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マザコン

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第一章


第一章

                        マザコン
 サリー=レイミーは外見は美人だ。それは間違いない。
 しかも性格もいい。明るく気さくな性格だ。
 そのうえ女子バスケットボールでハイスクールのレギュラーだ。成績も優秀ときた。何処に欠点があるのかわからない。黒く奇麗な髪をショートにして浅黒い肌をしている。しかし顔の彫は深い。アメリカならではの混血の顔であった。
 背が高くすらりとした身体をいつも足の長さが目立つジーンズとシャツで覆っている。とにかくそこにいるだけで目立つ女の子であった。
 そんな彼女だから言い寄る男は多かった。しかしであった。
「ちょっとね。マミーに相談してからね」
「えっ、マミー!?」
「マミーって何だよ」
 皆その言葉に思わず突っ込み返すのが常だった。
「マミーってよ」
「まさか」
「そうよ、マミーよ」
 この場合のマミーは一つしかなかった。それはだ。
「私のね」
「お袋さんって」
「マジかよ」
 そして皆呆れるのだった。これも常だった。
「ハイスクールに通っててか」
「それはないだろ」
「幾ら何でもな」
 これで一気に冷めてだ。それで言い寄るのを止めた。実はサリーは極端なマザコンでいつも母親べったりなのだ。何かあるといつも傍にいる。
 教会でも外に出る時も家の中でもだ。父親そっちのけでいつも一緒にいる。それはまるで一心同体であった。そんな感じで一緒にいるのだ。
 その彼女を見てだ。ハイスクールの男連中は残念な顔で言うのだった。
「勿体ないよな」
「ああ」
「美人で性格もよくて成績優秀でおまけにスポーツ万能」
「凄い能力なのにな」
「それでもな」
 まさにそれでもだった。誰もが無念の顔で言うのだった。
「マザコンっていうのはな」
「しかも何だよ。母猫と子猫みたいだしな」
「学校の登下校でも一緒だぜ」
 その時まで一緒なのである。流石に学校の中ではそうではないがだ。
「あれじゃあ。ちょっとな」
「お袋さんとデートなんてな」
「ああ、絶対に駄目だ」
 流石にそれでもいいという奴はいなかった。親子デートなぞ誰もしたりはしない。それをする位ならしない方がましというものである。
 それでだ。彼等はさらに口々に言うのだった。
「あれだけの娘なのにな」
「参ったな、こういうトラップか?そういう事情があったなんてな」
「あれじゃあ。どうもな」
「ああ、無理だな」
 こうして遂には彼女をそうしたことで声をかける奴はいなくなった。誰もが残念に思うがそれでもだった。マザコンには何も言えなかった。
 そんな中でハイスクールにだ。転校生が来た。それは。
「よお、皆宜しくな」
「ああ」
「宜しくな」
 いきなり気さくなやり取りだった。浅黒い肌に黒い目と縮れた髪である。彫はやや深くはっきりとした二重の目である。明らかにヒスパニックの顔であった。
 その彼がだ。こう名乗ってきたのだ。
「ハイメ=サンターナっていうんだ。宜しくな」
「ハイメっていうのか」
「ああ。メキシカンさ」 
 自分のルーツも言ってきた。明るい笑顔が実に印象的だ。
「メキシカン=アメリカンってやつさ」
「そうか、メキシカンか」
「そういえばそういう感じだな」
「どう見てもな」
「そうだろ?趣味はギターだぜ」
 今度は趣味も言うのだった。
「それと野球な。サボテンも食うぜ」
「完全にメキシカンかよ」
「自分からどんどん言うな」
「あとスペイン語も話せるからな」
 それもできるというのだ。アメリカでは実際のところ英語だけでなくスペイン語もかなり話される。中にはスペイン語しか話せない者もいるのである。
 
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