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世界を超える保持者とα

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第二

あの時。

男が《燃える天空》を放ったとき、確かにシャガルには避ける手段はなかった。

シャガル自身は自身魔法を使った直後だし、広範囲の爆発魔法で逃げ場がないから
だ。

同時に、青年も一緒に燃え尽きているはずだったが




――――――――――――――――――――――――――――――――――――








「あぁ、これは避けられないな。」

シャガルは、今まさに魔法を放たんとしている男と、そこから放たれるであろう魔
法を考えそう呟いた。

到底避けることのできる魔法ではないし、まともに食らって生きていられる魔法で
もない。

魔法で迎撃しようにもこちらは魔法を放ったばかり。魔法陣の構築など到底できな
い。

しかし、そんな状況でもシャガルは落ち着いていた。不気味なほどに。

そして、ただ一言

「アルファ、頼むぞ」

そして、投げかけられた本人はといえば、これも一言

『ふん、任せておけ』

その返答を聞いた瞬間、シャガルは、体のすべてを投げ出す。

痛覚を手放し、味覚を、聴覚を、触覚をそして体そのものを差し出す

シャガルが自らの意思により体を手放した時にのみ、アルファとシャガルの関係は
反転する。アルファが表、シャガルが裏へ。

アルファの力は《複写眼》をより強力にしたもの。

魔法だけでなく、この世のすべての物質、人間に至るまでを解析し、その構成を組
み替えるとこにより物体を破壊することができる。

《ハッ、面白い魔法だが、無駄。全て無に返してやろう》

シャガルの体を操ったアルファの第一声とともに、朱の五芒星がアルファの掌に現
れ、《燃える天空》へと接触する。

その瞬間、魔法はその構成をすべて解析され、その構成すべてを一瞬で瓦解させら
れていた。

すべてを破壊し、無に帰す力。それがアルファの力。

魔法が消えたとき、すでにシャガルは《アルファ》ではなく《シャガル》へと戻っ
ていた

辺りの木や雑草等に多少の痕跡こそ残ったものの、その炎はシャガル、そして青年
にも届いてはいない。

確かに発動したはずの魔法。それが目の前で不意に消えた。

それは、腰を抜かしているこの青年が知る限りでは、不可能なことであった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――






「助かった、のか?」



青年は一言そう呟くと、はぁ、と体に溜まった空気を吐き出した
青年が見ていても何が起きてるか少ししかわからない。文字通り息を付く間もな
かった

ただ、青年の頭の中で最も大きな物は、自らの命の有無、最後に見た魔法の不可解
な現象。

そして

「・・・・・・父さん」

青年は父親の頭部を求めて辺りを見回したが、すぐに目をそらした

「親父さんのことは、残念だったな」

シャガルは、腰の抜けた青年に手を差し伸べながら言った

青年は一瞬躊躇ったが、すぐに手を取り、立ち上がった

「ああ・・・いや、それより危ないところを助かったよ」

青年はペコリと頭を下げ、小さくありがとう、と礼を言った

「いや、いいんだ。俺もここを偶然通りかかっただけだし。それより・・・」

今どんな状況なんだ?ここはどこだ?などと聞こうとしたところで、シャガルは青年の視線が自分にないことに気がついた

「あぁ・・・そうだな。先に親父さんを埋めてやるか。自分でやれるか?」

「はい。ありがとうございます」

青年は涙を浮かべながら、父親の頭へと近づいていった





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――







「えっと、偶然通りかかったって言ってましたが・・・」

「ん?そうだな」

彼の父親の埋葬が終わり、その場に無言のみが漂っていたとき、最初に口を切った
のは青年の方だった。

「えっと、この森は地元の人間ですら迷うぐらい深い場所な上に、地元の人間も滅
多に来ない場所なんですけど・・・」

青年は、シャガルの身なりを見ながらそう言う

確かに、泥汚れがあるわけでもなく、木の葉などが付いているわけでもなかった

(空を飛ぶにしても媒介らしいものはないし)

青年の中での常識といえば、魔法媒体で言えば指輪や腕輪など小さいものが多い
が、空を飛ぶためには杖などが必要なはずである。

「あー、実は俺、この世界の住人ってわけじゃなくてな」

「つまり、旧世界人ってことでしょうか?」

(旧世界?)

シャガルは、その単語に首をかしげる

前にいた世界はこちらの世界からは確認されているのか?

しかし、前の世界からはこんな世界を確認することはできなかった。それに、魔法
の形態が違うこともある。

「なぁ、その旧世界ってのの魔法は、こんなのか?」

シャガルは、発動こそさせないものの、前世界での魔法陣を中に描く

「いえ、この世界と同じ魔法ですよ。一部違うところもあるらしいですが基本
は・・・」

なるほど、とシャガルは納得した

(やはり、ここは全くの別世界か)

「すまんが、俺はその旧世界と言うところから来たわけじゃない。もっと別の場所
から来た。だからこの世界のことも全く知らないし、なんでここにいるかもわから
ない。」

「どういうことですか・・・」

青年は、わけがわからない、といった顔でシャガルを見る。

「まあ、色々あってな。ここに飛ばされたんだ。ほら、俺の魔法見たことなかった
んじゃないか?こっちの世界とは形態が違うようだし」

ああ、そういえば!と手を叩き、うんうんと唸る青年。しかしふと思い出したよう


「えっと、ならあの最後のも知らない世界の魔法ですか?発動した魔法を跡形もな
く消すなんて、こっちの世界の魔法じゃ無理ですし」

「いや、それは俺の世界でも無理だぞ。発動前に止めることならできるが」

「えっ?じゃあどうやって・・・?」

話せば長くなるかもしれないが、と一つ間を置いてからシャガルは口を開けた

「俺の中にはもう一人別のヤツが住み着いているんだ」

『ヤツとはなんだヤツとは。全く』

憤慨するアルファの声が青年に届く訳もなく、青年はまたも理解が追いついていな
い。

「まあ、見せるのが一番だな。アルファ」

『まあ、仕方あるまい』

シャガルが、アルファに体を委ねる。

長い間共にいた仲。言いたいことは大体分かるようだ。

《初めましてだな、異世界の人間よ》

「え?声が変わった・・・?それに、その眼の文様は・・・?」

基本的に、アルファの発する声はシャガルの声に少しアルファの声が混ざった声に
なる

そして両目には朱の五芒星が爛々と輝く。

《シャガル・・・この男が言っていただろう?我がそのもう一つの人格。アルファ、
だ。》

「え、ぁ・・・どうも、カイルって言います・・・って、ホントだったんですね」

《我は魔法の構成を認識できる。あの魔法を消し去ったのも、構成を分解したから
だ》

「ええっ!?それって物凄い事じゃ・・・!?」

《ふふ、そうだろう。我以外にはできぬぞ。もっと褒めてもいいぞ?》

「はい!すごいです!」

完全に調子に乗ってきたアルファと、それに乗る青年・・・カイルの会話は終わりを見
せなくなっていた。思わず、シャガルが表に出る

「あー・・・まあ、これで信じてもらえたかな」

「はい。異世界と、もうひとり、アルファさん。不思議ですけど、楽しい方です
ね」

「ああ。さて、じゃあすまないが、この世界について教えてくれないか?右も左も
わからなくてな。」

「わかりました。でも、また追っ手が来るかもしれないので、もう少し奥に行きま
しょう。」

そう言うカイルは、草を払いながら森の奥へと歩を進めた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ヘラス帝国と言う国とアリアドネーと言う国の国境付近にある僕の村は、それほ
ど大きくありませんが、この辺り一帯の山や森の管理を全て任されていたんです」


森の奥、少し進んだところにある倒木。

ここまでくれば大丈夫でしょう、とカイルはその幹に腰を下ろし言った。

「このあたりの森や山はかなり入り組んでいて、管理が難しいんです。帝国の上層
部は軍事力に力を入れていますから、こんな面倒な物の管理を僕らの村に押し付け
たんです」

それなのに、とひと呼吸入れるカイル

「戦争が始まり、帝国は中立国であるアリアドネーに対してまで敵意を向けだしました。そこで、国境に砦を築こうとして、僕らの村を焼きに来たんです」

なるほど、とシャガルは頷いた。

シャガルの知る限りでも、村やなにかを戦争に用いる国は少なくはない。

『しかしなかなか。村を焼かれ父が死んでいるというのに』

確かに、カイルのそれは傍から見れば異常なほどに落ち着いていた

「俺から聞いておいてなんだが、大丈夫か?すこし休んだほうが」

いきなりのシャガルの言葉にカイルは、語りをやめ、少し何事かと考えた後に、そ
の意味を察し

「まぁ・・・確かに、悲しいですけど。村が戻ってくるわけでも、父が戻ってくるわけ
でもありませんから。僕には今、やるべきことがあります。そういうことですよ」

ふと、軽く笑ってみせ、カイルは言った

「しかし、これからどうしましょう。僕も然ることながら、あなたまで巻き込んで
しまいました。きっと帝国には戻れないでしょうね。少なくとも僕は、父と共に大
臣なんかと面識がありますから顔も素性も割れていますし」

今後の行動についてカイルは考え出した。

確かに、そのヘラス帝国という国の魔法使いをひとり殺し、そしてもう一人を逃が
してしまった時点で、ヘラス帝国というのはシャガルの敵になる。

いくらアルファがいても、明らかな不利と言う物はあるし、カイルは戦いには向か
ないのだろう。

少し思案していた時、ふと、先ほどのカイルの言葉を思い出した

「あのさ、ここは国境だって言ったよな?じゃぁ、もう一つの国に入国って出来な
いのか?」

「え?・・・あぁ、そうですね!それがいいです!なんせアリアドネーは―――」

学ぶ精神さえあれば、なんだって受け入れてくれますから!と、続けるカイル。

『学ぶ?』

「学ぶ?」

思わず、ハモっていた

「そうです。アリアドネーは学園国家。魔法や算学など、学ぶ意思のあるものは居
住権を与えられます」

「魔法を学ぶ、か。俺はこの世界の魔法を知らないし、ちょうどいいかもしれん
な」

『我も興味がある。そこへ行こう』

シャガルたちの意見としては、完全に一致であった。

「僕も、アリアドネーには少しツテがありますし、そうしましょう。」

ただ・・・と少し歯切れ悪くカイルが言う

「国境には恐らく、帝国の兵士がいますから・・・中立国相手ですから、手薄だとは思
いますけど」

なるほど確かにそうだ。砦を築こうとするぐらいだ。国境に人を置くぐらいするだ
ろう。

「でも、僕も多少の兵士ぐらいだったら相手できますから!さっきみたいな高位の魔法使いには手が出ませんが、並の魔法使い相手なら、戦う術はあります!」

足でまといにはなりません、と意気込むカイル

シャガルから見れば大して魔力も感じず、運動能力もないように見える

(なにか、あるんだろうな)

とりあえず今は、それで納得することにした

「よし、じゃあ手薄なところを探して、突破しよう。期待してるぞ?そのとってお
きに」

「はい!」

目的地は、アリアドネーに決まった。
 
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