エターナルトラベラー
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第十話
次の日。
目が覚める。
俺はあの後ずっと眠っていたらしい。
窓に朝日が差し込み、小鳥の囀りが聞こえる。
ちゅんちゅん
隣りを見るとシーツに包まったソラが。
………
朝ちゅん!?
いや待て俺は何もやってない…と思う。
流石に昨日のあの状況でやるわけないよ…ね?
その時ドアをノックする音が。
コンコン
「えっと、ミスタ・オランだったかしら?タバサから聞いたのだけれど。入るわよ」
そう言って扉を開け中に入ってくるキュルケ。
そして眼に入るのは俺と俺の横でシーツに包まり寝ているソラの姿。
「あら、昨夜はお楽しみだったようで」
「いや!あの」
「ほほほ。支度が出来たらリビングまでおこしくださいね」
そう言ってキュルケは扉を閉め出て行った。
なんとも言えない起床になってしまったが、俺はソラを起こしリビングまで向う。
そこにはサイトの姿は無いがその他のメンバーは集まっていた。
そしてそこになぜか居るマルクス。
近くにいたタバサの聞く話によると昨日の混乱に乗じて逃げ出し、使い魔に乗って方々飛び回りこのキュルケの実家まで追って来たらしい。
運の良いやつめ…
サイトはどうやら持ち直したと言う。
良かった。こんな所で主人公に死なれては困る。
そして始まる状況の確認。
俺とソラは皆から距離を取りなるべく関わらないようにしているが聞き耳を立てる事は忘れない。
俺も現状は気になっているのだ。
「お父様から聞いた話なのだけど」
そう言ってキュルケは話し始める。
昨夜遅くアルビオンの艦隊がトリステインに侵攻した。
トリステイン側には空軍に対応する戦力が不足していたらしい。
トリステイン所有の船は総て焼かれるか奪われるかしていたらしい。
なんじゃそら?
深夜の襲撃であったことと、空を牛耳られた事によりアルビオン軍の侵攻はすでにトリスタニアの王宮にまで及んでいて陥落は時間の問題との事。
恐らく昨日の学院襲撃は貴族の子供達を人質に取りトリステインを陥落させる策のひとつであったのだろう。
つまりこういう事だ。
総てはここに生きてウェールズが居る事が問題だった。
ここに居るウェールズがアルビオン王家没落後ここに匿われ、その後アンリエッタ女王と会っているのかは知らないが、ウェールズの亡骸を使ったアンリエッタの誘拐事件は起こらず、それにより決意するはずだったレコンキスタへの復讐という強い動機がえられず、その結果、アルビオンとの内通者のあぶり出しや錬兵なども後手後手に回り、トリステイン所有の船はことごとくアルビオンの刺客に潰されなすすべも無く侵攻を許してしまったと言う事だ。
「な!それじゃ姫様は?」
「恐らくすでに捕らえられているでしょうね」
と、キュルケが無情に言い放つ。
「アンリエッタ…」
意気消沈のウェールズ。
「助けに行かなきゃ!」
「どうやってよ?」
「どうって…どうにかしてよ!」
「ルイズ少しは落ち着きなさい」
「落ち着いてるわよ!」
キュルケがたしなめるもさらに激昂するルイズ。
「マルクスからも言ってやってよ」
「そうだね…アンリエッタ女王陛下を助け出すにしても情報が足りない、先ずは情報を集めないと」
「あう…」
言ってる事はもっともだが既にアンリエッタを助けたからといって事態が好転するとは俺には思えない。
……認めよう。もはや原作は完全にブレイクしたと。
しかも切欠を作ったのは間違いなくマルクス。
俺は敵意丸出しでマルクスを睨んでいた。
「何かね?」
そんな俺の視線に気づいたマルクスが睨み返してきた。
「いえ、何も」
「何か言いたそうだな?」
俺はその言葉を無視する。
「貴様!」
すると俺を締め上げるべく距離を詰めてくるマルクス。
「ちょっと止めなさいよ」
キュルケが間に入って仲裁する。
「祖国がこんな事になって気が立っているのは解るけど、今は落ち着いて」
「あ、ああ…」
キュルケの仲裁で一応は引き下がるマルクス。
その後ルイズ達トリステイン組はああだこうだ話し合うも結局良い案は浮かばず、時間だけが過ぎていく。
俺はもう付き合いきれないと退出を試みる。
「ソラ」
俺はソラに声をかけると身振りで退出の意思を伝える。
「わかった」
こっそりその場を去ろうとしたのだが、タバサには見つかってしまった。
「待って」
しっかりとマントを握られて放してくれない。
「私の頼みを聞いて欲しい」
……すでに原作乖離は確認している。
このまま進んでタバサの母親が元に戻る可能性は有るのだろうか?
などと逡巡しているとルイズのキンキン声に呼び止められた。
「ちょっと!皆が一生懸命話し合っている時にあなた達は何処へ行こうとしているのよ!」
祖国を救おうとしているのはわかるが、杖も持たない魔法使い数人で何が出来るというのやら…
「いえ、アンリエッタ女王陛下の救出は皆様に任せて、俺達は退出しようかと」
「君は祖国が心配ではないのか!?」
マルクス。原因を作ったお前だけには言われたくなかったぜ。
きっと気づいてないのだろうが。
ダメだ余りの理不尽さに切れそうだ。
「どうして俺達が貴様の尻拭いをしなければ成らない!」
「どういう意味だ」
だがしかし、キレた俺の言葉は止まらない。
「そのままの意味だ。この原因を作ったのはルイズ達にくっ付いて回り話を捻じ曲げたお前だと言っている」
「な!?」
俺の今の言葉で気づいただろうか。
「ちょっと、ミスタ・オラン。どういう事かしら?」
キュルケが俺のその言葉の真意を聞こうと質問してきた。
「知らん。後はそいつに聞いてくれ」
そう言って俺はその場を後にする。
その後ろではルイズ達に問い詰められているマルクスの姿が見えるが知った事ではない。
城門を出て人気が無いところまでフライで飛ぼうとしてソルを起動する。
「その杖は見覚えがある」
未だ着いてきていたのかタバサよ。
「ラ・ロシェールで助けてくれたのはあなた達?」
「あ、ああ」
「フーケの時の銀色のドラゴンも貴方?」
「そうだな」
「そう」
「君に紹介出来ない理由だけど」
俺はそれ以上追及されるのが嫌で話題を変えた。
「エルフなんだよ」
「え?」
「エルフ。解っただろう?そういう訳だ。それじゃ」
そう言って俺達はフライで人の居ないところまで飛び、そこでドラゴンに変身してトリステイン・オラン伯爵領目指して飛び立った。
トリステインを上空から観察する。
あちこちで煙が上がっているのが見える。
こんな展開は俺は知らない。
ルイズ達はこの窮地をどうやって切り抜けるのだろうか?
とは言え一介の学生に何か出来る訳でもないし、俺としては国の命より自分の命が大事。
魔法の使えない平民にしてみればただ単に支配者が変わるだけでしかない。
まあ、貴族でなくなると金銭面で苦労しそうだが…
まあ、しばらくは大丈夫だろう。
小遣いをやりくり…というか貴族としての華美にあまり興味がないため殆ど遣わなかった分を幾つかに分散させて隠してあるし。
もちろんドクターの古屋にもね。
平民なら一生生活するのに困らないくらいはあるさ。
空から状況を確認すると俺はドクターの古屋へと向う。
あそこが一番安全だからね。
精霊と契約しているドクターに敵う奴なんてそう居る物ではない。
ドクターの古屋に着くと俺達は変身を解除して人型になる。
扉を開け、中に入る。
「ドクター」
「ああ、お主たちか。なにやら昨日から風の精霊が騒いでいるが、何かあったのか?」
俺とソラはイスに積みあがっている何だかわからない実験器具のようなものをどけ、スペースを作りながら答える。
「アルビオンが攻めてきたらしい。王城は今頃落ちているだろうよ」
「それは。お主らも他人事ではないのではないか?」
「船が全部やられていたのが痛い。空を牛耳られては勝てる物も勝てないよ。昨日俺達がいる魔法学院も襲われた。王城が落ち、貴族の子供達を人質にされたらもう勝ち目はないだろう。俺は国よりも自分とソラ、あとついでにドクターの命のほうが大事だしね。兄上がいたような気がするが、十年もまともに会っていないんだ、もはや他人だよ」
「そうか」
その時ドアをノックする音が聞こえた。
コンコンコン
「誰だ?私に尋ねてくるような客はお主ら以外には居ないはずだが」
「…あー、もしかして」
コンコンコン
「お主の客か?」
「恐らくは…
ここは森の奥深い、幾らアルビオン軍が攻めてきたとはいえここまで来るほど暇じゃないだろ。てことは…」
ドンドンドン
自ら扉を開けようとはしないが、次第にノック音が大きくなってきた。
「お主が出て来い」
俺は逡巡の後従ってイスを立ち、ドアに近づき、未だノックされ続けているドアを開けた。
ガラ
「…やはりか」
ドアを開けるとそこには予想通りタバサが立っている。
「…お願い」
じっと俺の目を見つめるタバサ。
「アオ、ここまで来ちゃったんだし紹介くらいしてあげれば?頼みを聞くか聞かないかはドクターが決めることだし」
必死なタバサを見かねたソラがそう俺を説得する。
「…はぁ、わかったよ。紹介だけな。とはいえ君が紹介して欲しい人物の家がここなのだが」
そう言って俺はタバサを中に入れる。
シルフィードは外で留守番だ。
「ドクター」
「その子は?」
ドクターは慌ててフードを被り直した。
「ドクターがエルフである事は知っている」
「そうか」
するとドクターは被り直したフードを元に戻した。
あらわになる長い耳。
タバサは一見無表情だがやはり恐れているようだ。
俺はタバサに場所を譲り、ドクターの正面に出す。
「貴方に頼みたい事がある」
って自己紹介も無く行き成り要求からですか!
タバサさん!直球ですね!
「ほう」
「心を狂わせる水魔法薬を解毒する薬が欲しい」
「ふむ」
「貴方なら作れるだろうか」
タバサのその問いに答えるドクター。
「薬の種類にもよるが、恐らく可能だろう」
おお!さすがバグキャラですね。
「お礼はする」
いつも無表情のタバサがいつになく興奮気味に懇願する。
「お礼と言われても私は金品には余り価値を見出していない」
「ならばどんな物なら」
「知識」
「え?」
ありゃりゃ。やっぱりか。
「私はこの世のありとあらゆる事が知りたい。故に知識を求める」
予想外の答えにどうしたら良いか解らなくなってしまったタバサ。
仕方ない…
助け舟を出すか。
原作乖離の原因はマルクスの責任だが、それでタバサが救われないのはいただけない。
原作を知るからの感傷なんだけどね。
「ドクター。その心を狂わせる水魔法薬を作ったのはエルフなんだけど」
「なんと」
タバサは何故そのような事を知っているの?という目で俺を睨みつけている。
「だから人間の魔法使いじゃ解除は不可能。ドクター、俺からも頼むよ」
「お願いします」
俺からの援護を受けたタバサが深く頭を下げ騎士の礼をした。
しばらく黙考していたドクターがその口をゆっくりと開く。
「まさか同胞が人間へと干渉していようとは…わかった。だが今回だけだ」
「だってさ」
そう言って俺はタバサに向き直る。
「ありがとうございます」
そういったタバサはその顔は涙が溢れていた。
「しかし薬を作るのに1週間ほど掛かる。これはどれだけ急かされてもこれ以上短くはならん」
「わかりました。1週間後また来ます。金品でしかお礼は出来ませんが」
もう一度ドクターにあたまをさげたタバサはこちらを向いた。
「貴方もありがとう。この礼は必ず」
「気にしなくても良いよ。薬を作るのはドクターだし」
「それでも」
「そっか。それじゃ貸し1つで」
その言葉にコクンと頷きタバサは古屋を後にした。
キュルケに無断で着いて来てしまったので一度戻り、1週間後また来るようだ。
なにはともあれ、タバサのお母さん、救われるといいね。
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