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魔法少女リリカルなのは~結界使いの転生者~

作者:DragonWill
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無印編
  時の箱庭・中篇

少し話を戻して、なのはたちが庭園に転移する少し前。

「はああ!!」

剛は魔導兵を鬼切で切り裂き、プレシアの元に向かっていた。

瞬動を駆使し、敵対する魔導兵の急所を一瞬で切り裂き疾走するその姿はまるで生きた台風のようでもある。

しかし・・・・。

「!?」

何かに気付いた剛はその足を止める。

そして、天眼の紫の瞳で横道にそれる通路を睨んだ。

「何か収穫はあったのか、小林?」

剛が声を掛けた先にいたのは、剛の部下である小林であった。

「勿論ですよ。他の奴らがプレシア逮捕に動いている間にいろいろ証拠を押収しておきました」
「そうか。・・・・・・何か読み取れたか?」
「そのことですが・・・・・・・」

そして、小林が剛に告げる。

彼女の真意を・・・・・・・・。

「・・・・・・ふう。やれやれ、これで彼女を止める理由が一つ増えたと言うことか」
「無理はしないで下さいよ。あの女、ひょっとすると妹さんに並ぶかもしれませんよ?」
「何とかするさ」





(そう啖呵を切った結果がこのありさまか・・・)

剛は己の浅はかさを自嘲した。

彼とて油断しているつもりはなかったが、年とともに衰える肉体と機動隊から離れていたブランクがこんなところで足を引っ張ってしまったようである。

「さあ、目障りな蠅を潰して続きを急ぎましょう」

そして、プレシアは剛にとどめを刺そうとする。

しかし、その前に・・・・。

「っ!?馬鹿な!?」

今まで襲っていた揺れが唐突におさまった。

プレシアが焦る。

当然だ。

彼女の目的を達するためには次元断層を引き起こさなければならないのだから。

次元震がおさまればそれも叶わなくなる。

『もう終わりです。プレシア・テスタロッサ』

そこにリンディの通信が届いた。





リンディは合流した龍一の補助のもと、結界を構築し次元震を抑え込んでいた。

周囲の所々に龍一の杭が突き刺さり、それが魔法陣を築いていた。

(この子本当に凄い。私の結界を的確にサポートするだけでなく自分の結界でもサポートして相乗効果でこの次元震を完全に抑え込んでいる)

「もう終わりです。プレシア・テスタロッサ」

リンディは龍一の手腕に感心しながらもプレシアに対して通信を行った。

「次元震は私たちが抑え、直に魔導炉も封印されます。そしてあなたの元には執務官が向かっています。守宮警部には善戦しているみたいですが、執務官と二人掛かりなら、さすがの貴女にもなす術はないでしょう」
『・・・・』

リンディの言葉に黙ったままプレシアはモニター越しにこちらを睨みつける。

「忘却の都、アルハザード。彼の地に眠る秘術。そんなものはとうの昔に失われているはずよ」
『違うわ』

リンディの言葉に口を開くプレシア。

『アルハザードは今もそこにある。失われた道も次元の狭間に存在する』
「仮にそんな道があったとして、貴女はそこに行って何をする?」
『取り返すわ。私とアリシアの過去と未来を。取り戻すの。こんなはずじゃなかった世界の全てを!!』

その時、青い魔力砲が部屋の壁を破り、クロノがプレシアの元に現れた。





「知らないはずがないだろう!?どんな魔法を使っても過去を取り戻すことなんかできやしないんだ!!世界はいつもこんなはずじゃないことばっかりだ!!何時だって誰だってそうさ!!」

遅れてフェイトとアルフも到着した。

「こんなはずじゃなかった現実から逃げるか立ち向かうかは貴方の自由だ!!だけど、自分の悲しみにあの娘や他の人間を巻き込んでいい権利なんて誰にもありはしない!!」

そして、フェイトはプレシアの眼前に立った。

無言でお互いを見る二人。

「ゴホッゴホッ!!」
「「「「っ!?」」」」

突然の吐血にその場の全員が驚いた。

「母さん!?」

フェイトが駆け寄ろうとするが・・・。

「何を・・・・しにきた・・・・」

その一言に足を止める。

「消えなさい・・・・・もうあなたに用なないわ」

しかしフェイトは立ち去らず、強い意志を込めて言葉を紡ぐ。

「貴女に言いたいことがあって来ました」
「恨み言でも言うつもり?」
「違います」

その言葉に誰もが息をのみながら聞き入っていた。

「私はただの失敗作でアリシアの偽物で母さんが作り出したただの人形なのかもしれません。アリシアになれなくて・・・期待に応えられなくて・・・」
「フェイト・・・」
「いなくなれって言うのなら、遠くに行きます。でも・・・・・それでも、私は母さんに生み出してもらって、育ててくれた、貴女の娘です。母さんに笑顔でいてほしい。幸福を感じてほしい。例え今までの記憶や私自身の全てが偽物だったとしてもこの想いだけは本物です」
「だから何?今更あなたを娘と思えと?」
「貴女がそれを望むなら・・・私はこの世の全てから貴女を守ります。それは、私が貴女の娘じゃなく、貴女が私の母さんだから!!」

これまでの人生の全ての勇気を振り絞り、自分の胸の内の全てを言葉にして伝えたフェイト。

しかし・・・・・。

「ふふ、ふふふふふ・・・・・・・・・・・・」

プレシアは一瞬だけ驚いた表情(、、、、、)を浮かべたが、直ぐに俯き笑い始めた。

「くだ・・・・らないわ・・・・・」
「え?」
「くだらない。くだらない、くだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらない」

ひたすらそう繰り返すプレシア。

「違う!!断じて違う!!・・・もういい!!消えなさい!!」

そして杖を振り下ろし、ジュエルシードの出力を増幅させるプレシア。

すると、今まで抑えられていた次元震が再び動き出した。





次元震の出力が増し、リンディたちがいた場所も崩れ始めた。

「一刻の猶予もないわね。龍一君、脱出す「先に向かってください!!」・・・へ?」

そう言うと龍一はさらに杭を周囲に放り投げ、十重二十重に術式を組み上げる。

「次元震そのものを抑えるのは無理でも、物理的な崩壊を時間概念に割り込みをかけて遅延させる。これで30分は稼げるはずです。僕は術式維持のために動けませんから今のうちに全員脱出を!!」
「ちょっと待って、どこでそんな技術を?それにあなたの魔力量じゃとてもそんなこと・・・」
「魔力はジュエルシードから漏れた魔力をかすめ取って使ってます。要は地脈や龍脈の応用です。・・・それに、忘れていませんか?これでも僕は守宮の人間ですよ?結界と封印は僕の専売特許ですよ!!」

その言葉に唖然とするリンディ。

しかし、直ぐに龍一の術式に今度はリンディがサポートを掛けた。

「艦長さん!?」
「子供ががんばっているのに私一人で逃げ出せるはずないでしょう?」
「・・・・・すみません」
「謝る必要ないのよ」
『艦長!?』

そこにエイミィも通信が入る。

「エイミィ。他の庭園内にいる全メンバーに緊急避難命令を」
『艦長たちは!?』
「何とか庭園が崩れないように時間を稼ぎます」
『そんな!?でも「いいから急ぎなさい!!」っ!?了解しました!!』





『クロノ君!!艦長たちが崩壊を抑えてくれているから急いで脱出して!!猶予は30分もないよ!!』
「了解した!!」

エイミィからの通信を受けたクロノはフェイトたちを迎えに近寄ろうとした。

しかし・・・・・・。

「「「「「っ!?」」」」」

フェイトの頭上から柱の一部が崩れてきた。

咄嗟の事に、一同は対応できなかった。

ただ、一人を除いて・・・・・。

(動け!!動けよこの能無しが!!)

まるでスロー再生のように感じる中で必死に体を動かそうとする剛。

だが、雷による麻痺とダメージで上手く動かない。

このままでは確実にフェイトを助けることはできないだろう。

しかし、まともな方法ならば無理だが、そうでない方法(、、、、、、、)ならば一応手はある。

当然、かなり自分の肉体にリスクを伴う方法であるため、できれば使いたくはなかったのだが・・・・。

(どうした守宮剛!?お前は奇跡も起こせず(魔法も使えず)、ただ体一つで武力(暴力)でしか物事を解決できない愚か者(能無し)だろうが!!出し惜しみなど神のつもりか!?それしかできぬのに出し惜しみしてあの娘の命を見捨てる気か!?断じて否だ!!)

その瞬間、剛の覚悟が決まった。

リスクが何だ!!

そんなもの、あの娘の命と天秤にかけるまでもないであろうが!!

「ぐ、ぐがぁ!!」

そして、剛は立ち上がり、心臓の上の部分を叩き、気の循環を活性化させた。

中国武術では、この部分は体内の気が循環する経絡が集中する場所であり、気を練り上げる場所である丹田(へその下)の次に重要な場所であると言われている部分である。

活性化した気のめぐりを足掛かりにして、己の意志でさらにそのめぐりを活性化させる。

ここまでなら通常の内功と変わらない。

しかし、剛はその流れを、自壊レベル(、、、、、)にまで更に引き上げた。

「があああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

剛の心音がその場にいた全員に聞こえるほどに高鳴り、髪は紅く染まり全身から紅い蒸気が吹き上げる。

これこそ、内功の奥義とも言える最終奥義『血壊』である。

気のめぐりを自壊レベルにまで引き上げ、身体能力を莫大なまでに増幅させる業である。

当然、リスクも大きい。

要は自動車のエンジンを本来の使用で想定された(、、、、、、、、、、、)以上の出力で常に全開にし続けるようなものである。

エンジンのオーバーヒートや暴発などのようなリスクが非常に高い危険な代物である。

全身から吹き上げる紅い、血の蒸気がその危険性を物語っているだろう。

地球では魔力を動力源に術式を介して発動するものを魔法と呼んでいるため、魔力の運用だけで発動できる気功術は正式には魔法に分類されない。にも関わらず、この血壊だけは魔法でもないのに唯一禁呪に指定されるほどのものである。

そして次の瞬間。

音が消えた。

「・・・・・・・へ?」

気が付けば、フェイトは剛の腕に抱かれ柱が落ちた位置から大分離れた場所にいた。

「大丈夫かい?」
「あ、ありがとうございます」

そう。

今の一瞬で、瞬動も駆使し、音速を圧倒する速度で動いたのである。

血壊の使用中は肉体の物理限界を無視し、音速駆動を軽くこなせるのである。

「少し待っててくれ。必ず君のお母さんを連れて帰ってくる」

そして、剛はプレシアに向き合う。

「私の邪魔をするなああああああああああああああああああ!!」

魔力をチャージし始めるプレシア。

しかし、剛の顔には笑みがあった。

それは恐らくプレシアでも気づいていないことであろう。

魔法を無意識レベルで行使できる大魔導師故かもしれない。

彼女がフェイトの頭上に柱が倒れた時に、その柱に向けて砲撃の術式を組み立てていた(、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、)のを剛は天眼で見ていたのだ。

極限状態では人間の本性が現れると言うが、要はそれこそがプレシアの本性なのである。

「はあ、はあ。はは、はははははははははははははは!!」

彼は笑みを浮かべ鬼切を構えた。

タイムリミットは残り30分。

さあ、最後の戦いだ。
 
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