フェアリーテイルの終わり方
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十一幕 野ウサギが森へ帰る時
4幕
前書き
真実 を 知る 時
フェイはユリウスに連れられるまま、人目を避けるように路地裏ばかり通って、トリグラフ団地に戻って来た。
「ここでルドガー、待つの?」
「いや。置き手紙だけ残して、マクスバードに行く。あそこは今、〈カナンの地〉の出現でエージェントが封鎖しているはずだからな」
ユリウスがマンションフレールに入って行く時、フェイは共に入らなかった。
フェイがマンション出入口近くのベンチに座って待っていると、ユリウスが出て来て、驚いた顔でフェイを見下ろしてきた。
「ルドガーのとこに戻ってよかったんだぞ?」
「なんか、離れちゃいけない気がしたの」
「それも〈妖精〉の力、か」
「そうじゃないんだけど……ねえ」
フェイは立ち上がり、ユリウスの正面に立って彼を見上げた。
「結局、〈カナンの地〉にはどうやって入るの?」
すると驚くことに、色々なことを秘してきたユリウスなのに、呆気なく答えた。
「〈魂の橋〉。強い力を持ったクルスニクの一族を一人、生贄にするんだ」
フェイはまた膝から崩れ落ちそうになったが、持ち直した。
繋がったからだ。エルの変心と思われた行動が何を――誰を守るためのものだったのか。
(お姉ちゃん、たったひとりでツライの抱えて、ルドガーにキラわれるかもしれないのに、冷たいコトバで遠ざけてそんなのも知らないで、わたし…ヒドイ…ごめんなさい……! ごめんなさい、お姉ちゃんっ!)
フェイは顔を覆って俯いてしまいそうになって、はっと、目の前のユリウスと、ルドガーの関係を、思い出した。
「おじさん、死ぬの?」
〈魂の橋〉にはクルスニクの生贄が必要。そして、ユリウスはルドガーの兄。この二つを結びつければ、ユリウスの取らんとする行動は歴然としていた。
ユリウスは黙して目を伏せた。
それが言葉より明確に肯定を物語った。
「や――やだ、ダメ! おじさん死んじゃイヤ!」
「もうこれしかないんだよ」
「やだやだやだ! だって、いっぱいいなくなったのに! ミラもお姉ちゃんもいなくなって、おじさんまでいなくなったら、ルドガーほんとに独りぼっちになっちゃう! これ以上、ルドガーの前から誰もいなくならないで!」
「ルドガーにはたくさんの仲間がいるじゃないか。俺一人いなくなったところでどうってことない」
「ある! あるの! だってみんなパパのほんとのトモダチじゃないもん!」
宥めるようだったユリウスの笑顔が困惑に変わる。
「ジュードたち、セカイのためなら大切な人でも殺せる。パパは、セカイが滅んでも、大切な人は殺せない」
――ペリューン号でエルが危なかった時も、ルドガーはミラの手を最後まで離さなかった。
――ヴィクトルとの命懸けの激闘の中でさえ、ヴィクトルを壊せず自分が死にかけた。
皆がルドガーを優しいと、お人好しだと言う。
そうではない、そうではないのだ。どうしてジュードたちは気づかない。
ルドガーはあの中の誰よりも「人間」なだけだ。
ルドガー・ウィル・クルスニクはどこまでも「普通」の「人間」だ。
「ジュードたちの〈世界〉は、この天と地の命のすべて。パパの〈世界〉は、おじさん、あなたなんだよ。みんな自分たちの〈世界〉が食い違ってるの、気づいてない。気づいてないの。パパが気づいちゃったら、パパの中でジュードたちはトモダチじゃなくなっちゃう。セカイに独りで置いてけぼりになっちゃうんだよ!」
食い違いが決定的になればフェイにも止められない。かつて友を自ら葬った父のように、「ルドガー」と「ジュードたち」は別れ別れで、二度と心は交わらない。
「分かってくれ。これしかないんだ。それともフェイは、ルドガーが〈橋〉になって死んでもいいと思うか?」
フェイは慌てて、色のない髪を振り乱して首を横に振った。
「長居はまずい。俺は待ち合わせに指定した場所へ行く。君は――ここで待っていればルドガーたちが来るだろうから、残ったほうが」
フェイはユリウスの白いコートを握り、再び首を振った。
「フェイが、おじさん、死なせない」
「……フェイ、さっきも言ったが」
「ダイジョウブ」
フェイ・メア・オベローンは〈妖精〉を冠する人間だ。〈魂の橋〉のカラクリを、自分ならば突破できるかもしれない。
否、突破するのだ、この身の異能で。
それがきっと、フェイがルドガーたちと出会った意味だから。
「俺の姪っ子たちはどっちもタフで困る」
「ゴメンナサイ」
ユリウスは苦笑してフェイに背を向け、歩き出した。
フェイはユリウスの後ろを、子カルガモのように付いて行った。
後書き
ルドガーもユリウスも死なせない。それが妖精の決意。オリ主の決意です。
ルドガーに対するオリ主の考察は、作者が解釈したルドガー像であり、ルドガーとジュードたちX1メンバーとの関係の本質です。
この辺は「レンズ越しのセイレーン」でも語ったことですが。
世界を救うという目的の一致のみで合一していられた急造の混成体。それが彼らだと作者は思うのです。
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