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戦国異伝

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第百八十二話 山中鹿之介その五

「どうにもな」
「お家再興の気がありませぬか」
「うむ、ない」
 そうだというのだ。
「だからな」
「尼子家の再興はですな」
「当人達にその気がないのなら仕方なかろう」
 こう言うのだった。
「最早な」
「では」
「しかし山中はな」
 彼自身はというのだ。
「その武勇も見事じゃしな」
「忠義もですな」
「欲しいな、ではな」
「この申し出受け入れますか」
「そうする、とはいってもじゃ」
 山中自身は家臣として召し抱える、しかしだというのだ。
「話しておく、尼子家再興は最早適わぬとな」
「当人達にその気がないのでしたら」
「お家再興もやる気次第じゃ」
 その気があってこそだというのだ。
「それがなくてはな」
「どうしてもですな」
「そうじゃ」
 それで、と言う信長だった。
「ここはな」
「絶対にですな」
「話しておく」
 山中にというのだ。
「それで聞くかどうかは」
「難しいですか」
「まず聞かぬであろう」
 信長は最初からこう思っていた、山中はとだ。
「まずな」
「そうなりますか」
「あの者を支えているのはお家再興じゃからな」
「そのことを思っているからですな」
「それ故にな、しかし言いはする」
 信長は蜂須賀に確かな声で述べた、そしてだった。
 実際にその山中を安土まで呼んだ、すると。
 晴れやかな目をした強い顔立ちの男だった、まだ若く髷の月代も若々しい。その彼が信長の前に拝謁してきたのだ。
 そしてだ、こう信長に言うのだった。
「この度お会いして頂き有り難うございます」
「礼はよい、それでじゃが」
「はい、それがしは何もいりませぬ」
 いきなりこう言う山中だった。
「ただ、求めるものは」
「何じゃ?」
「主家の再興をです」
 それをだというのだ。
「お願いします」
「そのことか」
「はい、是非」
「話は聞いた、しかしじゃ」
 信長は数日前蜂須賀に話したことを思い出しつつだ、山中に言った。
「尼子家のことはな」
「出来ませぬか」
「尼子殿にその気があるのか」
「それは」
 そう問われるとだ、山中もだった。返答に窮した。それで言うのだった。
「どうしても」
「そうじゃな、その気はないな」
「しかしそれがしは」
 あくまで言う山中だった、信長に対しても。
「必ずや、あの家を」
「そう言うか」
「そうです、例え何があろうとも」
 やはり強い声で言う山中だった。 
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