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第一章

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 土御門悠来は三十歳になっても格好いいと言われている、鋭い輝きの鳶色の目に細面の引き締まった顔、肌は白めだ。
 鼻の形も整い眉も細く格好いい、口元はきりっとしていて黒髪をショートの感じにしている。
 背は一八〇程で毎日走っている為贅肉もない、ルックスはかなりのものだ。
 それで仕事はデザイナーだ、インテリアデザイナーとして仕事もある。
 その彼にだ、同じ職場の若宮愛生一七〇程の長身で髪の毛を茶色くしてショートにした娘がにこにことしてこう言ってきた。
「土御門さんこんなお話知ってます?」
「またいきなり言って来るな君って」
「それが私ですから」
 その垂れ目の顔でやや大きな口から八重歯まで見せて笑顔で言う愛生だった。
「ですから」
「そう言うんだな」
「はい、それで知ってますか?」
「いきなり言われてわかるか?」
「やっぱりわからないですよね」
「そうだよ。それでどうしたんだ」
「ヒトラーのお話ですけれど」
 いきなり濃い人物の話だった。
「あとスターリンも」
「独裁者か」
 どちらもだ、それこそ誰もが知っていることだ。
「俺は独裁者になんかなりたくないぞ」
「デザイナーですよね」
「美大には行ってないけれどな」
 ヒトラーが落ちたそこにはだ。
「芸術大学に通ってたよ」
「大阪芸術大学でしたね」
「そうだよ、そこだったよ」
 それで今は大阪の事務所にいるのだ、生まれは神奈川だが。
「だからヒトラーじゃないからな」
「スターリンでもないですね」
「そんな物騒な連中にはならないよ」
「じゃあ将軍様にも」
「何であんなアホな独裁者になんねん」
 神奈川だが思わず関西弁が出てしまった、住んで長いので。
「あんなのに絶対になるか」
「けれど土御門さん煙草お嫌いですよね」
 ここでだ、愛生は悠来にこんなことも言って来た。
「そうですよね」
「ああ、昔からな」
「ヒトラーも煙草嫌いだったんですよ」
「それで菜食主義者で酒も飲まなかったらしいな」
「あっ、ご存知ですか」
「結構有名だろ。ヒトラーは私生活は真面目だったんだ」
 趣味は音楽鑑賞と読書だった、音楽はワーグナー等クラシックを愛しかなりの読書家でどんな難しい本も読破出来たという。女性の話もなかった。
「私人としては責められるところはなかったんだ」
「そうだったみたいですね」
「スターリンは私生活でも暴君だったらしいけれどな」
「そのヒトラーやスターリンですけれど」
「どうしたんだ?独裁者連中が地獄から蘇ってきたのか?」
「何か色鉛筆を使ってたらしいんですよ」
 愛生が話すことはこのことだった。
「どちらも」
「色鉛筆?」
「赤とか青とか緑とか」
「それはまたどうしてなんだ」
「何か色々書く用途や相手で使い分けていたみたいです」
「自分でわかりやすくする為にか」
「そうみたいですね」
 どうやら、というのだ。
「どっちの独裁者も」
「敵とかをその色で書いて識別していたんだな」
「ええ、多分」
「成程な、どっちも敵だらけだったからな」
 ヒトラーもスターリンもだ、特にスターリンは粛清を繰り返しあまりもの敵の多さに内心常に警戒していたという。
「そうして自分でわかっていたんだな」
「そうだったみたいですよ」
「そうだったんだな、ところでな」
 悠来はここまで聞いてからあらためて愛生に問うた。
「何でそのことを俺に話したんだ?急に」
「いえ、何となく」
 やはり笑って言う愛生だった、悠来の前でその長身をやけに動かしつつ話す。 
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