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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第百四幕 「泣きの一回使用済み」

 
太平洋上で激しい戦闘を繰り広げる2つの機影。
一つは白い鎧の翼人。そしてもう一つは、目で捉えるのも難しいほどに加速する幻影(ゴースト)のような赤。
2つは激しく飛び交い、エネルギー兵器による射撃の応酬を繰り返しながら何度も何度も衝突する。

いや、その実本当は赤い幻影が一方的に白い翼人を嬲っているようなものだ。
あたかも実体のない存在であるかのように悉く捉える事の出来ない驚異的な加速は、その下の太平洋を射撃の余波とソニックブームで滅茶苦茶に乱していた。

翼人は一刻も早くそれを追い払いたいとでも言うように必死で大量のエネルギー弾をばら撒くが、その全てが悉く空を切り水柱が上がる。その隙間を縫うように断続的なレーザー砲とハイマニューバミサイルが飛来して、白い装甲に直撃、あるいは掠めていく。
通常のISならばエネルギーを使い果たして負けるだけだ。だが白い翼人――シルバリオ・ゴスペルは現在、操縦者を保護するためにISコアのエネルギーをフルに活用して減った分のエネルギーを生成している。
絶対回避と無限回復。そして、何故か赤い幻影――ゴーストが本土へと向かう事を放棄してゴスペルの戦闘に集中していることから、千日手の様相を呈していた。

そして幾度となく繰り返されたその状況を一変させるために、戦闘レンジ外ギリギリの位置から複数の空対空ミサイルが白煙と共に一直線に飛来した。
熱源に気付いた2機は瞬時にその場を飛び退くが、ホーミング機能による追跡と信管の作動によってミサイルは爆発。速度で劣るゴスペルだけが巻き込まれる形になった。と、同時にその場を離れたゴーストが直線で突っ込んでくる。
だが。

『―――?』

ゴーストが捉えた敵影はたったの2機だった。
2機はゴーストが既に一度交戦した3機のISのうち2機。
片や両手に剣を携えた紅椿。
もう1機はアサルトパックによって移動砲台と化したブルー・ティアーズ。

一度撤退した以上は戦力を増強して再度攻め込むのが定石だというのに、何故相手は数を減らしてきたのか。ゴーストには当然ながら理解できるはずもない。何故ならゴーストは戦術コンピュータに一定の情報をインプットされ、その情報に基づく条件を満たすために動いているに過ぎない存在だからだ。

更に、ゴーストはそれを製作した組織にとってはあくまで使い捨ての兵器でしかない。この一回で目的を果たせれば、後は壊れようが戻ってこようが構わない。そんな兵器でしかない。故に、ゴーストには一見して目につかない欠点が存在した。
『オリジナル』のゴーストにはないであろう欠点。そして、その欠点は現代兵器としての戦闘機ならばあって当然のもの。すなわち――

航空兵器である戦闘機のレーダーでは、海中の敵には気付けない。

直後、シルバリオ・ゴスペル周辺の海から3機のISが水飛沫を上げて浮上し、ゴスペルへ攻撃を開始した。白式、ラファールRCーⅡ、レーゲンの3機だ。レールガンとアサルトライフルの弾丸がゴスペルに命中し、たまらず身を引いて距離を取る。ゴーストから引き剥がされるかのように。

「ほらな。基本構造が戦闘機なら、例えIS級スペックでも海中の敵を捕らえるほど高度な熱源センサを持っている訳が無い。僚機のソナーを使えば話は別だが、あんな速度の兵器について行ける僚機などあるものか!」
「本当ならゴーストを先に片付けるべきだったんだろうけど……海上に出た時点で機械的に感知されるからね。アドバンテージを活かすには、ゴーストに近づくよりもゴーストの攻撃を度外視できるゴスペルへの奇襲が一番だね!」

更に付け加えるならばゴスペルの意識は完全にゴーストと、囮も兼ねていたティアーズ・紅椿に向いていたために成功した奇襲だ。決定打には程遠い一撃だが、ゴーストとゴスペルを分断させるにはこれが一番都合がいい。後は各個撃破あるのみだ。

2機の射撃を切り抜けるように高速で空に舞い、シルバーベルの照準が獲物を求めて動く。だが――その狙いは簡単には通らせない。奇しくも同じ白い翼が、隼のような速度で斬り込んだ。

交差する2機。

「……一本、だ」
『!?!?』

次の瞬間、ゴスペルのウィングの一部が斬り飛ばされて宙を舞った。
機体の一部を欠損させたゴスペルが悲鳴のような機械音と警告音を吐き出して、自らに切りかかった相手を警戒するように距離を取ろうともがく。
だが、その焦る動きと対照的に白式はただ静かに虚空に佇んでいる。

「助けようとした相手を今度は攻撃する……ってのも変な話だけど」

ゴスペルに背を向けたまま雪片参型を握ったIS――白式がゆっくりと振り返ってゴスペルにその刃を突きつけた。一夏の決意の瞳がゴスペルを射抜く。

「お前、操縦者の人を護ろうとしてるだけなんだろ?それはいいことだと思うけど――見境なしは流石に見逃せねえ。今度は前みたいにはいかないぜ!」

白式の突き出した雪片参型の刃が、福音の姿を映し出す。
まるでこの刃を喉元に突き付けるという宣言のように。
太平洋上の決戦が、再び幕を開けた。



 = =



その山奥に、一人の男が座禅を組んで瞑目していた。
呼吸音すら聞こえなくなりそうなほどに静かな呼吸の音と、風が揺らす草木がこすれる音だけが空間に響く。

「……………」

男の名は浅間承章。IS学園所属の生徒であり操縦者。
極限まで己という存在を沈めていた彼は、ゆっくりと目を見開き、一言。

「やっぱりあの暗闇に突入してくる!わざわざ学園から出向いておいてベルーナを指を咥えて見ているなど我慢ならん!兄の威厳にかかわる!」
「わー!わー!ダメ!ダメですよー!!あの中入ったら戻ってこれる保証ないんですから!!増援を待ちましょーよ、ね!?」
「清浦のいう通りであります!今は耐え忍んで好機を待つべきであります!!」
「黙っていてくれ!これは家庭の問題だ!!うおぉぉぉぉ!!弟も助けられんし同級生も助けられんでなにIS操縦者かぁぁぁーーー!!」

清浦と加藤の現役自衛官2人がかりで抑えているにも拘らずそれを引きずって前進しようとする17歳。辛うじて理性は保っているのかジョウはISを展開していないが、引き留める側がISを展開して漸く均衡が保たれているあたりが恐ろしい。
そんな3人を遠目で見ながら、黒田は深刻な面持ちでISのチェックをしていた。それは撃墜された祇園寺のISであり、レーザー兵器でかなり装甲を焼かれている。

「手ひどくやられたな。あさがお部隊の初陣は土か……我々は結局何一つ解決できていない」

人質救出は頓挫。
テロリストには敗北。
挙句、学園の勢力に助けられた。
実戦を前提としていた祇園寺達の完敗だ。自衛隊のメンツは丸つぶれ、出撃前に冗談交じりに語ったあさがお部隊の解散も本気で考慮されるほどの大失態だろう。
結局、人質を取り込んだ巨大な影の正体がわからないまま彼女たちは待機している。山に出現した巨大な影の穴から目標を救出する方法に関しては、偶然にも学園側にいたらしい篠ノ之博士含む増援が到着するまでは手出しをしてはいけないとのお達しだ。

肝心の隊長はいまだに気絶している。日本でも指折りの実力であり、黒田も認めるあの祇園寺がテロリストに敗北したとは信じがたかった。倒れた彼女を連れてきたのは祇園寺の学生時代の親友だった言葉だ。今は彼女の看病をしながら歯噛みしている。
彼女は今回の保護対象であるベルーナ・デッケンの護衛をしていたそうだ。彼女もあっさりと出し抜かれてしまった。

不甲斐ない。
誰かがではなく、この場の全員が不甲斐ない。
そして、そんな中で悪ふざけのように陰に突入しようとするあの少年を止めているおかげで後輩2人は一時的にそのことを忘れられている。これは勘だが、あの承章という少年はそれを分かっていてやっているのだろう。年下の男に気を遣われていることもまた不甲斐ない。
だから今は出来ることをやる。祇園寺のIS以外はダメージらしいダメージもないので、深刻な一台に時間を割ける。

「ダメージレベルBか……ギリギリだな。自動修復じゃ全部は直しきれないが、とりあえず動かす分には問題ないか」

損傷チェックを終わらせて自動修復モードをアクティブにしながら、祇園寺と戦ったテロリストの映像データを閲覧する。
戦闘記録を覗いた黒田はふん、と鼻を鳴らした。

「露骨なレーザー兵器にBT、そしてティアーズタイプ特有の青を基調としたカラー。見事なまでに連合王国産じゃないか。何をやってるんだあの国は……データ流出どころか本体を丸ごと盗まれたっていうのか?」

この映像を上に提出すれば、連合王国も知らぬ存ぜぬでは通せない。自国の危機管理能力が疑われるのは勿論、最悪の場合テロリストとの繋がりが存在すると受け取られる。IS委員会などという限定的なものでなく、国の威信をかけてグローバルな壇上に上がらなければいけなくなる。
既に学園への干渉などで日本もアメリカも上がっている。ゴスペルの事を考えれば道連れでイスラエルも矢面に。これからのIS学園の状況次第ではもっと多くのIS先進国も引きずりあげられるだろう。

事を荒げるよりも力を蓄えなければいけない筈のIS情勢が大きく乱れる事になる。
黒田は、これらの事件の影に何者かの意志が見え隠れする気がした。
事件の実行が可能な人間。まだ正体の知れない人間。ひょっとすれば、こちらの懐の中にも獅子身中の虫がいるかもしれない。

自衛隊の一部隊がどうこうできる存在ではない何か。
IS学園に平気で干渉し、世界を混乱させる何か。
そしてそれは、恐らくは複数。

「何せ、こんだけ意味不明の物が出てくるんだ。鬼や蛇じゃ済まないと思うのが普通だろ」

闇夜の影よりもなお深淵なる黒を見やりながら、黒田はあさがお部隊の将来に思いをはせた。



 = =



――汝、大禍を退け人界を守護する覚悟有りや?

『ひ、ひとつ聞いていいかしら?』

――。

『だからさ……いったんジンカイの守護とかは置いておいてさ。なんでそこでアタシに確認取るの?ISコアに干渉できるんならもっと別の操縦者でもよかったと思うんだけど』

――我が五行器を輪転させるには、強念の者の強かなる意志が不可欠。だが、それを持つ者とは、ただ二人しか巡り合えず。

『なら、そのもう一人と守るってのはない訳?』

――不可能なり。

『ふ、不可能?何でよ?』

――まだ、思い出せぬか?

『へ?思い出すって、何を思い出せってのよ?』


ゆらり、ゆらり、揺れる空間。
現れたるは、太陽の如きぬくもりを抱いた幻の神性。

龍のような、馬のような。
ただ、それを見上げるだけで跪きそうになるほどにその姿は畏敬の念を抱かせる。


――力尽き、石くれと成り果てようとした我。

――力尽き、土に還ろうとしていた汝。

――あの時、汝は既に我と契約を交わしていたことを。


「ッ!?う、ぐうう……!?」

熱い。
胸の奥が、熱い。
燃盛るような熱が、鈴の目を覚まそうとするように、この身体を疼かせる。
その熱は、鈴の胸を貫く炎の柱となった。
で、あるにもかかわらず、鈴はとても強い心臓の鼓動を感じた。


――我は懇願しているのではない。

――ただ、確認を取っているだけだ。

――汝は、当の昔に『人界の守護者』なのだから。


胸から立ち上った炎の中から、何かが見えた。

火。
土。
金。
水。
木。
五つの理を結び、之を五行とす。
其の器を強念にて充たし、廻し、力と成す――これを五行器とす。
嘗て、父が「家宝の一つだから」と渡してくれたペンダントに刻まれていた五芒星。

その五行を示す図形が、どくん、と脈打った。
そして、立ち上った炎が消えた時――鈴音は、気付く。

胸の奥にあるはずの心臓が、ない。
そして目の前の五行が、脈打つたび、身体に血が通う。
それを認めた鈴は、悟った。

『これが…………アタシの、心臓……?アタシ、アタシは――』

鈴の脳裏に、見たことがない筈の光景が浮かんでは消える。
離婚の事ばかりを考えてこちらに見向きもしない両親にかまってほしくて、わざと人ごみに紛れて乗った汽車。
自分なんていらない子なんだと呟きながら、一夏達に会いたいって口に出して、余計に虚しくなって。
それで、父親から貰ったペンダントを揺らしながら外を見ていた。

そして――影が。

『いや………』

轟音を立てて。

『いやぁ………!』

目に映ったのは。

『やめて……ねえ、やめて……!』

左胸を貫かれて、赤が。

『思い出したくない、思い出したくない、思い出したくない!!』

最後に助けを求めて握ったペンダントから、声が聞こえたんだ。



――汝、人界を守護する覚悟ありや?

「死にたくないよぉ……」

――今ではないいつか、その身を人界の守護に捧げる覚悟があるのならば。

「苦、しい。けほ、けほっ!」

苦しくて、血を吐き出して、アタシは死んじゃうんだって。
ひゅうひゅうと音を立てる喉と、震える指先。動かない体と焼けるような肺を動かして。
繋ぎとめていた意識の糸を手放す、最期の瞬間。

――汝の身体を借り、汝に今一度、命を与えよう。

「欲し、い」

――いずれ汝の強念が我を御するに相応しき力を持ったその時。

「助けて。たすけて。たすけ、て」

――真の守護者として、共に唱えよ。

「死ぬのはイヤ。いやぁ………」


それは運命か、不幸だったのか。
鈴は、唱えてしまった。
声が囁いたその呪文を、鈴は父から聞いたことがあったから。

――必神火帝、天魔降伏。

「必……神……火、帝……天魔、降伏………」

――麟王、合体。

「麟王、合体」

直後、鈴の視界は炎によってすべて埋め尽くされた。
ただ、その炎は敵を焼き払うような恐ろしさはなく。
母の腕に包まれるような柔らかな慈悲を感じるように。

――今は休むがよい。汝はまだ目覚めが早すぎた。此度は汝の身体を借り、我が埒を開けよう。

――だが、ゆめゆめ忘れることなかれ。

――その刻はもう、近くまで迫っている。
  
 

 
後書き
貴方と、合体した(事後報告)。 
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