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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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ニ十章
  典厩と会談

「どやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

ああ?今度は何だよ。

「・・・・・ほんっとーに申し訳ありません」

俺達の予想通り、足音は俺達のいる部屋の前で止まった。

「ご注進!ご注進にござりますぞ!あまりに緊急事態に越後きっての義侠人、樋口『スパァァァァン!』うぅぅ・・・・」

「一真さん、ありがとうございます」

「今度はなんすか!?」

「うぅぅ・・・・。た、たったいま、じょ、じょ、城門に!」

「城門に何?」

「て、て、て、・・・・・どーーーーーーーーーーー『落ち着け阿呆が!』うぅぅ・・・・。それ三回目だ。どーん」

と三回目のハリセンで落ち着かせた後に言った。

「それで、何?」

「それが・・・・典厩殿が!」

「典厩って武田が来たのか?」

「あ、はい!典厩というのは、武田典厩信繁の事です。それが来たということですか!?」

「は、はいっ!如何致しましょう。大手門は混乱しておりまして・・・・どーん!」

「・・・・秋子」

「はっ」

「典厩を客間に通して、茶菓の用意を。・・・・時間を稼いでおいて」

「え、その・・・・」

「返事は」

「・・・・了解しました」

「えー。捕縛しないっすか?」

「その方が後腐れ無い」

「越後の龍がそんなしみったれたことしたら、それこそ末代までの笑いものよ。・・・・勅使と対するほどにもてなしてやりなさい」

「はっ。・・・・愛菜、手伝いなさい」

「どや!」

連絡に来た愛菜と一緒に秋子は、大慌てで部屋を出て行った。その典厩は本当に城門にいるな。

「詩乃。一応聞いておくが、典厩は官職のようなものか?」

「はい。官職で言えば左馬頭、右馬頭の唐名に当たります」

「なぜに唐名なんだ?」

「格好良かったからではないか?」

ああ。それなら分かるな。左馬頭と典厩、どっちの名がいいとすれば間違いなく典厩だろうな。確か晴信の妹と聞いたな。あと左馬頭がどのくらい偉いのかはさすがの俺も分からん。現代の軍人の階級なら分かるが。あと役職とかも。

「何をひそひそと話しているのよ」

「美空は忙しそうだったからな。典厩というのは誰なのかは知っているけど、それは官職なのかなと」

「武田家の二番目の変人よ」

「変人に言われている」

「うるさいわね」

「一番の変人は?」

「晴信に決まっているでしょ。下の妹はよく知らないけど、少なくとも上の二人はろくでもないわよ」

変人かー。どんな奴なのだろうかな。

「いずれにしても武田晴信殿の妹君ということは、晴信殿の名代と考えて良いでしょうね」

「ええ。・・・・武田家の親族筆頭を前線に出すんだから、かなり本気と見ていいと思うわ」

春日山城に来た時期はあれかなー?内乱を収めたばかりの越後に軍を突き付けて、さらに使者という感じか。嫌なタイミングだな。

「ろくでもない変人とやる事が同じ・・・・」

「同族嫌悪」

「う、うるさいわね!」

「ま、まあ、いすれにせよ、今出来ることですと・・・・」

「・・・・今は春日山城を取り返したところだけど、すぐに動けるんだぞって対応をして、弱味を見せないようにするくらいしかないでしょうね」

だから勅使と対面するほどのもてなしか。俺でいうなら他の神話のトップとの会談前でもてなせ、という感じかな。それでも俺が頂点なには変わらないけど、他の神話も一応俺が創ったとされているし。

「上段の間で堂々と、ですね」

「そういうことよ。・・・・ああ、そうそう、典厩がまだ大手門にいるなら、一真隊の皆は今の内に旗を畳んで隠れておいて」

「ああ。なるほどな。長尾の城に足利の二つ引き両があったら、変に勘ぐられるからか。それに同盟は今、公にはなっていないからな。ひよところ、旗の回収を頼む」

「「はいっ!」」

「松葉」

「案内する」

松葉の案内でひよ達は慌ただしく部屋を出ていく。まだ典厩は大手門にいるらしいから、まだ俺達がいる事はバレていないはず。だけどあの時城下で会った武田の諜報に見つかってなければいいのだが。

「なら、一真たちはこの部屋で・・・・」

「あの、美空様。今後の事を考えれば、私たちも会談の場に参加した方がよろしいのではないかと・・・・」

「・・・・ふむ」

「それも一理あるっすねぇ・・・・」

「そうね・・・・。上段の間にいられるのは困るけど、武者溜まりに隠れるくらいなら平気か・・・・」

「武者溜まり?」

「上段の間で主人を護るために、武士が待機しておく空間です。普通は数畳ほどのはずですが・・・・春日山は?」

「たぶん、そんなに変わらないっすよ」

「了解。そこで良い」

「なら、先に上段の間に行っておいて。私も支度を済ませてすぐに向かうわ」

「空、案内してあげて」

「分かりました」

途端の慌ただしくなった城内。美空と別れた俺達は、空に案内してもらって、上段の間の武者溜まりにやってきたわけだ。

「こんなに狭いのかよ」

上段の間の脇のスペースにこんな隠し部屋があるとはな。

「主様、もそっと奥に・・・・全員入れんぞ」

「俺に考えがあるのを忘れていたわ」

俺は一度出てから6人が入ったあとに、俺は小さくなる事にした。おかげで無事に入る事は出来たけど。ついでに俺は一葉の肩の上にいる。あと、小さくなったので声も小さくなったので、ピンマイクを付けたけど。おかげで武者溜まりにいる者だけ聞こえるようにした。

「小さくなったハニーは二度目ですが、何と愛おしいのやら」

「小鳥が肩に止まるのは、何度か見た事あるが、まさか主様を乗せるとは思わなかったぞ」

「すると小さくなったり大きくなったり出来るということですか?一真様」

「一真さーん。御大将と典厩が来るっすよー」

「わかった。空、閉めてくれ」

「わかりました。では閉めますね」

と閉めたが、俺は暗視ゴーグルをしていた。そして外の状況を見るために、監視カメラをセットさせた。偵察機だけどな。これで俺は小さくなった状態で外の様子が見れるようになっている。ちなみに6人は詩乃、雫、一葉、幽、鞠、梅、だ。あとこもり始めた熱気を外に放出して冷たい空気を入れることにしたので、密封のここでも安心して外を覗き見る6人と俺。

「(あれが典厩か)」

「(のようですね)」

背の高さは綾那や鞠くらいだろうか。かなりの小柄な子ではあるが、上段の間を歩く様子や美空を待つために腰を下ろす作法は、梅や歌夜みたいな落ち着いた作法という感じではある。その辺りはさすが一国の使者という風格だな。

「(確か・・・・晴信には二人、妹がおったな)」

美空曰く変人2号と末っ子の二人だったな。

「(信繁殿と信廉殿ですね。信廉殿は姉、晴信殿にうり二つで、影武者を務める事もあるとかないとか)」

「(どっちだ?)」

「(それがしも良くは知りませんので)」

信繁が二番目なら、信廉は三番目ということか。美空もよく知らなさそうだったけど、あの典厩より背が小さいのかな?あと信廉が晴信にそっくりということは瓜二つということなのかもしれない。史実での武田信玄は威風堂々としたおっさんだから、それを女の子=恋姫フィルターにかけるとどうなるのかな?

「(なんにせよ、戦国最強を誇る武田家の棟梁の片腕ともなれば、交渉事でも難敵でしょうね)」

「(ひとまず美空様のお手並み拝見、といったところですわね)」

「(だね)」

俺達がこそこそと話をしている間も、典厩は堂々と腰を下ろしたまま、静かに目を瞑っている。そんな典厩の目が開いたのは、上段の間に美空が姿を現した時だった。ほぼ同じに秋子が入ってきて、部屋の脇に腰を下ろす。

「夕霧・・・・久しいわね。光璃は元気かしら?」

「すこぶるご健勝でやがりますよ!」

や、やが・・・・!?

「それは敵対国としては素直に喜べないけれど、とりあえず良かったとでも言っておくわ」

「美空様もご健勝なご様子で。つまらないですからそろそろ歴史から退場しやがれですよ」

梅や詩乃の方をちらりと見ても、耳を疑うような顔をしていた。やはり聞き間違いや方言とかのレベルではないな。あの典厩の喋り方は。

「あいっかわらず、見た目と口調が違う奴ね、あなた」

「姉上もよく褒めやがるですよ?」

「無礼なのか、親しみやすいのか・・・・まぁ良いわ。まともに相手してたら気が変になりそう」

「そんなに褒めやがるなですよ♪」

ニコニコと笑っているところは年相応で可愛らしいのだが。明らかに空気を読めてないというか、あえて読まないような振る舞いをしてるというか。その口調と合せて、典厩の雰囲気は全く読めない。

「・・・・はぁ。で、今日は何の用かしら?」

「今日は姉上からの書状を預かってきたですよ。さぁ読みやがれです!」

物言いはああだけど、美空に書状を渡すためにやってきた柘榴に対する振る舞いは、違和感のないもんだ。この前二条館で教えてもらった作法のような気がする。

「書状ねぇ。・・・・良いわ、見てあげましょう」

「早く見やがれです!」

柘榴から受け取った書状を開き、美空はそれを静かに目を落とす。

「(美空の言う通り、見た目と口調の違いが激しい子だな)」

「(確かに妙な口調ではあるが、彼奴はなかなか良い武者であるぞ?)」

「(そうなのか?)」

「(母君の信虎殿を追放した後、甲斐、信濃の平定に姉妹三人で力を合わせ、ついには平定を成し遂げたという話ですからな)」

「(私も旅の雲水などから、甲斐の話を聞いたことがありますが、戦振りも政についても、晴信殿、信廉殿のお二人は古今の名将に比肩するほどの人物のようでした)」

雲水・・・・・修行僧のこと。

「(詩乃がそこまで言う人物なら、それほど凄いということか)」

「(まあ、噂だけであれば一真様も相当なものですから、噂を鵜呑みにするわけにもいなかないでしょうが、一真様の場合は噂以上の人物で、事実なお方ですから)」

「(でも、鞠と同じくらいの背なの)」

「(そうですわね・・・・。けれど、人の大きさは背の高さだけではありませんわよ。鞠さん)」

「(うん。・・・・って、大きな声を出しちゃダメなの。しーっなの)」

「・・・・こほん」

手紙を読み終えた美空は口を閉じた俺達の方をちらっと見てから。視線を咳払いで誤魔化しながら、典厩へと向き直る。

「やれやれ・・・・見事な意趣返しね」

「ふふんっ。常田の戦いの後の横車への仕返しでやがります!覚悟するでやがりますよ!」

「まぁあのときは悪かったわよ。こっちだって鬼ってものを知らなかったんだから」

「知らんで済めば弾正はいらんでやがります!」

「そうでしょうけど。・・・・」

ぼやきながら、美空はもう一度手紙に目を落とす。さすがに典厩の前だから表情も仕草も必死に我慢しているな。だけど、伏せた目の中に宿るのは、怒りの意志のようなものを形にするようなもんだ。

「読んだら返事を寄越しやがれです!」

「・・・・即答しろと?」

「んー、一応、姉上からは一日猶予をやっても良いと言われてやがりますから、明日までは待ってやってもいーですが・・・・待ってやがりましょうか?」

「そう。ならお言葉を甘えましょう。・・・・秋子」

「はっ!」

「典厩信繁殿を客殿にお連れしろ。明日の朝、返書をしたためよう」

「良い返事を期待してやっても良いですよ?」

「・・・・ふんっ」

「こちらに」

「では失礼しやがります!」

最後まであの喋り方で、典厩は秋子に連れられて上段の間を出た。 
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