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季節が君だけを変える

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第四章


第四章

(まさか。そっちの方が大人だったなんて)
 子供だと思っていたら実は向こうの方がずっと大人だった。顔も心も。何時の間にか大人になっていたのだ。彼が気付かないうちに。
(何でかな)
「寒いしさ」
「あっ、うん」
 真紀の言葉にまた応える。
「お部屋、あったかいといいよね」
「あっ、そうだね」
 細かいところにも目がいっていた。こうしたところでも光弘より完全に大人になっていた。今やっとそれが気付いたのであった。
 二人で部屋に入る。今度はさらに驚くことになった。
 顔や心だけではなかった。身体も下着も彼が思っているよりずっと大人だった。制服や可愛らしい私服の下では決してわからないものがそこにあった。
 そのさらに向こうも。真紀の方が本当に大人だった。何もかも彼女の方が大人になっていた。
 ベッドでのことも全部真紀の言われるがままだった。一応光弘主体だったがそれでも真紀がいないとどうしようもなかった。一緒にお風呂に入ってから部屋を出る。もう外は真っ暗になっていた。
「息も白いね」
「そだね」
 二人の息は完全に白くなっていた。けれど顔は赤くなっていた。
「あのさ」
 彼はまた真紀に声をかけた。
「何、今度は」
「あんな下着、何時でも着けてるの?」
 真っ赤なショーツにブラ、しかもストッキングも真っ赤でガーターまでしていたのだ。てっきり白かキャラクターものだろうと高をくくっていたのに彼が見たのは白い成熟した身体にそれであったのだ。それを見てさらに彼女に遅れをとってしまったのである。不覚と言えば不覚か。
「嫌ね、いつもじゃないわよ」
 真紀は顔を真っ赤にしたままそれに答えた。顔は赤いままだが恥ずかしがっているのはわかる。
「特別な下着なのよ」
「特別なんだ」
「ええ。こんなの普段は着けないわよ」
「そうだったんだ」
「男の子はそりゃトランクスだけでいいでしょうけど」
「まあね」
 正直男は下着に凝らなくていい。彼もそこいらにある安いトランクスを履いているだけだ。
「女の子は違うのよ」
「やっぱり意識して?」
「当然よ」 
 真紀の顔がさらに赤くなったように見えた。
「意識してたのよ、ずっと」
「ずっと」
「デートの度に。今日あるか今日あるかって。ずっと用意してたんだから」
「はあ」
 これはまた意外だった。彼よりもずっと意識していたのだ。
 彼も意識していないと言えば嘘になる。だが最近は半分諦めた様子でどうにでもなると考えていた。しかし真紀は常にそれを意識していたというのだ。
「夏もだって秋だって」
 真紀はまた光弘に言った。
「ずっと意識してたのよ。何時だっていいように」
「それで今だけれど」
「その度にあれこれ考えてたんだから。けれど光弘君って全然乗ってくれないから」
「御免」
「駄目、許してあげない」
 謝罪に対する真紀の返事は厳しいものであった。
「折角だから。覚悟してね」
「覚悟って?」
「女の子のはじめてはね、高いのよ」
 またえらく使い古され、それでいて効果のある言葉だった。
「甘えさせてもらうんだから」
「そんなこと言ったら僕だってさ」
 売り言葉に買い言葉だった。光弘も反撃する。
「はじめてだったんだよ。それはお互い様じゃないか」
「そっか」
 真紀はその言葉にはっとした。
「そういえばそうよね」
「そうそう」
 光弘は言い返す。
「お互い様なんだよ」
(実際は違うけれど)
 自分の方が子供だから。もう真紀が子供にはとても見えなくなっていた。背丈の差はあれど。
「だから」
「わかったわ。じゃあそういうことにしといてあげる」
 真紀はその言葉にずっと笑って言った。
「けれど今日は」
「今日は?」
「送ってね、家まで」
「うん」
 腕を組んでもたれかかってきた真紀に応える。結局自分より大人になっている真紀に途中から最初から最後まで主導権を握られっぱなしだった。けれどそんな真紀が本当に好きになってしまっていた。冬の寒さの中でそれを感じた。
(若しかすると)
 また心の中で思った。
(真紀ちゃんを変えたのはこの冬の寒さかも)
 ホテルに入る直前の寒いから暖まろうという言葉を思い出したのだ。
(だとしたら)
 この寒さに感謝することにした。真紀を変えてくれたこの寒さに。自分にそれを気付かせてくれたこの寒さに。
 生憎自分は変わってはいなかったが。真紀は変わっていた。美しい大人に。冬の夜空に感謝する寒い夜のデートであった。


季節が君だけを変える   完


                  2006・5・29
 
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