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第二章


第二章

「野球は阪神だ」
「だよな。やっぱり野球は阪神だよ」
「そこしかないな」
「あと趣味はボクシングとギターだ」
「おっ、御前もギターやるのか」
「あれ好きなのか」
「姉ちゃん達に教えてもらってな」 
 何気に自分の家族関係も話す。
「二人がかりで教えてもらった」
「姉ちゃん二人もいるのか」
「大変だな」
「末っ子なんだよ。それでいつもいじめられててな」
「おいおい、ボクシングしててもかよ」
「いじめられるのかよ」
 彼等は次第に打ち解けていった。何時しか彼は男連中と完全に仲間になっていた。そしてだ。その仲間達からある日奈々の話を聞くのだった。
「へえ、そうなのか」
「ああ、そうなんだよ」
「それがな」
 今日は教室で話をしている。秀典の机でポーカーをしながらだ。そのうえで話をしているのである。
「困ったことにな」
「折角の美人なのにな」
「何かあったのか」
 秀典はふとこう言うのだった。
「それだと」
「かもな。近寄りにくいんだよな」
「どうしてもな」
 仲間達はカードを選びながらそれぞれ話す。それと同時に表情を出すまいと必死になっている。ポーカーで表情を出すことは禁物だ。
 それは秀典も同じだが彼の表情は動かない。その中でのやり取りだ。 
 そこでだ。彼は言うのだった。
「とりあえずそういう娘はそっとしておいた方がいいな」
「ああ、そうだな」
「何があるかわからないからな」
「人の傷口に触れるものじゃない」
 黒い詰襟の学生服で言う言葉は何故か異常に大人びていた。
「そっとしておくのもいいことだ」
「けれどそれを見たらどうするんだよ」
「その時はよ」
「なあ、そうなったらどうするかだよな」
 仲間達はここでこんな話をした。
「その時はな」
「どうするんだ?」
「その時によるな」
 静かに答えた秀典だった。
「その時次第だな」
「その時次第かよ」
「人それぞれだしおまけに時と場合がある」
 これが彼の考えだった。
「だからな。それはな」
「つまり臨機応変か」
「そういうことか」
「ボクシングにしてもだ」
 今度は自分がしているそのボクシングの話もするのだった。
「その都度闘い方を変えないと勝てる勝負も勝てない」
「おっ、出たなボクシング」
「それか」
「そうだ、それだ」
 まさにそれだというのである。
「だからだ」
「何か結構クレバーなんだな」
「そうだよな」
 皆このことにも気付いた。
「しかし矢車の言う通りだな」
「ああ、ここはな」
「じっくり見て臨機応変だな」
 こうして秀典は今は奈々を見ているだけだった。しかしこの話から彼女を意識するようにはなった。そんなある日の雨のことだった。
 部活が終わるとだ。雨だった。
 部室を出てその雨を見て。秀典は表情を変えずに言った。
「傘を持って来てよかったな」
「ああ、鞄の中か」
「そこにあるんだな」
「そうだ」
 同じ学年のボクシング部員達にも答える。部室の前の彼の追っかけの女の子達も今は少ない。残っているのは僅かな数だけである。見れば誰もが傘を持っている。
 
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