美しき異形達
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第二十五話 幻と現実その十四
「死ぬのはあんたよ」
「そう言うか、やはりな」
「こう言うことはわかっていたわね」
「最初からね。じゃあ私も」
「仕掛けるか」
「ええ、こうした時こそよ」
まさに、というのだ。
「私も切り札を出さないとね」
「貴様の切り札か」
「そうよ、こうしてね」
菫はにやりと口元で笑ってみせた、すると。
周りに霧がかかった、それは相当な濃霧だった。それこそ手を伸ばしてその先を見てもだ、指が見えない位だ。
その中に入ってだ、怪人は言った。
「力か」
「そうよ、私のね」
菫の声だけがする。
「私の力のことは知っているわね」
「幻だな」
「私は武器に力は込められないわ」
幻故にだ、気を使うことは出来るがだ。
「けれどね」
「その力はか」
「この通りよ、貴方の目を眩ませるわ」
「成程な、幻の力を上手く使えばか」
「そうよ、私の居場所はわからなくなったわね」
「確かにな」
怪人もそのことは認めた、もう菫の姿は見えなくなったことをだ。
「もう俺の目には貴様は見えない」
「そうよね」
「しかしだ、目だけではない」
その目を閉じての言葉だ。
「生者の感覚は目だけではない」
「そうよね」
「あらゆるもので感じ取れる、特に気はな」
「第六感かしら」
「それもある、俺の第六感は貴様を確かに捉えている。それにだ」
「触手が伸びているからね」
「無数の触手がな」
それこそ何十メートルもだ。
「貴様の気はもう感じ取っている、だからだ」
「その私に対して」
「触手を向ければいいだけだ、貴様の力は確かに強いが」
それでもだというのだ。
「それだけで俺は倒せはしない」
「そうね、普通ならね」
「普通ならばか」
「私の居場所がわかるって言ったわね」
菫の声だけがだ、濃霧の幻の中で笑っていた。
「確かに」
「そうだが」
「第六感でね、あと他の感覚もあるわね」
「鼻や耳もあるからな」
「そうよね、幻はそうしたものは普通は誤魔化せないわ」
「それが幻の限界だな」
「普通はね」
ここでだ、菫は言葉を笑わせて言ってみせた。
「そうよ」
「普通は、か」
「私の力は普通の幻ではないわ」
幻は幻でも、というのだ。
「そのことを言っておくわ」
「まさかと思うが」
「そのまさかよ。感じる筈ね」
やはり声だけでだ、笑って言う菫だった。
「私を」
「むっ」
怪人は第六感で菫の気を探した、すると。
正面、電車の向かい側に最初からいた気は消えていてだ、真後ろにあった。そして飛んでいるのか上にもだ。
上には幾つかあった、その上の気達を感じ取って言う怪人だった。
「分身か」
「これも幻のうちでしょ」
「そのうちの一つがか」
「さあ、それはどうかしら」
このことはあえて答えない菫だった。
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