ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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アインクラッド編~頂に立つ存在~
第三話 いざこざ
「来ない」
「そうだな」
午前九時。天気は曇り。現在のアインクラッドは〈トネリコの月〉であり、気温はやや肌寒い程度であり一年間で最も爽やかな月である。
しかし、そんな季節の中であっても気分が低調なものは当然いるわけで、今、七十四層の主街区ゲート広場で待ち合わせをしている黒づくめの少年もそのうちの一人である。
「なぁ、帰ってもいいか?」
「ん~、いいけど、後がこわいと思うぞ」
「・・・・・だよな」
「安易に頷いたのがいけなかったな」
そう言ってソレイユは慰めるようにキリトの肩をポンッとたたいた。たたかれたキリトは、ハァと溜息を吐き肩をおとした。
そんなやり取りをしていると時刻は九時十分になっていた。広場には勤勉な攻略組がゲートから現れ、迷宮区を目指して歩いていく。キリトは当てもなくメニューを呼び出し、スキルの上昇具合を確認したりして時間をつぶしていた。対してソレイユは目を瞑り腕を組んで立っているだけで、何かする様子もない。
そして、いい加減我慢の限界が来たのか、キリトが帰って寝ようかな、などと考え出したとき。
「きゃああああああ!よ、避けてーーー!」
という絶叫とともに、通常なら転移者は地面に出現するはずだが、地上から一メートルという空中に人影が実体化し、ソレイユとキリトのほうに突っ込んできた。
「ふむ・・・」
ソレイユが受け止めようと腰を落とす・・・・・が、あっさりと吹き飛んできたものを避けた。
「・・・へ?う、うわああああ」
そして、ソレイユが受け止めると思い気を抜いて後ろにいたキリトは飛来してきたものと激突して床に倒れた。石畳に後頭部をぶつけるが、街中なのでHPが減ることはない。キリトは混濁した意識の中、自分の上にのったままのトンマなプレイヤーの体を排除すべく右手を伸ばし掴んだ。
「・・・・?」
「うっわ~、ずいぶん大胆だね」
「そうだな。朝っぱらからお盛んらしい」
キリトがなにかをしていると、いつの間にか来ていたルナが驚いたような、そして何やら感心している声でソレイユに言った。ソレイユもそれに同意し頷いている。
「や、やーーーーーーっ!!」
その悲鳴とともに再びキリトの後頭部が石畳に叩きつけられた。そして、上半身を起こしたキリトは目の前には、顔を最大級の感情エフェクトで真っ赤に染め、両腕を胸の前でかたく交差させ、言い難い殺気のこもった眼で睨んでいるアスナがいた。それを見た瞬間、キリトはこわばった笑顔とともにやり場のない右手を閉じたり開いたりしながらアスナにむかって口を開いた。
「や・・・・やあ、おはようアスナ」
アスナの殺気が一際強まった――――ような錯覚に陥った。
「あいさつの前に言うことがあんだろ・・・」
「そうだよね・・・」
ソレイユの呆れにルナが同意する。そんなやり取りをしていると、再び転移門が青く発光した。アスナは、はっとした表情で後ろを振り向くと、あわてた様子で立ち上がりキリトの背後に回り込んだ。訳が分からないままキリトも立つ。ソレイユとルナは離れて事の成り行きを見守ろうとしているため少し離れたところにいる。転移門の光が消えるとそこに立っていたのは、昨日アスナにつき従っていた護衛の一人であるクラディールだった。
ゲートから出たクラディールは、キリトと背後のアスナに目を留めると憤懣やるかたないといった様子で口を開いた。
「ア・・・アスナ様、勝手なことをされては困ります・・・」
「・・・めんどくさいことになってきたな」
「・・・そうなんだよ」
クラディールのヒステリックな声を聴いてソレイユとルナはげんなりした様子でつぶやいた。キリトのほうを見ると彼も同じことを考えたのか首を縮こませている。
「さあ、アスナ様ギルドの本部まで戻りましょう」
「嫌よ、今日は活動日じゃないわよ!・・・だいたい、アンタなんで朝から家の前に張り込んでるのよ!?」
「ふふ、どうせこんなこともあろうかと思いまして、私一か月前からずっとセルムブルグで早朝より監視の任務についておりました」
得意げなクラディールの返事に、唖然とするアスナ。そのやり取りを見ていたソレイユは隣で顔を引き攣らせているルナに聞いた。
「・・・なあ、KoBっていつからストーカーまで入団させるようになったんだ?」
「・・・私もそんなの初耳だよ」
「「・・・・・・・」」
二人がそんなやり取りをしていると、凍り付いていた表情のアスナが硬い声で聴き返していた。
「そ・・・それ、団長の指示じゃないわよね・・・?」
「私の任務はアスナ様の護衛です!それには当然ご自宅の監視も・・・」
「ふ・・・含まれないわよバカ」
その言葉を聞いた途端クラディールは怒りといら立ちの表情を浮かべ、キリトを押しのけてアスナの腕をつかんだ。
「聞き分けのないことをおっしゃらないでください・・・さあ、本部に戻りますよ」
抑えがたい何かをはらんだ声の調子に、アスナは一瞬ひるんだ。しかし、アスナをつかんでいたクラディールの右手首を犯罪防止コードが発動してしまうぎりぎりの力でキリトがつかんだ。
「悪いな、お前さんのトコの副団長は、今日は俺の貸切なんだ」
「・・・俺らはいらないってことなのかな?」
「そ、そういう意味で言ったんじゃないと思うよ?」
キリトの台詞を聞いてソレイユがぼやいた。ルナは苦笑いでソレイユに対応するしかなかった。
「貴様ァ・・・」
唸るクラディール。それを見てもキリトはクラディールにいった。
「アスナの安全は俺が責任を持つよ。別に今日ボス戦をやろうってわけじゃない。本部にはあんた一人で行ってくれ」
「ふ・・・ふざけるな!!貴様のような雑魚プレイヤーにアスナ様の護衛が務まるかぁ!!わ・・・私は栄光ある血盟騎士団の・・・」
「あんたよりはマトモに務まるよ」
その言葉を聞いたソレイユとルナは額に手を当てため息をついている。
「ガキィ・・・そ、そこまででかい口を叩くからには、それを証明する覚悟があるんだろうな・・・」
顔面蒼白になったクラディールが震える手でウインドウを呼び出しすばやく操作すると、キリトの視界にシステムメッセージが現れた。
【クラディール から1vs1デュエルを申し込まれました。受託しますか?】
キリトはアスナに視線を向ける。アスナも状況をさっしているのか小さく頷いた。それに驚いたキリトがアスナに問いかけた。
「・・・いいのか?ギルドで問題にならないか・・・?」
「大丈夫。団長には私とルナが報告するから」
その言葉にキリトがうなずき、Yesボタンに触れ、≪初撃決着モード≫を選択した。そしてカウントダウンが開始された。
「ご覧くださいアスナ様!私以外に護衛が務まる者などいないことを証明しますぞ!」
狂喜を押し殺した表情で叫ぶクラディール。クラディールが構えるとアスナが数歩下がり、それを確認したキリトも構える。その周囲にはギャラリーが集まり、歓声が湧く。
クラディールは両手剣を中段やや担ぎ気味に構え、前傾姿勢で腰を落としている。対するキリトは片手剣を下段に構え緩めに立っている。
そして、カウントがゼロになり【DUEL!!】の文字が弾けた。その時すでにキリトは猛然と地面を蹴り、クラディールにせまる。一瞬遅れてクラディールも動き出した。二人の距離が相対的にすさまじいスピードで縮んでいく。大きく後ろに振りかぶられた両手剣からオレンジ色ライトエフェクトを発光しながらキリトに向かって撃ちだされる。しかし、先を取り一瞬早く動き出したキリトの剣は斜めの軌道を描き、黄緑色のライトエフェクトの帯を引きながら、両手剣の横腹に命中した。そして、すさまじい量の火花が散り、耳をつんざくような金属音をまき散らしクラディールの両手剣が爆発じみた派手なライトエフェクトが炸裂してヘシ折れた。
「武器を替えて仕切りなおすなら付き合うけど・・・もういいんじゃないかな」
キリトが武器を右手に下げたまま、背を向けてうずくまっているクラディールにそういうとクラディールは「アイ、リザイン」と言って負けを認めた。デュエルが終了し歓声が響くとクラディールが見物人たちに喚きキリトのほうに向きなおり言った。
「貴様・・・殺す・・・絶対に殺す・・・」
そうつぶやき、ウインドウを操作して新たな武器を取出しキリトに目がけて突っ込もうとしたところで、いつの間にか抜刀していたソレイユの刀が新たに出現させた武器を破壊しクラディールの首元へ突きつけられていた。しかし、いまだにクラディールの瞳には言い表せられないような憎悪が浮かんでいた。しかし、辟易して黙り込んでいたキリトの傍らに、スッとアスナが歩みだし強い口調で言い放った。
「クラディール、血盟騎士団副団長として命じます。本日をもって護衛役を解任。別名あるまでギルド本部にて待機。以上」
「・・・なん・・なんだと・・・この・・・」
幾多の呪詛を吐いていたが、マントの内側から転移結晶をつかみ取ると「転移・・・グランザム」といって消え去った。ギャラリーたちは三々五々散っていき、キリト、アスナ、ソレイユ、ルナだけが広場に残っている。やがてアスナがキリトから一歩離れ、抜け落ちた声でささやいた。
「・・・ごめんなさい、いやなことに巻き込んじゃって」
「いや・・・俺はいいけど、そっちのほうは大丈夫なのか?」
「ええ。今のギルドの空気は、ゲーム攻略だけを優先的に考えてメンバーに規律を押し付けてきた責任があると思うし・・・」
「それは仕方がないと私は思うけどね。逆に言えばあなたがいたからこの期間でここまでこれたんだしさ」
今まで傍観していたルナが会話に入ってきた。アスナはその言葉を聞いて苦笑いを浮かべている。
「・・・ルナはいつもそうだよね。私の意見に賛同することもあれば、反論もしてくる。ギルドの中でも団長に次いでつかみどころのない人だよ」
「それはそうだよ。私は私に正直に生きているだけだもん。そうそう、他人に理解できるものじゃないよ」
「それは・・・そうだね」
そう言ってルナが笑い、それにつられてアスナも頬を緩めた。そこにソレイユとキリトが会話に加わってきた。
「まあ、アスナも息抜きをしたほうがいいってことだよ」
「そうだな、たまには俺らみたいなイイカゲンなのとパーティー組んで息抜きするくらいしたって、文句を言われる筋合いはない・・・と思う」
するとアスナはぽかんとしてついで苦笑いをうかべた。
後書き
更新が遅くなり申し訳ないですorz
なかなか思うようにかけない(汗
また、次話に向けて頑張らなくては・・・
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