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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos53決戦直前/たった一つの冴えたやり方~VERSUS~


先ほどまでは晴れやかな青空だったが次第に曇り始め、ポツポツと小雨が降って来ていた。そんな小雨に当たることも厭わず、海鳴海上沖の上空には少女が4人と宙に佇んでいた。その少女たちはマテリアルと呼ばれ、今回の一件に深く関わってくる存在だ。

「ルシフェリオン、機能回復。戦闘用モード、使用可能」

1人は、“理”のマテリアルという識別名で、固有名を星光の殲滅者シュテル・ザ・デストラクター。高町なのはの姿を借りた少女。栗色のショートヘア、瞳は青。バリアジャケットは深紫色を基調としている。赤い魔力光に光り輝く魔法陣に佇んでいる。

「エレシュキガル、システムオールグリーンですわ」

1人は、“律”のマテリアルという識別名で、固有名を氷災の征服者アイル・ザ・フィアブリンガー。月村すずかの姿を借りた少女。白。一言で言えばそれだけで片が付くような外見だ。ヘアバンドを付けていないロングヘアも白、バリアジャケットも白。唯一、瞳が炎のように赤く輝いている。翡翠色に輝く魔法陣に佇んでいる。

「タラスクス、通常機能、戦闘機能、全箇所以上無しであります!」

1人は、“義”のマテリアルという識別名で、固有名を炎壊の報復者フラム・ザ・リヴェンジャー。アリサ・バニングスの姿を借りた少女。薄紫色のロングヘアはツーサイドアップで、ハネた髪――アホ毛が3本。瞳は黄金。バリアジャケットは赤と黒を基調としている。黄色に輝く魔法陣に佇んでいる。

「え? えっと、バ、バルフィニカス! 全部問題なしのまるまるオーケー!」

最後の1人、“力”のマテリアルという識別名で、固有名を雷刃の襲撃者レヴィ・ザ・スラッシャーは、別段デバイスの機能確認をする必要も無いのだが他3人に倣うようにそう続けた。水色に輝く魔法陣に佇んでいる彼女の髪は水色のロングヘアをツインテールにしていて、ツリ目がかった瞳はワインレッド。全体的に青を基調としたバリアジャケットだ。

「マテリアル各自、全機能の修復を完了」

基体の再起動は済んでいたが、デバイスや戦闘機能の修復はまだ済んでいなかったマテリアル達も、ようやく完全に修復を果たしたようだ。そして最後に・・・

「マテリアル-D、駆体復帰。出力限界81%。エルシニアクロイツ、完全稼働」

彼女たちの上に立つマテリアルが再起動を果たした。“王”のマテリアルという識別名で、固有名は闇統べる王ロード・ディア―チェ。紫色に輝くベルカ魔法陣に佇んでいる。八神はやての姿を借りた彼女の髪は銀色で、毛先には黒いメッシュが入っている。瞳は翠。オリジナルであるはやての騎士甲冑とは色違いではあるが、さほど違いはない。そんな彼女の側には“紫天の書”という名の本が浮遊している。

「おお! お帰り王様!」

「お帰りなさいであります、陛下!」

「お帰りなさいですわ、王」

「お帰りなさい、ディアーチェ。お加減はいかがですか?」

ディアーチェの元へと集まる4基のマテリアル達がそれぞれ嬉しそうに彼女へと挨拶を掛けていく。ディアーチェも「うむ」と威厳に満ちた声色でそう応え、「力が溢れるとまではいかんが、戦うには分には問題ない」シュテルからの気遣いに満足そうに答えた。

「貴様らはどうだ? 存分に動けるだけ回復したのであろうな」

「うんっ」「はいでありますっ」「もちろんですわ」「ええ」

マテリアル全基の完全復活が叶い、ディアーチェも「よい」と満足そうに頷いた。そして「では今度こそU-Dを――砕け得ぬ闇を我が手に、この紫天の書に収めて見せようぞ!」そう力強く宣言した。

「その前に、陛下のその覇道を邪魔する屑物らの討伐でありますな」

フラムがスッと明後日の方角へと目を向けた。遅れて「いやですわね、不要物の反応ですわ」とアイル、「ディアーチェに再起動に釣られて、塵芥も発生したようですね」とシュテル、最後に「断片データの団体さんだー!」レヴィが陽気な声で締める。

「U-Dに仕掛ける前の準備運動にはちょうどよいわ。シュテル、レヴィ、フラム、アイル。薙ぎ払ってやれ」

「了解です」

「はーい!」

「了承であります!」

「参りますわ」

ディアーチェの前より散開して行くマテリアル達。ディアーチェもまた残滓の討伐に動こうとした時、『王さま! よかった、起きれたんやね!』はやてから通信が入った。

「フン。当たり前だ。それで何用だ、子鴉」

『あ、うん。残滓たちがまた発生したから、わたしら対処しようと思うて。王さま達はどうする? いま外やろ?』

アースラでも闇の残滓発生を捉えたことで、砕け得ぬ闇――システムU-Dとの決戦に備えて英気を養えていたはやて達も対処に出るとのことだった。ディアーチェは「そちらはそちらで勝手するがよい。こちらはこちらで勝手に潰し回る」と不機嫌さを隠すこともなく、自分たちも残滓の対処に動くことを告げた。

『王さま達も動いてくれるん? さっすが協力中、嬉しいよ♪』

「たわけめが。協力などではないわ。利害の一致からくる利用のし合い。我らの関係はそれだけよ。馴れ合いなど不要。よく憶えておけ」

ディアーチェはそう言い捨てて、残滓の反応がある地点へと向けて飛行を開始。それに続くようにはやてが映るモニターも追随。はやては『それは残念や。今はお互いの力が必要で、情報も共有した方が、何かと便利やろ?』と小動物のような目でディアーチェを見る。

「うぐぐ・・・、ええい、やめい、そんな目を見せても無駄だ!」

たじろぎながらモニターから目を逸らすディアーチェ。そんな彼女の前に姿を見せる残滓。ディアーチェが目をスッと細める。瞳に宿るのは憤怒一色。映るのは「フラムの断片か。忌々しい」と吐き捨てるほどに不愉快だったフラムの残滓。魔法陣の足場に佇んで虚ろな目をした残滓フラムが「敵基補足であります」と臨戦態勢に入った。

「子鴉、話が終わったのなら切るぞ!」

『もう1個大事な話があるんやけど、それはまた後で伝えるな』

はやてとの通信が切れ、ディアーチェは改めて残滓フラムに向き合い、「早々に潰してくれるわ。覚悟せい、塵芥めが」戦闘に入った。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

「ブラストファイアァァーーーッ!」

「アウラール!」

残滓シュテルの“ルシフェリオン”より発射される火炎の砲撃。フラムの“タラスクス”・スナイピングフォームの銃口より炎のランスが放たれ、真っ向から砲撃と衝突。2基の間で起こる爆発と黒煙。
フラムは足元に展開している魔法陣を蹴り、足裏より炎を噴き出させてミサイルのように爆炎に突っ込み、砲撃発射体勢のままでいた残滓シュテルへと最接近して、「ウィル・オ・ウィスプ!」火炎弾を連射。

「っく・・・!」

「前々から思っていたことを、偽者である貴様にぶつけるであります!」

火炎弾の直撃を受けてよろけた残滓シュテルへとそう言い放ちながらフラムは、銃剣形態スナイピングフォームの“タラスクス”の刃を残滓シュテルへと突き刺し、「アゲマントッ!」零距離の火炎砲撃を撃ち込んだ。残滓シュテルはその一撃で消滅した。

「火炎はフラムの専売特許だったでありますのに、どうしてシュテルまで炎熱変換を得たのか納得できないであります。私の魅力、半減でありますよぉ・・・」

落下する前に魔法陣の足場を展開して降り立ったフラムが溜息を吐きながらそう漏らした。そんなフラムに『フラム。そっちは片付いた?』アリサから通信が入った。すでにアースラ組の残滓討伐が始まったことを戦闘開始前に聞いていたフラムは「当たり前であります」と胸を張って答えた。

『さっすがフラムね。でさ、さっきの話の続きなんだけど』

「手短にお願いするであります。屑物はまだ他に居ますから」

『あたし達みんなで相談して決めたんだけど、あんた達の今後の話について。あんた達、U-Dを止めた後、どうすんの?』

「私たちの今後でありますか?・・・判らないであります。私は王下四騎士が一、フラム・ザ・リヴェンジャー。陛下の命がままに動くでありますゆえ」

フラムには自分の考えは必要ないと考えている。騎士は従い護る者。その一念で王であるディアーチェに従い、王と仲間を護る騎士として生きている。それゆえに今後のことなど王の考えのままとしていた。

『あー、やっぱ王様に許可が居るかぁ。はやての説得に掛けるしかないわね』

アリサが腕を組んで唸っている様を見て「一体何を企んでいるでありますか?」と訝しむフラム。すると『企みって程じゃないわよ』とアリサは苦笑し、『あんた達の落ち着き先をこっちで用意しようか、って話よ』と続けた。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

「――圧倒的な暴力に勝るものは無い、と仰いますけど・・・そのようなことはありませんわよ!」

――ニヌルタ――

アイルのグローブ型ブーストデバイス――“エレシュキガル”の親指・人差し指・中指の外付けの爪より刀のような氷の爪が計6本と展開され、残滓レヴィへと斬りかかる。対する残滓レヴィは小野形態の“バルフィニカス”・クラッシャーで右の斬撃を受け、デバイスを横に払うことでアイルの右腕を外へと流す。
即座に振るわれる左手の爪による斬撃。残滓レヴィは空いている右手を伸ばし、ガシッとアイルの左手を真っ向から握り止めた。アイルの左手の平が開けていたことで可能な防御方法。指を曲げれば残滓レヴィの右腕を斬れるだろうが、残滓レヴィの怪力の前にそれは叶わず。

「力こそ死の象徴。力こそが全て・・・!」

メキメキと骨が軋む音がアイルの左手から漏れ聞こえてきた。それでも「頭が空っぽでは宝の持ち腐れですわ」アイルはニヤリと笑みを崩さず、弾かれた右手で“バルフィニカス”の柄を掴み取る。と、“バルフィニカス”は大鎌形態のスライサーフォームへと変形させた。

「無駄ですわよ!」

――ウトゥック――

柄を握っている右手を基点に“バルフィニカス”が凍りついていく。そしてアイルが少し力を加えたことで、バキン、と音を立てて真っ二つにへし折れた。残滓レヴィの攻撃手段の大半が失われた瞬間だった。呆ける残滓レヴィの右手から力が抜けたその瞬間、「力が聞いて呆れますわ」アイルが右手を握り拳にし、残滓レヴィの顔面にパンチ一発。

「ふぐっ・・・!?」

「これにて終幕ですわよ」

何てことはない魔力弾を海面へと向けて発射させ、着弾時に吹き上がった水飛沫を残滓レヴィに浴びせたのを確認したアイルは「エチムミ」一言。残滓レヴィの足元から吹雪の竜巻が発生し、彼女を呑み込んだ。そして竜巻が晴れると、そこには凍りついた残滓レヴィが、氷の茨での拘束魔法――ラマシュテュで宙に繋がれている状態で在った。

「ま、こんなものですわよ。猪突猛進の力など、搦め手で終わりですわ」

凍ったレヴィをコツンとノックするように叩くとそれだけでガシャァンと砕け散った。空に舞う氷の破片をウットリ眺めながら、アイルは風に靡いて顔に当たる後ろ髪をサッと払った。

『あ、アイル。いま大丈夫?』

「大丈夫ではありませんわ、すずか。後にしてくださる?」

そんな時にすずかから通信が入り、アイルは露骨に面倒くさいと言った表情を浮かべた。それでもすずかが『一応、他のマテリアル達にも伝えているんだけど』そう言うと、アイルは「手短にお願いしますわね」と次の残滓発生点へと向かう。

『アイルちゃん。アイルちゃん達の今後についてのことなんだけど。アイルちゃん達って、U-Dを手に入れるっていう目的を果たした後の目標とか無いんだよね・・・?』

「それがなんですの? 我らの目標など、管理局には関係ありませんわ。自由の身となった以上、何者にも干渉されずに済むのですから。好き勝手にさせていただきますわ」

『それが他の人たちに迷惑が掛からないことなら歓迎なんだけど。でも、その為にも住むところとか必要になってくるよね?』

「その先は言わずとも結構ですわ。つまりこう仰りたいのでしょう? 私たちが悪さをしないように目の届く範囲に置いておきたい、と」

ジトッとした流し目でモニターに映るすずかを見るアイル。すずかはわたわたと両手を振って『違う、違う、誤解だよ!』と慌てて訂正する。アイルは深く溜息を吐いて「そうかしら? そもそも私がオーケーを出しても、王は絶対に聞きませんわよ?」と、自分たちマテリアルの行動決定権を持つリーダーであるディアーチェの名を出し、すずか達からの提案を受け入れないと強調した。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

「――へっへ~ん♪ アイルの氷結魔法なんて、ボクには全っ然通用しないよ~だ!」

「ありえませんわ、この私の攻撃が通らないなんて・・・」

消えかけている残滓アイルに向かって勝利のVサインを向けて満面の笑顔を浮かべるレヴィ。とは言っているもののレヴィも余裕で勝ったわけではない。残滓アイルはオリジナルのアイルよりかは魔力出力も低く、実力としてもレヴィよりは弱い。

(あぅ~、ホントは痛かったし危なかった。むぅ、偽者のクセに頭が良いからタチが悪い魔法ばっか使ってくるし)

「このまま消えるなど、律のマテリアルとしてのプライドが許しませんわ。せめて相討ちを・・・!」

残滓アイルが“エレシュキガル”を装着している両手をレヴィへと向け、「ムンム!」とレヴィを囲うように球体状に氷の鏡が10枚と展開。レヴィは「もうこの手は食わないぞ!」と防御力を犠牲にして機動力に優れたスプライトフォームへと換装。

――イガリマ――

残滓アイルより放たれた6発の冷気の魔力弾が、レヴィを囲う氷の鏡の中を高速反射しながら飛び回るが、それよりも早くレヴィは高速移動魔法スプライトムーブで脱出し、「スライサーフォーム!」“バルニフィカス”を大鎌形態へと変形させ、「光雷斬!!」発生している魔力刃での直接斬撃を振るって、残滓アイルを袈裟切りに裂いた。

「こんな・・・!」

今際の言葉は最後まで発せられることなく途切れた。残滓アイルはようやく消滅し、「はぁぁ。アイルみたいにちょっとしつこかった」と首をコキコキ鳴らした。そこに『レヴィ』フェイトから通信が入る。

「おお、オリジナル! なんの用だ?」

『いま戦っていたよね。再起動してから初めて戦いだったから、ちょっと心配で』

「む。ボクがそんな軟なわけがないじゃないか。ヨユーヨユー♪」

フェイトに向かって元気を示すように“バルフィニカス”をぶんぶん振り回す。すると『そっか。うん、それは良かった』とフェイトは安心したという風に微笑んだ。レヴィはそんなフェイトを見て「ボクを心配するなんておかしな奴だな、オリジナルは。敵同士だろ?」と訝しんだ。

『それはもう終わったでしょ。今は協力してる仲間だって私は思ってるよ』

「仲間・・・? まぁ、協力はしてることはしてるし、そう言えなくもない?」

腕を組んで唸るレヴィ。そこに『ねえねえ、レヴィ!』アリシアからも通信が入ると、「お? 姉っ子!」レヴィは独自のニックネームでアリシアを呼んだ。当然『アリシアだってば!』とアリシアは何度目かになる訂正をするが、「いいじゃん、姉っ子。それで? 姉っ子もなんの用?」レヴィは聞きやしない。

『もう。・・・えっとさ、レヴィ達って、U-Dを手に入れた後はどうするつもりなの?』

「この後? そんなの知らないよ。ボクは王様たちの考えに付いてくだけ。ていうか何でそんなことを訊くのさ」

『うん。そのね、何だかんだあったけど、今の私たちは協力中でしょ。だから事件後もずっと仲良くやって行きたいな、って思ってるんだ』

「なんだ、オリジナルはボクらと仲良くなりたいのか? ヘンなことを言うんだな」

『そう? おかしなことはないと思うけど。ちょっと過激だけど、根っこは優しいと思ってるよ、レヴィも、他のマテリアルの子たちも』

『というわけで、もっと仲良くなって、これからも一緒に遊べたらなって思ってるの。だからさ、この事件が終わったらもっとお話ししよう!』

フェイトとアリシアからそう言われたレヴィは「やっぱヘンなの」と呟くだけだった。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

「たかが断片風情が。我らが王――ディアーチェの姿を借りて私の前に現れるなど、不愉快極まりないです。王を騙る無礼者。一片の灰すら残さず、早々と焼滅なさい」

シュテルの表情は変わらず無だが、その声色には明らかに怒りが満ちている。その怒りがそのまま彼女の強さとなり、現れたばかりの残滓ディアーチェを拘束魔法ルベライトで即座に拘束。脱出を試みようともがくディアーチェへと接近したシュテルは、“ルシフェリオン”を砲撃戦モードのブラスターヘッドへと変形させた。

「目障りです。・・・ブラストファイアァァーーーッ!」

ほぼ零距離での手加減なしの火炎砲撃を残滓ディアーチェに浴びせた。残滓ディアーチェは断末魔も上げる事すら叶わずシュテルの言うままに焼滅した。シュテルは「王を見上げることすら許されない塵芥ぶりでした」と吐き捨てた。と、『シュテル、大丈夫だった?』なのからの通信が入った。

「ええ、問題はありません。戦闘と呼べるほどではない、単なる焼却処理でしたから」

『良かった。シュテルって強いけど、それでも復帰してそんなに間もないから心配だったんだけど』

「心配・・・、私がですか?」

心配されたことが不思議だと言うようにシュテルがそう訊き返すと、『もちろんだよ。だって今は一緒に戦う仲間でしょ?』とさも当然だと返すなのは。シュテルは小さく「仲間、ですか。そんな物が得られるとは思いませんでした」と呟いた。

『何か言った? シュテル』

「いいえ。ですがそれにしても、身内の偽者というのがこれほどまでに不愉快、不快感を催すものだとは思いませんでした。なのは、それに他の者たちは、よく我々のような存在を受け入れてくれたものです」

『私は、不愉快だとか不快感なんて無かったよ。まぁはじめて会った時はビックリしたけど。でも違うから』

「違う?」

『うん。シュテルは私の偽者なんかじゃない。確かに見た目はそっくりだけど、ただそれだけ。シュテルはシュテルだよ。この世界でたった1人の、シュテル・ザ・デストラクターっていう名前の女の子♪ 他のみんなもきっとそう思ってるよ』

一点の曇りもなく、なのははそう主張した。するとシュテルは小さく微笑みを浮かべて「ありがとうございます」と礼を述べた。

「やはり貴方たちは面白い方々です。・・・なのは」

『ん?』

「この一件が片付いたら、もう一度私と魔導を交えて頂けますか? 貴方のことをもっと知ることが出来たら、私はきっとさらなる高みへと登れる、そう思うのです」

『うん、もちろん♪ 前回は引き分けだったけど、今度は勝つからね♪』

「ふふ。それはこちらのセリフです。2戦1敗1引き分け。この戦歴を必ず勝ち星で彩って差し上げます」

なのはとシュテル、片や満面の笑み、片や静かなる闘志を燃やす微笑みを浮かべ、次なる残滓の討伐へと向かうために通信を切る。

「では次に参りましょうか。王の覇道、我らの悲願。如何なる者にも、邪魔はさせません。この道程にどんな事象が待ち構えていようとも」

シュテルは決意を新たに、次の残滓発生点へと向かった。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

管理局組、マテリアル達の活躍もあって残滓の発生が集束に向かい始めた頃、それは起きた。砕け得ぬ闇――システムU-Dの再起動が目前となったことで海上一帯の空間が大きく揺らいだ。それを一早く感じ取ったマテリアル達は、震動発生点へとそれぞれ向かい合流を果たした。

「見つけたよ、王様、シュテるん、フラム、アイル!」

その速度を以って一番乗りしていたレヴィが遅れてやって来たディアーチェ達に、宙に浮かぶ赤黒い魔力の球体に指を差してそう教えた。アイルが「あの闇の中で力を蓄えているのですわね」と、僅かに焦りを含んだ声色で発した。

「まずいですね。充填状況はすでに8割超と言ったところでしょうか。作戦を立てた時に考えていた最悪が起きてしまっています。これでは私が用意した第一プランが通用しません」

砕け得ぬ闇の戦闘機能を停止させる制御プログラムが搭載されたカートリッジによる一撃を打ち込み、戦闘機能を強制停止させるという作戦。その第一プランは、マテリアル達だけで行うというもの。
しかしその第一プランも、砕け得ぬ闇の充填率の早さが台無しにしようとしていた。それを聞いたディアーチェが「我ら全基掛かりでもか?」と不服そうに訊くと、「無理ですね。通常戦闘であれば、接近する事すら困難かと」とシュテルは素直に答えた。

「で、ではどうすればいいでありますか?」

「やっぱりオリジナル達が来るのを待つの?」

フラムとレヴィの問い。シュテルはこの最悪のことを想定したうえでの作戦を立てていた。それが第二プラン。管理局組との共闘。ディアーチェは渋々ながらもオーケーを出したが、やはりこれまでのこともあって出来れば共闘などしたくないと考えていた。
共闘反対派はマテリアルのリーダーであるディアーチェを筆頭に、アイルとフラムの3基。レヴィはどっちつかず。シュテルは心が広いため、自分たちの悲願の為には共闘も協力も必要と考えている。ゆえに管理局と協力しての共闘は第二プランだ。もちろん、管理局組にはそのことは伝えてはいないが。

「そうですね。我らが束になろうと、そしていくら策と弄しても、あの子に私の一手が届かないことくらいは予想できていました。その為に私は、なのは達に協力を依頼したのです。王、アイル、フラム。構いませんね?」

「仕方がありませんわ」

「しょうがないであります」

アイルとフラムが折れる中、「・・・我の極大魔法で停止は出来ぬのか?」ディアーチェだけはあくまで自分たちの手だけで幕を引こうとする。ゆえにシュテルは「王、言うことを聴いて下さい」と進言する際のディアーチェの呼び名、王、を使ってそう返した。

「それに王には、来たるべき戦いの為に力を温存して頂かねばなりません」

「来たるべき戦いだと? シュテル、貴様は一体何を考えておる・・・?」

シュテルはディアーチェにハッキリと答えることなく、砕け得ぬ闇の居る魔力球へと視線を移した。そして「今できるのは、後の勝利へと繋がる布石を打つこと」と言って、“ルシフェリオン”の柄をギュッと握りしめた。それに気付いたフラムがほっと小さく息を吐いて、「これ以上の充填を阻止することでありますな」と微笑んだ。その微笑みはどこか寂しげだった。

「っ。・・・ええ。少しでもあの子との力を削ること。それが、私たちに打てる布石」

――ルベライト――

「・・・ま、王の為、今後の私たちの為、ここで布石となるのも良いですわね」

――チェーンバインド――

「「っ!!?」」

シュテルとアイルの拘束魔法が、ディアーチェとレヴィを雁字搦めにした。ディアーチェが「何をする、シュテル、アイル!」そう怒鳴り声を上げる。

「こうでもしなければ行かせてくれませんから」

「何をするつもりなんだよ、シュテるん、フラム、アイル!」

「私たち3基、この身と引き換えにすれば、U-Dの多層防壁の何層かくらいは砕けますわ」

「それに、充填率を下げて弱体化も出来るであります。一石三鳥でありますな」

管理局組を待っている間にさらに充填が進み、本当に手を負えなくなる。そうなる前に、シュテルとフラムとアイルの3基は、砕け得ぬ闇の充填を止め、その身に纏う多層防壁を砕き、自身たちとの戦闘で魔力消費をさせてさらに弱体化をさせようと企んでいるのだ。そう、その身を犠牲にしてまで。当然そんな話を聴いてディアーチェもレヴィも納得いくわけがなかった。

「ふざけるな! そのような自ら捨て石になるような勝手、我が許すとでも思ってか!!」

「そんなのダメだよ! ボクだってそんなの許さないからな! U-Dから受けた破壊と、オリジナル達から受けた破壊とじゃ全然違うんだよ! もしシステム構造自体を壊されちゃったら・・・!」

「そうやって反対されると思いましたので、そのように拘束させていただきました」

「王。そもそも私たちは単なる捨て石になるつもりはありませんわよ。これは意義のある布石。ここで倒れようと、私たちの一手は次に活かされますもの」

「陛下。U-Dを手に入れる事が出来るのは陛下だけでありますゆえ。私たちが行くのであります。レヴィ。運が良かったら完全に消滅はしないでありますから、時を置けばまた逢えるでありますよ」

「あとのことはお願いします。ディアーチェ、レヴィ。行きましょう、フラム、アイル」

シュテル達がディアーチェ達に微笑みかけ、「待たんか!」と言うディアーチェと、「待って!」と叫ぶレヴィを置いて、砕け得ぬ闇へと向かって飛び去って行った。自ら死に行くような真似を黙って見ていることしか出来なかったディアーチェとレヴィは「あああああああ!!」叫び、バインドを砕こうと全身に力を籠める。

「こんなの嫌だ! ボクだけ置いて・・・、置いて行くなぁぁぁぁーーーーーッ!!」

レヴィを拘束していたシュテルとアイルのバインドが砕け散る。バインド破壊プログラムを打ち込んだわけではない。ただ単純に怪力のみで破壊したのだ。肩で息をするレヴィに「レヴィ! 我のバインドも砕け、今すぐ! 共にあの三馬鹿を叱りつけるぞ!」とディアーチェが懇願するかのように怒声を上げる。だが・・・

「・・・ごめん、王様。王様はここに残って」

「なに・・・!?」

「王様はまだ完全じゃない。そんな時にあのU-Dと戦うのは本当に危ないって、ボクにでも解るから」

「っ!! 馬鹿を言うでない! もう一度言うぞ、レヴィ! 今っ、すぐっ、このっ、バインドを破壊しろッ!!」

王であるディアーチェからの命令。レヴィはディアーチェの命令には従うと決めていた。が、「ごめんなさい!」最後の最後でレヴィは王の命に従うことなく、シュテル達の元へと飛び去って行った。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

「あの者――U-Dの力はあまりにも強大過ぎるでありますな」

「ですわね。彼女には自律制御機能がほとんどと言うほどに備わっていませんわ。まるで災厄の闇ですわよ」

「ええ。ですが、だからこそ誰かが守り、導いてあげなければなりません。それを出来る唯一の存在こそが・・・」

「「「我らが王、ロード・ディア―チェ」」」

今後の憂いなく全てを託せるに値する自らの王の名を呼ぶシュテル、フラム、アイル。そしてここで消えることになったとしても、後悔はない、と寂しげに微笑み合った。砕け得ぬ闇との距離が縮まる中、フラムが「サラマンダー、カートリッジスタンバイであります」“タラスクス”に対U-Dカートリッジを装填。

「ケーニヒスベルク、ロードスタンバイ」

「ツェッペリンプログラム、スタンバイ」

シュテルもカートリッジを単発装填し、アイルも“エレシュキガル”に載せたプログラムをスタンバイ。そんな時、「置いて行くなんて酷いじゃないか!」とレヴィが追いついた。レヴィを見たシュテルとアイルが特に驚く。絶対に抜けられないように多重拘束をしたからこそ、抜けられないと思っていたのだ。さらには追いついて来た。驚くなと言う方が無理だった。

「私とアイルのバインドを破壊したのですか・・・!?」

「はぁ。さすがは力を司るマテリアルですわね。もう何も言えませんわ」

「へっへーんだ♪・・・こうなっちゃったらボクも一緒に戦っても良いんだよね!」

「好きにするでありますよ。ほら、レヴィもカートリッジをスタンバイしておくであります」

「よしっ! シャルンホルスト、スタンバイ!」

王の為、王下四騎士が今、砕け得ぬ闇へと戦闘を仕掛ける。四騎士の接近に気が付いたことで魔力球の中に居た砕け得ぬ闇が「何故来たのですか?」と言い、充填プロセスを中断して彼女たちと相対した。

「何故? 決まっているでしょう。救いに来たのですよ」

「救い? 私はそんなの求めてません。私は砕け得ぬ闇。救われる事なんてこれまでも、これからなく、ずっとこのままです」

「ううん、変われる、絶対に変われる。ボクらが、王様が居るから!」

「無理ですよ。もうすぐこの身は完成しますから、変わるにはもう遅すぎます。この身は破壊を齎す為。それこそが、私の生まれた意味です。知っているでしょう? そして誰も私を扱いきれず、私たちを闇の書の底へと沈めたことを」

「もちろん知っていますわ。何せ私たちはこれまであの牢獄のような虚無の中にて共に在ったのですから」

「それを知っていながら、どうして私の前に立とうとするんですか? 私は・・・貴方たちすら破壊してしまうと言うのに。忘れたのですか? 先日、私があなた達の体を貫いたのを」

「そう簡単には壊されないでありますよ。初見とは違い、U-D、あなたの攻撃手段を知っているでありますからな。ですから大丈夫であります。ちゃんと救うであります、我らが、そして我らの王が!」

王下四騎士からの強い意志の籠った言葉にたじろぐ砕け得ぬ闇が、「そんなの戯言、夢物語ですよ。私を救うことなんて、誰にも出来ません。誰にも、私を救うなんて・・・」と、暗に救われたいのだと漏らした。それを確かに聞いた四騎士は顔を見合わせあって頷き合った。

「救えるかどうか・・・」

「試してあげる!」

「そして知りなさいな」

「何事にも終わりがあるということを、であります!」

四騎士がそれぞれデバイスを構えて臨戦態勢に入り、

「サラマンダー!」

「ケーニヒスベルク!」

「シャルンホルスト!」

「ツェッペリン!」

「「「「ロード!!」」」」

対U-Dプログラムを搭載したカートリッジやプログラムを起動させた。そして瞬時に散開し、砕け得ぬ闇の四方を陣取る。先手必勝の一撃必倒。まずアイルが「テスペスト・オブ・エンリル!!」特大魔法を発動。
本来はアイルを護るように発生する吹雪の竜巻が、砕け得ぬ闇を覆い隠すようにして発生。竜巻内に閉じ込められた砕け得ぬ闇へと竜巻裏面から氷の砲弾、剣、槍、と様々な攻撃が次々と撃ち込められる。

「次、フラム!」

「応であります! タラスクス、吹雪の消失と同時に最大魔法であります!」

“タラスクス”が大剣形態のツヴァイヘンダーフォームへと変形させ、背負うような体勢で構えマガジン内のカートリッジを全弾ロードし魔力を上乗せ。さらに周囲に発生褪せた4つの炎の竜巻を刀身に集束させたところで、竜巻の中央付近から炎の翼がバサッと羽ばたき、燃え散らせた。

「ドラッヘン・・・アポカリプスッ!」

フラムが炎の大剣と化していた“タラスクス”・ツヴァイヘンダーを大きく振り下ろすと、大剣を構築していた炎が7つの頭を持った竜型砲撃と化し、砕け得ぬ闇へと向かって行き、直撃した。空一面に咲く劫火の花。

「アイル、フラム! サポートをお願いします! ルシフェリオン、ディザスターヘッド!」

シュテルの“ルシフェリオン”が最大出力を引き出す形態へと変形。爆炎に呑まれたままの砕け得ぬ闇へと「ルシフェリオンバスターA.C.S!」炎の翼を生やした“ルシフェリオン”を突き出して突進。
魄翼で黒煙を払うことでその健在な姿を露わにした砕け得ぬ闇は、自分に突進して来ているシュテルに気付いて攻撃を仕掛けようとした。その時、「させぬであります! アルジンツァン!」半実体化した“タラスクス”の炎の刀身による直接斬撃が、砕け得ぬ闇の怪物の腕と化していた魄翼を裂いて霧散させた。

「させませんわよ! ラマシュテュ!」

さらにアイルの発動した氷の茨13本が砕け得ぬ闇を四肢や胴体、首を雁字搦めに捕えた。その僅かな隙が、シュテルに最大の好機を齎した。“ルシフェリオン”・ディザスターの先端から伸びる半実体化した炎の魔力刃が砕け得ぬ闇の多層防壁の3枚目に衝突。

「無駄です。こんなことをしても・・・私は・・・!」

「今はただ信じていなさいU-D!」

マガジン内のカートリッジを全弾ロードするシュテル。“ルシフェリオン”の炎の翼がさらに大きく、激しく燃え盛る。そしてついにピシッと砕け得ぬ闇の防壁にヒビが入り、甲高い音を立てさせながら砕いた。

「ブラスト・・・ファイアァァァァァーーーーーーッッ!!」

間髪入れずに火炎砲撃を発射したシュテル。至近距離で発射したために爆炎がシュテルをも襲うが、砕け得ぬ闇に比べれば耐火能力は高いため、「レヴィ!」炎の中から高速離脱したシュテルは無事だった。

「・・・・邪魔だ」

抑揚のない声が砕け得ぬ闇から発せられる。それと同時に圧倒的な殺気がこの一帯を覆った。砕け得ぬ闇の心優しい人格が底に沈み、全てを破壊し尽くすがための戦闘人格が発露。

――ヴェスパーレッドモード――

砕け得ぬ闇の色彩が白から赤へと変色する。それと同時、これまでのマテリアルの攻撃で消費していた魔力が徐々に回復し始めていく。唯一の救いは、これまでに砕けた多層防壁は再生されなかったことだ。

――アルゴス・ハンドレッドレイ――

砕け得ぬ闇が魄翼を大きく広げ、そして表面・裏面から途轍もない数の砲撃が全方位に発射された。四騎士の中で最高の攻撃力を有する“力”のマテリアルとしてのレヴィが、トドメの魔法に使う攻撃魔力が臨界点に達するまで待機していた。レヴィの頭上に6基とある雷球が派手に放電を始めた中、彼女に襲い掛かる砲撃。

「わわっ!」

砕け得ぬ闇の砲撃がレヴィに直撃しようかという時、「うおおおおおおおッッ!」レヴィの前に躍り出たフラムが迫り来ていた砲撃へと“タラスクス”・ツヴァイヘンダーを振り下ろした。衝突する魔力剣と砲撃。始めは砲撃を斬り裂いていたがとうとう粉砕され、砲撃がフラムに直撃した。

「「「フラム!!」」」

“タラスクス”を粉砕されたフラムが足場としていた魔法陣より落下。アイルが救出に向かう中、「レヴィ、急いで!」シュテルが大声で指示を出す。そんなシュテルもフラムやアイルに追撃しようとしていた砕け得ぬ闇へ射砲撃を撃ち続ける。が、全く以って通用していない。

――クリムゾンダイブ――

砕け得ぬ闇が不死鳥の如く燃える鳥となり、砲撃を弾きながらシュテルへと突進。砲撃発射体勢だったこともあり「うぐっ・・・ぐぁ・・・!」シュテルはまともに突進を受け、さらに怪物の腕となった魄翼で薙ぎ払らわれた。

「シュテル!」

薙ぎ飛ばされた先には、墜落を続けるフラム、彼女を助けようと降下しているアイルが居た。砕け得ぬ闇はさらに「ジャベリンバッシュ!」魄翼で創った大槍を、フラムの右手を掴み取った直後のアイルへと発射。

「っ・・・あ・・・!?」

大槍は容赦なくアイルの背中に直撃。それでもアイルはフラムの手を離すことなく足元に魔法陣を展開し、そこに2人で倒れ伏した。と、そこにシュテルが墜落。僅か数秒でマテリアル3基が戦闘不能にされた。

「シュテル! フラム! アイル!・・・くっ!」

大切な仲間を討たれても、それでも砕け得ぬ闇へ憎しみの目を向けることはないレヴィ。これが砕け得ぬ闇の意思ではないことも、彼女がこうならないように独りになろうとして居ることも、それが悲しくて辛くて、苦しんでいることも、本当はこんな事をしなくても良いように望んでいることも、知っている、からだ。

「轟雷爆裂!・・・じっとして。今、ボクらが助けるから・・・!」

――雷神封殺爆滅剣――

6基の雷球から雷撃に繋がれた雷剣が6本と発射され、「バレットダムネーション!」砕け得ぬ闇は魄翼表面から魔力弾幕を張る事で迎撃を試みるが、雷剣は器用に弾幕の中を突き進み、砕け得ぬ闇の胴体を貫いた。そして雷剣6本が炸裂。雷撃の爆発が発生し、砕け得ぬ闇を呑み込んだ。

「これで、終わり!」

レヴィはさらにカートリッジをロードし、“バルフィニカス”を大剣形態ブレイバーフォームへと変形させた上で上段の構えを取ったその直後、「ヘカトンケイルフィスト!」未だに続く雷光爆発の中から、握り拳を作った怪物の前腕部が高速で飛来。レヴィは「っく・・・!」ギリギリ横移動することで躱せた。が、それだけでは終わらなかった。

――バイパー――

「っ! うわああああああ!!」

避けた先の足元から魄翼で創られた槍が幾つも突き出しレヴィを襲撃。まともに受けたレヴィが吹き飛ばされ墜落を始める。その下には、シュテル達が今もなお倒れ伏しているアイルの展開した魔法陣が1枚。

「・・・・まだ、まだ・・! せめて・・・!」

弱々しいながらも目を開けたレヴィは、懸命に腕を振るって伸長した魔力剣での直接斬撃魔法・雷刃滅殺極光斬を発動。戦闘不能間近であるにも拘らず反撃してくるとは思いもしなかった砕け得ぬ闇はその一撃をまともに受け、再度雷光爆発に呑み込まれた。そしてレヴィもまた魔法陣へと墜落。シュテル達と同じように戦闘不能となった。

「うぐ・・うぅ、う・・・うわぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!」

雷光爆発が晴れ、砕け得ぬ闇がその姿を現した。両手で頭を抱え込み苦しそうに呻き声や叫び声を上げている。そして何を思ったのか魄翼を無数の針へと変え、それらを倒れ伏している四騎士の全身を貫いた。

「・・・っ? あ、ああ・・・・ああああ・・・!」

砕け得ぬ闇の色彩が白へと変わり、人格もまた元に戻る。そして彼女は、自分が仕出かした破壊の痕跡――四騎士の撃破を目の当たりにしてショックに目を見開いた。小さく「もう、嫌だ・・・こんなの・・・」今にも泣きじゃくりそうな表情を浮かべ、逃げるかのようにその場から飛び去って行った。

「シュテル! レヴィ! フラム! アイル!」

とここで、シュテルとアイルが撃破されたことでようやくバインドから抜けられたディアーチェが魔法陣へと高速で向かい降り立った。今にも消滅しそうな4基に「しっかりせい、しっかりせぬか・・・!」弱々しく、信じられないことに泣き出しそうな声色と表情でそう叱咤した。

「ディアーチェ・・・、U-Dは・・・?」

「貴様らの策が上手く決まり、致命打を受けて逃げ去ったわ!」

本当は違う。致命打とは程遠いダメージしか、与えられなかった。

「へ、へへ・・・やった・・・やっぱしボクはさい・・きょーだ・・・」

「やりました・・わね・・・レヴィ・・」

「さすが・・でありま・・す・・・」

「うむ! よくやったぞ、レヴィ! フラムもアイルも、シュテルもだ! 褒めて遣わす! 胸を張れ」

それを知らないレヴィやフラム、アイルに、ディアーチェは涙声にならないよう努めて、声を張って四騎士を褒めた。そして「すぐに見つけだし、我の支配下に置いてくれるわ!」とディアーチェがそう言うと、「ならば、早く・・・行ってください」とシュテルが先を急かす。レヴィも「うん・・・ボクら・・・いいから・・・」自分たちを置いて行くよう告げた。

「良くはなかろう! 今なら、魔力を補給すれば貴様らもまだ助かる! 待っておれ、今すぐに我が魔力を分け――」

「ダメ、であります・・・それでは・・・陛下が、困るで・・すから」

ディアーチェが魔力を分け与えようとするのをフラムが止める。続けて「です・・わ・・・。それでは・・・U-Dを止め・・・られ・・せんわ・・・」とアイルも拒絶した。そして「ええ・・・、むしろ、逆です」とシュテルが咳き込みながら言う。四騎士が弱々しく手を伸ばし、ディアーチェの手に触れた。

「っ!? おい、貴様ら! 何を、何をしておるか! やめい! 魔力を、貴様らの魔力を我に流し込むな!」

四騎士が取った行動。それは自分たちを構成している魔力の全てを王であるディアーチェに渡すこと。ディアーチェは手を振り払おうとするも、やはり決死の行動を取っている四騎士を邪険には出来ないようで振り払えない。ただ、「頼む・・・やめてくれ・・・」懇願めいた言葉を発することしか出来ない。

「我々はもう・・・この体で・・・戦うことが出来ません・・・」

「だから、陛下に・・・託すのでありますよ・・・」

「私たち・・・の・・悲願・・・そして・・・」

「王様の夢・・・、砕け得ぬ闇を手に入れて・・・ホントの・・王様に・・なる・・こと・・・」

「たわけめが! 王ひとりになんの意味がある! 貴様ら――臣下が居ってこそ、我は王足り得るのだ! 許さぬ、絶対に許さぬぞ、こんな夢半ばで消えることなど! 魔力の供給をやめよ、今すぐ! これは、王命ぞ!」

「申し訳ありませんが・・・王命であろう・・と・・・聴けません・・・」

「王・・・。あなたが王でなければ・・・私たちもまた・・・臣下足り得・・ないの・・ですわよ・・・」

「・・・私たちの力と・・・」

「ボクらの夢・・・王様に・・・全部預ける・・から・・・」

薄らと消えていく四騎士から託された夢・願い・思い、そして彼女らの力と魔力。ディアーチェの「もうやめよ・・・!」という制止も空しく・・・

「一緒に行きましょう・・・、U-Dを・・止めるため・・・に・・・」

「・・・私たちは、共に在る、でありますよ・・・」

「どうかご武運を・・・」

「負けないでね・・・王様・・・」

シュテル、レヴィ、フラム、アイルは消滅した。いや、ディアーチェの内へと流れ、彼女と1つとなったのだ。しかしディアーチェにとってそれは「う、うぅ・・うあああああああああああああ!!!」ひとりとなったことと変わりはなかった。
 
 

 
後書き
ニ・サ・ヤドラ。ブラ。ニ・サ・ボンギ。
今話は全編を通して苦手な三人称視点となりました。そして文字数は久々の1万5千文字を突破。詰め込み過ぎて自分でも何を書いているのか判らなくなってしまって、少々混乱しながら書き上げました。とにかく、次話から決戦です。数話に分けるかと思います。今月中にはエピソードⅡは終わりそうです。長かったぁ・・・。

 
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