の姿が霧のように消え見えなくなった。
(ここに来るときに使っていた透明化か)
早々に判断した士は静かに気配を探る。列車の上に感じる気配は、すでに士の後方数メートル先にいた。
それを感じた士はすぐに振り向き構えるが、その瞬間両手に持っていた撥が強い力で弾かれ、宙に浮かんだ。
これには遠目で見ていたなのは達だけじゃなく、士さえも驚いた。
(怪人の気配は数メートル先だ。なのに攻撃を受けたのか?)
そんな疑問を抱いていると、唐突に怪人の気配が感じた場所の景色が揺らいだ。
霧の中から出てきたように怪人の姿が見えていく。そして完全にその姿が現れた時、怪人の長い舌の先に二つの撥があった。
「…ははっ、なるほど。さすがはカメレオン素体だな」
怪人が士の武器を取ったことに喜んでいるのか笑い声を上げる中、士も笑みを浮かべて納得するように頷いきながら言った。
カメレオンは獲物を取る際、その長い舌を伸ばし一瞬にして口まで運ぶ。その特性を生かし、姿の見えない隙に厄介な武器を奪い取ったのだ。
「その足りない頭でよく考えた、ほめてやろう」
士はそれに対して何故か上から目線でそう言い、しかし「だが」と続けた。
「そういうことを、こちらが想定していないと思わないことだ」
〈 ATTACK RIDE・STEAL BENT 〉
そう言って士は笑みを消さずに、ライドブッカーからカードを取り出し即座にバックルへ挿入する。
するとちょうど怪人の顔の横にあった二本の撥がいきなり消え失せ、次の瞬間には再び士の両手にしっかり握られていた。
これにはさすがの怪人も動きを止めて呆然とし、何が起きたのか状況を上手く飲み込めない様子になっていた。
「残念だったな、そういうことの対策はしっかりあるんだよ。まぁよく考えた方だから、〝よく頑張った〟賞でもくれてやろうか?」
そんな様子だった怪人を見て、尚も笑みを消さずに挑発的な言葉を放つ士。それを聞いた怪人は怒りのままに何度も地面を踏み、怒りを露わにする。
そして怪人はその怒りに任せるように、上体を弓なりに反らし始めた。またあの酸を飛ばすつもりらしい。
しかし怪人が上体を反らそうと体を動かした時には、すでに士は動き始めていた。
両手に持つ撥に魔力を供給させて、その先端に炎を出現させていたのだ。
「はっ!」
「シャアァァ!」
士は撥を振るい、怪人は上体を引き戻しそれぞれ炎と酸を同時に―――否、士の方が若干早く放った。
士の放った炎の速度は怪人の酸よりも速く、酸が比較的まとまっている段階で衝突し、そして酸を容易く突破し―――
「シャギャァァ!?」
怪人の胸元に到達し、見事に爆発した。
爆ぜた炎は瞬く間に怪人を包み込み、その肉体を燃やしていく。怪人はすぐさま炎を払い、消そうと試みる。
だが士はそれを余所に両手を広く開いた構えをして、静かに目を閉じゆっくり呼吸を整えながら魔力を撥の先端へと集めていた。
そして怪人がちょうど炎を消し終えた時、士は怪人に向かって駆け出していく。一気に距離を縮めてくる士に気づいた怪人は、苦し紛れの悪あがきのように右手を士の顔目掛けて振るった。
「ふっ―――はぁっ!」
しかし士はそれを軽く弾いて逸らす。そして再びがら空きとなった怪人の腹部に、炎が灯る右手の撥を突き出した。
すると撥の先端で燃える炎は形を成し、赤々と輝く剣へ変化した。当然燃え上がる剣はそのまま怪人の腹部に突き刺さり、怪人は呻き声を漏らした。
『鬼棒術・烈火剣』。響鬼が使用した技の一つだ。烈火から炎で出来た剣を作り出し、敵を切り裂く。
響鬼も生身の状態で使用したことがあるが、士の場合は魔力が元となる。元来魔力運用が苦手な士は、生身の状態だとある程度の時間を要する。だから一度怪人を怯ませ、その隙にこの技を準備していたのだ。
「せいっ!やぁぁぁ!」
そして士は突き刺していた烈火剣を引き抜き、左手に持つ烈火剣で怪人の体を横一閃に斬りつける。
烈火剣を振るった勢いのまま士はその場で180度回転して、右手の烈火剣を左下から斬り上げ、左手の烈火剣を左上から斬り下ろし、怪人の体に真っ赤な×字を描いた。
「グッ、ォォォ…」
「さて、トドメといこうか」
呻き声を上げる怪人を目の前にして士はそう呟き、両手の烈火の先端を頭上で接触させる。
すると撥の先の烈火剣が渦を巻き、一つの大きな大剣となって士の頭上で燃え上がっていた。
「でぇぇりゃぁぁぁぁッ!」
「ギャアアァァァ!」
そして大剣と化した烈火剣―――『大烈火剣』とでも呼べそうなその剣を真っ直ぐに振り下ろし、怪人を両断する。
今までで一番大きな悲鳴を叫び後ずさりする怪人。士はすぐに剣を持ち直し、振り上げるように振るって剣の腹で怪人を宙に飛ばした。
空に打ち上げられた怪人はそこで限界を迎え、悲鳴を木霊させながら爆散し消えていった。
「汚い花火だぜ……なんてな」
〈お疲れ様でした〉
「おう。周りに変な反応は?」
〈現在は反応ありません。おそらく追撃はないかと…〉
「了解。とりあえず、状況終了だ」
士は腰にいるトリスとそんな会話をすると烈火剣を消し、撥を数度回した後に腰の後ろに移した。
すると烈火剣はその場で火の粉と共に霧散し、あたかも元々そこになかったかのように消えてなくなった。
「ほらお前ら、ボケッとすんな! 仕事だ仕事!」
『『『『は、はいっ!』』』』
士と怪人の戦いを遠くで見ていたフォワードの四人は、呆気に取られたかのように動かずにいた。
そんな四人に士は通信で活を入れ、四人はようやく今の状況に気が付き慌てふためいた。
その様子を映像で見ていたはやては、クスッと笑った後に全員に通信を繋いで指示を出す。
『じゃあスターズはレリックの護送、ライトニングは現地の局員が来るまで待機して、引き継ぎ作業や』
『『『『『『了解!』』』』』』
「はやて、俺は?」
『特にすることないなら、帰ってきてもえーよ』
じゃあそうするか、と言ってスバルにウイングロードを伸ばしてもらい、士はなのはやスバル、ティアナと共にヘリに乗り六課本部へ戻ることを決めた。
これにて六課最初の任務は、多少のハプニングがありつつも無事成功を収めた。
場所は移り、ミッドチルダ西部のどこか。
そこには先程まで任務にあたっていた六課の前線メンバーの戦闘記録が移るモニターと、白衣を身に纏った薄紫色の髪を持つ男性がいた。
「―――やはりこの案件は素晴らしい!興味深い素材や〝プロジェクトFの残滓〟だけでも素晴らしいのに、まさか本当にあの〝世界の破壊者〟までも前線に出てくれるとは……実に、実に素晴らしい!」
……失敬、少々訂正が。〝少し狂った〟男性がそこに立っていた。
「今何か、失礼なことを言われた気がするな…」
勘がよろしいことで。
『ドクター、追撃戦力を送りますか?』
「ん? いや、レリックの方は諦めよう。護衛に彼がつくなら、こちらも相当な覚悟をしなければならないからね」
それに今はまだ時期じゃない。
モニターに映った紫色のロングヘアーの女性にそう言いながら、既に今の興味は六課に向かっているのか、指をせわしなく動かしてモニターを操作していく。
そんな彼の背後の壁に、背中を預けたままモニターをじっと見つめる人物がいた。
彼が見つめるのはただ一点。赤く輝く撥を振るう青年―――士の姿。
目に焼き付けるかのように真っ直ぐ見つめていた彼は、唐突に壁から離れて部屋の扉に向かって行った。
するとモニターに熱心だった男はふと背後へ振り向き、扉へと向かう彼の背中に言葉を投げかけた。
「おや? もう見なくていいのかい?」
「………」
「彼の相手は十中八九、君になると思う。もう少しぐらい、敵の情報を知っておいた方がいいのでは?」
そう声をかけられた青年は顔だけ男に向けた後、すぐに視線を再び士の映像に向ける。その視線は恨みや憎しみの色が色濃く出ていた。
だがほんの一瞬だけ―――それとは別の何か、温かい色を帯びた視線に変わった。
「……もう十分、知っている…」
青年はそういうと再び扉の方向に足を運び、その後振り返ることなく部屋を出て行った。
そんな彼の背中を見えなくなるまで見つめていた男は、彼が部屋を出て行くと同時にため息をついて、再びモニターに向かい合った。
部屋を出て行った青年は、別室にある訓練所に来ていた。
ドーム状のようなその場所の中心に立っていた青年の周りには、訓練用の的(ターゲット)が数十個程動き回っていた。
「―――そう、知っているんだよ」
青年はそう言うと、どこからともなく銃を取り出した。
その銃は普通の物ではない。普通の銃よりも一回りも二回りも大きく、しかも四角い形をしていた。
その銃を指で何回か回し、次にはその銃口を正面に向けた。
「ずっと…〝ずっと昔から〟…知っているんだ……」
静かにそう呟き、銃の引き金を引いた。
「「「「おぉーー!」」」」
今歓喜の声を上げたのは、今日はお疲れ気味のフォワード陣の四人。
その目の前にはホカホカと湯気を上げる料理が、テーブルの上に並べられていた。
「まぁほとんど地球の料理だから、口に合わないかもしれないが…」
「いえ、そんな…!」
「士さんに作ってもらったのに文句なんて…!」
Yシャツにエプロン姿の士の言葉に、スバルとティアナが慌てて答えた。しかし料理を見る目線は、料理を見る度に輝きを増していく。
エリオとキャロに関しては目線も外さず、士の言葉に返事をすることもなかった。まったく、いつから腹ペコキャラになってしまったのか……
今現在テーブルに並ぶ料理は、ミッドによくある食材をベースに地球の調理法で料理した物だ。唐揚げに焼き魚、刺身にコロッケや餃子、オムレツに野菜炒め等々。種類は和・中・洋と様々だった。
量も種類が多い為か、個々の大きさは四人がいつも食べるサイズとは違うが、それでも四人で食べるには普通じゃ多すぎる程あった。
因みに、本来四人に料理を提供すべき厨房の料理人達は、どことなく嬉しそうな表情をしていた。
前回はただ士に厨房を任せて終わっていたが、今回は量が量だけに彼らは士の指示の下、彼の手伝いをしていた。
つまり彼らは異世界の料理を、その世界出身の人から直接教わっていたようなものだったのだ。料理の腕が士より劣ることに対する悔しさがありながらも、彼らはこれをチャンスと見てその技術を理解し、自分の力にしようと頑張ったのだ。
結果的にはそれは成功し、料理人達全員がどこか満足げな気持ちで一杯になっているのだ。
閑話休題。
「士君、お疲れ様」
「おう、お前らも仕事お疲れ。お前らの分もあるから、食ってけ」「そうなの? じゃあお言葉に甘えて…」
フォワード陣がせっせと準備をしていく中、やってきたのは仕事を終えたなのはとフェイトだった。
ちょうどエプロンを脱ぎかけていた士は二人も食事に誘い、なのは達はご一緒することにした。
「それじゃあ、今日は初出動お疲れ様と言うわけで…」
「「「「「「「かんぱ~い」」」」」」」
準備を終えた後、それぞれ好みのジュースを手に取り、士の合図で乾杯した。
少し遅れてやってきたはやてや副隊長、シャマルやザッフi―――ゲフンゲフン、もといザフィーラもやってきて、ちょっとした打ち上げみたいなものになってしまったり……
ヴァイスやアルトなどのバックヤードの面子まで顔を出してきて、士や料理人達は追加の料理を作る羽目になったり……
その日の六課は、少し遅くまで大勢の笑い声が響き渡っていたそうだ。
後書き
次回の投稿も少し時間がかかるかと。
お待たせしたお詫びに一つ設定集を上げようと思っているので、少々お待ちを。
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