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閃の軌跡 ー辺境の復讐者ー

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第11話~イクシード・エクレール~

 
前書き
どうもこんばんは。鮪の漬け丼です。タイトルは英語とフランス語が混同しているのであえてスペルを書くことはしませんが、「紫電を超えろ」ぐらいの意味です。端折った感が凄いかと思いますがどうぞ! 

 
七耀暦1204年 5月26日(水)

例の如く、グラウンドにて先日より予告されていた第二回目となる実技テストが実施された。サラ教官の判断で編入してきたファミィも早速参加し、ケインと暫定コンビを組んで例の戦闘用傀儡を難なく倒す。

「お疲れ!ケインって結構やるのね」

「ファミィも強いな。正直、助かったよ」

「ふふっ、どういたしまして♪」

褒められて上機嫌になっているのか、ケインに笑顔を向けているファミィ。

「でも少し突っ込み過ぎ、かな。カバーが間に合わないこともあるから気をつけてくれ。
 ・・・君も、これからはⅦ組の大切な仲間なんだからさ」

「う、うん・・・」

ファミィの頭に軽く手をのせ、ケインは穏やかな口調で優しい忠告をする。
彼女は、俯き加減で気恥ずかしそうにしながらもそれを受け入れ、了解した。

「む・・・」

「ラ、ラウラさん。ケインさんも無自覚ですから落ち着いて・・・」

「ふう。無理な相談じゃないかしら?」

「ケイン、鈍感?」

(?ラウラたちは何の事を言ってるのかな?)

Ⅶ組女子には意味深なことを言われ、Ⅶ組男子の大半からは呆れの視線で見られてケインは頭にクエスチョンマークを浮かべていた。そんな中、サラ教官の声がかかり、リィン、アレス、アリサ、ラウラ、ガイウス組とマキアス、ユーシス、エリオット、エマ、フィー組がそれぞれ同様に対傀儡戦を行った。前者のメンバーは旧校舎での成果によって連携が円滑であったため、教官基準の及第点には達したようだ。しかし、後者の方はマキアス・ユーシスの二人が邪魔とは言わないまでも全員の連携をかき乱してしまい、結果として苦戦を強いられてしまったようだった。この体たらくは君たち二人の責任だと教官に言われたマキアスとユーシスは、悔しそうに歯軋りしている。しかし、一応はこれにてテストが終了となり、教官は今週末に行われる別実習のプリントを全員に配布した。そこに書かれていたのは一同を驚愕もとい、戦慄までもさせるような班分け。A班がリィン、ケイン、エマ、マキアス、ユーシス、ファミィ。実習地は帝国東部クロイツェン州、州都の公都バリアハート。一方、B班はアレス、アリサ、ラウラ、フィー、エリオット、ガイウス。実習場所は帝国南部サザーランド州、州都の旧都セントアーク。実習地的には双方釣り合いが取れているが、問題はそこではなかった。

「サラ教官!いい加減にして下さい!何か僕たちに恨みでもあるんですか!?」

「・・・茶番だな。こんな班分けは認めない。再検討をしてもらおうか」

軋轢が続くマキアスとユーシスが、再び同じ班にされたことにより、抗議の声を上げる。
マキアスに至っては貴族主義連中の巣窟であるバリアハートが、ユーシスの故郷であるということも手伝って不満しかなさそうだ。おそらくは彼の貴族に対する意識を変えさせようという目的もあるのだろうが、やり方が少し露骨だとケインは思った。

「ま、あたしは軍人じゃないし命令が絶対だなんて言わない。
ただ、担任として君たちを適切に導く使命がある。それに異議があるなら、いいわ。
 ・・・2人がかりでもいいから力づくで言うことを聞かせてみる?」

威圧的な笑顔を浮かべたサラ教官から放たれた一言に怯むマキアスとユーシス。
だが、ここで引き下がっては自分たちの意見は通らない。そう考えたのか、二人は教官の前に出る。教官は、右手に導力式の強化ブレードと導力銃を構え、それに反応した二人も得物を構えた。何故か巻き込まれたリィンも加え、サラ教官は実技テストの補修を開始した。

「くっ・・・はあはあ・・・」

「ぐうううっ・・・」

「・・・馬鹿な・・・・・・」

ユーシスの台詞を引用するなら、馬鹿な。教官のブレードと銃の猛攻で数分と経たずに三人が仲良く膝をついていた。それでも一応、手加減はしたようだ。

(・・・流石、<<紫電(エクレール)>>と言ったところかな)

眼前の光景に驚く一同だが、ケインは脳内で感嘆の声を漏らしていた。
これにて特別実習の班分けは変更なしとなったが、ケインは一歩前に進み出る。

「?ケインも補修を受けるつもりなの?」

「ええ、ちょっとサラ教官に感化されてしまったようです。
 ・・・友人が膝をつかされて黙っていられるほど、俺も人間ができていませんからね」

「ケイン?そなた、まさか・・・」

ラウラから見たケインの眼は、獲物を見つけた獣のそれだ。不敵な笑みを崩さないまま啖呵を切るケインを見て、サラ教官はどこか納得した表情を浮かべる。

「なるほど。いいわ、やってやろうじゃない」

ケインは黒剣を、サラ教官はブレードと導力銃を構える。ケインは尋常ならざる闘気を放ち、不敵な笑みのまま口調は穏やかなままでサラ教官に語りかける。

「本気で、いいですよ」

「・・・どうやらそのようね」

2人の気当たりに気圧されて反射的に少し離れた一同は、教官が、額から一筋の冷や汗を流したのを見逃さなかった。永遠に続くかのように思われた膠着状態の中、ケインが先に動いた。教官の怒涛の銃撃を掻い潜り、瞬く間に肉薄したケインが上段からの一撃を振り下ろす。それを紙一重で躱した教官は反撃に出んとするが、背後からの斬撃を反射的に察知し、剣で受け止めてからバックステップしつつ単発の銃弾を放つ。近距離の射撃を篭手で防ぎ切ったケインは、深追いはせずに距離をとった。そして咄嗟の思いつきで、構えを変える。剣の切っ先を地に垂直に下ろし、左手を軽く腰に添え、再び駆ける。ジグザグステップで銃の狙いを定めにくくしつつ、それでも的確に迫りくる弾丸を水平斬りや垂直斬りで真っ二つにする。教官の懐に入り込めたケインは、篭手による正拳突きを繰り出すが、これも後方に避けられた。だが、それでは終わらず腰を落として重心を左に傾けて移動し、教官の横側から水平斬りで追撃する。虚を衝かれた教官は、ブレードを逆手に持って反射的にそれをガードする。黒と紫、二本の剣が交差し、甲高い剣戟の音を響かせた。

「・・・やるじゃない」

「あんたもな。これは、簡単には一本を取らせてくれないみたいだな」

拮抗状態の中、剣を握る力を緩めることなく互いに称賛しあう。
ケインの方は比較的涼しい顔をしているが、教官は徐々に押し迫ってくる剣に鍔迫り合いでは分が悪いと判断したのか、左手の銃をほぼゼロ距離から発射した。それを読み、ケインは咄嗟に左横にローリングで回避して即座に体勢を立て直す。その後、双方が得物を構え直してケインが再び行動を開始した。一定の距離を保ちながら射撃で牽制するサラ教官に、それを完璧にあしらいながら我流と宮廷の二剣術を使い分けて着実に張りつこうとするケイン。サラが撃ち、それを弾いて迫るケインの斬撃を彼女が避け、距離を取る。ハイスピードで行われるそんな応酬に、他のⅦ組メンバーは固唾を呑んで見守っていた。

「ケイン・・・」

「フン、あの男が簡単に負けるわけがないだろう。お前も少しは黙って見ていたらどうだ?」

「そ、そんなことは君に言われなくても判っている!!」

ケインが教官に喧嘩を吹っ掛けたことに責任を感じているマキアスは、心配そうにケインの方を見ていたが、所々に棘のあるユーシスの言葉を律儀に反駁する。おそらくはマキアスを気遣っていたのだろうが、素直には言わないようだ。眼前で繰り広げられている二人の応酬を見守りつつも今のやり取りを聞き、喧嘩するほど何とやらという言葉を脳裏に浮かべるのだった。

「・・・はあぁぁッ!!」

「くっ・・・」

銃撃を躱し切り、様々な方向や角度から迫りくるケインの素早い斬撃の数々に、教官は翻弄されつつあった。射撃が命中しない焦燥感が募り、彼の剣術を完全にいなしきれなくなってきたことへの動揺が、彼女の心の中で広がりつつあった。

(ケインが、怖く見えてきたわね。正直、死線どころじゃないかもしれないわ。
 ・・・でも、立ち止まってなんかいられない!)

一瞬の逡巡の中、意を決したサラがケインに接近する。それに対応するべくケインは腰を低くした。左斜めから迫る刹那の袈裟斬りを、斬撃の勢いを利用して剣の刃で受け流しつつ右にずれる。体勢を少なからず崩された教官は踏みとどまって銃撃に走ろうとするが、剣の柄で一突きされ、銃は手から離れてしまった。距離を取らず、反撃に打って出た教官の斬撃も篭手で防御してからそのまま弾き飛ばす。そして、教官に黒剣を突きつけた。

「・・・降参よ。完全に、あたしの負けね」

「全力でかからなければ危なかったです。一人の教官としてあなたに敬意を表します」

どこか怯えた表情で敗北を認めたサラ教官に、苦笑いを浮かべながら颯爽と敬礼するケイン。

(?ケインは教官に勝ったのに、嬉しくなさそうね)

(ええ、どうしたんでしょう?)

(ケイン・・・)

原因は不明だが、ケインとサラは微妙に湿っぽい雰囲気になってしまっているようだ。
ケイン以外のⅦ組の面々が心配そうに彼らを見つめている。そんな視線を知ってか知らずか、僅かな時間で平生の調子に戻ったサラは、

「ちょっと脱線しちゃったけど、実技テストは終了よ。
 A班・B班共に週末は頑張ってきなさい。お土産、期待してるから」

と最後の方でウィンクを一つかましながら一同にそう言った。サラの感情の機微があまり理解できなかった一同は、目に見えない溝を感じながらも教官の言葉に頷くのだった。
 
 

 
後書き
なぜか終わりが微妙な感じになりました。この溝を回収しないとなぁと考えていますがそれはもう少し先になりそうです(汗)さて、今回は例としてファミィをケインと絡ませてみました。アンケートの方も引き続き募集していますので、ご意見を頂ければ幸いです。 
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