コート
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第二章
「それが何かわからないけれど」
「そうなんだね、じゃあね」
「それじゃあ?」
「冬まで、いや冬になっても」
それでもというのだ。
「考えたらいいよ」
「そうしたらなのね」
「そう、とりあえず今夜はね」
「ええ、今夜はね」
「ポトフで温まろう」
温かいそれを食べてというのだ。
「そうしよう」
「そうね、まずは」
「あとはサラダに」
「お魚をムニエルにしてね」
そして、とだ。二人で話していく。
「今夜はそうしたものでね」
「食べてね」
温まろうと話していくのだった、だがルチアは暖かいものが欲しくなってきていた。その冬になろうとしているパリの中で。
秋はさらに深まりだ、そして。
それと共に寒くなってくる、それでだった。
ルチアはコートを買った、ロドルフォもだ。二人はそれで着るものでも暖かくなった。だがそれでもルチアは言うのだった。
「どうもね」
「まだ暖かくないんだ」
「寒さはコートで凌げて」
まずは外のことから言うのだった。
「お家の中では暖房があって」
「温かいものを食べればね」
「それで暖かいけれど」
それでもだというのだ。
「まだね」
「足りないんだ」
「何か違う気がするの」
足りないではなく、というのだ。
「どうもね」
「そうなんだ」
「それがどうしてかはわからないけれど」
「寒くはないんだよね」
「コートも暖房も食べものもあって」
「しかもお仕事もあるから」
こうしたものは揃っていた、仕事があるから金もあってコートも暖房も買える。しかしそれでもこう言うのだった。
「満ち足りているわよね」
「うん、僕達は幸せな方だよ」
「二人一緒だしね」
「それでもなんだ」
「何かね」
どうにもとだ、言葉を続けるルチアだった。
「足りない気がするの」
「満ち足りないんだ」
「その足りないことが何かもね」
「わからないんだね」
「贅沢かしらね」
こうも言うルチアだった。
「色々揃ってるのにまだ足りないって言うなんて」
「別にいいんじゃない?別に誰にも迷惑かけてないし」
ロドルフォはルチアが悪い気持ちになろうとしたところでそれを止めた。
「別にね」
「ならいいけれど」
「とにかく、何かがなんだ」
「足りない気がするの」
「じゃあそれがあれば」
「満ち足りることが出来てね」
そして、とだ。ルチアはロドルフォに答えた。
「暖かくなれると思うけれど」
「そうなれるんだね」
「何かしらね」
その足りないものはとだ、ルチアは考えつつ言葉を続ける。
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