ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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結集-コンセントレイション- part1/発進せよ!ウルトラホーク3号
タルブ村の朝。コルベールは、亡きシエスタの祖父、フルハが遺したウルトラホーク3号の格納庫で仮設の研究スペースを作り、ホーク3号の可動の必要なガソリンの開発を進めていた。しかもサイトやシエスタからホークの話を聞き、二人の血筋がハルケギニア人ではなく、地球人のものだと知るとさらに興奮。異世界のテクノロジーを、科学とはなんたるかを知らないにも関わらず解明しようと、研究者魂に火をつけた。
あまりに熱中しすぎて、ホーク3号を発見したときから、なんと彼はほぼ飲まず食わず+不眠不休徹マン状態に陥り、見ている者全てをハラハラさせてしまった。
「ついに『ガソリン』が完成したぞ!!サイト君!」
そしてこの日、ついに彼は完成させた。シエスタの家で食事を取っていたサイトたちのもとに、コルベールが飛び込んできた。
「ほ、本当ですか!?…って…」
笑みを浮かべたサイトだが、コルベールの顔を見たとたん、ゾッと身をこわばらせた。その時の彼らの目は、まるで妖怪でも見るような目だった。
「み、ミスタ・コルベール…ひどい顔ね」
「…ほぼ死人」
そう、ずっと休まないままあまりの過度な労働を続けたせいか、彼の顔はあまりにもやつれきった顔だった。目尻にはクマが浮かび、元からやせていた顔はさらにやせ細り、こうして立っているだけでも倒れてしまいそうだ。今にも血反吐を吐きそうなきついマラソンでもしたかのように息だって荒くなっている。キュルケももちろん、あのタバサでさえ青ざめ、その顔を本で隠している。
「サイト君、ガソリンはどうやら木の…いや、正確には微生物の化石から構成されていたみたいでね。それに近しいものを探した結果、石炭が最も該当した。特殊な触媒に漬し、近しい成分を摘出し…数日かけて錬金の呪文をかけて…」
「あの、ミスタ・コルベール…説明よりも休まれた方がよろしいかと…何か消化によろしいものもご用意しますので」
引き気味のシエスタが急速をコルベールに勧めたのだが、コルベールは完全に脳が最高にハイ!ってやつになっているせいか、一向に聞こうとしない。
「はっはっは…!な、何を言うんだ。一分でも休んでいたら、折角の…そう、確か『フライト』と呼ぶんだったね……そんな世にも貴重な光景を…眼…に…」
――――バタッ。
言葉は最後まで続けることができず、コルベールは倒れた。
「「「「「「………」」」」」」
10秒経過…。
1分経過…
5分…。
「こ、コルベール先生!!」
やはり連日の不休労働により、コルベールは限界だった。っというか、なぜ倒れた時点でさっさと助けなかったんだ君たち…。
結局コルベールが回復したのは2日後になるという。
「ハイヤアアアアアアアアアアアアア!!!!」
その間の真夜中、サイトはテクターギア・ゼロに変身してはその日も組手を行っていた。ウルトラマンとしての、本当の意味を身につけるため、もう二度とあの旅で味わった苦い味を味合わないため、この世界でできた仲間たちを守るために、彼らはゼロの師にしてウルトラ戦士の大先輩でもあるレオとの特訓に取り掛かっていた。
レオの鉄拳を受け、ゼロは大きくよろめいてしまう。
「本気で来なければ、死ぬことになるぞ?」
その言葉に躊躇いは微塵もなかった。レオは手加減する素振りを全く見せる気はないのだ。
再びレオはゼロの方へ走りこむ。
「ムン!」
突出してきたレオを、ゼロは蹴りを突き出したが、レオは簡単に突き出されたゼロの足をつかんでひっくり返し、拳を突き出す。何とかそれを防ぎ、レオを投げ倒したゼロ。だがその程度でレオは怯みもしなかった。すぐ立ち上がってカウンターで回し蹴りを放つ。ゼロはその蹴りを避けると、レオと背中合わせする形でレオの両腕を封じ、そのまま前に投げようとしたが、レオは難なく着地し、逆にゼロを巴投げで後ろに投げ倒した。
「デアアアアア!」
休む間さえほとんど与えないつもりか、レオはジャンプしてゼロを地面に押し倒し、彼の顔面を殴りつける。対してゼロは彼の背中を蹴って抜け出しはしたが、決して旗色はよくなかった。立ち上がってレオに炎の鉄拳を放つ。
「ダア!」
その拳さえレオには通らなかった。あっさりと受け流され、逆に自分が連続でパンチを食らい、再び投げ倒されてしまう。地面を転がされるゼロに容赦なく、レオは空高く飛び上がると、足にエネルギーを収束させ、ゼロに向かって急降下した。
〈レオキック!〉
これを喰らえば、さすがのゼロとて…。
と、誰もが思うだろう。だが、次の瞬間ゼロは驚くべき行動を取った。なんと、正面からレオキックを迎え撃つ姿勢を取っていたのだ。これまで数々の怪獣や侵略者を打ち破ってきたレオの必殺の蹴りを前に、ゼロは決して物怖じせず正面から構えていた。
「イヤアアアアアア!!!!」
迫り来るレオの蹴り。これを食らってしまえばゼロとてひとたまりもない。しかし、次の瞬間、ゼロは驚くべき行動をその見に示した。
「ぬ!?」
なんと、レオキックを素手で強引に受け止めたのだ。
「こんにゃろおおおおおお!!!」
「ヌオオオ!!?」
さらにレオの足をつかんだまま思い切り投げ飛ばしてしまった。
「…へへっ!どうよ!」
ゼロは得意げに右手の親指で鼻を掻いてみせる。すると、レオは立ち上がって彼に言った。
「…ふむ、やるようになったな。だが、まだまだだ」
「はっ、負け惜しみかよ?らしくねえんじゃねえの?」
鼻で笑うゼロだが、レオは虚勢をはることなく、余裕しゃくしゃくのままゼロに言い切ってみせた。
「これまでお前に対して繰り出していたレオキックだが、本気の威力のものではない」
「何!?手加減してやがってたのか!?」
自分がまるで弱者扱いされているように感じたゼロは、これまえレオが自分相手に手を抜いていたことに屈辱を感じる。
「ゼロ、お前は手加減されているとも知らず、その威力で俺の蹴りを破ったつもりでいるようではまだ青二才だ」
「な、なら本気でレオキックを出してみろよ!」
手抜きなんかされたと聞いて満足できるか。オラかかってこいや!と言わんばかりにくいくいと手招きしてレオを挑発する。
「いいんだな?」
「宇宙人に二言はねえ!」
是非とも卑劣な侵略者に教えてあげたい言葉でせがむと、レオは受託したのか自慢の足に炎を灯らせる。再び空中バク転しながら飛び立つと、さっきの何倍もの炎を滾らせた必殺の〈レオキック〉が、ゼロに襲いかかってきた。
数秒後…。
「ごふ…」
『さ、さすがはウルトラ兄弟…ルイズのお仕置きより…痛い…ガチで……』
レオキックの爆発力にあっけなく敗れ野原にボロボロの状態で倒れたテクターギア・ゼロ(+サイト)の姿があったとさ。
「ふう…お前という奴は調子に乗るとすぐこれだ。調子に乗るとすぐに転ぶ」
今の一言は、サイトにもどこかグサリとくるものがあった。事実、サイトもゼロも調子に乗ると、感情の抑制が効き辛くなり、物事が失敗しやすい傾向になってしまう。
変身を解いて手を伸ばしてきたレオ=ゲンの手を、同じように変身が解けたサイトは握り返し、引っ張られながら立ち上がった。
「そういえば、おおとりさん」
「なんだ?」
「どうして、あなたはそこまでしてゼロを鍛え上げてくれたんですか?」
ふと、サイトは疑問に思っていたことをゲンに対して尋ねてみた。
考えてみればゼロは、元は力を求めるあまり故郷さえも蔑ろにした重罪人、ウルトラマンを名乗る資格を失った男でもある。そんな立場の宇宙人を、なぜレオが師として鍛えてくれていたのだろうか。寧ろ、故郷を失った経験のあるレオからすれば、ゼロがかつてとった行動はとても許しがたいもののはず。
『そういや、俺も…いや、俺の方がずっと気になってたんだよな。ったく…この質問は普通俺がするはずのもんだろ』
一人サイトの中でごちるゼロを軽く流し、ゲンはその理由をサイトたちに明かした。
「託されたからな。ゼロの、実の父親からな」
「…え?」
レオの口から突然明かされた言葉に、サイトもゼロも一時絶句した。
『…じゃあ、あんたは俺の親父が誰なのか知ってるのか!?』
「お前もよく知っている人物だ。今のお前がエネルギーコアに手を出し身を滅ぼしかけた果てに、ベリアルのように悪に落ちることがなかったのも、父親がいたからこそだ」
「…!!」
「お前の父の名は…」
ゲンの口から語られた事実は、ゼロの心の中で何かを変えた。
だが、その反面相変わらずのままでいた仲間たち。
シエスタはモット伯爵の屋敷での一件からサイトにぞっこんなのがまるわかりだし、キュルケはちょっといい男が見つかれば平民だろうと口説くし、ギーシュもまた相手が美女ならば同様。タバサは特に何もする気が起きないときはいつもどおり本を読んでばかり。
だが、いつもどおりという流れに不満を抱いたままの少女がいた。
サイトのご主人様、ルイズ・フランソワーズである。
アルビオンでの旅の失敗を繰り返さないためにも、とサイトがゼロと共にゲンからの特訓組手を受けている間も魔法の自主トレを繰り返していた。なのに、一行に自分は魔法を使うことができないままだった。一朝一夕でどうこうなるとは思っていないのは百も承知だ。
でも、いい加減成果くらい出てきてほしいものだ。いつまでも…『ゼロ』のままでいたくないのに。これでは、いつまでも実家の家族に顔向けできないではないか。
…悔しい。憧れで婚約者だったワルドに裏切られ、彼の手によってアルビオンの王党派がすべて壊されてしまったのだ。もうあんな嫌な思いはしたくない。したくないからこそこうして一人特訓を続けている。なのに…。
「どうして…爆発だけなのよ…」
周囲の爆発の跡の中心で、ルイズは両手と膝を着いて涙した。ぽたぽたと零れ落ちる涙のしずくが、地面に染み込んでいく。
すると、胸のポケットにしまいこんでいた、アンリエッタから詫びのしるしに譲り受けた手帳が落ちた。いけない、姫様から頂いたものを汚しては。ルイズは涙を拭くと、落ちた本を拾い上げて砂を払った。
それにしても…この本は一体なんなのだろう。ページはすべて白紙。ただのメモ帳だろうか?アンリエッタがくれたものだからかなりの高級な紙と表紙で作られたものかもしれないが…こう言ってはなんだが少し古臭いただの真っ白な紙。メモ以外に一体どんな役に立つのだろうか?
真っ白で何もない。まるで今の自分そのものじゃないか。歯噛みするばかりだ。一体、自分はどうしたらこの白紙状態から成長できるというのだ?
と、その時だった。一瞬だけ、本に光が灯った。
「…え?」
以前、深夜にも同じようなことが起こった。その時は眠かったから見間違いだろうと思っていたのだが、まさかまた同じことが起きているなんて。
(これって…どういうこと…!?)
その時、右手の水のルビーも同じように淡い青の光を発していたが、ちょうど両手でつかんでいたため本の表紙の裏に指輪を突けている中指が隠れしまっていたため、ルイズはそのことに気づかなかった。
ただ一つはっきりしたことがあった。
その青い光が、ルイズにほのかな希望の光となった…同時に、彼女が後に逃れられない運命に直面することとなる、ということだった。
翌日、ウルトラホーク3号の燃料タンクに、回復したコルベールによって開発されたガソリンが流し込まれたことで、いつでもホーク3号はフライトできる状態となった。
コクピットの操縦席に座り、自分以外の仲間たちが空を飛ぶ姿を一目見ようと集まっていた。船体の後ろからだと、排出口から火が噴くので危ないとの事のため、仲間たちは船体の横から距離を置いた位置にて見守ることにした。
「本当に飛ぶのかしらね?」
一見鉄の塊にしか見えない。まさか違う世界で鉄の塊が飛ぶなんて今も信じられないキュルケは疑惑の言葉を述べた。
「…わからない。でも…最近は常識外れのことが何度も起きている」
タバサも疑惑が晴れたわけではない。が、クール星人の円盤による学院の襲撃をはじめとして、何度も自分たちの常識にとらわれた日常があっけなく崩れ去る事態が起きた以上、可能性があるとは認知していた。
それについてはギーシュもまた同調している。
「あのサイトのことだ。きっと僕たちにできないことを平然とやってのけるに違いない」
「決闘で逆転されてから、サイトをだいぶ買うようになったわね」
「今の僕があるのも、サイトのおかげさ」
サイトを認めて以来、ギーシュは変わった。平民だの貴族だの、身分のことを全く気にしなくなったわけではないが、相手が卑しい身分の出身だからといって、相手を過小評価をすることがなくなった。そのおかげか、ちょこっとだけ周囲の女子からの人気が少し高まり、密かにモンモランシーを余計にやきもきさせたのは、また別の話。
「こうして、ひいおじいちゃんの遺品が空を飛ぶ姿を見ることになるなんて…」
ホーク3号を見上げ、シエスタは灌漑深くなった。
「サイト君の話だと、怪獣と戦う組織にいたそうだが…シエスタ君のひいおじいさんとは、一体どんな修羅場を潜り抜けてきたのだろうか…?」
同じようにそれを見上げるコルベールがそう呟くと、シエスタが自分の曾祖父、フルハシの一端を語り始めた。
「普段は優しく陽気なひいおじいちゃんだったそうですけど、故郷を守ることに強い誇りを持っていたそうです。だから、当時タルブに盗賊が襲ってきた時も、領主様の兵が来る前に、果敢に盗賊に立ち向かっていったことがあったそうです。その中にはメイジもいたそうですが、それでも怯まなかった。
盗賊が捕えられた後、どうしてそこまでできるのかって、おばあちゃんが尋ねたら、ひいおじいちゃんはこう答えたそうです。『俺には、違う世界からやってきて俺の故郷を守ってくれた親友がいた。どの世界にいても、そいつに恥じない男でならなくてはならない。いつか元気な姿で再会した時に笑われないように』って…」
「違う世界からの親友…ねえ」
興味深そうにコルベールが、そしてキュルケたちもその話を聞いていた。違う世界の親友…そしてそれで何かを掴んでいたフルハシ。まるで自分たちの状況のようだ。サイトが、ゼロがこの世界に現れてから、何かが変わってきた。これまで自分たちの人生にも、ハルケギニアにもなかったことが生まれている。
「…」
ここ最近のサイトは調子がよかった。ルイズはサイトを、内心では我が使い魔ながら羨ましく、妬ましいとも感じていた。思えばサイトは初めて出会った時から、自分たちにできなかったことを何度もやって来た。アルビオンでの旅では厳しい現実に挫折しかけたものの、それでもなお彼はこの地にて再び立ち上がった。今自分たちが見ている、見たこともない船の動かし方さえも理解し、動かそうとしている。
でも、まだ自分にはなにもない。使い魔が…サイトばかりがどんどん前に進んで行って、自分だけ置いて行かれているような気がして…。
と、その時だった。
ホーク3号の前に口をあけ、タルブ村の景色が広がっている格納庫の射出口の彼方から、轟音が聞こえ、さらに地鳴りによって彼らのいる場所に揺れが生じた。
「い、今のは…?」
「シエスタ!」
叫び声と共に、黒髪の男性が格納庫へ飛び込んできた。シエスタの父親だった。
「お、お父さん!?何があったの!?」
息を荒くしながら壁に手を置く父親に、シエスタは一体どうしたのだと尋ねると、彼女の父親の口から驚愕の事実が明かされた。
「怪獣だ!しかも…アルビオンの方角から戦艦がやってきてる!」
「なんですって!?」
今から数分前のこと。
自ら不可侵条約を結んでおくことで、トリステインが隙を見せる。その間自分たちは、ハルケギニアにはない技術で遥かに強化されたレキシントン号とその他の艦を数隻従え、レコンキスタはついにトリステイン侵攻を開始した。
改造されつくされたレコンキスタの艦隊すべて、もはやかつての面影をほとんど残していなかった。レキシントン号含め、全体的に宇宙金属で強固なものとなり、船体から口を開けている大砲も、形が完全に海上を行く船に設置されたそれと似たものではなく、これまで地球を襲ってきた侵略ロボットが自身に搭載していたレーザー砲のような形をとっていた。
「なんとしても、侵略者共をこのタルブから追い払うのだ!!」
タルブの領主『アストン伯』は、物見兵が急遽アルビオンが軍を引き連れてこのタルブに迫っていると言う報告を聞き、急遽部隊を編成して迎え撃つことになる。無論、王都から離れたこの村の人口も配属された兵の数も、兵力・練度共にアルビオン軍には到底かなわないので、直ちに王都へ伝書鳩を飛ばした。とはいえ、タルブから王都まで軍を引き連れるには、援軍の編成をする時間を合わせても間に合うようなものではなかった。自分たち側に満足に敵を迎え撃つだけの兵力がない。クロムウェルが水の精霊から奪い、『虚無』と称して使っているマジックアイテム『アンドバリの指輪』の魔力に惹かれた大多数の兵力。その上、敵は空飛ぶ艦隊…それもクロムウェルとは別の、異星からの知識を導入した無敵の艦隊だ。そして…。
「GRUUUUAAAAAA!!!!」
クロムウェル…いや、シェフィールドに操られた怪獣軍団。今、侵攻に利用されている怪獣は、『岩石怪獣サドラ』『宇宙凶険怪獣ケルビム』、そして以前モット伯爵の屋敷に出現しネクサスに倒されたはずの『フィンディッシュタイプビースト・ノスフェル』等多数の怪獣が大進撃していた。
タルブ軍に最初から勝ち目はなかった。
タルブの兵たちは風の魔法、炎の魔法で応戦する。…が、全く持って歯が立っていなかった。いかに切り裂こうと焼き尽くそうとしても、かすり傷もやけども追わせることができない。
レキシントン号をはじめとした艦隊からのレーザービームが降りかかり、タルブの大地と美しい野原は爆風に飲み込まれていった。
「ぎゃあああああああ!!!」
その余波や直接レーザーを食らったタルブ軍の兵たちは次々と屠られていった。それだけではない。
「グルアアアアアアア!!」「キュオオオオオオオ!!」
「う、あ…あああああああああ!!!」
サドラが歩く度にタルブの兵たちが踏みつぶされ、ケルビムが自慢の尾を振り回すことで、タルブ村の畑をけし飛ばしながら多くの兵たちの身を微塵に砕き、ノスフェルが口から伸ばしてきた触手を伸ばし、次々とそのねばっこい涎まみれの口の中へ放り込む。中には爪で切り裂かれバラバラにされてしまった者も少なくなかった。
「ぐああああああああ!!!!」
「あ、アストン様が!!!」
「も、もうだめだ!俺たちに勝ち目なんかない!逃げろおおおおおおおおお!!」
その猛攻の中で、ついに領主アストン伯は戦死、途端にタルブの軍は散り散りになってしまった。
もはや、これは戦争というレベルの話ではなかった。
文字通りの…『虐殺』と『侵略』だった。
「アルビオン万歳!!」「神聖皇帝陛下万歳!!」
戦闘行動中に万歳。ボーウッドは眉をひそめた。以前、王政が健在だったときは戦闘中に万歳をする者などいなかった。
「新しい歴史の幕開けですな」
甲板の上から、ワルドはルイズと再会した頃の穏やかな顔とは全く異なる、邪悪さばかりがにじみ出ていた笑みを浮かべていた。自分の祖国がこうして攻撃されているのに、それを嘲笑っている。何と卑劣な男なのだろう。このどす黒さはもはや侵略星人と同レベルだ。
レコンキスタは、始祖ブリミルの降臨せし聖地を奪還しハルケギニアを統一する。その理想のために戦う革命組織のはず。だが、アルビオンの全土を怪獣などの常識がいすぎる力で蹂躙し乗っ取った時点で、明るい未来を築くことができるような組織とは、傍から見たらそうは思えなかった。
「…なに、戦争が始まっただけだ」
心が王党派であったためか、そのことに唯一気付きながらも、軍人と言う立場をわきまえているが故になにもできない自分と、愚か者に言いようにされている自国への憤りをかみ殺しながら、ワルドにそう返していた。
「は、ははは…くはははははは!!!見たまえ!!我らの力に、トリステインの兵がごみのように潰されていくぞ!!最高だよ!これでトリステインも乗っ取り…この大陸、いや…この星そのものを私のものとしてくれる!!世界は、この私の思いのままになるのだ!!」
天を仰ぎながら、レキシントン号の最上層の甲板から高笑いを浮かべたその時のクロムウェルに、神聖皇帝の姿などかけらもなかった。そこにいるのは、権力と力におぼれた、どこにでもいるであろう愚かな愚者だった。
ワルドも、レコンキスタ兵も、クロムウェルも気づかない。結局自分たちが、何者かの掌に踊らされているだけの…『人形』でしかないということを。
「まったく、愚かな連中ね。ほんのちょっと、レアなアイテムを渡しただけで…」
そんなクロムウェルを、シェフィールドはあざ笑う目で見ていた。彼女にとって、クロムウェルなど『駒』以外の何でもない。そう、彼女の『真の主』を楽しませるためだけの…捨て駒なのだ。
「みんな、走れ!森まで逃げるんだ!」
魔の手はタルブ村の村人たちにも及んだ。
「俺たちの村が……ああ」
「怪獣だ!逃げろ!!早く!!」
「やめて!!私たちの村が!!」
畑を、野原を、放牧場を、家を…次々と破壊していく非道なレコンキスタと怪獣。
逃げ惑う村人たちが悲痛な叫びをあげていくが、非情にもアルビオン軍と彼らに従う怪獣たちは、周辺を含め、タルブの景色を蹂躙していった。
「何が起こってるんだ…?」
「アルビオンが攻めてきた!?」
レコンキスタに支配されたアルビオンが、ついにトリステインへ侵攻した知らせは届いた。
直ちに会議室に集められた、アンリエッタをはじめとしたトリステインの重臣たち。
アストン伯の死、タルブ村の壊滅的被害。被害は甚大だった。
「自ら不可侵条約を結んできておきながら、何と破廉恥な!」
「すぐにゲルマニアに援軍を要請するのだ!わが国だけの力では敵わない!」
「敵は怪獣さえも従えているのだぞ!援軍を要請したところで勝ち目などない!」
「それに同盟は破棄すると、数刻前に通達があったばかりだ!」
「くっそ…これだから成り上がりのゲルマニアは信用できないのだ!」
「降伏し、民の身の安全を図るのが最善ではないか?」
「馬鹿な!トリステインは始祖の代からの由緒正しき王国だぞ!それをあのような恥知らずな叛徒ごときに渡すなど!」
「そうだ!売国もはなはだしいぞ!」
「ならば特使を送って…!」
しかし、会議と言う形など留めていなかった。不毛な言い争いの場と化していたのだ。マザリーニ枢機卿もこれには頭を悩ませた。できるなら外交の解決を望んでいたのだが、果たしてこの状況でそれが実現するかどうか。
アンリエッタも母であるマリアンヌ太后と共にこの場に出席していた。イライラした。自分の国の臣下が、言い争ってばかりで、何をなすべきなのかも見定めないまま。
なんだこれは。ウェールズたちアルビオンの王党派たちはきっとこの国や自分のために戦い散っていったというのに、この者たちの何と情けないことか。ゲルマニアとの同盟が必要になるほど国力が低下した原因を垣間見たように思えた。
「怪獣のことなど、ウルトラマンに任せておけばいいのだ!きっとレコンキスタの軍も追い払ってくれる!」
不毛な言い争いの果て、ついにこんないい加減なことを言ってのける貴族までもが現れた。それに賛同するように、口々に貴族たちは続ける。
「よし、ここはウルトラマンがアルビオンの愚か者共を排除してくれることを願おう!」
「ウルトラマンは始祖ブリミルが我々のために使わせた神の使いに違いない!」
「きっと彼らなら、アルビオンへの侵攻にも力を貸してくれる!彼らの勝利を祈り…」
久野の重臣でありながらあまりの無責任な言動に、マザリーニやマリアンヌは、この国ももうすぐ終わるのではないだろうかと言う絶望感を抱き始めた。
「お黙りなさい!!!!」
あまりにも貴族として恥ずべき発言ばかりを繰り返す重臣たちに、アンリエッタはついに激怒した。椅子から立ち上がり、いつもの姫らしいお淑やかな姿とは打って変わった姿と大声に、一斉に会議室は静まり返った。少女の気迫とは思えないアンリエッタの気迫に押され、貴族たちはアンリエッタに、畏怖を抱きながらも注目する。母でさえ、ウェールズの悲しみに暮れていた時の表情とは打って変わった娘の顔つきに驚いていた。
「今の発言を申した軽挙妄動な輩は誰ですか?そのようなことを言った自分が恥ずかしくないのですか!?この世界とは縁もゆかりもないウルトラマンが、頼みもしていないのに私たちのために命をかけて戦ってくれたのですよ!なのに、この国の英雄たるウルトラマンを、まるで便利屋や戦争の道具のように言ったその発言…貴族として、いえ人間として愚の骨頂だとは思わないのですか!?我々貴族は、力なき民のために力と権力を与えられた身!本来ならウルトラマンたちが成していることを、我々が成し遂げなくてはならないのが当然です!!たとえ相手がどんなに強大な存在であっても、愛する国民のために戦わずして何が貴族ですか!!」
その言葉に、誰も言い返せなかった。命惜しさ、民の身の安全とそれにかこつけた保身に走るあまり、貴族としての理想の姿からかけ離れてしまったことに気づいた。
「あなたたちは怖いのでしょう?命より名を惜しめと嫡子に教えているくせに、いざ命の危機となると何もせずただじっとしている。反撃の計画者になって敗戦の責任をとりなくないから、あのような非人道的な叛徒に恭順して命を永らえさせようというのでしょう?」
「姫殿下!さすがに口が過ぎますぞ…」
マザリーニがたしなめた。アンリエッタの言っていることは何も間違っていない。でも、この重臣たちの中に彼女の言葉に屈辱や危機感を感じ、逆に謀略を持って彼女に仕返ししようと考える無粋な輩がいないとも限らない。政争とはそういうことがある場合もあるのだ。
「ならばあなたたちはここで会議を続けなさい!」
しかし、今のアンリエッタにはそんなことは関係なかった。
「ひ、姫様!」
言い捨てると、アンリエッタは会議室からただ一人飛び出し、マザリーニの引き留めを無視して城の外へと向かう。ちょうど城の入り口に、馬車に繋がれた角を生やした白い馬…よくファンタジー小説に登場する一角獣ユニコーンにまたがり、彼女は杖を掲げて高らかに宣言した。
「近衛、参りなさい!これより全軍の指揮は私が執ります!各連隊を集めなさい!今こそ、今度は私たち自らの手でこの大地を、民を守るのです!」
彼女の気高い宣言と眼差しが、皆の目つきを変えた。
マザリーニも、姫を止めることを止めた。彼は命を惜しんだわけではなく、彼なりに国を憂い、民を思ってアルビオンに立ち向かうことを拒否していたが、今更外交も減ったくれもないことに気づく。彼もまた馬を引っ張ってアンリエッタに続く決意を固めた。それに続いて、たくさんの重臣や、再編中の魔法衛士隊が続いて行く。
「す、枢機卿…特使を派遣してアルビオンと休戦を…ぶ!?」
しかし、皆がやる気になっている中、戦いに怖気ついて空気を読まず保身を謀る高級貴族の一人がマザリーニに耳打ちしたが、マザリーニは自分の帽子をその貴族にたたきつけた。
「姫殿下を一人で行かせてはならん!末代までの恥となるぞ!」
こうして、アンリエッタの指揮の元、トリステインの王軍も出陣した。
―――ウェールズ様、どうか私にルイズたちを…この国の民たちを守るための力を!!
「なんてことだ…」
格納庫から景色を見たコルベールは、悲痛な表情を浮かべて落胆した。よほど戦場の景色を見たくなかったのだろう。その分、怪獣などという人外を使ってまであんなにまで非道な真似をやっているレコンキスタのやり方に怒りを覚える。
「なんだよこれ…」
怪獣を使って町を破壊するなんて…これじゃまるで、地球を侵略し続けてきた卑劣な宇宙人たちと何も変わらないじゃないか!!コクピットからタルブが荒らされていく様を見ていたサイトは顔を歪めた。
『やっぱりそうだ。あんなの、ハルケギニアどころか地球でも作れっこない。この世界を脅かそうとしている宇宙人がレコンキスタに紛れていたに違いねえ!あのワルドだって、オーバーテクノロジーとしか思えねえものを使ってたしな!』
サイトの目を通して、レコンキスタの艦隊や怪獣たちがタルブ村を蹂躙していく光景を見たゼロははっきりと断言した。こうしちゃいられない。サイトは操縦席に座り、直ちにホーク3号のハンドルを握ろうとした。
「サイト、あんたなにしてんの!」
「サイトさん!」
すると、いつの間にかルイズとシエスタがコクピットに入ってきて、サイトの後ろに立っていた。
「二人は避難してくれ!話なら後で聞くから!」
今からホーク3号を発信させる。シエスタの曾祖父フルハシが残してくれたこの兵器を、大切な人たちを守るために使う。そのためだけに。きっとフルハシも生きていたらそうしていたと思う。あくまで予想でしかないのだが。
「いくらこいつが怪獣と戦うための兵器って言っても、たった一人でかなうわけないでしょ!」
「対抗できる兵装は、フルハシさんが遺したこいつだけなんだ!こいつを使えるのは、俺だけだ!だったら俺が行くしかないだろ!」
「いくらガンダールヴのルーンがあるからって、あんたは素人であることに変わりないわ!王軍に任せておきなさいよ!」
「その王軍が来る前に、タルブ村は全滅するだろ!ここから王都までどれだけの時間がかかるって思ってんだ!?どう考えても間に合わないだろ!」
ルイズの言ってることは確かに間違っていない。サイトは特殊な力を手に入れたとはいえ、戦いに関しては素人だ。素人が、ベテランの操る戦艦相手に戦うなど無謀だろう。でも、この村から王都まではかなり距離があり、大所帯である分多くの兵たちの団体である軍がたどり着くには時間がかかる。しかも敵は宇宙金属の戦艦と怪獣が圧倒的火力を誇る。時間をかけることなくこの小さな村を跡形もなく消せるのだ。
だが、突然シエスタはハンドルを握ったサイトの手を握ってきた。
「し、…シエスタ…?」
突然美少女から手を握られると言う事態に、サイトは思わず固まって頬を染めてしまった。
「…本当は、行ってほしくありません。だって…」
シエスタの心の中に強烈な不安があった。曾祖父の遺産が空を飛ぶ姿を見てみたい。でも、今サイトが取ろうとしている行動の意味はよくわかる。このホーク3号を飛ばし、アルビオン軍を迎え撃つつもりなのだ。
シエスタにとってサイトはかけがえのない恩人。同時に…。だからこそ、行ってほしくなかった。行ってしまえば、サイトはアルビオン軍や怪獣の手にかかり、死んでしまうかもしれない。いや、死ぬ可能性の方が高いだろう。たとえ曾祖父が残してくれたこの遺産が、怪獣を戦うための兵器であったとしても。
「…前に言ってたろ。俺の両親は怪獣災害で亡くなったって」
サイトは、シエスタの瞳をまっすぐ見据えながら口を開いた。
「このままレコンキスタ…いや、そいつらを操ってる奴らのいいようにさせていたら、俺と同じ悲しみをずっと抱く奴が出てくるかもしれない。そんなの俺は嫌だ。
それに、君やルイズ、キュルケ、タバサ、ギーシュ…俺とかかわった皆を守りたいんだ」
シエスタの手を、自分の手からゆっくりと離し、サイトはルイズとシエスタにまっすぐな視線を向けて言った。
「だったら、私たちも一緒に戦うわ!」
そこへ飛び出してきたのは、キュルケとタバサ、ギーシュだった。
「元々違う世界から来たって言うサイトが、僕たちのために戦ってくれるっていうんじゃないか。なのに指を咥えて待っているなんてグラモン家の名が廃る!」
「…みんなが心配」
三人も戦う意思を見せていた。サイトは彼らの気持ちに心強さを痛感したが、同じようにコクピットに乗り込んできたコルベールが反対した。
「それはだめだ!教師として生徒を戦場に送るなど許可できない!」
「ミスタ・コルベール、何を臆病風に吹かれているのですか!」
キュルケがコルベールに反論を入れる。ギーシュも「逃げるなど貴族の恥です!」と言い返す。ルイズも皆に同調し、自身も戦場に出ようと名乗り出た。
「私は確かに魔法が得意じゃありません。でも、この国のためならどんなことだってできます!敵の軍だって倒して見せます!」
「…つまり、君たちは戦場で人を殺せると言うのかね?」
う…と、タバサ以外の三人は息を詰まらせた。
「見たまえ、あのレコンキスタがしたがえる艦隊を」
コルベールは格納庫の外の景色の、レコンキスタの艦隊の甲板の上を指さした。
「あの艦隊には敵兵が…つまり君たちと同じ人間が乗っているのだ。君たちは彼らを…人間を手にかけることができるというのか?
国のため、王のため、どんな言葉で飾っても、結局は人殺しだ!私は生徒にそんな真似をさせたくない…!」
「そ、それは…」
「お願いだ。どうか戦場に行くなどと思わないでおくれ!」
鬼気迫るような、絶対にやめてほしいと懇願するコルベール。自分の教え子が人殺しをする様を喜べるなど、相当の軍国主義か洗脳でもされない限り、いないと考えるべきだ。
サイトはなんとなく、コルベールの表情を見て理解した。この人は、もしかしたら何かあった身だったのではないかと。自分が数年前、メビウスが地球防衛に当たっていた時期に両親を亡くしたように。
「…先生、俺も…お気持ちはわかります。俺だって…戦争なんか嫌だ。行きたくもねえ。……でも、少なくとも俺はいかないといけない」
当時のことを思い出しながら、サイトもコルベールに一理ある見解を示したが、直後にそれでもいくと意思表示した。
「なぜ!?」
「先生、考えてみてください!このまま手をこまねいてたら…この村だけじゃない!トリステインはあいつらに破壊されてしまうんですよ!それこそどうなんですか!?自分の国が壊されているのに、あなたは黙って見ていろだなんて!!
あなたの愛する生徒もいつかは、あいつらの餌食になることになるんですよ!」
「………!!」
確かに、アルビオンの兵たちは同じ人間だ。そしてただ、後ろにいる強大な黒幕に操られた哀れな道具でしかない。だから彼らを手に掛けるのは筋違いかもしれない。
…しかし、こうも考えられないだろうか。たとえ同じ人間でも、同胞だからと言う理由で人外と結託し侵略を許していいのか?自分たちの大切な人たちがそんなやつらに酷い目に合わされても、我慢などできようか。
「大丈夫です…とは言いにくいけど、俺は少なくとも、直接人を狙う気はないです。そもそもこいつは戦争のための兵器じゃない。地球を守るために侵略者や怪獣と戦うための兵器です。レコンキスタの艦隊のレーザー砲だけを攻撃して無力化させ、怪獣を倒す。それでいい。後は、トリステインの兵隊たちに任せます」
そうなれば、コルベールが愛情を注いだ生徒たちとて苦しんでいくのは間違いない。生徒たちの未来と命を出しにされては、コルベールも折れてしまった。
「…わかった。そこまでいうのなら、もう私に止めることはできない。だがサイト君。君に教えておかなくてはならない」
コルベールはメガネを掛けなおし、まっすぐサイトを見つめながら、一人の教育者としてサイトに言葉をかけた。
「人殺しに慣れるな。戦場に慣れるな。慣れてしまったら、そこで何かが壊れてしまう」
「…先生…」
いつもはただの変人でしかないと思っていたルイズたちも、このときのコルベールの言葉は皆の心に強く響いた。まさに、教育者の鏡と言うべき姿。中学校教師を経験したとあるウルトラ兄弟の戦士も彼のことを尊敬することだろう。
「…サイトさん」
シエスタから名前を呼ばれ、サイトは彼女の方へと向き直る。彼女の手には、ハルケギニアでは見かけられないであろう物品が握られていた。
「ひいおじいちゃんの、遺品を…あなたに」
「いいのか?」
「はい。ひいおじいちゃんも、サイトさんにならぜひ使ってほしいって言うはずです」
手渡されたのは、腕時計のようなものと、銃口が金色に光るハンドガンだった。サイトは銃に触れると、彼のガンダールヴのルーンが光った。
「ビデオシーバーに、ウルトラガン…」
ビデオシーバーとウルトラガン。共にかつてウルトラ警備隊が装備していたもので、前者は通信端末、後者は文字通りビームガンだ。巨大怪獣にさえもダメージを与えることができる旧式ながら強力な武器だ。
「ありがとな、シエスタ」
おまけでサバイバルベルト(ウルトラ警備隊製)も貰い、サイトはシエスタに礼を言った。
「さ、皆は降りてくれ!一緒だと危険だ!」
この人数では全員は乗ることができないし、もし墜落することにでもなったら皆を巻き込んでしまう。直ちにサイトが降りるように言うと、全員は躊躇いがちに思いつつも、ホーク3号から降りた。
『サイト』
ふと、ゼロが操縦席に腰掛けたサイトに声をかけてきた。
『怪獣も相手なら、しょっぱなから俺が出るべきじゃないか?その方が被害が…』
そう言われると、そうした方が最善とも思えた。でも、サイトは異を唱えた。
『ダメだ。お前の力にばっか頼ってばっかじゃ、きっと俺はだらけちまう。
俺たち地球人が精一杯頑張ったからこそ、これまでのウルトラマンたちは地球を守ってきたんだ。その前に、俺がその力におぼれちゃったら守られてる意味がなくなるよ。
それに、テクターギアがまだ外れてないだろ?その状態で怪獣や、宇宙人の円盤みたいになったレキシントン号ってのを相手にできるのか?』
『…う…言われてみれば…』
未だ、テクターギアはサイトの左手首に撒きついていた。これは訓練用や防御用としては役に立つであろうが、今のサイトとゼロにとって、本来の実力を発揮させてくれない足かせでもあった。実は特訓の際、レオにテクターギアの解除を求めたのだが、なんとあのテクターギアはレオでも外せなかったことが判明し、その時のゼロの落胆ぶりは言葉にできなかった。
『きっとフルハシさんも、生きていたら同じことを言う気がするよ。「地球は我々人類、自らの手で守り抜かなくてはならない」って、若かった頃同じように、キリヤマ隊長に言われてたって言ってたしさ』
受け売りだが、サイトはウルトラマンとしてではなく、それ以前にただ一人の人間としてできることを成し遂げられるようになりたかった。それに、かのGUYSがそうしてきたように、自分もまず努力することを怠ってはならない。そうしなければ、これまでウルトラマンたちが地球人を守ってきた意味がなくなってしまう。
『俺が精一杯頑張って、もしやばくなったら、その時は…な?』
少しでも、変身した後の負担を減らす、もしくは変身しなくても敵に勝利し皆を守る。サイトが変身をせずホーク3号を頼った理由だった。
『…わかった。やばくなったらだな』
そう言うと、ゼロはサイトの意識の中へ引っ込んでいった。
ゼロとこうして会話できるようになったこと…。以前までの自分たちにはなかった。これまでとは何かが違う。きっとそれはいい意味で、だ。強い自信に満ちていく。それに呼応として、ハンドルを握った途端に、ガンダールヴのルーンが強い輝きを放つ。
(わかるぞ。エンジンの指導方法、飛ばし方…鮮明な情報として流れ込んで切る!)
不安がなかったわけじゃない。でも、いつかウェールズが言った。守るべきものが恐怖を和らげてくれる、と。不安でいっぱいだ。でも、平民も伝説の使い魔でも、違う世界であろうとウルトラマンであろうと、そんなことは関係ない!皆を守りたい、ただそれだけだ。たとえ無茶だとしても…。
「可能性はゼロじゃないんだ!」
サイトはレバーをいくつも倒し、ハンドルを握る。
「ウルトラホーク3号、発進!!」
彼が最後に発進レバーを倒した途端、エンジンが起動したウルトラホーク3号はウィングの底と船体の後方の排出口から火を噴いた。
「きゃ!!」
外でそれを見届けていたキュルケたちに、エンジンがかかった際の熱風がかかる。思わずスカートが舞い上がりかけて、女性陣はスカートを押さえる。
「み、見ろ!浮いてる…浮いてるぞ!」
ギーシュがホーク3号の船体の底を指さす。なんと、彼らにとって鉄の塊にしか見えなかったホーク3号の船体が、浮き始めていたのだ。
地球防衛軍極東基地は、かつて山の内部をくりぬいて設計された。当時滝の中から発進した時のように、ホーク3号は一見頂上に墓地が置かれている丘にしか見えない、口を開けた格納庫から、遥か数十年の時を経て大空へと羽ばたいた。
「お、おお…竜の羽衣が!」
「ひいおじいちゃんの話…本当だったんだ…」
コルベールも、そしてこの遺産の持ち主だったフルハシのひ孫シエスタもまた、ホーク3号の飛び立とうとする姿に感嘆した。
「流石ダーリン!あたしの見込んだ男ね!こうしてはいられないわ!あたしたちも行きましょう!」
自分たちもじっとしているわけにはいかない。キュルケは真っ先に声を上げると、皆も一斉に頷いた。
「よし、タルブ村住人の避難を急がせるんだ!みんな、私の指示に従ってくれ!」
年長者として、教育者としてこの子たちを守らなくては。コルベールは自分もやる気を起こすと、直ちに村へ急ぐように指示を入れた。
タバサはそれに応えて指笛を吹くと、彼女の使い魔シルフィードが格納庫に飛来した。
「乗って」
皆が乗ったところで、彼らもまた空へと飛び立っていった。
(ひいおじいちゃん…どうか、サイトさんを守って!)
シエスタは一足先に空に飛び立っていったサイトを乗せたホーク3号の飛んで行った方角の空を向き、天国にいる曾祖父に強く祈った。
「…あれ?そういえば、ルイズはどこへ行ったんだい?」
ふと、ギーシュがきょろきょろと辺りを見渡しながら皆に言った。
「あら?さっきまでご一緒だったはずでは…」
シエスタも気が付いて、シルフィードの背中に乗る面々を確認してみる。キュルケ・タバサ・ギーシュ・コルベール・自分。…確かにルイズの姿がない。
「ま、まさか…!?」
一同は一斉に、ホーク3号の飛び去った方角に注目したのだった。
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