| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

サラリーマンの願い

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第六章

「魔物にケンタッキーのおっさんってな」
「二つもいるのですね」
「どっちも滅茶苦茶強いからな」
 少なくとも下級悪魔の彼ではてんで勝負にならないレベルだ。
「ちょっとやそっとじゃな」
「優勝出来ませんか」
「ああ、滅茶苦茶難しいな」
 見えている者の言葉だ、そうした存在同士であるからこそ。
「不可能じゃないにしてもな」
「ではこれからもお願いしますね」
「個人のことはささやかに願って大きなことはか」
 世界平和なり阪神の優勝なりだ。
「あんたは願うんだな、それに契約も難しい」
「女房同席なら」
「いいさ、もう」
 諦めた言葉だった。
「それじゃあな」
「いいとは」
「ああ、こっちの言葉だよ」
 悪魔のそれである。
「あんたのことはわかったさ、もういいよ」
「そうですか」
「また機会があれば会おうな」
 やれやれといった顔でだ、リドルはサラリーマンに言った。
「その時には今よりも侘しい状況じゃなくなってくれよ」
「賑やかにですか」
「ああ、願いごとが適ってな」
「せめてお給料位は」
「全くだよな」
 笑ってだ、リドルはサラリーマンに背を向けてだった。
 その背中を向けたまま歩いて手を振ってその場を後にした、サラリーマンは彼と別れた後で一人で家に帰った。
 リドルはサラリーマンと別れてから魔界に戻って仲間達に彼との会話を全て話した、そして強いラム酒をあおりながら言った。
「やれやれだぜ」
「ああ、その話を聞いたらな」
「俺達もそう思うぜ」
「実際にな」
 仲間達も飲みつつ答える。
「しょぼくれたおっさんだな」
「小さくまとまっててな」
「それでいて善人でな」
「どうにも憎めないけれどな」
 こう話していくのだった。
「それで契約しようにもな」
「それがよくわかってなくてな」
「何だかんだで契約にならないんだよな」
「ああいう手のおっさんは」
「日本のおっさん連中は」
「これが日本人全体だからな」
 リドルは苦い顔でラム酒を飲みつつまた言った。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧