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ガラクタ街

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第八章

「ここは」
「その通りじゃ、警官も入っては来ない」
「治安は」
「不思議とよい」
「不思議とですか」
「時折おかしな奴も来るがのう」
 長老はこのことも言った。
「殺人鬼なりがな」
「そうしたのも来ますか」
「しかしじゃ」
 それでもだというのだ。
「おおむね治安はよい」
「警官が入って来られずともですか」
「ここでは特に決まりがなくな」
「それぞれの人がですね」
「満足して暮らしておる。お互い特に干渉もです」
「人は人、自分は自分ですか」
「この街の考えじゃよ」
 それこそがというのだ。
「唯一決まりがあるとすればな」
「それがですか」
「この街の決まりじゃ」
 人は人、自分は自分という考えがだというのだ。
「それぞれ仕事をして生きて死んでいく」
「それがこの街ですか」
「弱肉強食もない」
 そうした考えもだというのだ。
「言うならばそれがない自然の世界じゃな」
「ジャングルですね」
「うむ、街のな」
 それだとだ、長老もロートに話す。
「ここはそうした場所じゃ」
「街のジャングルですか」
「実際の広さもどれだけの者がいるかはわしにもわからぬ」
 街の長老である彼にしてもだというのだ。
「そしてどんな者がいるのかもな」
「わからないですか」
「ここはそうした場所じゃ、誰にもその全てはわからん」
「本当に不思議な場所ですね」
「しかしな。居心地はどうじゃ」
 長老は目を笑みにさせてロート、そして彼の隣で日本の茶を飲んでいるリンデンに対して問うた。彼も茶を飲みながら。
「悪いか」
「いえ、不思議と」
「そうじゃな、ここはな」
「居心地がいいですね」
「不思議とな。だからわし等はな」
「ここにいてですね」
「出たくはない」
 そうだというのだ。
「ここでずっと暮らしていたい」
「そうした場所ですか」
「そして先生達はここを調べる為に来たのじゃな」
「はい、研究の対象として」 
 学者としてだ、ロートは長老にその通りだと答えた。
「それで来ました」
「そうじゃな。それでわかったことは」
「おそらくこの街のほんの一ページですね」
「そうであろう、ではな」
「それではですか」
「これから何度も来てな」
 そうして、というのだ。
「確かめてくれ」
「わかりました、それでは」
「来てくれて呼んでくれたらまたお話させてもらう」
 この街のことをというのだ。
「楽しみにしておいてくれ」
「それでは」
 長老とこうした話をしてだ、ロートはこの街の研究の許可も貰った、もっとも最初から許可を得る必要もなかったらしいが。
 それでこの日は夜遅くになるまで長老に案内されてあらためて街のあちこちを歩いて見て回った、そのうえでホテルに戻ったが。
 ここでだ、ロートはホテルのバーで飲みながらリンデンに言った、二人は別々の部屋に泊まっているのだ。男女故に。 
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