クリュサオル
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第三章
「そうしています」
「そうか、それは何よりだな」
「よいことなのですね」
「悪い筈がない」
ポセイドンはその厳しい顔を綻ばさせて彼に答えた。
「友を持つことはな」
「私もあの者も父上の息子ですし」
「ははは、そういえばそうだな」
ポセイドンはクリュサオルの言葉にその顔をさらに綻ばさせて言った。
「どちらも余の子だったな」
「左様です」
「兄弟であると共にだな」
「我等は友です」
「そうした間柄だな」
「我等の絆は強いものになっています」
クリュサオルはこうも言った。
「ですからこれからも」
「泳ぎの勝負をしながらか」
「宴も楽しんでいきます、そして」
「そしてか」
「互いの危機が訪れた時は」
クリュサオルはその目を輝かせてポセイドンに答えた。
「その身を盾にしてです」
「互いを護るか」
「そう誓い合いました、そして既にです」
クリュサオルはその言葉を続けていく。
「私はエウペモスに助けられています」
「何があった」
「はい、一度誤ってカリュブテスに襲われまして」
海の魔物の一匹だ、これまで何隻もの船を沈め喰らってきている禍々しい存在だ。襲われれば海の神といえど只では済まない。
「危ういところでしたが」
「エウペモスに助けられたか」
「襲われた時丁渡あの者と競っていまして」
泳ぎのそれをというのだ。
「幸いです」
「あの者がいてか」
「助けてもらいました」
「そうか、助かったな」
「それは何よりだ、ではな」
「今度は私がです」
クリュサオルは自分から言った。
「あの者を助けます」
「その時が来ればだな」
「必ずです」
そうすると言うのだった、彼は。
「そうします」
「その言葉偽りはないな」
「この剣に誓って」
常に手にしている黄金の剣を両手に前に掲げてみせてだ、クリュサオルはポセイドンに対して強い言葉で言った。
「そうします」
「そなら自身と言っていいその剣にだな」
「左様です」
クリュサオルはこの剣を持って産まれた、そして今もこの剣で戦っている。まさに彼自身と言っていい剣だ。
そしてだ、その剣でというのだ。
「ですから」
「偽りではないな」
「若し偽りなら」
その時はというのだ。
「その時はこの剣で己の首を掻き切ります」
「わかった、ではな」
「はい、あの者が危機に陥れば」
その時はというのだった、また。
「私はあの者を命にかえても助かります」
「それではな」
ポセイドンも彼の言葉を聞いた、そしてだった。
クリュサオルのその覚悟を認めた、だが暫くしてだった。
エウペモスは己の宮殿でだ、共に酒を飲んでいたクリュサオルにこう言ったのだった。
「面白いことになった」
「面白いこと?」
「そうだ、イアソンが人を呼んでいてな」
「確か黄金の羊の毛皮を探しに行くのだな」
クリュサオルもその話を聞いていたおだ。
「そうだな」
「そうだ、だからな」
「そなたも行くのか」
「ギリシア中の英雄に声をかけている」
そしてその中にというのだ。
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