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IS 〈インフィニット・ストラトス〉~可能性の翼~

作者:龍使い
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第三章『更識簪』
  第三十八話『本日は休息日和・駅前編』

「お~、一夏に修夜、久しぶり~! 元気にしてたか?」
五反田食堂の一件から少しした後、俺達は都内にある駅前広場にて、中学時代の旧友である御手洗(みたらい)数馬(かずま)と再会していた。
少し爆発気味の伸び放題な頭に、狐目と細めの下縁眼鏡が特徴的なヤツだ。
背は俺たち四人の中で一番低いが、それでも一応は一七〇センチメールほどある。
「久しぶり、数馬。そっちも元気そうだな!」
「ふっふっふっ、甘いぜ一夏。俺の活力は五十三万だぜっ!」
「はははっ、相変わらずだなお前も~」
俺たち四人は、それぞれが漫画やゲームにそれなりに詳しい。だが数馬は俺たちの中でも、その守備範囲と造詣は突出して広く深い。これに恋愛シミュレーションにでもハマりはじめたら、間違いなく“二次元オタク”の典型になりそうだ。
幸い、まだ現実の女性にモテようとしているだけ、生産性はあるだろうか。
「ところで、……そこんトコはどうなのよ?」
「え?」
挨拶もそこそこに、数馬は一夏の肩に腕を置いて、妙に含んだ言い方で質問をし出した。
「ハハハハッ、とぼけないでくれたまえ。私はすべてお見通しなのだよ、ブラザー」
「いや、だから……」
変なオーバーリアクションの数馬に、一夏の顔が戸惑いの色に変わっていく。
「またまた~、とぼける気かね? 知ってしまったんだろ、“大人の世界”を……」
今度はやけに遠い目で、あさっての方向を見つめる数馬。
「えっと……、数馬、お前さっきから……」
一夏の困惑もMAXに達したと同時に、ついに数馬が本心を爆発させた。

「とぼけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇええっ!! お前ら二人が女の園でウハウハしてんのは分かってんだよ、コンチキショー!! 捨ててんだろっ、もうとっくに散らしてんだろ、男が守るべき“最後の砦”をっ! やってんだろ、やっちゃってんだろ、ぁあっ!? 無垢で純情な女の子たちを、部屋に連れ込んだり、体育倉庫のマットに押し倒したり、夜のプールサイドでハッスルしたり、挙げ句は放課後の教室で人目もはばからずにリビドーしてたりするんだろっ、お前ら色に染め上げちゃってんだろっ、どうなんだぁあっ!?」

一夏の肩を掴み、激しく揺らしながら叫ぶ数馬。
……駄目だコイツ、早くなんとかしないと。
「公衆の面前で……、変なこと喚くな、この馬鹿ぁっ!!」
聞き覚えのある声とともに、数馬が真横へと吹っ飛んでいった。
見れば、濃いピンクのTシャツにホットパンツ姿の鈴が、屈んだ体勢から立ち上がろうとしていた。
鈴にしては、中々にキレイな跳び蹴りだな。
「よう鈴、一年ぶり。マジで帰ってたんだな」
「お久しぶりです、鈴さん!」
「あらっ、蘭じゃんない、久しぶり~! あ、あと弾も」
「俺はオマケかよ、おい……」
自分で蹴り飛ばした数馬を尻目に、鈴は蘭と再会の喜びを分かち合う。
「だ、大丈夫か、数馬……?」
「よ……余裕っス……!」
蹴られた当人は、一夏に心配されながら、尻を突き出して倒れていた。
……さっきのばかりは擁護できないぞ、数馬。悪いが自業自得だ。
「遅れてすまない、みんな!」
「皆さんおそろいのようですわね」
寸劇もそこそこに、今日一番の目的である二人がようやく姿を現した。
「悪いな、箒、セシリア。せっかくの休みに急に呼び出したりして」
「いいさ、私も久しぶりにこっちには来たかったんだ」
「わたくしもの方も、大した予定もございませんでしたし」
食堂での昼食のあと、俺は一計を案じて箒とセシリアに連絡を入れ、急遽この場に呼び出すことにした。
休日の正午過ぎで、急な呼び出しにもかかわらず、二人とも二つ返事で快諾してくれたのには、本当に感謝したい。
「ここが修夜さんや一夏さんたちが育った町なのですね?」
セシリアは周囲を見回しながら、どこか楽しそうだ。
「あぁ、ここ十年で随分と再開発されたから、だいぶ様変わりしちまったけどな」
ISが世に広まって以降、俺たちの町は立地的にIS学園に近いのと、距離的に各周辺地域と中継地点に当たるという理由から、学園へのモノレールが通る駅への直通路線が通された。
それに際してこの駅前を中心に、この町も大々的に再開発され、今では近隣でも有数の商業地域となっている。
「そういえば、今日は拓海や紅耀はいないのか?」
箒は周りを見ながら、くーの姿を探していた。
「あぁ、今日はくーの方に予定があって、あいつは学園の方だな」
今日は一夏と二人だけで、くーは拓海と師匠とともにIS学園に残っている。
先日くーがISをはじめ、諸事の知識に通じていたことを受け、IS学園での本格的な監察が開始されることになった。それを受けてIS適性も少し詳しく調べることになり、今日はその診断の日だ。
ついでにいうと、本音も今日は予定があって来れないと、さっきの連絡で聞いている。
そうした事情を二人に説明していると、
「そこのお嬢さん方!!」
いつの間にか復活した数馬が、無駄にキザな態度で、颯爽と二人の前に登場した。
いきなり過ぎる登場に、箒もセシリアも驚いて目を丸くしている。
……まさか、これは。

「はじめまして、わたくし御手洗数馬と申します。しかし、お二人とも実に素敵だ! 片や美しい黒髪と凛としたその佇まい、片や豊かなブロンドの髪に清楚で気品あるお姿……。花だ、まさに花だ! こんな素敵な女性に巡り合えるとは、まさに奇跡! どうです、よろしければこの奇跡を祝して、今からわたくしめと優雅な午後のティータイムなどを……!」

始まりやがった……。
数馬最大の悪癖、【ナンパ癖】である。
数馬は自分の琴線に触れる女性を見ると、普段見せないような凄まじい速度と身のこなしで行動し、ナンパに走る。そのアグレッシブさは、普段の呑気な数馬とはまったく別人だ。主に、悪い意味で。
いきなりの洗礼に、さすがの箒とセシリアも酷く困惑するしかないらしい。
そんな数馬に対して――
「数馬……」
「へ?」
「ふんっ!」
「ぐへっ!?」
「弾」
「オラァッ!!」
「ぬおぉ!?」
「仕上げだ、鈴!」
「ふんっ!」
「ぐげぇぇっ!?」
こうして俺たちの手で処理されるのが通例となっている。
ちなみに今回は、まず俺が数馬を引き寄せながら腹に一発、次に弾に数馬の膝裏にローキック、最後に跪いた数馬の脳天に鈴が容赦ない踵落としという、数年来でも稀に見るフルコンボである。
「はい、向こうで休んでいようなぁ~」
そうしてくたばった数馬を、一夏が近くのベンチへと引きずっていった。
「とりあえず、ダチが迷惑かけてちまった。ごめんな」
「い……いや、だ……大丈夫だ……」
「す……少し、びっくりしてしましたわ……」
「というか、さっきのは大丈夫なのか? かなり凄まじい攻撃だったような……」
「気にするな、アイツの生命力はゾンビ級だ。すぐに復活するから」
「は、はぁ……」
箒とセシリアは未だに混乱中だ。……まぁ、あのフルコンボを見れば、普通はドン引きだわな。俺たちには日常茶飯事なのだが。
釈明しておくが、むやみやたらに数馬を叩いている訳じゃない。
こうでもしないと、ナンパモードの数馬は止まらないのだ。ちゃんと会話での説得も、やらかした後の注意喚起も徹底してみた。だが懲りるということを知らないのか、そのたびに数馬のナンパ癖はエスカレートしていった。
そして万策尽きかけたあるとき、鈴が堪りかねて蹴り飛ばした結果、少なくとも俺たちの前で、日に何度もナンパに走ることはなくなった。
何とも情けない方法だが、現状これが一番の特効薬なのだ。
「あの、修夜さんが言っていた人たちって……」
「あぁ、この二人と、鈴のことだよ」
茶番が終わったのを見計らってか、蘭が俺の後ろからおずおずと出てきた。
「修夜、その子は?」
「五反田蘭、そこの弾の妹で俺たちの一つ下だ」
「は……、はじめまして、聖マリアンヌ女学院中等部三年生の五反田蘭です!」
「IS学園一年生、篠ノ之箒だ。よろしく」
「同じく一年生、連合王国代表候補生のセシリア・オルコットですわ」
緊張しながら挨拶する蘭を見て、二人とも微笑ましそうに蘭を見る。
「だ……、代表候補生……!?」
「ああ、セシリアはイギリスの代表候補生だ。かなりすごいぞ」
「いえいえ、諸先輩方に比べれば、わたくしめなどまだまだ……」
蘭はセシリアが代表候補生だと聞いて、謙遜するセシリアを見ながら驚いている。
なんというか、圧倒されているようだ。
「へぇ、この子が“ファースト”ちゃんねえ~……」
「ふぁ……ふぁーす……?」
「……お兄」
「あ、いやいやっ、何でもない……!」
横から箒を見に来た弾の失言に、蘭は顔はそのままに小声でドスを利かせ牽制する。
器用なヤツだ……。
「箒、コイツが蘭の兄貴で俺の中学校からのダチの弾だよ」
「え~っと、はじめまして、だな。俺が五反田弾だ、よろしく」
「篠ノ之箒だ、よろしく。……で、さっきのは一体?」
「あぁ、一夏のヤツが言ってたんだよ。幼馴染が二人いるからっていうんで、区別するのに“一番目の(ファースト)幼馴染”っていう風にさ」
「な、なるほど……」
「……でも、それだと一夏さんにとって修夜さんは何番目になるんでしょうね?」
「あ……」
蘭の何気ない疑問に、一同が硬直した。
それは俺も、前々から訊きたかった。
……というか、出会った順番でいうなら俺の方が若干、箒よりも早いはずなんだが。
「まぁ、それは置いておくとして……。電話でも言ったけど、今日は蘭にIS学園のことを色々話してやって欲しい。よろしく頼む」
「それは構わないが、その子と学園に何の関係が?」
一応、軽く事情は話したが、“会ってやって欲しいヤツがいる”という程度の説明だったから、箒の質問も当然か。
「いわゆる“受験希望者”ってヤツさ。本腰を入れて受験するみたいから、まずは学園がどんな雰囲気なのか、在校生から訊きたいって」
「まぁ、それはそれは……!」
「よ、よろしくお願いします……!」
「はい、こちらこそよろしくお願い致しますわ」
かしこまる蘭に対し、セシリアは穏やかに笑いかけていた。
IS学園の面倒なところは、名義上は“高等部”であるため、何より機密保持の観点から、大学のような“オープンキャンパス”が存在しないことだ。
特定の情報に関しては、学園関係者全員に緘口令や、ネットへの書き込みの制限を厳命している。
報道制限も割と厳しい。
拓海が調べたところ、数年前には世間への理解のためにと、学園見学ツアーが組まれたことがあったらしい。だがよりよって、そのツアー客からISを狙ったスパイが摘発され、見学ツアーはそれっきりになったという。ちなみに検挙したのは千冬さんらしい。
まあ、完全にない訳じゃないが……。
「さぁて、立ち話もアレだし、せっかくの駅前なんだから適当にブラつこうぜ」
「それもそうだな」
わざわざ来てもらったわけだし、ここは弾の意見に賛成だ。二人にも駅前周辺を楽しんでもらう。
「それじゃあ、どこに行こうか?」
「うーん……。箒たちは行きたい場所とか無いか?」
「私は特に……」
「わたくしも、こういう場所は初めてですから……」
……いきなり頓挫か。
「じゃあ、とりあえず向こうの商店街でブラブラしない~?」
「ぅわっ、アンタいつの間にいたの!?」
いつの間にか復活していた数馬が、俺たちの輪に割り込んできていた。

相変わらずゴキブリ並だな、このバイタリティは……。
でも、良い提案が出た。
「そうだな、箒も鈴もこの辺りがどう変わったか、まだ見てないだろ?」
「まあ、そうだが……」
「だったら、俺たちがバッチリ案内してあげるぜ、え~っと……」
「箒で構わない、隙に呼んでくれ」
「わたくしも、セシリアでよろしいですわ」
「了解、よろしく箒ちゃん、セシリアちゃん」
「それじゃあ、商店街に向かって出発しますか」
全員が“諾”と返し、俺たちは一路、地元の商店街を目指した。


――――

駅前のロータリーから歩いて五分ほど。
大きな道路を渡ると、目的地であるアーケード式の商店街に到着した。

徒歩時(かちどき)商店街。

随分と気合の入った響きだが、それもそのはず。元は本当に『勝鬨(かちどき)』と書いていたからだ。
名前を変えたのは、駅前開発による大型ショッピングモールの建設に対抗して、商店街を盛り立てる事業の一環らしい。
こんな話を俺が知っているのは、この商店街の組合長は厳さんの店の常連で、厳さんの店をよく愚痴りに来るらしく、それを店を手伝わされる弾が小耳にはさむからだ。
「すごい人ゴミ……」
「さすがに休日だからな」
鈴でも圧倒される人、人、人……。まさに人の川だ。
開発が始まった頃は、ショッピングモールに人を吸われて潰れるとも言われていたが、それどころか以前にもまして活気づいている。
「ここの商店街、こんな感じだっただろうか……?」
「箒ちゃんが驚くのも無理ないかな、開発前はシャッター商店街も同然だったしね」
戸惑う箒に、弾が返答する。
何せ七年だ。俺や一夏たちのように、地元で見てきた人間じゃなければ、この変化に戸惑うのも仕方ないだろう。
「で、どこに行きます? 意外と何でもあるんですよ、ここ!」
蘭の言葉通り、ここでは生活に居るものが大体揃っている。
全長は大体三百メートルほど、その中に六十以上の商店が軒を連ねている。
昔ながらの菓子屋や荒物屋もあれば、ここ数年で入ってきた婦人服店に少しお洒落なカフェもあったりと、新旧入り乱れの様相である。
なかには鍋専門だったり、編みかご専門だったりと、局所的な店も点在している。
かくいう俺の包丁や、厳さんの店の道具もここで揃えたものだ。
「とりあえずブラブラしながら、適当なところで一息入れるってのは?」
「だったら、ここから三分の二ぐらい行ったところに、コーヒースタンドがあるし、そこでよくにゃい?」
まぁ、これは一夏と数馬に賛成だな。
「コーヒー……ですか……」
「あれ、セシリアちゃん、コーヒー苦手?」
「あ、いいえ。紅茶のほうが、好きなので……」
「わ、私も、どちらかと言えば日本茶……だな」
……いきなり手詰まりか。
「大丈夫ダイジョーブ、あそこ紅茶も日本茶も、昆布茶もココアもあるから~!」
待て、それは本当に“コーヒースタンド”なのか……?
でもまぁ、数馬の一言を聞いて、二人とも妥協してくれた様子だ。
「鈴さんは、コーヒー大丈夫でしたっけ?」
「あ、だ……、大丈夫に決まってるじゃない!」
はい、蘭への鈴の答えはダウト。お前は市販のコーヒー牛乳ぐらいしか飲めないだろ。
「とにかく、まずはそこを目指しながらブラブラするか。いつにも増して人が多いから、はぐれないようにな」
「……なんであたしに向かって言うのよ」
「お前と一夏が、一番はぐれそうだからな」
「ちょっと、それどう意味よ!?」
一夏はフラフラして目を離すとどっかに行きそうだし、鈴はこの体格だからな。
「まぁまぁ、とにかくまずは色々と見ながら楽しもうぜ」
一夏が間に入ってきたことで、鈴も不承不承、矛を収めた。
その言葉に押し出されるように、俺たちもにぎわう人の中へと歩き出した。


――――


「あの馬鹿ども、どこに行きやがった……」

少しイラつきながら、弾が辺りを見回している。
言っておいてこれである。
女子たちが和気あいあいとウィンドウショッピングを楽しむ最中、商店街の中央付近で、一夏と数馬がいなくなった。
数馬はある程度放っておいても、勝手に自分から戻ってくる。
問題は一夏だ。
あの馬鹿はフラッと消えた先で道に迷い、そこで“タイミング良く”困っている人間を見つけ、あまつさえ厄介事を請け負い、その処理に俺たちまで駆り出そうとするのが通例なのだ。
仕方なく、女子たちには先にコーヒースタンドに向かってもらい、俺と弾で元来た道を戻っているが、一考に見つかる気配がない。
既に十分以上は歩き回っている。もうすぐ駅側の入口まで戻ってしまいそうだ。
「いたっ、いやがった!」
弾が声を上げて指差した方を見ると、そこには駅側の出口あたりを、キョロキョロと見回しながら歩き回る一夏がいた。
「おい、一夏。何やってんだ、お前は!」
「あ、修夜に弾。悪ぃわりぃ」
「悪いで済むか、馬鹿。いきなり消えたからビックリしたぞ」
俺と弾が怒っているのを見ても、相変わらずの笑顔をこちらに向けてくる。
いつものことだが、どうも調子が狂う。
「実はちょっとこれを、ね」
言って一夏が差し出してきたものは、――財布。革製の長財布で、鮮やかな朱色をしている。留め具にはメッキの飾りが施されていて、見るからに高級そうな感じである。
「どうしたんだよ、これ」
「いやさ、みんながガラス細工の店を見ているときに、女の子が一人、店の前を走って行ってさ……」
一夏が言うには、商店街の中央にあるガラス細工専門店の前を、こじゃれた服装の女の子が走って行き、その子がこの財布を落としたまま駅側へ向かっていったのだという。
「そんなもん……、すぐそばの交番に届ければ良いだろ」
「すぐ走っていけば、追い付けると思って……」
「だったら、ちゃんと一声かけてから行けよ」
「ちゃんとかけたぜ?」
「俺らが返事するまでかけろよ……」
呆れてため息をつく弾に、笑ってごまかす一夏。
「……で、それらしいヤツは見つかったのか?」
「う~ん、シュークリームみたいなツバのついた帽子あるだろ?」
「しゅ……、あぁ、“キャスケット”のことか?」
「それかなぁ。それを思いっきり深く被っていて、ボタンのたくさんついた上着を着ていて、ヒラヒラの学生服みたいなスカートで……」
「……なんだそれ」
「あ、あと、脚は黒タイツで、茶色いブーツは居ていたっけ」
釈然としないながらも、弾は一夏の説明に耳を傾ける。
走り去ったのを見てここまで覚えているとは、なかなかのものだ。一夏の戦闘センスの良さを支える、本人の無自覚な才能の一つだろう。
普段の物覚え悪さも、このくらいどうにかなればいいのだが。
そう思った瞬間、ふと妙な気配が後ろからした。
まるで刺してくるような、強い感覚――。
敵意に近いものを感じ、慎重に後ろを振り向くと……

「……なあ、一夏」
「なんだよ、修夜」
「……お前の言った、『帽子に上着でヒラヒラスカートの黒タイツブーツ』って、もしかしてアレか?」
俺が指した方を二人が見ると、まさに一夏が話した格好とドンピシャな女子がそこにいた。
いた……というか、アーケードを支える太い柱に隠れながら、睨み付けるようにこっちを見つめている。
帽子は目深……というか眉の際まで被り込み、風邪なのか花粉対策なのか、薄ピンクの大きなマスクを口に当てている。
言いたくはないが、どう見ても不審人物にしか見えない。
「そうそう、あの子だよ。お~い、そこの帽子の子!」
一夏が手を振り、帽子の女子を呼ぼうとする。
だが相手は何故か、周囲をキョロキョロと見回し始めた。
「そこの君だよ、柱の陰にいる君!」
弾の一言で、向こうも自分が呼ばれたことに気が付いた――が、なぜか余計に柱の陰に引っ込んでしまった。
「どうしたんだろ……?」
何となくだが、この手合いはもしや……。
「一夏、財布を貸せ」
「えっ、ちょ、ちょっと修夜?」
なかば一夏から奪うように財布を持った俺は、真っ直ぐに柱の陰へと向かった。
対して、向こうは案の定、変に身を硬くしてうろたえている。
目の前まで行くと、帽子とマスクで顔は判りにくいが、ものすごく警戒しているのは雰囲気で察しが付いた。
「これ、アンタの財布だろ。俺の友達が拾ったんだ、ほら」
下手に気を遣うより、こういうヤツには直球を投げた方が賢明だ。
直球を投げられた方は、何故かそのまま硬直。さらに俺の顔と財布を二度見した。
そして……

――ばしん

「……っ」
まるで分捕るようにして受け取ると、まじまじと財布を見て確認する。
一瞬、むっとしてしまったが、ここは抑える。
そして猫背で俯きながら、すこし会釈らしき動きをした、次の瞬間――

――すたたたた

「お、おいっ!?」
突然、女の子は目にも留まらぬ早さで商店街を突っ走りはじめた。
しかもこの人海の中を、まる海流に乗る魚のようにすいすいとくぐっていく。
俺も師匠にしごかれているからアレぐらいはできるが、突然のことに面食らい、追いかけようとしたときには見失ってしまった。
「どうだった修夜?」
「持ち主だった。……けど、どこの誰かはまったく分からなかった」
後ろから寄ってきた一夏たちに事情を話す。
「逃げたって……、よっぽど恥ずかしかったのかなぁ」
一夏の呑気なボケを聞いて、俺も弾もこれ以上ツッコむ気力を無くすのだった。

結局、彼女は何だったのだろう……。


――――

一方、商店街を駅側から三分の二ほど進んだ地点。
昼時を過ぎた辺りで盛況するコーヒースタンドに、女子たち一行が先んじて一息ついていた。
一同は商店街の様子が分かる窓側で、二人用のテーブル三つほど連ね、即席の団体席を作って座っている。
「驚きましたわ、こんな場所でこれだけのお茶が頂けるなんて……」
カップに注がれた紅茶を堪能しながら、セシリアは店の紅茶の品質を称賛する。

『カフェスタンド・IPPUKU』
店はコーヒースタンドのチェーン店の佇まいそのものだが、そこに揃えられたメニューは、もはやコーヒースタンドの範疇を超えていた。
コーヒーの種類や淹れ方はもちろんのこと、豊富に取り揃えられたお茶の数々、多種多様なフードメニューとスイーツ、ソフトドリンクに乳飲料、挙げ句は葛湯に梅昆布茶にしょうが湯まである。

「本当にコーヒーだけでなく、色々あるんだな」
「……色々あり過ぎな気もするけど」
通路側の席で玄米茶を啜る箒と、オレンジジュースを口にする鈴。
(……誰もコーヒーを飲んでない)
その様子を、蘭はセシリアの隣でカフェオレを飲みながら眺める。
「でも、本当によろしかったのでしょうか……」
「いいのよ、いつものことだし。そのうちひょっこりやってくるわよ」
修夜たちより先にお茶を始めたことを気にするセシリアだったが、鈴は気に病むのも面倒な様子で言い放つ。
箒も数馬の行方を気にかけたが、それもよくあることだから放っておけと、鈴はばっさり斬り捨てる。
数馬の言動に思い当たる節があるのか、蘭は思わず苦笑いした。
そんな一同の様子を楽しそうに眺めながら、セシリアがおもむろに口を開いた。
「蘭さんは、やはり修夜さんとはお付き合いも長いのですか?」
その一言に、蘭は思わず口をつけたカフェオレを吹きこぼしそうになった。
「お……、おつ……、お付き合いだなんてっ……!?」
慌てふためく蘭だが、セシリアのほうはそれを不思議そうに見る。
「蘭、セシリアに他意はないから。単に一緒に知り合ってから長いか聞いただけよ」
「ああぁ……、すっ、すみません!」
呆れ気味に溜め息しつつ、鈴が蘭の“早とちり”を諌める。
「あたしも修夜も、弾と蘭とは中学に入ってからすぐだったわね」
蘭は自身の勘違いに赤面している間に、鈴はとりあえず話を先に進めていく。
「あたしは一夏と修夜に弾を紹介されて、そのあと休みの日に食堂に連れていかれて蘭と知り合ったのよ」
「なるほど……」
「普通、商売敵になりそうな店にご飯に誘う方が、どうかしている気もするわよ……」
「なんというか、一夏さんらしいですわね」
「一夏が誘ったのか?」
「一夏以外、誰が誘うのよ」
セシリアの発言を訝しんだ箒だったが、鈴の一言に不承ながら納得してしまう。
「セシリアさんと箒さんは、修夜さんや一夏さんとどういったご関係なんですか?」
「わたくしは、クラスメイトです。最初は少しケンカもしましたが、それ以来はISの訓練を交えながら、楽しくお付き合いさせて頂いてますわ」
「私は小学校に入学してからだ。私も最初は仲が悪かったが、二年生に上がったときに実家の道場でもめ事を起こして、そのとき庇ってもらってから、二人とはずっと一緒だったんだ」
「ちょっと、なにそれ初耳なんだけど」
「わたくしもですわ」
「あ……。実は……、最初の頃は一夏とは剣道の実力を張り合っていて、結構ケンカも多かったんだ……」
少し気恥ずかしそうする箒に、一同が注目する。
「まぁ、そういう鈴さんも、一夏さんにグーパンチしたって聞きましたけど?」
「あっ……、アレは、人のスカートに頭突っ込んできた一夏が悪いのよっ!」
「……なに?」
「まぁ……!」
再びの衝撃発言に、今度は鈴に注目が集まる。
「……っ。あの馬鹿、最初に遇ったときにこけたはずみで、人のスカートに頭突っ込んで来てさ。ちゃんと謝ったから、それだけなら我慢したけど……」
呼吸を置いた鈴の手が、拳を作って力を込める。
「アイツ、人の下着の柄を見て『かわいいパンツだね』とかフザけたこと抜かしたのよ、信じられるっ!?」
「り、鈴さん、声が大きいですわっ……!」
思い出して腹が立ったのか大声になる鈴を、セシリアが慌てて止めに入る。
「まぁ、それはさすがに……」
「擁護の余地、ないですね……」
力無くかぶりを振る箒。蘭も鈴の言動に同情を禁じえない気分だった。
「そ、そういえば、『ISの訓練も』っておっしゃてましたけど、修夜さんって強いんですか?」
話題の転換を図るために、とりあえず蘭はセシリアが触れた話に舵を切る。
その言葉で、場の雰囲気が少し変わった。
「えぇ、お強い方ですわ」
「あぁ、間違いなく」
「ま、中国代表候補の私と張り合おうってんだから、そこそこじゃない?」
皆一様に、修夜の強さを肯定した。
「り、鈴さんも、代表候補生だったんですか……!?」
「あれ、言ってなかった?」
「修夜さんからは、こっちに帰ってきてIS学園に来た、ってくらいで……」
鈴の現状に驚きつつも、皮肉を交えつつ修夜を認めている姿から、蘭は修夜の実力の高さをぼんやりとだが、すごいと感じた。
「そういえば、蘭さんもIS学園への入学をお考えなのですよね?」
「あ……、は、はいっ!」
ここでようやく、蘭の求めていた本題への糸口がやってきた。
言わねば……。
意を決し、蘭は答えを求めて口を開いた。
「あのっ!」
緊張で声が上ずって大きくなってしまったが、一拍置いて気を静める。
「じ、実はその……。皆さんは、どうしてIS学園に入学されたのかなって、思いまして……」
三人の視線が、蘭に集中していく。
「あの、私……。IS学園に、その……、そう、あ……“憧れの人”っていうんですか、そういう人がいて……。その人の近くで……、自分も一緒に……ISが操縦出来たらなぁ……って、思って……」
自分でも代表候補生二人を前に、ずいぶん舐めたことを言っている気がして、蘭の姿は徐々に小さくなっていく。
その様子を、誰も何も言わずに見守っている。
「やっ、やっぱり……、不純……ですよね……?」
沈黙に耐えきれず、俯いて泣きそうになってくる。
多分、叱られる。
そう思ったときだった――

「よろしいんじゃないですか?」

返ってきたのは、なんともあっさりとした明るい答えだった。
その声に弾かれて面を上げると、そこには蘭の予想に反し、あっけらかんとした三人の顔があった。
「事情は人それぞれですし、最初は多少不純であっても、しっかりと目標を持てれば、きっと本物になりますわ」
「大体、うちの入学希望者の三割ぐらいは、千冬さんの追っかけのミーハーよ? 今さら、そのぐらいのこと全然珍しくもないわ」
「私のクラスにも、九州から千冬さん会いたさに入学を勝ち取った子がいたな」
叱責されるどころか、自分の予想を斜め上にいく回答が飛んできた。
「お、追っかけ……?」
蘭は千冬との面識は片手指で足りるほどしかないが、確かに女の自分でもキュンときそうな凛々しさがあったのは覚えている。
そこに加え、元世界王者(ブリュンヒルデ)という貫禄。一戦を退いてから数年が経つとはいえ、自分の学校でも今なお彼女に熱を上げる学友は絶えない。
でも“それだけの理由”で、本当にIS学園やっていけるのか。
「あの、その千冬さんのファンって人は、今……?」
「頑張っているよ。千冬さんに認められようとして、必死に努力している」
「まだISの操縦を覚えてふた月も経ちませんから、上手にとはいきませんが……。それでも目一杯、自分の出来る努力をしていらっしゃいますね」

みんな目標を持って頑張っている――
そう修夜から聞いたとき、蘭はそれがもっとISに対して、高潔で真摯もののように思った。
だが現実は、その斜め上を行っていた。
「動機はどうあれ、必要なことは真剣に取り組むことですわ。それさえあれば、きっと不純な思いも純粋になっていく。わたくしはそのよう思います」
セシリアや鈴は、実際こうしたタイプに当てはまる。
セシリアは“自分の母が遺した高潔さを守り通すため”に。
鈴は“失った幸福な時間をもう一度手にするため”に。
目的は純粋なISへの情熱からは遠いが、その道に傾けた情熱だけは“本物”だ。
彼女たちを強くしたのは、ISとは無縁な心が生み出す“決死の想い”に他ならない。
「要するに、やるからには必死になれってことよ。憧れだろうと、自惚れだろうと、やると決めたらとことんやる。それさえ出来れば、誰も文句なんて言わないわよ」
セシリアと鈴の言葉に、蘭は何か大きなヒントを得た気がした。
「真剣に、とことん……」
自然と、そんな言葉を独語する。
「そうだな、実際私も、ISそのものをあまり好きにはなれなかった。でも、一夏や修夜の真っ直ぐな姿を見ていて、初めてISに正面から向き合おうと思えたんだ」
箒にとって、それは何気ない感慨だった。
「IS……好きじゃなかったんですか?」
「あ、あぁ……」
「じゃあ、どうして箒さんはIS学園に……」
その一言を聞いた瞬間、箒の表情が凍りついた。
「……そういえば、あたしもアンタからそういう話、聞いたことなかったわよね」
「たしかに……。よくよく考えてみますと、聞いてみたことは……」
話の中心点は、蘭から箒へと移った。
だが肝心の箒は、表情を硬くして皆と視線を合わそうとせず、無言のままだ。
「あの、箒さん?」
「ちょっと、何で黙ったままなのよ」
今日会ったばかり蘭でも、学友二人に問いただされる箒の様子は、どこかおかしいものに見えた。
四人の間に、奇妙な緊張感が漂いはじめる。
「あ、あの……、変な質問をしたのだったら、すみませんでした。何か言いにくい事情でも、御有りのようですし……」
普通じゃない箒の様子を見て、蘭は自分の質問を慌てて引っ込める。
それでも四人のあいだにある暗雲は、なかなか晴れようとしない。
「あ、あの、何か注文しません? ほら、丁度おやつの時間も近いですし!」
雰囲気を変えようと、蘭はとにかく話題を振る。
セシリアもそれに乗るように、メニュー表を手に取って品定めをはじめ、和やかな風を装って場を収めにかかる。
ただ鈴は、その雰囲気に応じながらも、棘のある視線を箒に向けていた。
「ほら、鈴さんも、何か食べましょうよ」
鈴の表情を見て、蘭はそこを宥めにかかる。
蘭の行動に、鈴も小さく息を吐いて悋気(りんき)を収め、手元のメニューを覗きこんだ。
「ほら、どれも美味しそうですよね、皆さんは何にします……?」
積極的に明るく振る舞う蘭。ようやく穏やかになってきた、そのときだった。

「じゃあ~、シュガーリングと~、パン耳ラスクでファイナルアンサー?」
一同が、三つ目のテーブルからした声に、思わず注目した。

「ただいま~」
そこには、商店街の中ほどで消えたはずの数馬が、さも今まで一緒に居たかのように座っていた。
「数馬、アンタどこ行ってたのよ!?」
「ちょっと顔馴染みのお店に、顔を出してきたのよ~」
突然帰った来た数馬に驚く中で、鈴だけは特に気にも留めず問いただす。
「あの、いつ頃からいらっしゃったのですか……?」
セシリアが問うと、数馬は少し考えるような仕草をした後、何故か気だるそうに頬杖を付い高と思うと……
「『要するに、やるからには必死になれってことよ』――、ってとこから~」
声色を変えて鈴のモノマネを交えて返答したのだった。
それを見た鈴が、怒って殴りかかろうとするのを、箒と蘭が抑えにかかったのは言わずもがなである。
結局、修夜たちが追いついたのはその十五分後であり、そこには数々のフードメニューを囲む女子たちと、その席の隅っこで財布の中身を見ながらか悲しげにうなだれる数馬の姿があった。
事情を訊ねた修夜たちだったが、本人が調子に乗って「奢る」と宣言した結果、鈴に仕返しされたと聞いて、あまり同情はされなかった。


――――

日も徐々に傾き始めた四時三十分ごろ。
駅の改札前に、俺たちは一同に介していた。
「皆さん、今日は本当にありがとうございました」
「いいえ、わたくしたちも今日は楽しませていただきました。ありがとうございますね」
礼儀正しく頭を下げる蘭に、セシリアが丁寧に応じる。
俺たちが一夏を探しているあいだに、蘭は女子たちからの話で何か得たものがあったらしい。今日会ったばかりで、早速セシリアと親交を築いたようだ。
それに対し、箒の方はどこか影が見える。明るく見せてはいるが、妙な違和感が拭えない。
「それじゃあ、俺たちはそろそろ行くわ」
寮の門限である六時三十分に、余裕をもって間に合おうと思うと、そろそろ電車に乗ってモノレールのある「学園海峡大橋駅」に向かわなければならない。
そして学園のある『IS学園前駅』にも、学生の利用は六時までという時間制限がある。
これを超えると、内申点にモロに響くらしく、場合によっては寮の“罰点”が加算される危険もある。
「また暇があったら遊びに来いよ。何なら、そっちに呼んでくれても……」
「お兄」
「……冗談です」
蘭の一言に射竦められ、小さくなる弾。……懲りろよ。
「でも~、絶対無理ってワケじゃにゃいだろ~。コネとかない~?」
「あのなぁ……」
コネといわれても早々、……あるにはある。あるが、出席簿の角で頭を叩かれるオチしか見えない。
「ご招待したのは山々ですが、学園に一般の方をお招きするには、色々と条件が厳しいものでして……」
「そもそも世界一ISが密集するうちの学校に、ホイホイ人を招き入れて問題が起きたら、どう責任とれっていうのよ」
セシリアと鈴の言う通り、学園で下手に不祥事が起きれば、それはIS学園への信用問題に係わってくる。
まして、ISが盗み出されたなんてあったら一大事だ。あの監獄並の警備を抜けられるとは思えないが、先日の無人機の一件で、学園の万全の警備態勢に落ち度があったことが証明されてしまった。
もう“万に一つ”なんて甘い考えは通用しないだろう。
「でもたしか、二学期になったら自分の知り合いを招待できるとかって……」
「あぁ、【学園祭】や【競技大会】のことだな」
「マジでかっ!?」
IS学園は大きなイベント行事で、外部から人を招き入れることがある。
学園の間口も「天の岩戸」という訳ではなく、一夏の言う二学期のイベントのように年に数回だが、学園への理解を促すための取り組みはしている。これは学園長の方針によるものらしい。
学園祭は文字通り、世間一般でイメージされるものだ。
そして競技大会というのが、体育祭とIS競技を合わせたIS学園でも最大のスポーツイベントである。
特に目玉は『キャノンボール・ファスト』、妨害ありのISのスピードレースだ。
IS世界大会(モンド・グロッソ)で見たことがあるけど、実際に体験できると聞くと、実はちょっと楽しみだったりする。
ともかく、この二大イベントはニュースで取り沙汰されるくらい、注目されている。
「よっしゃあっ、それなら俺にもチャンスがあるってことだな!」
「も~ぅ、お兄ったら……!」
「そのときは、三人とも責任をもってちゃんと招待するよ」
「お前が主催者みたいな言い方するな」
そんなやり取りをしている間に、
次の直通列車が来る時間が差し迫ってきた。
最後にまた会う約束を交わし、俺たちは弾たちと別れ、改札を通って駅のホームへと向かった。


――――

寮に戻ったのは、そこから小一時間ほどだった。
部屋に変えると、くーが俺のベッドで寝ているのを見つけた。
風邪をひくからと起こそうと思ったが、一夏が止めに入り、結局はタオルケットを掛けてやり、晩飯が出来るまで寝かせてやることにした。
少しばかり慌ただしい休みだったが、まぁ、弾たちと久しぶり話せたのは良かった。
次に会えるのはいつか分からないが、そのときにはくーも連れていってやろう。

こうして休日は終わり、また俺は学園生活に戻るのだった。


……新たな、厄介事(ビッグトラブル)が待っているとは、露ほども知らずに。
 
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