戦国異伝
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第百八十二話 山中鹿之介その十
「そしてじゃが」
「本願寺ですな」
「本願寺はここで倒す」
完全に、というのだ。
「その為に備えてきたからのう」
「あれもですな」
「あれさえあればな」
それで、と言うのだった。
「石山も陥とせる」
「それが可能ですな」
「そうじゃ、あれならばな」
必ず、とだ。信長は今も言う。
「陸ではあれを使いじゃ」
「海ではですな」
「そういうことじゃ、手は用意してある」
それを全て、というのだ。
「そのうえで勝つ、戦になるのならな」
「勝たねばならぬ」
「だからですな」
「そういうことじゃ、ここで負ければ天下はまた乱れかねぬ」
それ故にとだ、信長は弟達に述べた。
「御主達にもその力になってもらう」
「及ばずながら」
「我等も」
弟達は長兄である信長のその言葉に応えた、そうしてだった。
織田家は本願寺との和議が切れるのを待っていた、しかしそれはただ待っているのではなかった。それに備えてもいた。
そうした中でだ、義昭はというと。
その天海と崇伝にだ、御所において三人だけで話をしていた。三人以外に周りには誰もいはしなかった。
「銭は用意できたか」
「はい、既に」
「かなりのものが」
「そうか、それならな」
銭のことを聞いてからだ、義昭は二人にさらに問うた。
「兵糧と兵もじゃな」
「兵糧は間もなく多く届きます」
既にとだ、天海が答えた。
「ですから」
「そちらも心配ないか」
「そして兵ですが」
このことは崇伝が答えた。
「一万の兵がです」
「来るのか」
「公方様が兵を挙げると仰れば」
その時にというのだ。
「すぐにでも来ますので」
「そうか、ではな」
「はい、後はです」
「余が言うだけか」
兵を起こすとだ、それだけだと義昭もわかった。
「織田信長をこの手で倒すと」
「左様です」
「そこまで用意してくれたか」
心から信頼する目でだ、義昭は二人の僧達を見て述べた。
「よくやってくれた」
「いえ、これからです」
「大事であるのは」
「これからか」
「左様です」
「これからが正念場ですぞ」
こうだ、二人で義昭に言うのだった。
「織田信長を倒すことは」
「これからです」
「そうか、挙兵してじゃな」
「本願寺、毛利、武田、上杉、北条を従え」
「そのうえで」
「そうじゃな、ではな」
義昭は最早二人の言葉に頷いた、そしてだった。
二人に挙兵の用意を命じた、そのうえで含み笑いと共に述べた。
「あと幕臣達じゃが」
「あの方々ですか」
「そうじゃ、あの者達はもうよい」
こう忌々しげに言うのだった。
「どうせ織田家に入っておるからのう」
「言われてみれば確かに」
「あの方々は」
二人はここではとぼけた、今気付いた様な顔になってみせた。
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