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魔法少女リリカルなのは~"死の外科医"ユーノ・スクライア~

作者:DragonWill
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本編
  第七話

『アルベルトファミリー壊滅作戦』から三ヶ月が経ち、特に大きな事件もなく、特務6課は今日も訓練に明け暮れていた。




一口に訓練所と言っても、想定される訓練内容によって、使用される訓練施設は異なる。

道場程の広さを持ち、主に陸戦魔導師がクロスレンジの訓練などに使用される第1~4訓練所。かつてエリオとユウが戦い、空戦を想定して使用される、グランド程の広さの第5~7屋外訓練所。機動6課時代にもよく使用された、チーム戦を前提とする大規模訓練に使用され、立体バーチャルシステムまで搭載されている大演習場。そして、射撃魔法や砲撃魔法の訓練に使用される射撃訓練場などがある。

その日、第3訓練所では特務6課ではお馴染みとなりつつあることが行われていた。

「「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」

ガキッ!!ドゴッ!!バコッ!!と音が飛び交い、常人には目に見えぬ速さで繰り広げられる掌打と槍。

そう、エリオとユウの模擬戦である。

「ホワタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタアアアアアアア!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あああああああ!!」

どこかで聞いたことのあるような掛け声が聞こえる気がするが、この際無視しよう。

事の始まりは、ユウの実力を測るために、エリオと行った模擬戦である。

あの模擬戦の後、互いが互いを妙にライバル視するようになり、元来の負けず嫌いな性格もあってか、二人はよくこうして模擬戦を行っていたのである。

その光景は、一見すれば、遊びたい盛りの男の子たちの他愛もない日常。某週刊少年誌のバトルマンガのような「強敵と書いて《友》と呼ぶ」と言う言葉が相応しい、微笑ましい光景だろう。

しかし、その光景に対し、焦りを隠せない人物がいた。

「・・・・・・・・・・ねえ、キャロ」
「・・・・・・・・・・なに?ルーちゃん」

現在エリオに絶賛片思い中のキャロとルーテシアである。重ねていうが、事情を知らなければ、男の子同士の熱い友情に見えたとしても、ユウはれっきとした女の子(、、、)であり、エリオに片思い中の乙女二人にとっては非常に好ましくない状況である。

「・・・・・・・・・・あの二人、最近仲が良すぎない?」
「・・・・・・・・・・良すぎるよね?最近のエリオくん、いっつもユウちゃんとイチャイチャイチャイチャ・・・」
「そっか、見間違いでもなく白昼夢でもなく、やっぱりそっか・・・・・・・・・よし殺そう」

キャロとルーテシアは今にもヴォルテールと白天王を召喚しそうな雰囲気を纏わせていた。

「って、オイ!?この施設吹っ飛ばす気か!?」
「二人とも、とりあえず落ち着くといい」

すぐさま、アギトとチンクが二人を押しとどめたため、被害が出ることはなかった。

「ううう、ルールー。あんなにおとなしくて優しかったルールーはどこ行っちまったんだよ〜」

もはや、アギトは涙目である。キャロもルーテシアも、最初はあんなに心優しく、儚げな少女だったのに、今の彼女たちを見ると、そのような言葉は微塵も思いつかない。恋とは良くも悪くも人を大きく変えてしまうものである。

「だいたい、私が見たところ、あの二人の間に恋愛感情は皆無だろう。だから、二人ともエリオがユウに盗られる心配はいらないと思うのだが・・・」
「そ、そうだよ!?エリオも男友達とつるんでいるようなもんだって!?」

実際、二人の推測はおおよそ合っていた。

気配り上手で紳士的な態度、しかも最近身長が急成長しているため忘れがちになるが、まだ13歳であるエリオは、異性と恋愛するよりも、同性と遊ぶ方が楽しいお年頃なのである。そのため、家庭でも仕事場でも、ずっと女所帯で育ち、同年代の男友達のいなかったエリオが、まるで男友達のように気軽に接する事ができるユウと仲良くなるのは至極当然のことである。

しかし・・・・・・・。

「でも!?最近のエリオ君、いっつもユウちゃんとばっかり一緒にいるんですよ!?」

他の同年代の女の子よりも男女の性の違いに疎く、よく言えば純粋、悪く言えば天然であるキャロには、思春期の男の子であるエリオの気持ちを察してあげることは難しいようである。

「エリオ、私たちにはどこかよそよそしいのに、ユウには違う・・・」

ユウに対するときと、自分たちに対するときの態度の違いから、ルーテシアはエリオから疎外感を感じているようである。

実を言うと、エリオはフェイトの教育により、女の子であるキャロやルーテシアに対しては、優しい紳士的な態度を心掛けていた。しかし、それが逆に二人には、エリオが自分たちに対して、心の壁を作っているように感じてしまったのである。

「頑張ろうね!!ルーちゃん!!」
「うん!!」

キャロとルーテシアが新たな脅威(ユウ)に対して結束を強めていた頃。

ドゴッ!!

何かが地面に叩きつけられる音がした。

慌ててみんなが振り向くと、腕を掴まれたエリオがユウに投げ飛ばされ、背中から地面にたたきつけられていた。

なんとか受け身をとったエリオだが、凄まじい衝撃があったらしく、しばらくは動けないようである。

「オイラの勝ちッスね。これで63戦中31勝29敗3引き分けでオイラの勝ち越しのままッスよ」
「つ、次は絶対に勝つよ!?」
「いーや、次もオイラが勝つッス」

しばらくの間、訓練場には二人の口喧嘩だけが聞こえていた。





「いやー。これはまた面白そうなことになっとるな」

第3訓練所の入り口で、はやてが新しい玩具を見つけた子供のような目で、目の前の光景を眺めていた。

「エリオを取り合うキャロとルーテシアの間に突如として現れた伏兵、ユウ。これまた、トトカルチョが大荒れやな」

現在、特務6課では、密かに“エリオがキャロとルーテシアのどちらと付き合うか”でトトカルチョが催されており、ヘリパイロットのヴァイス陸曹を始めとする多くの男性職員がこのトトカルチョに参加しているのである。

管理局法には日本と違い、賭け事を規制する法律はないため、『賭博罪』になるようなことはない。だが、仮にも警察、もしくは軍としての気質が強い管理局ではあまり表だって賭け事を行うことは好ましくないとされている。(それでも、小金程度の小規模な賭け事なら細々と行われているが)

しかしながら、このトトカルチョは他ならぬはやてが主催しており、更には、三人の仲を進展させようと、あの手この手でキャロとルーテシアを焚き付けては、修羅場の様子を記録して楽しんでいるのだ。

ようするに、『面白ければそれでよし』なのである。

ちなみに、八神家を除く隊長陣やフォワード部隊はこのトトカルチョの存在そのものを知らない。(過保護な某露出狂執務官に知れ渡ると、6課が地獄絵図になるためである)

「主はやて」

エリオたちを眺めていたはやては、唐突に声を掛けられ、後ろを振り向いた。

「どうしたんシグナム?」
「はい。客人が見えましたので、主を呼びに来ました」
「客人?・・・ああ、確か例の・・・」
「はい。今、主の執務室で待たせておりますので、至急お戻りください」
「了解や。ならすぐに戻らないといかんな」

二人は執務室に向かい歩き出した。





10分後、はやては、自分の執務室で客人と対面していた。

「初めまして。時空管理局特務6課の部隊長を務めております八神はやてです」
「初めましてはやてさん。私はシャイロン王国第一王女ファム・アタナシア・オルメス・シャイロン、長い名前ですので気軽に『ファム』って呼んでください」

その客人とは、第87管理世界『バルハーツ』の海洋国家『シャイロン王国』の姫君であった。

「それではファム様、わざわざ一国の姫君が、一体どういった要件で、ここに訪れたのですか?」
「単刀直入に申し上げます。ある違法組織を摘発してほしいのです」
「?」
「私の祖国の情勢はご存知ですか?」
「まあ、ある程度は・・・」

『バルハーツ』のシャイロン王国と言えば、有名な事件がある。

それが、半年前に起こった『シャイロン王国反乱事件』である。

混乱を避けるために管理局が情報規制を敷いてあるため、詳しいことは分からないが、要約すると、ある次元犯罪者が国王の悪事をねつ造し、国民に不信感を抱かせ、反乱を誘発し、国家転覆をはかろうとしたのである。

幸い、国王の悪事がねつ造であることが明るみになると、反乱は瞬く間に終息し、首謀者の次元犯罪者も投獄され、事件は解決した。しかし、反乱の爪痕は凄まじく、いまだに復興作業が続いているのである。

「半年前の反乱そのものは終結したものの、人員や建物に対する被害は甚大。更には、王家に対する、不信感をいまだに持っている人も多く、今の『シャイロン王国』の治安は過去最低と言っていいでしょう」
「そうですね。2年前、JS事件直後のミッドも、地上本部への不信感や、犯罪の増加には、私たちも頭を悩ませました」

真実をありのままに伝えることと、それが相手に信じてもらえることは、必ずしもイコールであると言うわけではない。

ただ純粋に母親の愛を求め、命令に従っていたフェイト。

罪を犯すことでしか主の命を救う方法がないと盲信し、実行したはやての騎士たち。

自らを兵器と呼び、その生き方しか知らなかったナンバーズ。

彼女たちは、過去にやむを得ない事情があって罪を犯した。

裁判では、その事情や、罪を償おうとする姿勢が強く、再犯の可能性が低いことなどが考慮され、実質上の無罪判決となったが、それが罪を免れるためのでっち上げ、もしくは演技だと考える人間はいまだに存在する。

同じように、シャイロン王国の国民の中にも、『投獄された犯罪者は国王の悪事の罪を着せられた』と考えている人間もいるのだ。

疑惑は不信感を呼び、モラルの低下を引き起こす。加えて、復興作業や負傷者の治療などで常に人手不足に陥っているシャイロン王国では、管理局の復興支援だけでは手が回らず、犯罪の発生はいまだに増加し続けているのである。

「ですが、それ以上に深刻な問題が、祖国を蝕んでいます」
「それは一体?」
麻薬(ドラック)ですよ」
「っ!?」
「あの反乱により、人々は多くの物を失いました。失ってしまった過去を忘れたくて、希望を持てない未来から目を背けたくて、一時の快楽に縋ろうと、麻薬(ドラッグ)に手を出す国民が後を絶たないのです」
「なるほど。確かに、麻薬(ドラッグ)ほど怖いものはありませんね。私の故郷がある世界でも、麻薬(ドラッグ)が原因で国が崩壊したという話があります。どれほど優秀な文官でも、どれほど屈強な兵士でも、薬漬けにしてしまえば、木偶同然になってしまいますからね」
「その通りです。何としてでも、全てが手遅れになってしまう前に、迅速な対応を取らねばなりません」
「しかし、どうして我々に?特務6課は古代遺物管理部、麻薬(ドラッグ)などの薬物は危険物管理部の2課が担当しているはずですが」
「実は、正攻法では組織に手が出せない事情があるのです」
「というと?」
「恐らく、この組織の背後には『ルチアーゼ連邦国』が関係しています」

ルチアーゼ連邦国とは、シャイロン王国と海を挟んで隣に位置する、広大な大陸に複数の小国が集まってできた連邦国家である。

「昔からあの国がよく使う手法です。戦争や内乱などで他国の治安が悪化したところで、すかさず大量の麻薬を密輸して、その国の外貨を貪れるだけ貪る。あの国はそうやって力をつけて、周りの国を次々と併合していったのですよ」
「なるほど。さらに悪いことに、バルハーツは『現地統治型管理世界』。その組織が国家ぐるみで秘匿されている以上、摘発は管理局と言えども、正攻法では難しいですね」

ここで、『現地統治型管理世界』と言う言葉について言及しておこう。

通常、管理世界と言うものは管理局が統治しているが、当然のことながら例外も存在する。

それが『現地統治型管理世界』である。管理局の発足以降、新しく発見された次元世界には、一定以上の文明水準を誇り、すでに現地に政府を持っていることもある。そういう世界の場合、元々存在した政府を撤廃し、新たに管理局がその世界を統治しようとすると、大混乱が生じ、最悪、旧政府と管理局との間で戦争が起きかねないため (実際に、時空管理局が発足したばかりの頃、新しく発見された次元世界を強引に統治しようとして、その世界を滅ぼしかけたことがあった) 、現地の政府にそのまま統治させているのである。

『現地統治型管理世界』は管理局の庇護下にありながら、強い独立権を持つため、その世界の政府が内政不干渉を訴えれば、管理局と言えども、迂闊には手が出せないのである。(過去の前例があるため、もしも強引に手を出せば、管理局は多くの次元世界から『侵略者』とバッシングを受ける羽目になる)

つまりは、いかに管理局が明確な証拠を持ち、違法組織を摘発しようとも、ルチアーゼ連邦国が『これは我が国の問題であり、管理局が感知することではない』と主張されてしまえば、内政不干渉とされ、違法組織を摘発できないのである。

この問題を正攻法で解決するには、シャイロン王国とルチアーゼ連邦国による政治的交渉しかない。

しかし、シャイロン王国内に存在する売人をいくら逮捕したところで、それは末端中の末端。大本がルチアーゼ連邦国に存在する組織を壊滅させることはできず、かと言って、交渉で解決しようにも、反乱の影響で国力を著しく欠いているシャイロン王国が、強大なルチアーゼ連邦国にいくら訴えても、取り合って貰えない。

仮に、シャイロン王国内に密輸された全ての麻薬を強制的に回収し、処分してしまえば、それこそ戦争の口実となってしまう。(かつて、中国が清と呼ばれていた時代に起こった『アヘン戦争』のように)

さすがに、そのような事態に陥れば、管理局も介入できる大義名分を得るが、戦争が鎮圧される頃には、すでにシャイロン王国は崩壊しており、国としての機能は完全に失われるであろう。

だからこそ、ファムは自ら、この特務6課に応援を要請しに来たのである。

「だからこそ、私は貴方がたに助けを求めてきたのです。貴方がたは『上層部の承認を待たずに、独自の判断で行動できる部隊』だと聞き及びました。お願いです!?助けてください!?」
「助けたいのはやまやまですが、ファム様は一つ勘違いされております」
「・・・」
「私たちの部隊が独自の判断と権限で行動できるのは『一刻の猶予もない有事のとき』と『広域指名手配犯ジェイル・スカリエッティの関与が認められたとき』の二つのみです。あいにくですが、今回の件はそのどちらにも・・・」
「そう言うと思って、『大義名分』を持ってきました。この資料を見れば、気が変わるはずです」

そう言うと、ファムの目の前にモニターが表示され、ある広告が表示された。

「『大オークション会』?」
「ルチアーゼ連邦国でその組織主催で開催される、非合法の大規模なオークションの広告です。このオークションでは、表の世界では取引できないような品物が流通し、売買されるそうです。そして、このオークションを摘発すれば、組織の上層部の人間や汚職の疑いの強い連邦国の為政者たちを一網打尽にできるでしょう。そして・・・」

もう一つのモニターが表示され、そこには多くの人間の名前が羅列されていた。

「これは、参加者名簿!?こんなのトップシークレットの情報のはず!?一体どうやってこの情報を!?」
「それは私のレアスキルです。シャイロン王国は私の持つレアスキルのおかげで、バルハーツトップの諜報能力を備えております」

ファム・アタナシア・オルメス・シャイロン。そのレアスキルとは『心象写本』。

その能力は『名前を呼んだ相手の表層心理を本に写しとる』と言うものである。

分かりやすく言うと、読書型の読心術であり、これが非常に強力なレアスキルなのである。

どんな人間であろうと、質問した内容の答えを知っていれば、それを反射的に心に思い浮かべてしまうものである。そして、このレアスキルはその思い浮かべた言葉や風景を余すことなく本に転写する。

つまりは、一度相手の名前さえ知ってしまえば、質問するだけで、知っている情報全てを引きずり出すことが可能であり、紙媒体に記録しているため、多くの人間と即座に共有できる優れものなのだ。

似たような魔法として、アコース査察官が使うような『相手の記憶を読み取る魔法』と言ったものが存在するが、そういう類の魔法は『特定の記憶のみをダイレクトに読み取る』ということができないため、新しい記憶から順々に調べていくしかなく、目的の情報を手に入れるのに時間がかかり、その間、常に対象者が反撃してこないように拘束し続ける必要がある。また、相手に魔法で抵抗(レジスト)されると、記憶を読む進行が遅くなるという欠点もある。

しかし、このレアスキルは『質問をする』と言う行為で、対象者の心に思い浮かべる事柄を誘導することで、ピンポイントで欲しい情報を得られる上、転写時間は僅か数秒であるため、抵抗(レジスト)もできない。まさに、諜報の世界では凶悪と言ってもいいレアスキルなのである。

「そ、そんなレアスキルが・・・まさしく『拷問いらず』。査察部の人が喉から手が出るほど欲しがるでしょうね」
「まあ・・・そんなことよりも、ここを見てください」
「そんなことって・・・どれどれ、って!?これってまさか!?」

参加者名簿の名前を見たはやては動揺を隠せず、ファムに聞き返す。

「そう、そのまさかです」
「これは確かな情報なのですか?」
「第一王女である私自身が直接赴いたことこそ、何よりの証拠です」
「分かりました。これなら私たちが動くには充分です。その要請、お引き受けします」
「ありがとうございます。はやて」






モニターの名簿には『ジェイル・スカリエッティ』の名前が表示されていた。
 
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