魔法少女リリカルなのは~結界使いの転生者~
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A's編
終わりの始まり
はやての体が光に包まれ、光がやむとそこには長い銀髪を持つ長身の美女がたたずんでいた。
「またすべてが終わってしまったか・・・・一体、幾度こんな悲しみを繰り返せばよいのか・・・」
そして女性は蛇のようなものに覆われた闇の書を見つめる。
「ナハトヴァール。プログラムに過ぎないお前に恨みを言うつもりはない。・・・だが、しばしの間だけ大人しくしてくれ・・・・」
そしてナハトヴァールに触れると、蛇が女性の腕に巻き付き、手甲型のデバイスへと姿を変える。
「まだ私の意識があるうちに、主の願いを・・・・」
女性から魔力が迸り、海鳴市全体を覆い尽くした。
闇の書から離れたある場所にそれらは現れた。
「ここまでは計画通りに事が運んでいるな・・・」
「ああ・・・」
全く同じ格好をした二人の仮面の男がそこにいた。
「デュランダルの準備は?」
「出来ている」
答えた方の男の掌にカード型の待機状態のデバイスが出現する。
「「・・・?」」
しかし、二人の周囲に蒼い魔力光が迸り、魔法による拘束が二人を捉えた。
「ストラグルバインド・・・対象を拘束しつつ強化魔法を無効化する魔法だ。・・・あまり使いどころのない魔法だけど、こういう時には役に立つ」
「「!?」」
仮面の男たちがその声に気が付く。
振り向くとそこにはクロノとユーノが上空から降りてきた。
「変身魔法さえも強制的に解除してしまうからね」
男二人の仮面が外れ、その姿が変わる。
蒼い髪の男性だった二人が、亜麻色に猫耳を生やした女性へと姿を変えた。
「クロノ・・・この~~!!」
「こんな魔法教えてなかったはず!!」
「いつまでもあなた達の教え子のままじゃない。僕はすでに執務官だ。『知らなかったから』『教えられてなかったから』で済まされる立場はとっくの昔に卒業したんだよ。それに『一人でも精進しろ』と教えたのは他ならぬ君たちじゃないか・・アリア、ロッテ」
「リーゼさん・・・・」
男の正体は他ならぬ前回の闇の書事件の捜査責任者であり、今回の捜査にも協力をしてくれた管理局の提督、グレアムの使い魔であるリーゼロッテとリーゼアリアであった。
「クロノ・・そっちは任せた」
「ああ・・・なのはたちを頼む」
そう言うと、ユーノはなのはとフェイトの元に向かいだした。
海鳴市全体を襲った空間攻撃を凌いだなのはたちはビルの影に隠れて様子を窺っていた。
「なのは!!お待たせ!!」
「「ユーノ(君)!!」」
そこにユーノが到着する。
「ユーノ君!!龍一君が・・・」
「龍一がどうしたの!?」
「リュウイチが蒐集された・・・」
「そんな!?」
「今は禊さんに保護されてこの付近からは離脱しているはず・・・」
「そうか・・・こっちも大至急増援部隊を手配してもらっている。剛さんが先行でこっちに向かっているけど、とりあえずは僕が転移で先にやってきたんだ」
「剛さんが!?」
「でもさっきの攻撃と同時に張られたこの結界・・・増援が到着するのが遅れそう・・・」
「それまで私たちで何とかするしかないか・・・・」
「うん・・・」
フェイトはソニックフォームから通常のライオットフォームに切り替え、ユーノは獣化魔法を展開した。
「リーゼたちの行動はあなたの指示ですね、グレアム提督・・・・」
リーゼ姉妹を捉えたクロノは事の真相を確かめるべく、グレアム提督の元を訪れた。
ちなみに、クロノについてくる形でアリサ、すずか、治療を拒否して無理やり付いて来た龍一もこの部屋に来ている。
「違う!!あたしたちの独断だ!!」
「父様は関係ない!!」
「ロッテ、アリア・・・いいんだ・・・クロノはもう粗方のことは掴んでいる・・・・・・違うかい?」
「・・・11年前の闇の書事件以降、提督は独自に闇の書の転生先を探していましたね・・・そして発見した・・・闇の書の居場所と現在の主、八神はやてを・・・」
「「!?」」
クロノの指摘に驚愕の表情を浮かべるアリサとすずか。
「しかし、完成前の闇の書と主を抑えてもあまり意味はない。なぜなら闇の書を破壊しようと主を捕えようとすぐに闇の書は転生してしまうからだ。だから監視を続けながら闇の書の完成を待った。・・・見つけたんですね?闇の書の永久封印の方法を・・・・」
「ああ・・・。両親に死なれ体を悪くしていたあの娘を見て、心は痛んだが運命だとも思った。孤独な娘であれば悲しむ人は少なくなる・・・」
「ふざけんじゃないわよ!!」
「アリサ・・・・」
目尻に涙をためながらグレアムに掴みかかろうとするアリサを龍一がいさめる。
「あの娘の父の友人を語って生活の援助をしていたのも提督ですね?」
クロノははやてからイギリスへあてられたエアメールとそこに写る写真を見せる。
「永遠の眠りにつく前くらい・・・せめて幸せにしてやりたかった・・・・それもただの偽善だがな・・・」
「何が・・・・」
自嘲するようにつぶやくグレアムにすずかが食って掛かる。
「何が幸せですか!?」
「!?」
「私がはやてちゃんにあったのはほんのつい最近ですが!?はやてちゃんはあの人たちを本当の家族の様に思っていて・・・どうしてあんなに嬉しそうにしていたか分かりますか?『援助してくれる人はいるんやけど一度も会ったことはない』・・・そう言っていました。はやてちゃんは両親が死んでからずっと一人で孤独に生きてきから初めての家族にあんなに嬉しそうにしていたんですよ!!せめて一度でもはやてちゃんに会ってあげたら、それだけで彼女は救われたはずなのに!!」
「すずか・・・」
怒りと悲しみで肩を震わせながらすずかはグレアムに詰め寄った。
「・・・封印の方法は主ごと凍結させて次元の狭間か氷結世界に閉じ込める。・・・そんなとこですかね?」
「そう。それならば闇の書の転生機能は働かない」
「「「!?」」」
闇の書が完成して暴走を始める前に主ごと凍結して封印してしまえば、もっとも厄介な機能である転生機能を封じることができる。
しかし、それは言うなれば、封印されたはやて本人は『死ぬ』ことも許されずに永遠に冷たい牢獄に閉じ込められることを意味する。
これほどまでに酷いことがあるだろうか?
「これまでの主だってアルカンシェルで蒸発させてんだ!!」
「今からでも遅くない、あたし達を解放して!!凍結ができるのは暴走が始まる数分だけなんだ!!」
「「ふざけないで/んじゃなわよ!!」」
「暴走を始める前なら彼女は特に犯罪を犯しているわけじゃない。違法だ!!それに零課に対しても外交問題になる可能性もある」
人情論ではなくあくまでも執務官としての立場でグレアムを否定するクロノ。
「そんな決まりやしがらみのせいで悲劇が繰り返されてんだ!!クライド君だって・・あんたの父さんだってそれで・・・」
「ロッテ!!」
「「「!?」」
その一言に目を見開きながらクロノを見つめるアリサとすずか。
しかしその視線を気にしないかのように背を向けて扉に向かうクロノ。
「提督。確かにあなたの方法は最善ではないがもっとも確実に・・・しかも今後の再発も防ぎうる有効な次善解であることは明白です。人としてはともかく警察としては間違っていない」
「クロノ(君)!?」
「でも!!それを認めてしまえば!!僕は僕でいられなくなる!!二度と執務官を名乗れなくなる!!ただの血と糞尿が詰まった肉の袋になってしまう!!執務官は僕の憧れであり誇りであり誓いでもある!!だから、それだけはまっぴらごめんだ!!」
そう言って、歩き出すクロノ。
「待ちなさい」
クロノの背に声を掛けるグレアム。
「アリア・・・デュランダルをここに」
「「お父様!!」」
「もう我々には何もできん・・・ならば彼に託すべきだろう・・・」
クロノにデュランダルを託すグレアム。
「氷結の杖『デュランダル』。今回の我々の作戦の要として用意した広域凍結封印魔法の術式とそれを一度だけ使用できるだけの魔力を内蔵してある特別性のデバイスだ。君に託す。その使い方は君に任せるよ」
「分かりました」
「どうして今になって?」
龍一はグレアムに尋ねた。
「賭けてみたくなったのさ」
「・・・・え?」
「身勝手かもしれないが、あの娘を孤独に追いやり、罪を押し付けたのは悪いと思っている。でも、私だって好き好んであの娘を封印したかったわけじゃない」
「あんた!?」
「あの娘はほんとにいい子なんだ・・・・・孤独も死期も全て受け入れたうえで全部耐えて誰かに迷惑をかけるよりはいいとそのまま死ぬことを受け入れているんだ!!・・・・・・なんであの娘なんだ!!どうしてあんないい娘が苦しまなければいけないんだ!!」
最後の方はいつもの落ち着きをかなぐり捨てて叫んでいた。
「頼む・・・・・・あの娘を助けてくれ・・・・・・・・」
今にも泣き出してしまいそうな声を絞り出しその一言を告げる。
それこそがグレアムの本音であった。
この11年もの間誰にも言えなかった言葉。
いや、いう訳にはいかなかったのだろう。
前回の事件で死なせてしまったクロノの父のために、闇の書事件を今代で終わらせると決意した彼にはその言葉を噤むわけにはいかなかったのだ。
言ってしまえば、彼はもう何のできなくなってしまうから。
言ってしまえば、彼はもう全てを投げ出してしまうから。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・必ず」
振り向くこともないままクロノはそう告げ部屋を出た。
後に残されたのは龍一たちと下を向いたまま涙を流すグレアムだけであった。
「ええ。分かりました」
クロノからの連絡を終えた小林は終結しつつある増援部隊の確認をしながらクロノからの報告を受ける。
(こりゃあ・・・何が何でも今回の作戦は負けられなくなったな・・・)
そう思った小林は終結した部隊を振り向く。
「諸君。今回の任務はこれまでの比じゃない危険が伴う。相手はただ一人だが神域に届きうるチート野郎だ。一瞬でも気を抜けば死ぬ」
その言葉に緊張が走る。
「今回の主は闇の書の浸食に侵されながらもただ周りの皆を思って独り死を受け入れていた。たった9歳の女の子がだ。本当に馬鹿みたいにいい娘だよ。・・・・・だが、理不尽な悪魔はそんな彼女の命を奪おうとしている」
部隊を見渡しながら続ける。
「お前ら・・・・許せるか?」
「「「「「「「否!!」」」」」」」
「そうだ!!あの娘をそんな糞みてえな悪魔から取り戻してやりたいところだが、あの野郎、あの娘の命を懸けるのに『俺の命だけじゃ釣り合わねえ』って言いやがる、そういうわけだから、お前らの命を俺にくれ。あの悪魔を無理やりにでもテーブルに着かせる。それでようやく勝負ができる。勝負は一度、負ければ全てが終わる。だが、相手はジョーカー・・・とんでもなく不利な条件だが・・・お前らが持ち場を墓穴だと思って全うすれば僅かだが可能性が開ける・・・・やってくれるか?」
「「「「「「「サーイエッサー!!」」」」」」」
「おし!!ならば死にに行くぞ野郎ども!!畜生畜生言いながら死にに行くぞ!!ペテンでもインチキでも使って、あの娘の命を悪魔から巻き上げに行くぞ!!」
「「「「「「「ヤ―――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!」」」」」」」
なのはたちは苦戦しながらもなんとか闇の書の管制ユニットと闘っていた。
ベルカ式の広域空間魔法だけでなくこれまでに蒐集したミッド式の魔法まで駆使され、その多彩なバリエーションと無尽蔵の魔力に苦しめれらていた。
「くっ!!」
フェイトは攻撃を掻い潜りながらバルディッシュを振るっていたがここでいつもと違う感覚を感じた。
(今までよりスムーズに動く?)
それは言ってしまえば瞬動の訓練で鍛え上げた身体操作の技術がここにきて今までの無駄の多い動きからより洗練された動きへと切り替わってきた証拠である。
実際、今までは若さに身を任せた強引な挙動や方向転換がよりスムーズに負担なく行えるようになっている。
・・・・・まあ運動音痴のなのはにはまだあまり効果は無いようであるが。
それに気付いたことはもう一つある。
(この人。出鱈目な魔力量と多彩な魔法で誤魔化しているけど、接近戦はそんなに強くない・・・)
なのはの支援砲で相手の攻撃を叩く隙に懐に潜り込み、管制ユニットの攻撃を躱して後ろから叩き落とす。
「くっ!!」
管制ユニットは背中の黒い翼、飛行魔法の一種である『スレイプニール』を羽ばたかせ減速した。
しかし、ここで彼女は失策に気付く。
(しまった!!)
地面に向かう自分を減速させるために打ち下ろした翼は一瞬使えず、地面から数十cm浮いているため地面を蹴ることもできない。
今の状態は完全に無防備な『死に体』と呼ばれる状況であった。
そして・・・・・。
「はああああ!!」
その一瞬の隙をユーノは逃さなかった。
獣化した肉体を更に血壊で強化する。
蜂蜜色の体毛が真っ赤に染め上がり、莫大な身体強化を施された脚力で踏み出した。
それは本来防御に使用するプロテクションを身に纏いながら突進するユーノオリジナルにして数少ない攻撃魔法である『プロテクションスマッシュ』である。
一歩で音速に入る。
「くっ!!」
管制ユニットは即座に多重防御障壁を張り巡らせ、同時に強化魔法を解除するストラグルバインドによる網を敷く。
二歩で雲を纏い。
バインドの網に突っ込んだユーノだが、その拘束を引き千切る。
(馬鹿な!!なぜ獣化が解けん!?)
三歩で翠色のプロテクションは赤熱を帯び。
同時に負荷のかかる脚から出血する。
(この一撃で決める!!)
四歩で地を蹴る意味を失った。
ユーノには力の差をはっきりと認識していたため、『ここで決めなければ次はいつ好機が来るか分からない』ことも十分承知していた。
故に出し惜しみのない、自身の身も顧みず出せる最高の一撃を叩き込む。
音速を超える攻撃。それも9歳の少年と同サイズの砲弾が飛んでくるのだ。
その威力は半端ではなく、管制ユニットの防御を最後の一枚を残して一瞬で砕き、いくつものビルを貫通しながら管制ユニットを吹き飛ばした。
「はあ、はあ、はあ、はあ・・・・・・・・・・」
血壊を解き、出血しながら倒れ込むユーノ。
「驚いたな・・・」
「!?」
「その年でこれほどまでに戦えるとは・・・」
無傷とはいかなかったが、それでも膨大な魔力により即座に回復してしまう。
(まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!!)
対して、ユーノは脚の負傷で動けない。
「・・・眠れ・・・」
「ディバイ―ンバスターーーーーーー!!」
「!?」
ユーノに近づく管制ユニットになのはが砲撃する。
「ユーノ!!」
そこにフェイトが駆けつけ、ユーノを連れて離れた。
「こんなもの・・・」
管制ユニットが腕を払い、砲撃を掻き消す。
「まずはお前・・・・!?」
後ろからの強烈な殺気に気付き振り向く。
そこに鬼切を振り、頸動脈を狙う剛の姿があった。
「くっ!!」
鬼切と腕が交差し、金属音が鳴り響く。
「大丈夫かい!?みんな!!」
「「「剛(さん)!!」」」
「後は私に任せなさい!!」
「・・・・・お前は危険だ・・・・・」
彼女には先ほどの剛の瞳に見覚えがあった。
「守宮剛・・・・その目は憲兵のものではない・・・・・・戦乱の世に多くいた『人斬り』の目だ・・・・」
かつてベルカの戦乱の時代に多くいた狂人と同じ瞳を持ちながらそれを理性で押さえつける人間。
彼女は経験上、こういう輩が最も危険だと熟知していた。
「お前を先に排除する・・・」
彼女は大型の雷の槍を発動して右腕に纏う。
「!?」
そして短距離転移で剛の後ろに転移して鬼切による反撃を左腕でいなし、一瞬の隙を見つけては蹴り上げることで剛を一瞬宙に浮かした。
「しまった!!」
そして、彼女の無慈悲な攻撃が彼の左腕を抉った。
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