浮気
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第一章
第一章
浮気
「私浮気するから」
平沢克己はいきなり妻の祐子に言われた。
「わかったわね」
「はぁ!?」
話を聞いた彼はまずは我が耳を疑った。それで再度彼女に問うた。
「今何て言った!?」
「だから浮気するのよ」
平気な顔で伝える祐子だった。
「二度言ったからわかったわね」
「おい、待て」
とりあえず話を聞いてから妻に言い返す。
「それで納得できる話か。はいそうですかって」
「けれどするから」
朝御飯を向かい合って食べながら告げる妻だった。
「わかったわね」
「わかる筈ないだろ」
「わかってもわからなくてもするから」
今度はこんなことを言ってきた。
「浮気をね」
「何時するんだ」
「今日よ」
しかもだった。今日だというのだ。
「今日するから」
「今日って本当か」
「嘘じゃないわ」
祐子はいつもの様に朝の味噌汁をすすっている。その豆腐と若布の味噌汁を何でもないといった調子ですすり続けている。しかし話す言葉は普通ではなかった。
「言った通りよ」
「相手は誰だ」
「あなたが一番よく知ってる人よ」
また言ってきた妻だった。
「一番ね」
「俺が一番!?」
「そうよ。一番ね」
「誰なんだよ、それは」
とりあえず納豆を御飯にかけながら必死に考えていた。納豆を何とか零さないようにと必死になっていた。零さないで済ませたうえでまた考える。
「俺の一番知っている」
「言っておくけれどね」
妻は淡々と話し続けてくる。
「お義父さんや義人君じゃないから」
「当たり前だろうが」
義人とは彼の弟である。つまり祐子はその義人から見て兄嫁になるのである。
「そんな何処かのロマンポルノみたいな話はな」
「それはないから」
「あってたまるか」
卵焼きに醤油をかけながら言い返す。ついついかけ過ぎてその卵焼きが真っ黒になっている。祐子もそれに対して突っ込みを入れる。
「お醤油が」
「気にするなっ」
強引に言い返した。
「そんなことはな」
「そうなの」
「それよりもな」
とにかく話を戻しにかかった。
「浮気の相手は」
「お義母さんや小波ちゃんでもないから」
小波は克己の妹である。今度は同性愛であった。
「そっちでもないから」
「幾ら何でもそれはないだろうが」
流石の彼もそれは想像していなかった。
「レズはな」
「他の女の人でもないわよ」
「というかそっちの方がかえっていやらしいぞ」
「女の人と浮気しても怒らないでしょ」
「その場合は何て言っていいかわからないぞ」
半分呆然としながら返す克己だった。その納豆をかけた御飯を卵焼きで食べる。醤油のせいでそれはかなり辛い朝食であった。
「とにかく相手は男か」
「そうよ。男よ」
「それで俺の一番知ってる相手か」
「あなたのお友達でもないから」
それでもないというのだった。
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