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第三章
「そして戦をしてきたし神仏に背くこともしてきた」
「その罪は認められても」
「おのこを愛して何が悪いのじゃ」
怒った声での言葉だった。
「その訳を言え、訳を」
「ですから愛とは男と女にだけあるもので」
「おのこを愛して悪いことがあるのか」
「それが罪だとおわかりにならないのですか」
「何が悪いのじゃ」
義隆の言葉は変わらない。
「全く悪くはないわ」
「聖書にもそう書いてあります」
「清書に書いてあっても御仏も神様も何も言っておらぬわ」
「異教の存在です」
「異教だからどうしたというのじゃ」
「異教の教えは全て間違っております」
「間違ってはおらんわ、耶蘇の教えも間違ってはおらんが」
それでもだというのだ。
「おのこを愛することもじゃ」
「間違っておらぬと言われますか」
「そうじゃ、いい加減によ」
「いい加減ではありませぬ」
「御主、まだ言うか」
「何度でも申し上げます、男色はあってはなりませぬ」
完全に言い合いになった、義隆は怒り狂ったままザビエルの言葉を聞こうとせずザビエルも引かなかった。大内の家臣達が間に入って何とかこの場は収まったが。
ザビエルは憤懣やるかたない顔でだ、トーレスとフェルナンデスに言うのだった。
「この国の男色の罪は深いです」
「はい、全く以て」
「恐ろしいまでに」
「この罪を如何にして消すべきか」
ザビエルは心から言う。
「私のもう一つの戦いです」
「では及ばずながら私も」
「私もです」
二人も男色についてはザビエルと同じ考えだ、それ故に応える。
「共にこの国の罪を清めましょう」
「何としても」
三人で誓い合った、ザビエルは義隆の説得は出来なかったがそれでもだった。彼は日本のこの罪と戦う覚悟をしていた。
この話は江戸時代にも残っていた、その話を聞いてだった。
徳川家光は目を瞬かせてだ、話をしてくれた幕臣にこう言った。
「何が悪いのじゃ」
「上様もそう思われますか」
「御主もそう思うであろう」
「はい」
その通りだとだ、幕臣も彼に答えた。
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