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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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二十二章 幕間劇
  光璃の気持ち

「ここにもいないのか~」

部屋にも上段の間にもいなかったな、こうなるんだったら発信器でも付けておけば良かったと思うが、プライバシーにも関わるのでやめておいたけど。

「どこに行ったのやら、光璃は」

躑躅ヶ崎館は広い事は知っているが、ここに来てあまり時間が経っていない俺が詳しいところまでは知っていない。データ上にあるくらいしか。城の大雑把な構造は今までの経験で把握はしていたが、ここは城より複雑な構造になっているようだ。だからなのか、どこに何があるかをよく知らない方向ではある。

「あれ、お兄ちゃん。どうしたの?こんな所で」

「薫か。光璃を探しているんだが・・・・」

「お姉ちゃんだったら、この辺りにはいないと思うよ。この先はお台所だし」

台所ね~。最近料理していないな。

「薫は料理上手だよな?」

「え・・・・?薫の料理、上手?」

「ああ。俺が作ろうとしても入らせてもらえないと思うし、いつも薫が作っていると聞いた。結構上手だよ」

「えへへ。そう言っもらえると嬉しいな。それにお兄ちゃんはお姉ちゃんの恋人だから、入らせると困るというか」

「俺の料理を食うと自信を失くすとか?」

とか言ったら大当たりで、本当は食べたいけど別名まで付けられるほどだから、立たせてくれない。まあ作るとしたらたまにトレミーの様子見をしに行ったあとに作るけど。

「おや、一真様。どうなさったのです?」

「詩乃と雫もという事は、料理の研究でもしてんの?」

「はい。心さんと四人で桜花さんから教えてくれたのを練習しながら、逍遙軒衆の荷駄をどうするかについての相談を」

「桜花からか」

料理のついでに軍議ともいえるが、桜花からのレシピを素に作っていると聞いたが。まあ俺が教えてやりたいが、生憎横文字が多い事ばかりだからな。栄養分とか調味料とかの名前も。それで桜花がこの時代でも分かりやすいようにと自らワードで打ち込んで、詩乃たちや心でも分かりやすいのを渡したと聞いた。

「それで軍議以外は俺の事でも話していたのか?」

「さすがとでも言いましょうか。まあそういうことです」

とまあ適当に返されたから、まあここまでにしておこう。

「あら、一真様。つまみぐいですか?」

「俺がそんなしょうもない事、するわけないだろう。逆に一緒に混ざりたいくらいだ、それに三人とも俺の噂話でもしていたそうだし」

「そういえばそうですね。噂をすると姿を見せるのは、曹孟徳でしたっけ?」

「そういう話もある。まあ今はいいとして、心は光璃の場所知らんか?」

「さあ・・・・?お屋形様は、時々ふらりといなくなったりしますので・・・・」

「・・・・光璃もそういう変な癖でも付いているのか?」

この時代の者たちは、というより偉い者たちはそういう癖付いているのか?だったら大問題だぞ。

「それほど遠くに行くわけではありませんから、心配するほどではありませんけど。多分お庭か、城下にでもいらっしゃるかと」

「でしたら、私たちのお頭に比べれば随分とマシですね」

「ちょっとそこまでで、京や長久手や下山、それと遠くて神界に行かれる方ですもんね」

「否定はしない。が、勝手には行かないぞ」

京の件は久遠のせいだが、長久手や下山は俺の意思で行ったのだから反論はしない。神界や冥界は、たまに呼ばれるからそこはしゃあないと思うが。

「その辺を探してみるとしよう。もう少し探してみるわ」

と言ってからこの場を去った後に庭に行ってみると声が聞こえる。これは粉雪と綾那の声か?随分と気合を込めた声のようだが。

「お、やってるやってる」

「一真様!」

「おう、良人殿か。このような所で何を?」

「何?随分と気合の声を入っているから、見に来ただけなんだが。あれはただの稽古には見えないような気がする」

綾那がやっているなら当たり前ではあるけど、二人の気合の入れ方が違う気がした。

「はい。だいたいお分かりだとは思うんですが・・・・綾那が、三河武士の実力を見せてやるって言い出して」

そういえばあの時の軍議でも武田家は三河をスルーしていたからか、凄く気にしていたからな。

「うむ。別に無視していたわけではないのだが、それにあやつが売り言葉に買い言葉で・・・・というか」

「・・・・ご覧の通りです」

だいたい分かった。粉雪の性格ならその展開は簡単に想像がつく。

「なかなかやるじゃねえかちっこいの!けど、あたいの本気はまだまだこれからだぜ!うおおおおおおおおおっ!」

「そんなの綾那も一緒なのです!やっと身体が温まってきた所ですよ!うりゃあああああああああああっ!」

「一真様。今日はお止めにならないのですか?」

「こんなのガキのじゃれ合いだし、二人とも加減が出来そうなもんだろ。それに殺気が一切籠っていない、となると森親子曰くガキのじゃれ合いだろうな」

「なるほど。少し観察しただけで、そこまで理解されているとは。慧眼恐れ入る。まあ本多家の者であるなら、見定めるには丁度良い相手であろう。三河武士の実力はあまり見ていないのが事実」

綾那は三河武士の中でも特に三河武士の特徴とぴったりだからな。

「それに本気の仕合ともあれば、俺が一瞬で止めているよ。それより光璃知らないか?心からだと庭か城下と聞いたのだが」

ここに来るまで庭にはいないし、風の精霊にもいないと聞いた。

「ここにはおらぬから、恐らく御勅使川の河原であろう。考え事をされる時は、よくその辺りを散歩なさるからな」

「御勅使川か・・・・。そっちを探してみる」

そこなら、こないだ綾那たちを案内したところであるが俺は行っていない。が、この辺りのマップは出来上がっているから、スマホで見ながら行こうかね。

「どっせええええええええええええいっ!」

俺らが話をしていても、綾那と粉雪の戦いは続いていた。気付いたら、粉雪の横殴りで綾那の身体が大きく吹っ飛んでいくが・・・・。

「よっしゃ!一本だぜ!」

「ふむ。三河武士も思ったほどでは・・・・」

「さて。どうですかね~?」

「む?」

「悔しかったら、今度はアンタの相手もしてやるんだぜ?」

「粉雪。歌夜の代わりに答えるが、今度はまだ先のようだが?」

「・・・・何?」

「誰が・・・・一本ですか!」

「ちょっ!?」

「ほぅ!」

「ほらね?」

「綾那はまだピンピンしているのですよ!この程度でやられたなんて言われたら、三河武士の名折れなのです!」

「どわっ!?マジかよ!」

綾那は傷一つ付いていないから、まああの一撃程度でやられる綾那ではないだろ。戦国最強の本多なのだから、それに一時期俺が指導していたし。あとはどやっというのはあいつの口癖が写ったようで。

「ほう。今の一撃で傷一つ負わぬか」

「ま・・・・まるで春日みたいなんだぜ・・・・」

その言いぐさだと、まるで春日もそんな感じのように聞こえるで聞いてみたが、結果は予想通りだったけど。今まで戦して怪我なんてしていないようだった。怪我なんてしないという宿命持つ者がここにもいるとは。怪我したら死ぬのがオチらしい。

「粉雪。拙と代われ!この不死身の馬場美濃がそやつに傷とやらの痛みを教えてくれる!」

「おいおい。傷の痛みは春日も知らないのではないのでは?」

「まあそうであるがな!」

春日って普段は常識人でもスイッチ入ると別人になるというか、テンションが上がるタイプのようだ。

「むぅ・・・・。そこまで言うんなら仕方ないんだぜ。そっちはどうなんだぜ?」

「綾那は誰の挑戦でも受けるのですよ!」

不死身対戦国最強ねぇ~。面白そうな戦いだけど、とりあえず止めることにした。ハリセンで、まず綾那を叩いてから春日に気配を無くしての叩いた。それも痛みを知るぐらいの痛さを。さすがの春日でも、俺の殺気とハリセンは半端じゃなかったと。文句言われずに済んだ。不死身は春日ではなく俺であると。それを試したいのであれば、鬼との戦いが終えてからにしろよ。春日に言われて通りに行ってみると、水の精霊が俺の探し人がいると聞いたので見るといた。

「光璃、やっと見つけた」

「・・・・一真?」

「探したよ。春日からここにいるだろうと聞いて来た」

「何か用?」

一瞬用がなくても会いに来てはダメかと言いそうになったが、それはやめておいた。前の評定の時の事を謝りに来たわけだ、一真隊の事や一葉や鉄砲の事を。

「ああ・・・・」

「別に内緒ではなかったんだが」

「別に・・・・平気。一真に知らない事があるのは、仕方ない」

「気にしている様子ではあるが、何か悔しいことでもあったか?」

「一葉様が一真隊にいたという情報、集められなかった」

そっちのことか。

「全ての情報を手に入れるのは、なかなか難しいと思うが?」

「でも、そうしないと、生き残れない」

まあ、どの時代でも、最後に勝つのは情報を握った者。どの国でもそうしているが、特に甲斐は情報集めが得意な国で、情報が足りなかったことについてはプライドが傷を付いたとでも思っているのかな。こちらも情報は新規にしているし、鬼が来る情報は常に最新化にしないと。あとは一真隊の情報というのは、発信したかった俺達に制限されたくらいだ。武田の密偵程度では知らないのも無理はないし、見た情報を書き換えているのも俺だし。

「俺らは情報を外から漏洩しないようにしてきたから、今回は俺達が悪い」

「一真の手勢に退けられたのなら、それはそれで悔しい」

「なら、次はうまくやることだな」

「次・・・・」

「失敗や抜けがあったのは、改善する余地があるという事だ。今回みたいに大局に影響しないところでそれが見つかったから、それはそれいいのでは?」

少なくとも、今の一真隊と黒鮫隊の情報源は俺にある。この先の不確定要素になる可能性は、限界まで潰すことは可能。

「・・・・・・」

「そう言う風に理解をすることではダメ?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・わかった」

「それで、こんなところまで来て考え事でもしていたの?」

「一真隊の事は、もう平気。考えていたのは、この国行く末・・・・」

光璃の視線は、流れる目の前の川へ。

「大きな嵐が来て、水嵩は増し、堤も崩れようとしている。それを・・・・どうするか。堤が崩れて水が溢れれば、日の本は取り返しの付かない事になる」

「それを最小限に抑える?」

光璃は目の前の大きな川が、治水の対象であると同時に、別な姿にも見えるのだろう。雨が降れば荒れ狂うこの川と、今の世界の流れを重ねて見ているとこの二つを共にどうすればいいのかを、考えているのかもしれない。

「詩乃達の献策もあった。流れをいくつかに分けて、まずは全体の勢いを削ぐ。それから、それぞれの合流点まで勢いを弱めて、受け止める堤もいくつも重ねる。全ての堤が切れても、その流れを本流に戻せるように・・・・新しい街を作る」

「今の歴史はどの辺り?」

「織田、松平、長尾、武田・・・・いくつもの分かれが起きている所」

「なんならこの先は、合流と収束がある。ということか」

「まだ堤は切れてない。これ以上・・・・雨が降らなければ、そうなる・・・・はず」

「雨は俺の事かな?」

「・・・・(コクッ)梅雨が来れば、御勅使川は釜無川と一緒に氾濫する、流れを変えて、堤を築くには時間がかかる」

「では、次の梅雨は・・・・」

俺の問いに、光璃は無言で首を振る。

「出来ることは、する。でも・・・・出来ない事もある」

まあそりゃそうか。天の采配である梅雨は防げないだろうし、出来るだけの対策をしてから最悪に備えるしかない。俺らのところは予測で備えているからな、この時代の人達なら光璃の考え通りかもしれない。

「雨が俺ならそうならないようにするためさ。まあ俺の挙動で思った以上に大局は変わるときもある。俺が洪水になっても、堤のツテはいくらでもある」

久遠達もそうだが、それ以前に俺の部下や神仏の友たち。以前甲斐を滅ぼしに行こうとしたら、止めてきてくれた盟友たち。

「光璃も、堤になる」

「光璃も頼りにしているぞ。まあよかったとは思っている」

「何が?」

「俺らが裏切るときの事を考えているのかと」

光璃たちが考えているのは、この日の本の未来のことだ。俺らは本来の歴史の流れは知っているがあえて流れを変えている。それが鬼だとしても。

「裏切る?裏切ってどうするの?」

「俺だったら一真隊と合流後に、長尾と武田の両軍を止めに武力介入をするために黒鮫隊と合流。そしてドンパチを始める気とか?それか武田を攻め落とすとか」

「するの?」

じっと見上げる光璃の瞳は、俺の心を見通すように見るが甘い甘い。そういうのはガードしているからな。

「・・・・・」

「・・・・・」

「まあそうするつもりはさらさらないよ、今の時点だったら。無理やり連れて来られてからのときだったらいつでも脱出可能だったし」

今の時点ならそうかもしれないけど、あのときだったらしていただろう。だけど、この世界の流れが教えてくれるからかそうしなかったし。それに鬼と戦うためには少しでも戦力が必要だ。武田が引き受けてくれるのなら、あるいは。

「そういうのは、ちょっと嫌」

「俺自身も思ったが、考えるのも一つだ。俺自身何とか出来ちゃうからな」

他人の挙動ならまだしも、俺自身が何とかしてみせるのも考えたりはする。

「大丈夫。一真は、裏切らない」

「そう?」

「今までの報告で、分かる。詩乃を助けたとき、稲葉山攻め、一葉様の二条、金ヶ崎、景勝と、兼続・・・・春日山。普通なら、逃げておかしくない戦」

「そう考えると、全てが女の子絡みだな」

「でも、一度も逃げた事はない。言葉は嘘をつく、でも、した事は・・・・嘘をつかない。だから、一真はそういう人」

「報告で聞いたときと、実際の姿では違うものもある。まあ俺は逃げるという辞書にはないけど」

「うん。思った以上に、心も身体も強き人だった。そして神という噂も会ってみて本物だと証明を受けたから」

通り名を言われるとは思ったが、まあそういう意味では報告通りのなのだろ。歩き巫女も優秀なところだ。

「一葉様の宣言があったから、予想はしていた。予想以上に強い相手と知った」

「まあそうだろうな。そこらへんのとよりは強いさ」

「それに・・・・優しい」

「甘すぎないという解釈でいいのかな?」

「優しいのは良い。限度を知らない優しさは身を滅ぼす、でも一真はそれを知っている。厳しくもあるけど、優しさもある」

それについては、自分でも分かっていることだ。本来だったら死んでいたかもしれない者たちを助けた事自体が、身を滅ぼすかもしれないことだ。それはただの人間だったらの話だ。俺は神で神仏の伝手ならいくらでもある事だ、目の前で瀕死状態でも死なせはしない。

「あとは薫」

「薫も大事だからか?」

「うん。次の戦いは薫も一緒」

「俺にとっては大事な妹と考えている。無事に任務を果たしてくる」

「薫も妾にする?」

「俺にその気はなくても、薫自身はそう思っているんじゃないのか?」

「薫が決めたことなら、幸せになってほしい。でも無理矢理はダメ」

「そんな事をする男だと思っているのか?」

と聞いたら首を横に振った。俺はあの鈍感野郎とは違うからな、北郷一刀とか新田剣丞とかあとは織斑一夏とかな。妾の御免状はあるが、無理矢理はしないしほとんどが相手側だからなのか、光璃はそれ以上は言わなかった。その代りと何だが、光璃は俺の手をそっと取り・・・・。

「信じてる」

光璃が呟いたのは、一言だけだった。まあその言葉だけでも理解はできる。

「ありがとな、光璃」

何に対してだが、まあ俺の妾となった者たちは裏切る行為はしない。

「美空は何とかなる?」

「前にも言った通りだが、一真隊は何とかできるが美空については分からん」

「同じ妾なのに?」

「うん。妾となったあとに、攫われたからな」

「・・・・ごめんなさい」

「もう過ぎたことだ。俺が光璃の考えを理解できないで、鞠を連れて来なかったのと同じ。お相子だ」

武田家には武田家の事情というのがある。それであのタイミングに仕掛けてきたことだから、まあそれも甲斐に来て知ったことになる。

「それに光璃も分かるように、俺らも警戒はしていたし。美空からは変人と聞かされていたからどんな子だろうと知ったのは、甲斐に来てから知ったが美空の言う通りではなく素敵な女の子だと知れたのだから」

「・・・・・・・」

「で、美空は?俺は味方にしたい敵で、美空は味方にしたくない敵、だろ?」

「・・・・(コクッ)織田も今の所、後」

久遠も後か。でも美空とは違う理由だとは思っているが。

「久遠とは実際に会ってみないと分からんだろ?」

「・・・・信長は分からない。でも美空とはもう会った。だから、後」

「そういえば、随分前に会っているんだよな。川中島で」

「戦いぶりは凄い。越後を治めるぶんには、構わない。でも味方にはしたくない」

ふむ。敵としても味方としても考えたことはあると、残りとしてはあれしかないか。

「では、俺の妾同士としては考えたことある?」

繋いだ手を少しだけ強く握る俺の問いに、光璃はこちらを不思議そうに見ているだけ。

「光璃も美空も、今はどちらも同じ妾である。そういう立場で考えた事はある?」

たっぷりと考え込む光璃。そしてその答えを待つ俺。やがて、光璃の口から出た答えは。

「・・・・・・ない」

「何ならさ、そこを見ずに一緒に戦いたくないのは急すぎる」

「それは、一真の望み?」

「今はな。鬼と戦うためにその先に平和な世を作る気あるんなら、さっさと仲良くなれと思いたいよ」

「平和な世・・・・」

「織田、足利、松平、今川、浅井・・・・それと長尾、武田。今はこれだけの同盟が組まれている」

「まだ長尾と組むかは、分からない」

光璃自身もまだ迷っているのだろう。人は悩んだあとに結論を出す、今繋いだ手は中途半端な状態にはなっている。

「仮にこの勢力が、戦いが終わった後も仲良くできたらそれは素敵な事だとは思わないか?」

「仲良く・・・・」

「戦もなくなれば、あとは技術や物、人だってやり取りができる。例えば、越後の塩だな」

「塩・・・・」

「それにだ、尾張や三河の米だって、堺の南蛮の品だって今までよりもっと楽に甲斐に入ってくるさ。三河だと、ここみたいに氾濫する川を治めたと聞く」

「・・・・出来るの?」

「出来るさ。松平は違うが、皆家族同然と思っているし。黒鮫隊の技術を使えばもっと楽になる」

「家族・・・・」

「光璃が夕霧や薫と接するみたいに、他の国とも接すれば、簡単にできると思っているよ」

「・・・・・・」

「まあ今はその前に鬼退治が待っているけどな」

今の俺達で出来ることは、鬼を退治する事。それ以前に今出来る事を考えるのみ。こうやって話せば人の心は分かるもんだからな。

「あ!姉上!兄上ー!」

「夕霧?」

「どした?」

「あ・・・・・」

夕霧の顔を見るが、なるほどそういうことか。

「も、申し訳ないでやがります!夕霧はお邪魔だったでやがりますな!」

今の状態は俺と光璃が手を握っていたとこだったので、手を離すと慌てるのは光璃ではなく夕霧の方。

「いやいやいや。姉上と兄上は既に恋人同士でやがりますから、手を握ったところでなんというわけでもやがりませんよっ!」

「うん・・・・」

「それはそうだが、他の奴らに見られると色々とまずいことになる。例えば俺の妻たちに」

と言ったら納得はしたようだった。まあ手を繋ぐだけでも別にいいことだが、いつも一緒にはいられない俺の妻たちにとっては面白くないから。

「俺らに何か用でもあったか?夕霧」

「そうそう。海津から一徳斎殿の第二報が来たでやがります」

「何と?」

「概ねは変化無しの報でやがりましたが・・・・兄上が気にしてやがった、松平の旗印はやはりないでやがりました」

「・・・・そうか」

「松平・・・・」

「何か気になる事でもあんの?」

「・・・・今はまだ」

「そうか。で、どうする?躑躅ヶ崎館に戻るか?」

「もう少し、ここにいる」

第二報は特に大きな動きもないし、予想通り松平のはないというのは前々から知っていた。まあこちら側に方針は変わらないだろうし、こちらには空から監視をしているからいつでも情報が聞けるが、今は知らせない方がよさそうだ。

「何なら俺もここにいる?夕霧は」

「用が済んだから、夕霧は戻るでやがりますよ。二人の邪魔をして馬に蹴られるのはまっぴらでやがりますからな!」

「ゆ、夕霧・・・・」

「それなら、夕霧の好意に甘えさせてもらうか」

「一真・・・・」

「こういうときに恥ずかしがったら負けだよ、光璃」

「・・・・・・」

「行こうか、光璃」

「・・・・・うん」

光璃にそっと手を握ろうと伸ばせば、小さな手が握る返すのが分かる。

「兄上、姉上・・・・」

「もう少し歩くか」

夕霧に見送られてもあまり恥ずかしくはないけど。俺と一緒ならどこでもいいと言ったので、もう少し歩いてみたりした。 
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