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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第百三幕 「フライング・フライ」

 
前書き
実は私、今日が誕生日なんすよ。や、だから何という訳でもないんですが。 

 
 
「どうだ?シャル、セシリア。このアンノウン戦闘機、落とせるか?」

解析映像を見ながらラウラのした質問に2人は神妙な顔つきで返答した。

「1対1なら落とします。ですが、もしこのアンノウンが戦闘を行いつつ再び日本へ向かい始めた場合は・・・時間との勝負ですわね」
「スペック的にも今のリヴァイブだと厳しいから、セシリアか箒じゃないと無理かな。しかも、暴走ゴスペルがいるから話がややこしくなっちゃうんだよね。どうにかゴスペルを引き剥がさないと不確定要素が多すぎるよ」
「ふむ・・・やはり、ゴスペルの動きを抑えるメンバーとアンノウンを撃墜するメンバーに分けねばな」

ラウラは手持ちの情報を吟味する。現状、レーゲンと白式はアンノウンを相手にするには速度が足りない。また、リヴァイブCⅡもあの殺人的速度に対抗するには少々厳しいだろうと本人が認めている。アンノウン撃墜はティアーズと紅椿で決定した。
自分がアンノウン撃墜に参加できないことが不満なのか、はたまたアンノウンがミサイルを使っているのが気になってしょうがないのか、シャルはモニターに映し出されたアンノウンを食い入るように見つめていた。それにしても――このアンノウンは今までに出現した2機と比べても明らかに異質だ。その事に警鐘を鳴らすように、セシリアが口を開く。

「しかし、あのアンノウンが唯の戦闘機には思えません。最悪の場合ですが、ISクラスの防御力を持っていたとしたら――長期戦になりますわ」
「その点については、手が無いでもない。白式の零落白夜程ではないにしろ、紅椿には2つの切り札がある。そのうちの一つならば短期決戦に持ち込むことが可能だろう」
「織斑先生、それはひょっとして姉さんの言っていたあれですか?」

あれ、というのは、束が紅椿を渡しに来たときに漏らしていた『隠し機能』(※ 第九三幕の会話を参照)のことだ。千冬は頷くと同時に少々顔を顰める。

「取り敢えず発動条件は聞き出したが、時間がなかったからどのような隠し機能なのかは知らん」
「アバウトぉー!?何でそれで短期決戦に持ち込めるって言い切ったんだよ千冬姉!?」
「織斑先生だバカモノ。束本人がいけると言っているのだ・・・スペック上はいける筈だろう」
「それはつまり、成功するかどうかは箒さん次第なのでは・・・?」

同じくアンノウン追撃をするセシリアとしてはそんな不確定要素の大きい作戦など御免こうむりたいのだが、流石に『ヴァリスタ』であれを狙い撃ちするのは無茶だろうということも分かっている。既に作戦を吟味するだけの時間も存在しない。

「ゴスペルに関しては私のレーゲン、リヴァイブ、白式の三機がいれば確実に仕留められるだろう。よし、作戦の概要は決まったな、後は細かい所を詰めるだけだ」

難航しているベルーナ救出組とは対極にアッサリ作戦が決まった太平洋組は、さっさと出陣準備に取り掛かった。


(あの歌、また聞こえてくるのかな)


――もしこの刹那の真実を掴みとれるなら――♪

――見えざる啓示を得るだろう――♪


ふと、一夏は戦闘中に聞こえた歌のことを思い出した。八つ当たりと言われればそれまでだが、あれも一夏の集中力を乱した原因ではある。真実と、啓示。その言葉に意味はあるのだろうか。それともただ単にこちらの集中力を乱すためだけの?
あの赤い戦闘機を撃墜すれば、その正体も分かるのだろうか。

――と考えていたその矢先である。

『織斑先生・・・!こちら、簪です・・・!』
「・・・?どうした、なにかあったか?」
『鈴が、お手洗いに向かって・・・帰ってくるのが遅いから、見に行ったら・・・』
「いったら?」
『鈴が、どこにもいないんです!甲龍の反応も、旅館内にはなくて・・・・・・!』
「・・・・・・・・・・・・・・何故そこで凰がいなくなるのだ、クラァァァーーーー!?!?」

といい加減に溜まりに溜まった不満が爆発した千冬は目の前のモニタをごしゃあっ!と音を立てて手刀で真っ二つに両断した。八つ当たりを受けたモニタは「おれ、この仕事が終わったら学園に戻るんだ・・・・・・」とでも言い残すかのようにずるりと崩れる。

「き、教官がご乱心めされた!?」
「ち、千冬姉落ち着いて!」
「結章がいなくなる可能性なら考慮してたがな!?何故そこであいつがいなくなる!?これ以上私の心労を増やすなぁぁぁーーー!!」

バチバチとスパークしながら力なくブランクになるモニタは別に何も悪い事はしていないのだが、しいて言えば千冬が苛立っている瞬間に目の前にいたのが悪いのだろう。設置したのは千冬だが。

これは逆に、鈴は帰ってきた方が命が危ないんじゃなかろうか――千冬以外の全員が内心でそう思った。



 = =



一方で現在大絶賛行方不明中の鈴はというと、彼女は彼女で大変なことになっていた。
というのも――何と彼女は現在空を飛んでいる。高度はざっと500メートルと言った所だろうか。

「ちょちょちょ、ちょっと!?どうなってるのよコレ!?コントロールに異常がないのに何で勝手に動いてるの!?暴走!?」

そう、それは丁度トイレに行こうとした最中の出来事だった。

「うぅ~、もう!待機部屋をもうちょっとトイレに近い所にしといてよね!・・・って、あら?」

突然鈴の意志に関係なく待機状態だった甲龍が起動し、そのまま飛んだ。

以上である。

説明もくそもあったものではないが、とにかく専用ISの甲龍がちっともいう事を聞かないのだ。何度システムチェックを走らせても正常作動中と表示されているし、空を高速で飛んでいるものだからイジェクトも出来ない。通信回線を開こうにも何故かリンクが切断されており、鈴は完全に空中で孤立していた。

しかも――さっきから少しずつ、頭痛が、頭を叩く――

「もう、なんなのよ・・・・・・なんで、こんなに頭・・・ガァッ!?」

この先に敵がいるぞと囁くように、その頭痛がひときわ激しく頭を叩いた。
その痛みたるや凄まじく、最早意識を保てないほどに――




―――契約の刻限来たれり。覚悟ありや?

『・・・・・・まーたアンタなのね』

流石に三度目ともなると心に余裕が生まれるというもので、鈴はその得体の知れない声に胡坐をかいた状態で出迎えた。
結局何を言いたいのか分からなかった1度目と2度目、そしてその最後に垣間見た血塗れの自分。今日こそはこの謎の声と徹底討論をしてその正体を突き止めなければいけない。

もう鈴にはこの声が唯の夢には到底思えなくなっていた。これは確実に何かを知っていて、具体的な力を行使して自分に何かを伝えようとしているとしか考えられない。それに、いい加減にけりをつけたかったところだ。
差し当たってはまず一つ目。

『まず、だけど。甲龍が勝手に動いてんだけど原因知らない?』

――吾が操作している。

『お前かぁぁぁーーーーッ!!!』

犯人発覚である。
暫く全力の咆哮を上げたせいでぜーぜー息を切らしながら、鈴はこの無駄に威厳のあるクソボイス野郎をどうしてやろうかと怒りながら改めて向かい合う。

『夢の世界からからISを遠隔操作できるって、どういう手品を使っているのかしら?』

――五行器が失われし今も、我が念は潰えず。汝と吾は隣り合った存在であるが故、汝の持つ破邪強念を借り、器と同調している。汝等が『ISコア』と呼ぶ器は力を受け止める器として最適であるが故、その程度は容易い。

『容易く操ってんじゃないわよ世界の最高機密を!』

実にオカルティックかつ理不尽である。世界中がいまだに「よく分からないまま使っている」と言っても過言ではないISコアを「操るのはたやすい」とか言ってるせいで鈴の常識はブレイク寸前だった。
また盛大に叫んでしまった鈴だが、一度深呼吸する。この調子ではいつまでたっても話が終わらない。今度こそ聞かなければ。

『・・・で?アタシは今アンタの一方的な都合で、ドコに向かわされてる訳?』

――かつて人造神の神子であった者が、因果の鎖に引き摺られている。絶対運命はそれを妨げんが為、かの者を抹殺し、可能性を閉じんとしている。

『誰の事を言って何所に向かってるのか全然分かんないじゃないの!つまりアタシが言いたいのはね!?』

――人界の守護者として、見極めねばならぬ。汝、契約を交わした者よ。契約の刻限来たれり。

『人の話を聞けや、クラぁぁぁーーーーッ!!』

もはや言葉の壁に一方的に押されている私。というか契約の刻限って何よ。あたしアンタと約束の類をした覚え全くないんだけど。混乱とイライラが最高潮に達した私の心の活火山が大噴火した。

『だ・か・ら!!ハッキリ言ってアンタの言ってることは荒唐無稽支離滅裂前後不覚意味不明なのよ!言ってる事中二病過ぎて聞くに堪えないわよ!!』

前にもいろいろ言っていたが、なんだ新生の閉じられし環とかって。わっかが閉じてるのがそんなにおかしいことか。それともあれか、商品を勝手に押し付けて代金をせびる詐欺師か何かか。幽霊になってまで詐欺師か。

『10文字以内で分かるように意思疎通を図りなさい!!』

―――汝、人界の守護を望むや?

予想外の10文字ぴったりである。しかも内容が端的すぎて余計に訳が分からない。

『わ・・・ワンモアプリーズ?』

―――汝、大禍を退け人界を守護する覚悟有りや?

『さっきより文字数増えたぁ!?』

話はまだ続きそうである。どうもこの謎の声に翻弄されている気がしないでもない鈴であった。




ちなみにその頃現実世界では。

「凰さーん!?りんりんー!!・・・・・・貧乳ーッ!!・・・駄目です先生、本当に意識が無いみたいです!」
『佐藤さん、最後の一つは本人に言わないであげて下さいね?私、未だに時々廊下をすれ違うときに親の仇を見るような目で睨まれるんですから・・・』
「・・・まぁ先生のツインボンバーを見ればしょうがないんじゃないでしょーか?」
《甲龍から”T-αPulse"を検知。該当データ・・・・・・製作者権限でブロックされました》
『レーイチくんがそうなら束さんもお口ブロックだね。・・・・・・オマエにはもとより教える気ないけど』

いらっ。

「・・・・・・あの、あんまりガキみたいな癇癪起こしてると流石の私も怒りますよ?束さん」
『怒ればいいじゃん。その時はオマエが如何にちっぽけで取るに足らない存在か思い知らせてやるよ』
「そうやって自分は偉いですアピールですか?まるで子供の八つ当たりですね、自称十全の天才博士さん」
『私の感情を一般人の尺度で測らないでもらえるかな』
「小難しい理由で取り繕っても本質は変わらないんですよ。知りませんでした?十全の天才の割にはそんな簡単なことも分からないんですね」
『お前・・・!』
「何か?」

(信じがたい事実ではあるが)佐藤さんも人間だ。散々こんな口ぶりで接されれば次第に怒りも湧いてくる。はっきり言ってしまえば佐藤さんの心境は、名前も知らない子供にしつこく絡まれて異様に腹が立っているそれと同じだった。
かくして我慢の限界は堰を切り、一貫して挑発的な態度を取り続ける束と佐藤さんの間に火花が散った。

《お二人とも。これ以上その問答を続けるのは――》
「『レーイチ君は黙ってて』」
《いえ、そう言う訳にも・・・》
「け、喧嘩は駄目ですよぉ・・・・・・?」

ベルーナのいる方面へと鈴が向かっていることを知った佐藤さんが追跡を仕掛けていた。
この二人、大丈夫なのだろうか。そう思わずには入れない真耶とレーイチはため息をついた。
  
 

 
後書き
佐藤さんだって怒る時は怒るのです。 
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